17話 進捗報告
真名の訓練を終えた後、日常になっている裏庭の手入れをセレナ達と一緒にやり自身の部屋に戻った時にはすでに夜更けになっていた。
「ふう……」
カイトは自身が真名を発動できなかったことを考えていた。
一つは自分の真名の類が違うだけならすぐに解決できる、霊力を外に流すイメージから内側に留めるイメージに変えるだけだ。
しかしトラウマによるものならどうしたらいいのか分からない。
克服したつもりでも自覚してないところで心の中に深く残っているものだ。
そんなつもりはなくても無意識にブレーキをかけてしまう。
(やっぱり異世界人だと少し違うのかな……)
それとも自分が異世界人だということ、外の世界からの人間では少し発動の仕方が違うのか。
カイトは思考をぐるぐる回しているが結局、結論がでない。
「これもう、俺と同じアンクに聞くしかないのかな……いつ来るのかな」
「……呼んだか?」
カイトが溜息を吐いてるとアンクがすでにカイトの隣に座っていた。
「うおわぁ!!」
「声がでかい」
「むぐ」
アンクに手で口を塞がれる。
しかし、その間のおかげで誰がいるのか理解できたカイトは少し平静を取り戻した。
「アンク、どうしてここに?」
「いや、一通り情報が入ったから進捗報告しようとしたが窓も開いているしお前がなんか放心状態だったからよ」
「……ごめん」
「いいって気にすんな、それで何か悩んでいるのか?報告前に話聞くぞ」
「まあ、とりあえず今日の話なんだけど……」
カイトはこの一日、真名を訓練したことを伝えた。
自分があの時、出した岩を形成した真名が今日は全くでなかったこと。
原因を考えていると、初めて真名を使ったとき、自分が謎の声と別の人格に乗っ取られた感覚の状態になっていたことを思い出した。そのことをティグ達に話したが分からなかったことから異世界人と現世人では違うのではとカイトは推測した。
「……アンクも真名を発動するとき、俺みたいに謎の声が聞こえたりする?例えば使うとき、違う人に何か乗っ取られる感覚とか……」
「知らん……何それ……怖……」
「ドン引きしてらっしゃる……」
「いや正直よ、俺もそんな真名を意識したつもりはねぇよ。そのティグって言う子供?爺さん?の言ったのと同じ感じだ」
「……そういえばアンクの真名ってどんなの?」
「真名って一度、くらっただろ、お前?」
「そうだっけ……そうかもしれない。けど一応、お願い」
「……しょうがねぇな」
アンクはそういうとカイトの方を向いた。
(……!!)
その瞬間、カイトの視界が暗転し浮遊感がカイトを襲う。
(これってあの時と同じだ)
カイトは思い出す。
初めてアンクと出会ったとき受けた、あの視覚が暗くなり浮遊感が襲う状態を。
「……もういいだろう?」
「……!!」
アンクの声が聞こえ先ほどの浮遊感が無くなったと同時にカイトは床の上に倒れていた。
「一応、転びそうだから支えてゆっくり寝かしたぞ。……暴れないでよかったぜ」
怪我がないことを確認し、安心した表情を浮かべるアンクを見てカイトはゆっくり起き上がった。
「えっと、アンクって”特定型”の真名だよね?能力は受けた感じ、視界の周りを真っ暗にして浮遊感を起こさせる能力って感じ?」
カイトはアンクが手から何か出したわけでもメアリのように何かしらの領域がでたわけではなく突然、視界が真っ暗になったことからアンクを特定型と推測した。
「カイトの言う通り俺の真名は”特定型”までは正解だ。真名に関しては正確に言うとありとあらゆる”五感を無くす”能力だ」
「ありとあらゆる五感?」
「そうだ。俺の真名を食らった奴は、視覚だけじゃなく、嗅覚、聴覚、触覚、味覚の全てを遮断させる。だから、相手はまるで真っ暗な闇の中に放り込まれた感覚に襲われるんだ」
(そういえばあの時、叫ぼうとしても声が出なかったのって聴覚も遮断されてたからなのか……)
初めてアンクの真名を受けたとき、戸惑って声を出そうとしたがでなかったことを思い出した。
あの時、慌てて声が出なかったと思っていたが聴覚を遮断されてたのだ。
「ついでにそうなると体の自由も効かないからその状態で倒れ込むんだぜ。……お前が転びそうになったから急いで支えたから怪我はないはずだが」
「……ありがとう。アンク」
「いいってことだ。まぁ、とにかく俺の真名に名前を付けるとしたら”ブラック・アウト”って言ったところだよ」
アンクが自分の真名の説明をしているのを聞きながら、カイトは自身の真名について考えていた。
(異世界人だからとかじゃなかったのか……じゃあ、あの時のは何だったんだろう?)
