16話 新たな変化と真名 下
霊力の訓練は非常にシンプルだった。
まずティグまたはメアリがカイトに触れ霊力を流し込む。
例えるなら初めて自転車に乗るとき、倒れないように後ろで大人が支えるそんな感じだ。
自分もそれをできるようになるかと聞くとティグは訓練次第でできるようになると笑顔で応えてくれた。
こうして霊力の動かし方を訓練している間もカイトはティグから説明を受けていた。
「カイト様、内包類と放出類にはそれぞれ真名の発動の”型”が3つあります」
「型?」
「はい、”類”によって霊力を外側に放出するか内側に留めることによって、真名がどのように発動するかのことを”型”と呼びます」
(えっと、簡単に言うと”類”はボタン式かレバー式で起動するかのスイッチなら”型”はそれで動く機械自体って感じかな?)
ティグの説明にカイトは”類”と”型”をそれなりに理解したところでカイトはあることに気づく。
「あれ、そういえばそれぞれの類に対して”型”が3つって言いましたよね?類は、えっと内包類、放出類の二種類ですから……真名自体は実質、6種類ということですか?」
「カイト様、その通りです。せっかくですし一つずつ説明していきましょう」
ティグはそう言いながら真名の各”型”について説明してくれた。
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【内包類】特に近接に特化した真名が多い。型は以下の3種類。
【体質変化型】体の性質を変化させる。ティグのように自身の肉体そのものに何かしらの変化をさせることができる。中には火や水といった物質関係になる者もいる。
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「水や火とかってある意味、無敵過ぎませんかね。大抵の攻撃がそれになって通過しそうですよね」
「いえ、実際はそんなに便利なものではありません。本来の体からかけ離れた変化ほど霊力を消費しますし、何より変化したところは変化前本来の感覚が使えないリスクがあります」
「どういうことですか?」
「例えば水に体を変化できる能力者がいた場合、目を水に変えてしまうと視力が使えなくなります」
「確かに、無敵になっても周りが見えなくなったら不便ですもんね」
「まぁ、その場合、その変化した物質特有の感覚が代わりに得られますので一概にデメリットという訳ではありませんが……」
どうやら、某海賊冒険漫画に出てくる自然の実を食った能力者みたいに使い勝手がいいものではないらしい。
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【付与型】体質変化型と違い自身に直接的な変化はないが対象(人や物など)に接触すると特別な効果が加わることができる。
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「一々、直接触りにいかないといけないのですか?」
「実戦では敵にやるのは結構、難しいですね。基本は身近なものか自身に付与する場合が多いです」
「自分自身に付与させるのもアリなんですね」
「付与型はムドが代表例ですね。彼は触れた相手とテレパシーで直接連絡できる能力があります。彼はサポートに適した能力ですが、中には対象に害を与える能力もありますので要は使い様ということです」
「使い様か……付与型って結構、奥深いですね」
「そうですね。付与型に限った話ではないですが、真名は能力によっても動き方は大きく変わるときがあります」
(なんか、ゲームでもあったな。本来の役割前提の職業で敢えて違う戦い方をするタイプ……これは単純に能力に考慮した感じだけど)
自身がいた世界のゲームみたいでカイトは少し親近感が湧いた。
「まぁ、付与型は、持っている武器や物を伝って遠くにいる相手に付与させる人はいますが少数派ですね。霊力もかなり使いますし」
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【条件型】一定の条件がそろうことで発揮する。条件がより合致しているほどより強い能力になり、6種類の真名の中で一番、コストパフォーマンスが高いとされる能力。
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「条件型……あまりイメージできづらいですね」
「私が出会った中では湿度が高いほど身体能力が強化する能力とかですね」
「へぇ、どういった人だったんですか?」
「その人は……乾燥地帯に誘い込まれてしまって何もできずに討ち取られ、今はこの世にいません……」
「……すいません」
あまり聞いてはいけないことだったがおかげで条件型については理解することができた。
