19話 恩返し 下
「そう、そこでこう!!」
「こう?」
「違うよ、お師お師匠!こういう感じだって」
「こうかな?」
「そう。そういう感じだよ、お師お師匠!」
「そうかな?」
農場を手伝って数時間が経った。農場の手伝いは予定より早く終わったこと、そしてセレナとアンク達の様子からバルサが「あとは、私達がやるから子供達と一緒に遊んでおいで」と言われ今、セレナ達は離れた広場で遊んでいた。
「しかし、こうしてみるとのどかだな」
カイトは遠くからセレナの様子を見ながら小さく呟く。
セレナ達が遊んでいるのは石を遠くにある藁に当てる遊びらしい。
どうやらあの日、山賊に攫われて以来から戦う訓練をしようと遊ぶついでにアレン達がやっているらしい。
一緒に遊んだセレナも最初は距離感があったが今ではアレン達と馴染んでいる。
「……これなら俺が入る必要もないか」
ティグやメアリも近くにおり、楽しそうにアレン達と遊んでいるセレナを見てカイトは安心する。
(まぁ、俺も俺で大変だったけど……)
農場の手伝いが終わった後、村人達に泣きながら感謝され、背中をバンバンと叩き激励されたりと大変だったことをカイトは思い出す。
村で子供達が行方不明の騒動の時、結果的に自分が子供達を山賊から助けたことになっていた。
それでお礼を言われて多くの人を相手にしてカイトは疲れていた。
「よう。坊主、邪魔するぜ」
するとカイトにある人物が近づいてきた。
「えっと、ルブルスさん」
「ルブさんでいいぜ。よっこいしょ、少し座らせてもらうぜ」
カイトに声を掛けた人物、ルブルス・レテロはそう言ってカイトの隣に座った。
「一応、みんなのお礼を聞いてくれてありがとな。結構、大変だったろ」
ルブルスは村の人たちに囲まれ次々にお礼を言われて圧倒されていたカイトを思い出したのか、カラカラと笑いながら語りかける。
「正直、俺はまだ複雑な気持ちです。俺は勝手に動いただけですし、ルブルスさん達のおかげもありますし……」
「でも、村の人たちがあんたに感謝しているのは事実だぜ」
自分がみんなの頑張りを掻っ攫ったようで申し訳ない気持ちでいると、ルブルスはそれはないと応える。
「人生、そんなもんだ。自分にとって何気ないことで恨まれる時があれば、逆にその何気ないことが一番、感謝されるときもある。だから、貰えるお礼は貰っておいて損はないもんだぜ」
「そうなんですかね……」
「そういうもんだ。それより……」
カイトがまだ納得してない表情にルブルスは笑いながら、セレナの方に視線を向けた。
「セレナお嬢ちゃんも変わったな。昔だったら子供達どころか周りの人にすら距離を置いてたのに……」
「そうなんですか?」
普段からセレナが積極的に自分に話しかけるだけにそんな他人と距離を置いてた時期があったなんてカイトは想像できなかった。
「あぁ、俺とバルサが初めて出会った時のセレナ嬢ちゃんは一言で言うと何かを恐れている感じだったな。人と距離を置くというか」
「セレナさんが?」
カイトの知るセレナは活発で結構、身近に接する時が多い。
カイトにとってルブルスの言葉は信じられなかった。
「正確に言うとな。話しかけると笑顔で話してくれるんだ。ただ、それが無理しているというかまるで誰かに心配を掛けないような感じだったんだよ」
ルブルスの言葉を聞いてカイトは何も言えずただ、沈黙をしている。
「まぁ、ご両親がいなくなったから無理はないけどな。5年前の戦争について聞かされているし、その後も色々と大変だったからな」
セレナの両親が亡くなったことはカイトもすでに聞かされていた。
そしてその影響で領地が縮小したことも。
だが、そんなセレナは元気に振舞っていることからそれをもう乗り越えたものだとカイトは思っていた。
「とにかく俺とバルサで農場の説明をしたり、色々と話したおかげで嬢ちゃんも俺たちとはそれなりに話してくれるようになったけど、それでも一人で無理している感じがあって、不安だったんだよ」
(……セレナさんってもしかして無理をしていたのかな?)
