20話 大詰め
ある夜のアルカード邸、カイトが住んでいる部屋。
「……ということがありまして、セレナさんが一人にならないよう友達を作りたいと思うんだけど何か案ある?アンク」
「いや、知らねぇよ。何言ってんだお前」
いつものようにアンクが来たので山賊に関する情報の前に今日起きたことと、セレナに友達みたいな相手を作る方法についてアドバイスを聞いた。それに対しアンクは呆れた顔で返された。
「お前、この前まで自分の真名について悩んでいなかったか?てっきりそれについてだと思っていたのに」
「いや、それもやっていますというか、まだ発動できないけど、セレナさんの件も大事だと思いましたというか……」
「全く……そういうのって普通、自分の経験談から考えればいい話だろ?カイトお前はどうだったんだよ?前の世界くらい友達はいるだろ?」
「そうだな。俺の場合は……」
カイトは自分がいた世界でのことを思い出そうとしたがあることに気づき固まる。
(あれ、俺って友達いたっけ……)
カイトは必死に友達を思い出した。
カイトは部活などに属してなく義両親と一緒に店を手伝うくらいだった。
必要な時だけ関わる程度で、それ以外は自分から距離を置いていた。
せいぜい、図書室で本の貸し借りをしたときに顔を見知った図書委員の人くらいだが、友達というより成り行きで知り合った程度で名前すら覚えていない。
(俺、セレナさんに友達作ることができるだろうか……)
自分すら友達と言った相手がいなかったのに、どう相手に教えるというのか。
すでに前途多難の状態だった。
「……悪い、余計なこと聞いたな」
何かを察したのかアンクも気まずい感じでカイトに謝った。
「アンクは友達とかいたの?」
「はっ?今の状態を見てみろ。いると思うか?」
「いや、今の世界じゃなくて前世とかでさ」
「前世の話か?そりゃいたけど……」
言いかける途中でアンクは止まった。
すると、苦い顔をして視線を下に向ける。
「アンク?」
アンクの沈黙にカイトは困惑していた。
間の置いた沈黙が続くとアンクが口を開く。
「……今は見守ればいいんじゃないか?無理に作る必要はない。成り行きで見守れ」
「えっ?うん。分かったよ?」
「……それより、俺が調べた山賊の内容について言っていいか。奴の根城が分かった」
アンクはそう言って手書きの地図を広げる。
(なんか、話題を強引に変えられたけど……まぁ、今は山賊討伐も大事だよな)
話題を変えられたことに違和感を覚えたが本来の目的を思い出し、カイトはアンクが書き記した地図を覗いた。
そこには大きく丸で書かれていた場所があった。
「ここが、山賊の本当の根城?」
カイトはそこに指を置くとアンクは「そうだ」と言葉を続けた。
「デトマール家が関わっていることが分かったからな。おかげでここまで絞ることができた。いくら自領でも連絡や補給を考えれば領地間の境界付近だと思ってな」
アンクはアルカード領とデトマール領の境界線が書かれているところを指でトントンと叩きながら説明した。
「ここは昔、商人とかが通るときに宿泊できるように作られた砦だそうだ。とはいっても原因が分からないが今のアルカード領主、ゼラスが赴任する前に大きな事件があったらしく放棄されたみたいでな。建物だけ残っているのを山賊共が再利用したようだな」
「こんなところにあったなんて」
「ゼラスっていう領主は5年前にここに赴任したんだっけか。そん時、戦争でゴタゴタしてたんだろ?それならこんな昔の建造物、把握できてなくても無理はないな」
ゼラス達にも把握できなかった建造物、もし今回の山賊にデトマール男爵が関与していることに気づかなかったらまず見つけるのは不可能だっただろう。
「これも、ダミーの確率は?」
「ないな。一応、覗いてみたが人が他のアジトと比べて明らかに多すぎるし、デトマール家の人間が何かしらの物資を運んでいるのを確認した。他にはアルカード領で攫っただろう子供達も閉じ込められているって言ったところだ。……ここまで来るとほぼ確定だな」
「子供達が……」
(子供の誘拐……アレン達だけじゃなかったんだ)
アルカード領の山賊騒動、カイトはバルサたちの村にいるアレン達を攫った山賊、その時は事なきを得たが、このようなことが他の村でも起きていたのだ。
「話を続けるぜ、場所は分かったが問題は敵戦力だ」
そう言ってアンクは相手の戦力に話題を移した。
「分かるだけでも約120人、まぁその大抵は”村級”と”町級”程度の奴が多数とその中に”国級”が数名かって感じだ。だが山賊の頭の方は”大陸級”が確定だ。他にデトマール私兵団もいて数は分からないが……なんだよ。その顔」
「あの、さっきから”村級”とか”国級”ってなんの話?」
(資格か、何かかな?)
