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Iの冒険記  作者: 一発KO
第一章 異世界漂流変
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18話 恩返し 上


「久しぶりに来ましたね」


「うん。本当に良いところだよね。バルサおばさんとルブルスおじさん元気にしてるかな?」


アンクと話してから更に数日後、カイトはセレナとティグ、メアリとともに再びレテロ達の村に来ていた。

前回、来た時にカイトが子供達を助けたことについてお礼を言いたいと言われたのでいつもの農場の手伝いのついでにやってきたのだ。


「よぉ、セレナ嬢ちゃんと村の英雄様じゃないか」


村の管理者の一人である細身の中年の男性、ルブルス・レテロが気さくに笑いながらカイト達を出迎えた。


「ルブルスおじさん、また来ました」


「あの、ルブルスさん、その呼び方止めてほしいです……」


ルブルスの様子から”村の英雄”とは誰なのか察しのついたカイトは苦笑いを浮かべる。


「いやいや、そういうなよ。あの日から村じゃカイトの話題で持ち上がってるぜ」


「……できれば忘れてほしいです」


「まぁまぁ、そう言わずに……いてぇ!!」


ルブルスが茶化すようにカイトと話していると遠くから桶のようなものが飛んできてルブルスの後頭部に直撃する。


「あんた、なにやってんだい!!また、家畜の牛の餌やり忘れてるじゃないか!!」


「やべ、それじゃ、失礼するぜ」


遠くから女性の怒鳴り声を聞いたルブルスは逃げるようにその場を後にした。

代わりにさっきルブルスに怒鳴った筋骨隆々の女性がカイト達に現れる。


「バルサおばさん!!」


「久しぶりねセレナ嬢ちゃん、それとカイトだっけね。悪かったね、ルブの奴が変なこと言ってて」


ルブルスの奥さん、バルサがカイトの前で申し訳なさそうに笑いながら話しかけた。


「いえ、大丈夫です。気にしないでください」


「そうかい?でもね、村のみんながアンタのことに感謝しているのは事実でね。親御さんがアンタに礼を言いたいって」


「いや、あの時はただ、後のことを考えていなかったというか。ルブルスさんたちがいなかったらどうしようかと……」


「それでも、感謝している人がいるんだよ。人助けのつもりで彼らのお礼の言葉を聞いてくれないかい?」


「……分かりました」


あの時、自分が勝手に動いたのが結果的に子供達を助けたことについてはセレナから励まされた後でも、少し複雑な思いが残っていた。

しかしバルサに頼むように言われたら頷くしかなかった。


(……ん?)


すると、カイトは誰かの視線を感じた。


「メアリさん?」


「……何?」


いつもの真横から覗くメアリだと思ったが今回はカイトの側にいないし、彼女による視線ではない。

何より、いつもより視線が多いことに気づいたカイトは辺りを見回す。


「あっ」


「「「「「あっ!」」」」」


すると、遠くの俵山の物陰から自分を覗いた子供達にカイトは気づいた。


(確か、アレンだったかな?他の子は名前知らないけど……)


山賊に襲われていたところを助けた子供達、特に初めて出会ったとき、自身に泥を投げつけた子供のアレンはカイトにも印象が残っていた。


「えっと、どうしよう?アレン」


カイトに見つかったのに気づいたのか、アレンの隣にいる子が彼に囁いた。


「うるせぇな。こういうのはタイミングが大事なんだって。こういうのを”空気を読む”らしいんだぜ」


「でも、もう見つかっちゃったよ」


「うっ……」


アレン達はカイトをちらちら見ながら話し合っている。

物陰から出ようか出ないか迷っている。


(どうしたんだろう?俺に用かな?)


子供達が出てこないのに対し、カイトは呼ぶべきか見守るべきか迷っていた。


「アンタたち、いい加減、隠れてないで出てきなさい!!」


業を煮やしたのかバルサが大声で呼ぶと最終的に観念したのかアレンを先頭に子供達がカイトの前にやってくる。


アレン達はカイトの前に来ると立ち止まった。

自分の前でアレン達は「えっと……」、「ほら言おうよ。練習通りに」、「でも……」と話し合っている。

最終的に覚悟を決めたのか「よし」とアレンが先頭に出て頭を下げる。

他の子供達もアレンに倣うように頭を下げた。


「「「「「この間、山賊から助けてくれてありがとうございます!お師匠!!」」」」」


「……はへ?」


(お師匠!?)


色々と何から聞けばいいのか分からずカイトは間の抜けた声を出す。

そんなカイトを気にせずアレンが続けて話す。


「えっと、お願いがありますけど……お師匠と呼ばせてください!お師匠!!」


もうすでにお師匠って呼んじゃってる!とカイトは突っ込みたかったが、あまりに予想外の言葉にすら出てこない。


「あの、一体、どういう……どういうことなんです?」


とりあえず思考がまとまらないまま、カイトは子供達に尋ねると代表としてアレンが話し始めた。


「えぇ、だってお師匠、すっごくかっこよかったんだもん。山賊がガンガン攻撃してくる隙にこうグバーって」


アレンが身振り手振りでカイトの活躍を説明してくれていた。

どうやら、自分達があの時、山賊から逃げきれず殺されそうなところをカイトがほぼ考えなしに山賊に体当たりして助けたことがアレン達にとって英雄みたいに見えていたようだ。

そのためアレン達はカイトに感謝と憧れを持っていたようだ。


「だから、俺たち、お師匠みたいに強くなって貴族の従者になりたいんだ!!お願いお師匠!!」


「お師匠!」


「頼むよお師匠!!」


「お願い!お師匠」


「えっと……お師匠」


子供達が自分をお師匠と呼びたくて続々とカイトの前に殺到する。


(お師匠なんて、俺がどうしろというんだ!?真名も碌に発動できないんだけど……子供のこれってどこまで合わせればいいんだ?)