「とりあえず、以上が内包類の3型ですね。今度はカイト様にも関係がある放出類3型の説明をしましょうか」
ティグは内包類の説明を終え、次に放出類の3型の説明を始めた。
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【放出類】特に遠距離、中距離に強い真名が多い。型は3種類。
【形成型】単一な物質を形成することができる。形成する場所は手の先がメジャーだが、中には身体の自由なところから形成できる者もいる。形成した物質はそのまま飛ばしたり纏うこともできる。
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「あれ、もしかしてこれって自分の能力の型じゃ……」
「はい。カイト様が岩を形成しているのでその確率が高いです」
(俺が放出類と判断した理由がこれか……)
「形成型は発動速度が速いので汎用性が高いですね。基本的にバランスが良く使い勝手がいい型です」
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【領域型】放出した霊力から周囲を包む幕、”領域”を生み出す。領域内ならどの位置からでも効果を与えることができる。
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「これって、メアリさんの型ですよね」
「……えっへん」
メアリはどうだと言わんばかりに胸を張った。
「領域型の強みは領域内ならどこでも攻撃できるところですね」
「結構、すごいんですね」
「……どや」
「ただ、逆に言えば領域の外にいる人間には何もできません。相手を誘い込むか領域を張り直す必要があります。また、領域を張る、効果を発動するという手順もあることから他の”型”より発動速度が遅くなりがちですね」
「……ティグさん……嫌い」
「……メアリさん。一応、カイト様に真名の型の説明するのがメインですから」
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【特定型】特定の対象のみを限定し影響を及ぼす。回避不可能、防御困難の必中効果を与える。
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「……この型だけ他よりぶっ飛んでるというか、無法すぎません?」
「いえ、特定型は癖が強い型ですよ。まず一人しか狙えませんし、次に真名を使うときも多少のインターバルが必要となります。……もちろん、それを無視して連続して使用できないことはないですが他の型とは比較ならないくらいに莫大な霊力を消費するのでそれをやる人はまずいません」
「強すぎるが故の弊害というわけですか……」
(……あれ?なんか、そんなこと話してた人がいたような……いつだっけ?)
何か心当たりがある気がしたがカイトはそれを思い出すことができなかった。
「……以上が真名の説明ですがカイト様、理解できましたか?」
真名の型の説明を一通り終えたティグがカイトに笑顔で自分の説明に不備がないか確認した。
(とりあえず、真名の型って分かりやすく言うとこんな感じかな?)
カイトはさっきまでの説明を一通りまとめた。
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・内包類、霊力を内側に留めて発動するパターン。接近戦が強め。
体質変化型:体の性質を変えることができる。近接主体の代表。
付与型:バフ、デバフを与える。
条件型:環境依存、強さは使い手に委ねられる。
・放出類、霊力を外側に流すことで発動するパターン。間合いを取った戦い方ができる。
形成型:バランスが良く、オールラウンダー。
領域型:広範囲特化、メイジ職的な感じ。
特定型:タイマン特化のジャイアントキリング。
*
(大体、こんな感じか……)
「大丈夫です。ティグさん。岩を形成した自分が放出類だという理由も納得できました」
「はい。理解できてよかったです」
ティグが自分の説明に不備がなかったと安心して微笑むのを見たカイトは再び自分の真名の訓練に集中する。
さっきからティグまたはメアリが自身の肩に手を置いているだけな気がしていた。
確かに何かしらの力(恐らく霊力だろうもの)が流れているように感じる。
放出類、形成型であるカイトは霊力を外に流すようにイメージする。
だが、真名が出る気がしなかった。
(……なんでだろう。あの時はできたのに)
「真名ってどうしたら出るんでしょうか?ティグさん」
「基本、霊力の保有量が余程低くない限り、流すまたは内側に留めることを意識するだけで自然とできるものですが……それは感覚の問題ですね」
「感覚か……」
(自転車の練習で最初は上手く乗れなかったけど気づいたら自然とできるような感じかな?)