村級や国級など聞きなれない単語にカイトの目は点になった。
「……そこかよ。分かった説明するぞ」
そんなカイトを見てアンクは呆れながらその単語の説明を始めた。
「簡単に言えば真名の”ランク付け”だ」
「”ランク付け”?」
「そうだ。基本、真名のランクは霊力の総量で決められている。下から”村級”、”町級”、”国級”、”大陸級”、”大海級”、”星級”と言った感じだ」
「霊力総量が基準なの?」
「真名の能力だと、”型”だったり相性や能力自体で大きく変わっちまうから明確な基準ができないだろう。ランク付けするなら数値化しやすいやつの方ちょうどいいんだ」
「そうなのかな?」
(それって真名のランクじゃなく、個人の霊力総量のランクって言った方が適切じゃないのかな?)
真名のランクの話なのに霊力で決まることにカイトは少し矛盾を覚えた。
「霊力総量でも個人によって差が出るのは変わりはないが霊力が多いってことはその真名の応用も多くなる。だから案外、個人の保有霊力の多さが真名の強さに直結するんだよ」
「なるほど」
(スペックの話か)
アンクの言葉にカイトは真名のランク付けを納得することができた。
「とにかく”町級”以下は霊力が少なすぎて実戦で使えるほどの真名を扱えねぇから今回の山賊のほとんどは”町級”以下だから数の脅威を除けばそこは問題じゃない。問題は”国級”以上だ。ここまでくると普通に真名を使って戦ってくる奴が多くなる。特に山賊を束ねてる奴は国級より上の”大陸級”って噂だ」
「どれくらい強いの?」
「余程の実力がないと国級が束になっても勝てるかどうか分からないレベルだ。ついでに更に上の”大海級”も下手な国の一つくらい、簡単に相手できるらしい。”星級”は言うまではないな。……今回はそういった輩がいないのが朗報だな」
(とにかく、大陸級だけでも十分やばいんだな)
まだ、大陸級などそう言った相手と出会ったことはないが、それだけで十分脅威だとカイトは理解した。それとともに、更に上の大海級や星級などが今回いないことにカイトは安堵を覚えた。
「まぁ、星級となると霊力総量だけじゃなく、能力やその人物の状態も判断に入るからな。”規格外”がいい例だ」
「”規格外”?」
「たまにいるんだよ。霊力総量が多すぎるせいで真名を使うだけで暴走して制御できないまま大きな被害を出すんだよ」
「……暴走」
暴走という単語を聞いてカイトは思い出す。
初めて真名を使ったとき、自分自身の制御ができなかった。
「……もしかして俺もそれ?」
もしかして自身は危険な存在かもしれない。
カイトは恐る恐るアンクに聞いた。
「それはない。規格外が暴走したら今頃、辺り一面は更地と化していたぜ」
しかし、カイトの言葉にアンクは否定した。
「規格外は真名の暴走だ。お前の場合は個人の暴走って感じだろ?」
「俺、個人?」
「そうだ。現にお前、制御できなかったとはいえ、最終的に自分で抑えれたんだろ?”規格外”だったらそれすらできないからな」
「……よかった」
少なくとも、自分は”規格外”という危険な存在ではないことにカイトは安堵を覚えた。
「まぁ、正直、お前の真名って理解できないところが多いからな。それより、本題に戻るぞ」
アンクはそう言って山賊の戦力の話を再開した。
「とにかく山賊の大半は数名の国級を除けば数が多いだけの雑魚、でもその頭は大陸級だ。そしてデトマール私兵団、数は不明だが国級以上あっても不思議じゃない。拠点を割り出した後はそれについて対策しないといけない」
アンクの言葉にカイトは押し黙ってしまった。
ゼラス達がどれくらいの戦力があるかは分からないし、この世界の戦いもまだ分からないが相手はかなりの強敵だということは分かったからだ。
「……ついでにアンクの真名のランクは?」
「少なくとも大陸級くらいか」
(大陸級もあるんだ……)
先ほど、聞いた山賊の頭が大陸級とかなり強い真名を持っている。
アンクはそれと同格だった。
「……言っておくが俺は出ないぞ。情報は渡してやるが現世人のいざこざに首を突っ込む義理はない」
「そうだね。ごめん。ありがとう」
しかし、アンクは現世人と直接関わらないことを条件に協力してくれている。
山賊討伐の戦力として入れることはできなかった。
「とにかく、この情報をゼラスっていうやつに報告でもしておけばいいんじゃないか?その男爵様も馬鹿じゃねぇ。情報に信憑性があると信じてくれればそれなりに動くだろ?」