子供達のノリに付いていけずカイトは途方に暮れていると、バルサが前に出た。


「はい、はい。そのお師匠は今からセレナお嬢ちゃんとともに私たちの農場の手伝いをするから後にしてね」


「えー」


バルサが手を叩きながら止めるが子供達は不満の声を上げる。


「大体、従者になってどうするんだい。あんたら村で手伝わず、いたずらばかり」


バルサが呆れた風に言うと、黙りだした。しかしアレンが代表して口を開いた。


「でも、従者になればこのりょうち?を助けることができるだろう?」


「とうちゃんとかあちゃんが、言ってたんだ。今、このりょうちが大変だからゼラスさまの足を引っ張らないようにしようって、だから僕たちが従者になればもっと力になれると思ったから……」


アレンが言うと他の子供達もうんうんと頷く。

アレンは更に言葉を続ける。


「だから、俺たち農場の手伝いじゃなくてもっと従者みたいな貴族の手伝いをしたいんだ!だから、自分達は強いと注目されたくて……」


(……そういえば初めてアレン達と会った時も従者になりたいという話をしていたような)


アレン曰く、ゼラス達に認められて従者になりたかったらしい。

カイトが従者の服を着ていたため自分が従者より強いと思われれば貴族に目を止められる……いわば自己アピールのつもりでカイトに泥を投げつけていたのだ。

そんなので従者になれる訳ないし普通に逆効果になりかねないのだがそこは子供の発想と言ったところだ。


バルサはそんな子供にやれやれと言いながら優しくアレン達を諭す。


「いいかい?強ければ従者になれるわけじゃないよ。従者も色々いるからね」


「えぇ!?じゃあどうすればいいの?」


バルサの言葉にアレン達はどうすれば従者になれるのか尋ねると「例えばねぇ」とカイト達に視線を合わせる。


「ちょうど、あんたのお師匠がセレナお嬢ちゃんと共に私達の農場を手伝ってくれるからそれを手伝うにはどうだい」


バルサがそう言うと間に受けたのかアレン達はカイト達の方に振り向く。


「本当に!?手伝っていいのお師匠!?」


アレン達の圧にカイトは困った顔でセレナの方に向く。

カイトはセレナと一緒に手伝う予定だったので急遽、子供達も加わることは予想だにしていなかった。


「えっと……セレナさん大丈夫ですか?」


「えぇ!?」


セレナは自分に話を振られるとは思っておらずあたふたしていた。


「だっ、大丈夫だよ。えっとお願いできるかな?」


「えぇ……俺、お師匠の手伝いしたいのになんで俺たちと同じガキと……いたぁ」


セレナに頼まれることに不満になっているところにバルサがアレンに軽く小突く。


「馬鹿言うんじゃないよ。あの子はあんたのお師匠より偉い人、つまりお師匠のお師匠の立ち位置だよ」


「えぇぇ!!お師匠のお師匠なの!?」


「すげぇ!!お師匠のお師匠!!」


「お師お師匠ってこと!?」


「お師お師匠!!」


「ええっと……」


カイトより偉いと聞いたアレン達は今度はセレナ達に殺到してきた。

しかし、セレナは困惑しているのかアレン達と距離を取る。

心なしか若干、震えていた。


(もしかしたら、あまりに勢いが凄すぎて怖がっているのかな?まぁ、あんな圧で来られたら無理もないし……そういえばセレナさん、俺やメアリさんたち……後、バルサさんとかを除くと他の子供達と話しているところみたことないな)


きっとセレナはこの状況に慣れていないのだろうとカイトは思っていた。

そうなればやることは一つとカイトはセレナの肩に優しく手を乗せる。


「セレナさん、大丈夫ですよ。俺も付いています」


セレナは驚いてカイトを見上げる。


「!!……うん」


そして安心したのか笑顔で頷いた。


「セレナお嬢様、万が一には我々がいます。安心してください」


「……任せとけ」


それに続いてティグやメアリもセレナに声を掛ける。

セレナはティグ、メアリと順に見回し、最後にカイトを見る。


「うん。ありがとう」


頬を軽く染めながら視線を下に向ける。


「お師お師匠、大丈夫?」


そんな様子をアレン達は不思議そうに見ていた。

セレナははっと我に返り、アレン達に軽く頭を下げる。


「えっと、ごめんね。それじゃ手伝いお願いね」


「任せとけ。お師お師匠」


「そうだぜ!お師お師お師匠!」


「おい、お師が一つ多いだろ!」


「大して変わらねぇからいいじゃん!!」


「変わるよ!!」


子供達の何気ない会話に和やかな風が吹いていた。




ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回の投稿は6月13日(土)、18時の予定です。

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