間話 凶夜
今回は短めです。
<ゼラス視点>
「ゼラス様、本日の調査報告は以上です」
「そうか。ありがとうティグさん」
アルカード邸、執務室。
ティグの報告を聞いたゼラスは深く息をついた。
部屋を重い沈黙が包む。
「申し訳ありません。私の力不足ゆえに……」
「気にしなくていい。ティグさん。複数の拠点がダミーだと分かるだけでも十分だよ」
ゼラスは窓の外を見た。
(もう少し、人員がいれば……)
アルカード家は深刻な人手不足だった。
アルカード家で働いている従者はルブルス達のような領民を除いて数人程度しかいない。
その人員を補えるティグの分裂の能力にも限界がある。
ティグの真名は分裂するほど体が幼くなり戦闘力が落ちる上、情報は本体に戻るまで共有されない。
そのためティグに無茶な捜索は不可能だった。
おまけに山賊は巧妙だ。
村を襲って略奪するのではなく、子供達の誘拐や建てたインフラの破壊を繰り返す。
その対処に追われ、大規模な討伐作戦に乗り出せずにいた。
前回、カイト達の活躍のおかげで山賊を捕まえることができた。
しかし、その山賊も重要な情報を聞き出す前に何者かに殺され、貴族と繋がりを示す銃も特定前に紛失している。
「一週間後……5年の猶予が終わる。王都からの最終査定が来る」
「そういえば、もうそろそろ、5年目になりますからね……」
定期的に来る中央貴族の査定。
その査定をもとに、ゼラスは領主としてふさわしいかどうかが報告される。
現状では今までの中央貴族からの様子から結果は絶望的であるとゼラスは予想する。
これが、自身の実力不足ならまだ納得できただろう。
しかし、現実はもっと理不尽だった。
ほぼ言いがかりに近いことを言われ反論も弁明も許されず、挙句の果てに自分が領地で忙しいことをいいことに、あることないことを王都に報告されている。
それで噂になっているのか商人や他の貴族からも敬遠されてしまっている。
更にとどめと言える山賊問題だ。
この状況ではゼラス・アルカードは領主として不適格の烙印を押されないほうが不自然だった。
そんな現実から目を背けたいゼラスは話題を変える。
「そういえば、ティグさん。カイト君はどうなっている?」
「どちらから聞きますか?」
「まず、真名についてだな。あれ以来から真名の訓練をしていたはずだよね」
カイトの真名を把握するために訓練を名目に調べていた。
しかし、ティグは苦い顔をしながら報告する。
「はい。まずカイト様の真名については結局、分からないままです。もしかしたら内包類かもとそっちも試してみましたが発動すらできず……」
「そうか……」
ティグの報告にゼラスはこめかみを抑える。
結局、カイトの真名の正体が分からないままだった。
「転移者だと少し違うのだろうか?……せめてグラトさんに話が聞けたらいいんだが」
「セレナお嬢様の家庭教師の代わりを務めている人ですね。彼なら何か知っているかもしれませんが山賊騒動があってからはセレナお嬢様には距離がある場所は控えていましたからね」
「本人も外に出ないからな。今から行くには少し遅すぎるか……」
山賊騒動がある上に自分が領主でいられるのは一週間しかないかもしれないことから今から行動を起こすには難しいと悟ったゼラスは天を見上げる。
「それと、カイト様はこの世界の言語を理解するようになりました。読めるようになっただけでなく、その言語を書けるまでになっています」
ティグはもう一つ、思い出したように報告を続けた。
今までの報告よりは明るい内容だったがゼラスはある不安が生じ、ティグに視線を戻す。
「ありがとう。ティグさん。それで、カイトには……」
「安心してください。命令通り、異世界人に関する物や歴史に関する本は避けるようにしています」
ゼラス達はカイトには異世界人に関する本を意図的に遠ざけていた。
(もし、興味があったなら悪いことをしたかもしれない……だが)
ゼラスにも彼なりの理由がないわけではなかった。しかし、それでもカイトにはそれを知ることに関する不安があったのだ。
そんな中、ティグが「ですが……」と言葉を続ける。
「……いつかはカイト様に伝えるべきだと思います」
「そうだな。……いつかは伝えないといけないか」
ティグの言葉にゼラスはカイトのことを思い出した。
初めて出会ったとき、セレナを連れて山賊から逃げていたこと。
カイトを保護したとき、彼は不安そうだった。
慣れない生活というのもあるだろう。
だが、それ以外にカイトに感じるのは周りに迷惑を掛けたくないという印象が強いことだ。
カイトが異世界の言語を勉強し始めたのも周りに迷惑を掛けたくない一心だと言う風に感じたとゼラスはティグから聞いていた。
そして最近のカイトは周りと打ち解けている。当然、そこにはセレナもいる。
ゼラスは領地の運営で忙しくセレナに気に掛けることができなかった。それに罪悪感があった。現にセレナが寂しい思いをしているというのは知っていたのだ。
しかし、カイトが来てからセレナの笑顔が増えた。それに対して嫉妬もないわけではなかったがそれ以上に彼女が幸せそうなことに安心していた。
保護した当初は警戒していたが、今ではセレナにとってカイトは心の支えになっておりなくてはならない存在だと理解していた。
ムドは今もカイトを警戒しているが、ゼラスから見れば、カイトは世間が恐れる”異世界人”とは程遠い存在だった。
だからこそ、ゼラスは恐れていた。
もし、この世界について”真実”を伝えたらカイトは自分達の見る目が変わってしまうかもしれない。
だが伝えなければ、カイトは殺される。
「……その時は、私が直接、カイト君に伝える。それまで何も言わないでくれ」
「かしこまりました」
(カイトには真実を伝えなければ、異世界人を狩る組織、”特務機関”に目をつけられる前に……)
ゼラスは窓からいつもより冷たい夜空を見つめるのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は6月27日(土)、18時の予定です。
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