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Iの冒険記  作者: 一発KO
第一章 異世界漂流変
25/26

21話 特務機関 


「以上です。オルド・ラングさん。我々の不手際とはいえ、夜分に申し訳ありません」


「いえいえ、こちらこそ問題なく済んでよかったです。ロイ・バーナンドさん」


月明りが静かに差し込むある商会の一室。

二人の男が見合うように座っていた。


「しかし、バーナンドさんみたいにこんな若い人が国家会計監査員として来るとは驚きました。まだ20代になったばかりでしょう?」


「えぇ今回はある意味特別ですよ。悲しいことに上のミスによる尻拭いをするのは私達、若者の仕事ですので」


バーナンドは苦笑いしながら眼鏡を上げ机に広げた資料を集めた。


「……それに若いと言うならラングさんも同じでしょう?私より年下で商会長代理を務めているのですから」


「はい。父、クレタ・ラングの教えのおかげですよ。私がこの場にいられるのは父と家族のおかげですから」


ラングは自身の家族に誇りに満ちた目で笑う。


「期待されているんですね」


「過度な期待も考えものですがね」


「お互い、大変ですね」


バーナンドは軽く笑うと今度はラングの後ろに飾られている剣に視線を向けた。

それに気づいたのかラングも飾られた剣の方を振り返る。


「……気になりますか?」


「えぇ、悪くない剣ですね。金属の輝きを見るに”アダマンタイト”では?」


「よくご存じで、この剣は”古代金属”で出来ています。普通の市場ではミスリルやアダマンタイトはかなり希少で高値で取引されています。オリハルコンに至っては流通されていること自体が珍しいレベルです」


ラングはそう古代金属の希少性を話しながら、バーナンドが褒めた後ろに飾られている剣に軽く触れる。


「この剣はバーナンドさんの言う通り、ほとんどがアダマンタイトで出来ています。隣の小国ベルランで懇意にしている商会から譲り受けたものなんです」


「譲り受けた?売買ではなく?」


「はい。友好の証としてね」


「……友好、ですか」


希少性がある金属で作られた剣が贈られたことにバーナンドは不思議そうな顔でラングを見る。


「意外でしょう?商人は金のことしか考えていないと思われがちです。金が大事なのは間違いありませんが、それ以前に信頼も大事にしているんですよ」


「信頼、ですか」


「はい。いくら金があっても信頼がなければそれ以上は増えない。儲けるために信頼も手に入れる。それが商人の世界なんです」


金だけでなく信頼があっての商人だとラングは語った。


「ベルランにいる商会は昔から持ちつ持たれつ助け合う関係ですし彼らには多く投資しています。この剣はそのお礼として貰ったんです。信頼の証としてね」


「なるほど、こんな夜分に我々の話を聞いてくださったのも一応、信頼があるということですか?」


バーナンドは、遅い時間にも関わらず受け入れてくれたラングへ感謝を込めてそう話を振った。


「はい。その通りです。でなければそのまま追い出していたかもしれません」


「そうですか」


ラングの笑顔にバーナンドはしばらく黙った後、笑顔で立ち上がった。

そして、腕時計のような機械をつけた右手をラングの前に差し出す。


「これからも我々とは信頼のある関係にしましょう。オルド・ラングさん」


「こちらこそ。これからもよろしくお願いします。ロイ・バーナンドさん」


ラングも右手を出し、二人は握手を交わした。


ピー!!


その瞬間、バーナンドの右腕に装着した腕時計のような機械が甲高い音を鳴らした。


「えっ?」


突然のことにラングが反応する間もなかった。


ドゴォッ!!


握手したまま、バーナンドの蹴りが、ラングの腹部に叩き込まれた。


「がっ!?」


ラングの体が宙に浮く。

次の瞬間、背中が壁に激突した。


ガシャァン!