「……俺も、戦えればいいんだけどな」
あの時の暴走を除けば真名を発動できない自分に歯がゆさを覚えていた。
「長年、困らせている山賊騒動の解決の第一歩になる情報を渡すんだ。十分、貢献してるだろう」
「……うん、ありがとう。アンク」
(ほとんど、アンクのおかげだよね)
この数日間、情報を集めたのはアンクだ。
カイトにとってアンクには感謝してもしきれなかった。
「俺も、お前が山賊騒動を解決できるまで残るって言ったから協力したんだ。それに俺は現世人と顔を合わせたくないのをお前が引き受けてくれたんだ。もう少し自分を誇れ」
「……うん」
「それに、これも契約だからな。終わったらここを出て俺の協力をしろよ」
アンクはそっぽを向きながらこれも契約だとカイトに確認した。
「そうだね。……ところでアンク、協力しろっていうけど具体的に何するの?」
カイトは何に協力すればいいのか疑問に思い聞いた。
すると、アンクは少し動揺を見せる。若干だが視線を動かして考え込んだ。
しかし、すぐにカイトに再び視線を戻す。
「とにかくそれは後で言うからな。お前は早く、それをゼラスっていう若男爵に伝えろよ!いいな!!」
アンクは答えをはぐらかしながら「じゃあな」と言って窓の方から出ていった。
(ここまでお膳立てしてくれたんだ。自分のできることをやろう)
アンクを見送り一人なった部屋でカイトはすぐに近くの机に向かった。
(これで、山賊の拠点の情報が手に入った。これをゼラス達にどう渡せばいいかだな)
カイトは机の近くにある紙にさっきの情報とアンクが持ってきた地図の場所も書いておく。
(俺が言葉で伝えればいいけど、ムドは俺を疑っているよね。ややこしくなるし、紙に書いて執務室辺りに置くのがベストかな?)
アンクの契約にはアルカード家に自分の存在を言わないことも含まれている。
なのでその情報を自分で話さないといけない。しかし、自分のことを無害だと思われていても出所を言わない言葉を信じてくれる程の”信頼”があるとカイトは思えなかった。
下手したらカイトのことを良く思わないムドに山賊や裏で糸を引いているデトマール家のスパイだと疑われるかもしれない。
だから、書いた紙を執務室などに置けばいいのではないだろうかと考えた。
確かに最初は怪しむが一応、調べるはずだ。
そこから山賊討伐にまでもっていけばいいとカイトは考えた。
(文字、書けるようになってよかったな。セレナさん達のおかげだ)
カイトはこの数日間、この世界の言語を学んだことを思い出した。
この世界の言語はセレナ達のおかげでついに文字まで書くことができるようになった。
最初は文字を読むことすらできなかったカイトにとってこの成長は少し達成感があった。
(できれば、戦えるようになっていればよかったんだけどな……流石にそれは無理か)
真名が発動できないカイトにとって山賊討伐に参戦することはできないだろう。それ以前に保護されている立場の人間が参加できるのかも疑問だった。
(それに多分、命のやり取りになるだろうし、そうなったら殺す覚悟は持てないかも……)
これ以上、力になれないという無力感がある反面、こうした殺し合いになるかもしれない場所にでなくてよかったかもしれないという安心感もあった。
一通り、山賊の情報に関する紙をまとめたカイトはペンを机に置く。
(とにかくできることをやろう。少しずつだけど自分は前に進んでいるんだ。それに今後、セレナさんを孤独にさせない件もあるし)
自分が離れてもセレナが一人にならないように心の支えになる人達を作るのもある。
無力感はあるがそれでも着実に前に進んでいるという充実感はカイトにはあった。
(少なくとも翌日にはいい方向に進んでいるといいな)
明日はもっと良くなる。カイトにはそんな希望があった。
しかしその明日がカイトにとって大きく変わる日だった。それも、大切な人を”失う”という形で。
そんなことなど今のカイトは予想だにしていなかった。
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次回の投稿は6月24日(水)、18時の予定です。
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