真名の訓練では発動できなかった。
しかし、あの時、山賊と対峙したときはできていた。
少なくともこの世界に来てから発動できたのは確かだ。
しかし、あの時と今とで何が違うのかカイトには分からなかった。
(……でも暴走していたらと考えたら)
初めて自分の力を使ったとき、暴走状態だった。
それが原因でメアリを傷つけてしまったことを考えればこのまま発動しない方がいいと考えてしまった。
「えっと、お前の場合は転生じゃなくて転移だろう?もしかしたらそれで少し違いがあるからじゃないのか?」
「……そうなのかな」
「まぁ、ただこの世界に慣れてないだけかもしれないし、焦らず気長にやれよ。一応、何かできることがあったら力になるしさ」
「あぁ、その時、よろしく。アンク」
「一応、お前を助けたら今度はお前が俺を助けないといけないから、何もできないは困るしよ……」
(そうだな……今は使えないとか暴走とか考えないで一つずつやるようにしよう)
今、嫌なことを考えないで一つずつやっていこうとカイトは気を持ち直した。
すると、アンクは「それより……」とカイトの真名の話から話題を変える。
「そろそろ、俺が調べた山賊の情報話していいか?」
「ごめん。話逸らしちゃったね。お願い」
真名の話を終えようやく本題であるアンクがこの時点で調べた山賊の情報を聞くのだった。
「……ここまでが俺の調べたところだな」
「ありがとう。アンク、まさかアルカード領で起きた山賊騒動って他の貴族が手引きしてるなんて……」
アンクがまとめた紙の文書(この世界で書かれた言語)を見てカイトは今回の起きている山賊騒動はかなりの陰謀劇だと理解した。
「あぁ、特に今回、山賊を手引きしたアルカード領のお隣さん、デトマール男爵家は裏で汚れ仕事を平気でやる家で有名らしいからな」
今回の山賊騒動はデトマール男爵が裏で手引きしており、その資金と物資を渡して山賊たちがアルカード領で暴れていたのだ。
「一体、なんのために?」
「知らねぇよ。どうせアルカード家が没落すれば利益が出る奴がいるんじゃないのか?それにそのデトマールって奴もさらに裏で別の奴が手を引いている可能性もあるし」
「さらに黒幕がいるの?」
「まぁ、流石にそこまでいったら俺たちじゃどうしようもねぇな。山賊を討伐してついでにデトマール家が潰れたら後はお前らだけで頑張れって言うしかないわな」
アンクはそれ以降はお手上げだと手をひらひら上げる。
しかし、この問題は貴族が関わっているだけではない。
ここまで山賊が好き勝手やっているのに解決できない原因は他にもあったのだ。
「……山賊のアジトが複数あるってどういうことなの?」
「俺も全部、調べられたわけじゃない。山賊達の会話を盗み聞きしたりしてまとめたからな。でも拠点が複数あるのは確かだ」
カイトはアンクが手書きの地図を見て茫然としていた。
アンクの調べた山賊のアジトは東西南北で複数存在していたのだ。
「確かに山賊討伐に手こずるのも無理はないな。見つかってもすぐに拠点を放棄して逃げられる。アルカード家も人手が足りないだろうしな。虱潰しで制圧してもまた新しい拠点を建てられりゃイタチごっこだ」
「こんなのどうすればいいの?」
まさかここまで大規模だったとは思ってなく、カイトは頭を抱えていた。
「いや、山賊騒動が最近になって起こったにしてはこの拠点の数は不自然だ」
しかし、アンクは大した問題ではないように涼しい顔で自分が手書きした地図の拠点をトントンとたたく。
「中には全く使ってない所もある。考えられるのはダミーだ」
「ダミー?」
「よくあるんだよ。拠点として落されたら困る物がある場合、いくつも拠点を作って特定されないようにすることが」
アンクはそう言いながら地図の上をゆっくりと指でなぞった。
「貴族も裏で糸を引いてるんだ。やろうと思えばできないことはない。だが、どれだけ多く拠点を作っても落とされたら、相手にとっちゃ完全に詰む拠点は必ず存在する」
「つまり、そのアジトを潰せばどうにかなる?」
「そういうことだ。それをこれから調べるつもりだ」
「なるほど……ん?」
アンクがその山賊の重要拠点を探すと聞いてカイトは少し安心したが、ふと不安が頭をよぎった。
「確か、今回の山賊騒動ってデトマール男爵という貴族が関わっているんだよね?もしその重要拠点がその男爵領だったらどうするの?」