家具が倒れ、飾ってあった剣が崩れ落ち、金属音が部屋に響く。


「がっ……ぐっ……」


ラングは壁に背をつけたまま、口から血を吐いた。


「そういえば、話は変わりますが……」


バーナンドは眼鏡を外しながら、床に倒れたラングを見下ろした。

先ほどの穏やかな笑みは消えている。

代わりにあるのは、冷たい怒気を帯びた瞳だった。


「異世界人と現世人の違いを理解しているか?」


さっきまでの丁寧な口調は消え、冷淡な言葉でバーナンドは話し始めた。


「異世界人は前世の違う世界の人格または、違う世界から来た人間。それに対し現世人はそれ以外の人間、俺たち目線で言う普通の人間だ。しかしそんなものは、見た目じゃ分からない」


バーナンドは握手した右手をまるで汚れが付いたかのように布で拭う。


「違いがあるのは情報子のズレ……魂の質と言った所か」


バーナンスはその布を床に捨て話を続ける。


「例えるなら見た目は同じ砂袋でも現世人は同じ質の砂が入っているのに対し、異世界人は混ざり物の砂かそもそも違う性質の砂が入っている」


バーナンドは右手についた腕時計のような機械をオルドに向ける。


「……この機械はそれを判別するものと言ってもいい。昔は大袈裟なほど大きかったそうだが今では技術向上と小型化で簡単に身につけられるようになっている。少なくとも握手程度でなら簡単に判別できるくらいにな」


ここまで黙って聞いていたラングはようやく状況を理解し、血交じり唾を飛ばしながら叫ぶ。


「まさか、お前は”特務機関”、”異物狩り”か!?何故、オゴォ!?」


しかし、言い切る前にバーナンドの追撃の蹴りを受け床に倒れ込む。


「あぁ、その通り、国家会計監査員でもないし、ロイ・バーナンドも偽名だ。”信頼”の話でこんなことになったのは残念だよ。……だが構わないだろう?お前だって同じだよな」


バーナンドは床に落ちた剣を拾い上げ倒れ込んでいるラングの胸を踏みつける。

ラングが「うげ」と空気が漏れるような声を上げる。


「現世人に紛れ込んで脅威を与える存在……今度は何を奪うつもりだ劣等人種!!」


バーナンドは修羅のような顔で剣の刃先をラングに向けた。


プルルルル


するとバーナンドの胸ポケットから通信機が鳴る。

バーナンドはラングに刃先を向けたまま通信機を取り出した。


『やぁ、バーナンド君。状況はどうだい?』


通信機から落ち着いた声でバーナンドに語り掛ける。


「はい。エネギスB級士官。現在、異世界人である人物を捕らえています」


『返事早々、私の本名を言った感じ、もうバーナンドという偽名がバレたという訳か。いや、君の性格上、味方が来る前に仕掛けた感じだね。バーナンス君』


エネギスと呼ばれた男はバーナンドこと、バーナンスに通信機越しから呆れた声を出した。


『こっちはすでに主要箇所を抑えたよ。彼の家族を捕らえた。ここに異世界人はいなかったが君の方、オルド・ラングは異世界人だったんだね。全く、中央貴族の情報はガセではなかったという訳か』


エネギスが軽く笑う。


バーナンスは無表情のまま、足元のラングを見下ろした。

血を吐き、苦し気に呼吸する商人、いや異世界人がそこにいた。


『とにかく君の所に味方を向かわせている。取り押さえているとはいえ油断はしないように、異世界人の時点で真名は”大陸級”以上は確定しているからね』


「了解しました」


バーナンスはそう言って通信を切り、再びラングに視線を向けて刃先を突き立てる。


「さて、お前はもう……」


「くそ……ゲホゴホっ、くそったれが!!」


何か言いかけるバーナンスを遮るようにラングは叫んだ。

そしてどこに隠したのか右手の袖からリモコンらしきものを出しスイッチを押す。

すると、部屋全体が突然、光が強くなり、部屋全体が明るくなる。

急な光のためバーナンスはやや目を細めた。


「……照明灯、隠し照明。そりゃ通っているか”電気”ぐらいは」


「うおぉぉぉぉ!!」



ラングは向けられた刃先を腕で弾いた。

そのまま抑え込まれた足を振り払い、立ち上がる。

それによってバーナンスはバランスを崩し後ろに下がる。

その隙を突くようにラングの追撃が加わる。


「らぁ!!」


「!!」


勢いのままラングはバーナンスにタックルした。


ドガァン!!