セレナは自分がこの世界について知らないことを色々と教えてくれていた。
セレナのおかげで元気づけられた時もある。
しかし、もしそれが無理をしていたのなら少し罪悪感があった。
自分より年下なのだから尚更である。
すると、ルブルスは「だから……」と話を続けた。
「今のセレナお嬢ちゃんを見て安心したよ。少なくとも無理した笑顔というより本当の笑顔になっているからね」
「そうですね。セレナさんも子供達と一緒に遊んで楽しそうですし」
そういってカイトはちょうど投げた石が的に命中するようになり、アレン達から褒められて若干、嬉しそうにしているセレナを見てそう呟いた。
「いや、正確に言うとカイトが来てからだ」
「!!」
カイトは驚いてルブルスの方に振り向く。
「あの時の嬢ちゃんを見て驚いたよ。なんせ、カイトの時だけは本当に元気でね。私達でも見せなかった笑顔だったからな。何かきっかけでもあったのかい?」
「……俺には分かりません。俺はセレナさんに助けられてばかりでしたから」
カイトがセレナに関して思い出したのはこれから先の異世界生活の不安に対しセレナが館を案内して不安を和らげてくれたこと。
この世界の言語に苦戦した際、セレナが手伝ってくれたこと。
そして自分が山賊騒動で失敗した時に励ましてくれたこと。
自分がセレナに対して何かした覚えはない。寧ろ、助けられているばかりだった。
「そうか。でもお前にとって何気ないことが嬢ちゃんにとって掛け替えのない支えになっているのかもな」
「……」
掛け替えのない支え、自分にそんなものがあったのだろうか。
(もしかして、初めて出会ったとき……いや、流石にそれはないか)
強いて言うならセレナと初めて出会ったとき、山賊に襲われていたのをカイトはセレナを連れて逃げ回ったことだ。
あの時、一人で心細かったから安心できたと言っていたがセレナが何か大きく変わるきっかけになる程のものだろうか、カイトには分からなかった。
「まぁ、とりあえず、カイトは従者なんだろう。セレナ嬢ちゃんをこれからも支えてやってくれ。ゼラスの坊ちゃんは忙しくてあまりかまってやれるのは難しいだろうしな。誰だって心の支えになる人が必要なんだよ」
「分かりました」
「まぁ、もし無理だったら俺に相談しな。なんせ俺は昔、遠い裏町で”レッドウルフ”と呼ばれ恐れられ……」
ズドンッ!
ルブルスが話しをしている途中にバスケットボールほどの岩が飛んできて彼の頭に命中した。
それとともにルブルスの妻、バルサの怒鳴り声が聞こえる。
「ルブ!!いつまでサボってんだい!?牛の乳しぼりは終わったのかい!?」
「やべっ、それじゃあ。カイトまた後でな」
「……はい」
(頭大丈夫だろうか……)
頭から血を流しながらルブルスは牛舎小屋に向かった。
(……それよりも、セレナさんにとって俺が心の支えになっているか)
ルブルスの言った言葉は本当だろうか。カイトは疑問に思っていた。
セレナの昔の話は少しだが聞いたことがあるがセレナが一人だったこと、そして周りに無茶をして距離を置いていた時期など想像できなかったからだ。
本当に自分がセレナの心の支えになっていたのだろうか。
カイトにそんな自信はなかった。
(仮にそれが本当だとして……俺がこのまま離れていいのかな?)
カイトはアルカード領で問題になっている山賊騒動を解決しセレナ達を助けるために動いている。
ただ、カイト個人ではどうしようもないため自身と同じ異世界人、アンクと協力している。その条件として山賊騒動が解決したら自分はアンクと共に行動しないといけない。それはカイトはアルカード領を離れるということだった。
離れることに最初は抵抗があったが、カイトはいつか一人で生きていかないといけないことも理解していた。
いつまでもアルカード家の保護に甘えているわけにはいかないのだ。
何よりそれでアルカード家に対する恩を返せるなら仮にセレナ達と別れることになっても後悔しないつもりだった。
(でも、もしセレナさんはまた一人になってしまうのかな……)
ルブルスの言った言葉が本当なら、ここで離れたらセレナがまた一人で寂しい思いをするかもしれない。
カイトはセレナの方を見る。
セレナはアンク達と楽しそうに遊んでいた。
その時、カイトは思い出す。
セレナは最初、アンク達と距離感があった。
しかし、カイトが背を押した。そのおかげでこうして楽しく遊んでいる。
(これから、セレナさんを俺以外の繋がりを持てば……)
カイトにあるアイディアが浮かぶ。
(そうだよ。俺が心の支えになってるからって、ずっとそうなる必要はないんだ。俺が傍にいるんじゃなくてセレナさんの心の支えになる人を俺が作ればいいんだ)
アレン達とセレナの関係は良好だ。
これをアレン達以外にも増やす。
そうなれば仮に離れることになってもセレナを悲しませることはないんじゃないか。
カイトはそんな妙案を思いついた。
「俺がするべきことはアルカード領とセレナさん達を助けることなんだ」
そう呟き決意を固めるもカイトは少し寂しさを感じていた。
だがカイトはそれは気のせいだと心の隅に置くのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は6月20日(土)、18時の予定です。
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