今回の件は貴族が関わっている以上、その山賊の重要拠点がその領にあったらほぼ詰みだ。
山賊討伐のために他の領へと進めば大問題になりかねないのではないかとカイトは不安だった。
しかし、アンクは「はぁ」と溜息を吐く。
「あのなカイト、貴族からしたら山賊を雇っている時点で世間体的に良くねぇんだ。そんな状況で拠点そのものを自領に提供するメリットよりデメリットの方がでかいんだよ。寧ろ、没落させたいアルカード領に拠点があった方が向こうも色々と都合がいいんだよ」
「あぁ」
普通に犯罪者を自領に招き入れるのは確実に外聞が悪い。
だから、デトマール家にとってはアルカード領に山賊達を配置したかったのだ。
万が一の時は切り捨てることができるし、場合によってはアルカード領の山賊騒動はデトマール家を陥れるための自作自演だと噂を流すこともできる。
孤立無援の状態であるアルカード家からしたらそんな流言飛語だけでも致命的になりかねない。
「とはいえ、それは山賊がアルカード家に完全に討伐されないことを前提でやっているからな。そこを叩きのめせばいい」
「おぉ!」
これで山賊の重要拠点が潰せればアルカード家の、ゼラス達の評価が変わる。
更にこれは他の貴族が仕組んだものだと言えば没落も考え直すかもしれない。
アンクの言葉にカイトは希望を持てた。
「まぁ、報告は以上だな。山賊の重要拠点が割り出せたらまた来るよ。まぁ、そんな時間がかからないだろうしな」
「うん。ありがとう。アンクがいなかったらどうしようもなかったよ」
カイトはお礼を言うと、窓から外に出ようとしたアンクが立ち止まった。
「まぁ、これも契約のためだからな……言っとくけどこれが終わったら俺に協力しろよ」
「あっ、そういえばそうだったね。うん。もちろんだよ」
「じゃあな。さっき報告した奴、伝えるか伝えないかはお前に任せるぞ」
アンクはそう言うと、窓から飛び降りるように出ていった。
再び、静けさがカイトの部屋に漂う。
「ふぅ」
(少し頭を整理するか……)
カイトは今回の件で情報を少し整理した。
今回の山賊騒動は貴族、デトマール男爵(場合によっては更に黒幕がいる可能性あり)が関与していること。
山賊のアジトは複数あるがほとんどがダミーであり重要拠点を落せばほとんどが解決すること。
カイトはこれらの件をゼラス達にどう報告するべきか悩んでいた。
アンクの名前は出せない。でも、黙っているわけにはいかない。
(まぁそれはちゃんと、考えないといけないよな。後……)
しかし、カイトにとってもう一つ考えないといけないことがあった。
(結局、俺の真名の件は異世界人だからとかそんなの関係なかったな……)
カイトが真名を発動できないのは自分が異世界人だから、少しやり方が違うと思っていた。
しかし、アンクは普通にできたことから結局、振り出しに戻ってしまった。
(これは、自分で調べないといけないかな?幸い、この世界の文字も読めるようになったし)
とりあえず真名については自力で調べる方針で固めた。
(アンクの言う通り、転生者と転移者とでは違うかもしれないしまず転移者に関する情報だろう。できれば歴史とかも調べたいな。自分と似たケースの人がいるかもしれないし、でもそう言った本、ティグさんやメアリさんが遠ざけているような気がするんだけど……)
カイトは書庫室の出来事を思い出す。
最近、文字を読めるようになり色んな本を読めるようになった。
しかし、歴史や異世界人に関する本は「カイト様、今はこっちの本を読んだ方がいいですよ」、「……こっちがいい」とティグやメアリによって心なしか遠ざけられていた。
(……どうすればいいか。でも、少なくとも前に進めているのはいいことだな)
真名を発動できないし読みたい本が読めないのは少し残念だが全く進んでいないわけではない。
真名についての知識もそうだし何より山賊騒動に関する情報もそれなりに手に入れている。
(焦らず、今できることをやっていかないとな。……セレナさんみたいに)
カイトはあの日、セレナに励まされて以来前向きになれるようになっていた。
(よし、明日も頑張るぞ)
そう心の中で呟いてから、カイトは明日に備え目を閉じた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は6月6日(土)、18時の予定です。