バーナンスは飛ばされる。

背中を壁に叩きつけられ煙が舞い上がる。


「……ガハ、くそ、なんだ?急に力が上がった」


煙の向こうからバーナンスは手放した剣を拾い上げ立ち上がった。

怪我をしたのか頭から血が流れている。

しかし、バーナンスはその傷を無視し相手を冷静に分析する。


「さっきの照明の光が関係しているのか?となると、奴の真名の能力も……」


「あぁぁぁ!!」


追撃するかのようにラングは突っ込み、間合いを詰め鋭い拳をバーナンスに向かってふるった。


「……もしや」


しかし、バーナンスはそれを紙一重に避け、近くにあった照明を切り落とす。


「ぐっ!?」


切り落とした照明分、明かりが落ちた。

それと同時にさっきまで鋭かったラングの動きが若干、鈍った。


「やはり、見た感じ真名は条件型だな。光の量によって力を増幅させる能力と言ったところか」


「なめるな!異物狩り!!」


ラングは怒号の声を上げバーナンスに追撃する。

しかし、さっきより動きが鈍くなったからかバーナンスはラングの攻撃を紙一重で避けられる。

そしてバーナンスは更にこの部屋の照明を、光源を破壊する。

光が消えるたびに、ラングの動きが鈍る。


「うぉぉぉ!!」


それでもラングは攻撃しようと拳を振るった。


「しゅっ!!」


「がっ!?」


しかし、さっきよりも動きが鈍くなった拳をバーナンスに避けられ返す剣でラングの腕は半ばまで切られ血がボタボタと流れる。


「終わりだ。お前に逃げ場も、勝機もない。お前がここに存在したことを地獄で悔いろ」


バーナンスは切っ先を向けた。


「……ふざけるな」


しかし、ラングはわなわなと震える。

そして片方の腕で構えバーナンスに攻撃を仕掛ける。


「俺は前世、家族に何もしてやれなかった!!恩を返せなかった……」


ラングは拳を振るう。


「でもこの世界ならそれができると思ったんだ!!」


その拳は避けられる。

光が消える。

更に鈍る。


「俺は、破壊したいんじゃない。ただ、俺の、家族の幸せが欲しかったんだ!!」


しかし、ラングは止まらない。止められない。


「お前に俺の何が分かるっていうんだ!!」


彼に次はないのだから。


「分かるよ。お前たち、異世界人はな」


すると、黙って聞いていたバーナンスは話し出す。

しかし、その言葉は氷のように冷たかった。

バーナンスは怒気の籠った目でラングを見下ろす。


「異世界人は本来宿るはずの魂と前世の魂が融合して生まれた存在。それゆえに霊力も爆発的に増幅するから異世界人の真名は最低でも”大陸級”以上の強さと認定される。おまけに前世の特徴を何かしらの適正が持った状態で生まれる。それゆえに大人になった異世界人は厄介だ」


バーナンスは異世界人の特徴を淡々と説明したあと、そのまま憎悪の籠った目をラングに向ける。


「何よりお前らは前世の影響のまま、この世界を見下し平気に全て奪い壊す。だから狩人(俺たち)がいる」


バーナンスはそう吐き捨てた。

それを聞いたラングはわなわなと震える。


「うわぁぁぁぁ!!」


そして渾身の一撃ともいえる拳をバーナンスにめがけて振るう。

しかし……


キィン!