カイトは自身の身近な例えを思い出しながら霊力を流すことに集中する。
「安心してください。あの時のカイト様は真名を使っていたことは確かです。それを思い出しながらやってみてはいかがでしょう。大丈夫です。もしもの時は私達が止めますし、セレナお嬢様も安全な所にいますので」
実際、メアリとティグの分裂体、二体がセレナを守る感じで立っている。
セレナもカイトの様子を遠くから応援するかのように見つめていた。
(みんなが俺のためにやっているんだから、もう少し頑張ろう)
カイトはこうして一日をかけて真名の訓練に取り組んだ。
しかし、この日は結局、真名を発動することができなかった。
* * *
「……」
カイトはただ、沈黙していた。
(どうして、発動できないんだろう……)
理由はこの一日使っても真名が発動できなかったからだ。
「……なでなで」
メアリがカイトの頭を撫でているがあまり気にする余裕はカイトにはなかった。
そんな中、セレナが心配そうに見つめる。
「カイト、大丈夫?」
「大丈夫だよ。セレナさん……そういえば、セレナさんって初めて真名を使う感じってどういう感じでしたか?」
カイトは参考程度にセレナに真名の発動の仕方を聞いてみようとした。
「えっ……えっと」
しかし、セレナは言い淀んでいた。
「えっと、セレナさん?」
普段は元気に応えることが多い彼女が、まるで口にするのを拒絶するかのようにしどろもどろになっていた。
まるで、この件の話については話したくない雰囲気だった。
「カイト様」
セレナに何かあったのか心配になっていると話を割り込むようにティグが入り込んできたためカイトはティグに視線を向ける。
話題が逸れたのかセレナは心なしかホッとしているように見えた。
「カイト様、もしかしたら真名が発動できないのはカイト様自身に何か問題があるかもしれません」
「自分自身ですか?」
「はい。時々、真名を使えるのに何かしらのトラウマが原因で真名を上手く発動できないケースもあると聞きます。カイト様、何か心当たりはありませんか」
「心当たり……」
カイトは自身が真名を使ったことを思い出す。
あの時は暴走に近かった。山賊を倒しただけでなく、アンクに攻撃しようとして更に自分を止めようとしたメアリを怪我させてしまった。
(もしかして……これが原因なのかな)
自分のせいで傷つけた後悔と罪悪感がカイトを蝕んでいた。
「……ぎゅ~」
「えっ!?メアリさん!?」
すると、メアリがカイトを抱きしめた。
「……なでなで……効かない」
「待って、メアリさん。反応しなかったのは悪かったですから、離れて!!流石に恥ずかしい!!」
カイトは顔を赤くしながらメアリを優しく引きはがす。
「……でも、カイトは自分を責めているように感じたから」
「……!!」
メアリの言葉にカイトは我に返る。
メアリはずっと自分は平気だとカイトを励ましたかったのだ。
「……ありがとうございます。メアリさん」
「どいたま……でもぎゅ~は高くつく」
「……はい」
メアリとの会話が一段落したところでティグがカイトに話しかけた。
「カイト様、先ほど話したのは推測の話です。原因が別でカイト様の真名は少し違うかもしれません」
「形成型じゃないということですか?」
「場合によっては、放出類でもないのもありえるかもしれませんが……カイト様、あの時、真名を使ったことで何か感じたことはありましたか?」
「感じたこと……」
カイトはティグの言葉から少しずつ記憶をめぐって思い出そうとする。
(あれ確かあの時……)
その時、カイトはあることを思い出した。
突然、聞こえた謎の声、するとまるで違う人格に乗り移られた感覚。
「あの、ティグさん。一ついいですか?」
「なんでしょうか?」
「はい。自分が真名を初めて使ったとき、謎の声が聞こえたんです。なんて言われたか分かりませんがその時、自分がまるで別人に乗り移った感覚にあったんです」
カイトは初めて真名を使ったことを思い出しながら話す。
その状態で山賊を倒したこと。
その後そのまま暴走したこと。
しかし、その暴走はまるで別人格に乗り移ったかのような感覚だった。
「ということがあったんですけど……ティグさん達にも真名を使った時、そう言った感覚はありませんか?」
「……いえ、私にはそんな感じは、メアリさんは」
「……ない……私は私」
「カイト……」
しかし、みんなの反応は微妙だった。
どうやら、自分の状態は周りでは少し違うらしい。
「とりあえず今日はこれで終わりますが、これからは色々な形で試してみましょう」
ティグはそう言って真名の訓練は終了した。
(……もしかして俺が異世界人だからかな?アンクもそうなのかな?)
もしかしたら、異世界人だと少し違うかもしれない。
そう考えたカイトは自分と同じ異世界人であるアンクにも会ったら聞いてみようと考えたのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次回の投稿は5月30日(土)、18時の予定です。