剣がラングの首を切り裂いた。

ラングは立ち止まり、そして……


ボトリ


ラングの首が床に落ちた。

血が、静かに広がっていく。

続いて胴体が崩れ落ちる。


「……お前の言葉なんて聞くに値しない。お前らのせいでどれだけの人々の幸せが奪われたか分かるか」


バーナンスがラングの首に唾を吐きかけたとき、扉の向こうから複数の足音が近づいてくる。


「ロイド・バーナンスC級士官!!ご無事ですか!!」


「今、援護に向かいました!!」


「異世界人は……えぇ!?」


バーナンスの仲間であろう3人は現場に到着するがすでにラング、異世界人が首を切られて倒れているのを見て驚いて立ち止まる。


「あぁ、無事だ。異世界人はもう倒したぞ」


「倒したって……」


「えっと、異世界人って普通、一人に対し複数で戦うような相手では……」


バーナンスのなんともない言葉に援護に来た仲間は困惑の反応を示した。


「……!!バーナンスC級士官!!怪我が」


「ん?あぁ」


そのうちの一人、背が低く中性的な青年が戦いで傷がついたのだろうバーナンスの頭から軽く血が流れていることに気づき、駆け寄る。


「じっとしててください」


青年がバーナンスに直接触れる。

すると、出血が止まり傷がみるみる塞がる。


「……相変わらず便利だな。お前の付与型の真名」


バーナンスはそう感想を残すと頬の傷を治した青年が目を輝かせる。


「えっ!?それってバーナンスC級士官が僕のことを必要と……」


「カルセF級士官、今は仕事中だ」


青年、カルセが爛々とした目でバーナンスに近づいてくるのをもう一人の仲間は首根っこを引っ張って止め、バーナンスに視線を向ける。


「バーナンスC級士官、後処理は我々がやりますので今は休んでください」


「分かった。少し、外の空気に当たってくる」


援護に来た3人に異世界人の死体処理を任せ、バーナンスは外に出た。


*    *    *


バーナンスが外に出るとそこは喧騒に包まれていた。

商人の邸の外では特務機関の仲間が商会の関係者を次々に連行していた。

その中にはラングの……異世界人の家族と思われる人物も含まれていた。


「やぁ、バーナンス君。異世界人相手に一人で倒したそうじゃないか」


そんな中、一際、身長が高い人物がバーナンスに声を掛けた。


「エネギスB級士官」


自身の上司であるエネギスにバーナンスは軽く頭を下げる。


「すまないね。君一人で戦う結果になってしまったね」


「他の仲間が不確定要素の排除に回ったおかげで目の前の仕事に専念することができただけです」


「そうかい。だが、それでも一人で無茶をするのは良くないね。物語の主人公ならそれが一番いいだろうが我々は公安だ。より高い”確実性”を重視して損はない」


「はい。肝に銘じておきます」


バーナンスの返事にエネギスは軽く笑い、連行されている商会関係者の方に視線を向ける。


「そういえば、先ほど捕縛した異世界人の父親と話したよ。子供は女しか生まれなくて後継がいなかったそうだ。その中で生まれたのが彼、異世界人だった」


バーナンスは黙って聞いていた。

表情は変わらない。


「父親と母親は相当悩んだそうだよ。後継の男児がよりによって異世界人だったからね。しかし最終的にその異世界人の戸籍を誤魔化して現世人としたそうだ。それ故のこの結末だから本当に悲劇だね」


エネギスは連行されるラングの家族を憐れむように見る。

それに対しバーナンスはただ冷たく言い放つ。


「彼らの理由なんてどうでもいいです。異世界人はどんなやつだろうと駆除しないといけない存在。ただそれだけです」


「まぁ、君は正義感が強いからね」


二人でそんな会話をしていると黒褐色の肌の色をした男性が近づいてきた。


「エネギスB級士官。異世界人の死体の処理及び、関係者の連行を完了しました」


「ごくろう。バートン君。……さてそろそろ、我々、本来のやるべき仕事をしようじゃないか」


「仕事ですか?」


エネギスの言葉にバートンは首を傾げる。


「前に言っただろう。中央貴族の代わりの仕事を請け負うことになった、ある”領”に向かうって」


「あれですか!?」


ある領に向かう発言にバートンは驚きの声を上げる。


「エネギスB級士官。それは一週間後の予定です。わざわざ今から向かわなくても十分間に合うので……」


「いや、それじゃ遅いね。ある決定以来、中央貴族も執拗に我々の妨害をしている。今回の案件もその一つだよ」


エネギスはやれやれと額を手で抑えながら言葉を続ける。


「それに、これはただの中央貴族のお遣い程度じゃない。今後の我々の仕事にも繋がる案件だ」


エネギスは冷たく笑った。


「更にそこの領の領主は”異世界人を匿っている”という噂もある。仕事ついでに向かおうじゃないか」


異世界人を匿っている。

その言葉にバートンは息を吞み、バーナンスは静かに怒気を放つ。


「やる気があってよかったよ。後の処理は部下少数と上司のラクスA級士官に任せようじゃないか」


やる気に満ちた二人を見たエネギスは満足し、これから向かうであろうその”領”の方角に視線を向けた。


「それでは残りのメンバーで向かおうじゃないか。異世界人がいるという噂のある領。……”アルカード領”に」


ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回の投稿は7月4日(土)、18時の予定です。

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