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Iの冒険記  作者: 一発KO
第一章 異世界漂流変
17/23

間話 空蝉の少女



周りが業火に包まれる。


「はぁ、はぁ、……お願い止まって!」


少女は自身から出る業火を止めようとする。

しかし、止められない。

額に汗がびっしょりとたまっている。


『素晴らしい!!流石、クリス・アルカード伯爵のご令嬢だ!』


『当主の力を引き継いでいらっしゃるとは、長男とは大きく違いますな!』


「うぅ……」


聞こえるはずのない声に少女は激しい頭痛を覚える。


業火は更に広がる。

周りの全てを焼き尽くして。


『なんだこれは!?ろくに”真名”を操れないだと!?』


『現場に当主がいたからよかったものの森が全焼しかけたとか……』


『全く、アルカード家の娘でありながら、なんと体たらくな。期待外れにもほどがありますな』


「いや、いや……」


聞こえるはずのない声に少女は蹲る。

業火は広がる。

もはや、自分で止めることができない。

業火は存在するもの全てを焼き続けていた。


『戦争に敗れただと!?当主、クリス・アルカード伯爵は!?』


『こんなの前代未聞だ!!』


『くそ、あの女が強い真名を持っているから大目にみていたが。最早、アルカード家の疫病神か……』


『この家ももう長くないな』


「あぁ………ああぁ」


少女は涙を浮かべて蹲る。

そう、全ては私のせい。私は全てを壊した。

少女は罪悪感に押しつぶされそうになる。

業火は広がる。

自分の大切なもの、愛したもの、愛されたもの。全てを燃やしながら。


その時、少女の後ろからゆっくり手を回す者が現れる。


「……!!」


少女はビクッと体を強張らせた。

自身を包んでいるその焼けただれた腕を見て少女はゆっくりと後ろを振り返る。

そしてその目と視線が合った。

顔半分が黒こげで血が蒸発している女性がゆっくりと笑みを漏らす。


「……よかった無事で」


*    *    *


「嫌ぁ!!」


少女は勢いよく起き上がる。

額や服は汗でびっしょりだ。


「はぁ、はぁ」


少女は辺りを見回す。

そこはいつもと変わらない部屋、ベッドの上だった。


「……夢」


少女はそう呟くと扉からコンコンと叩く音が鳴る。


「……セレナお嬢様……大丈夫?」


聞き覚えのあるメイドの声に夢だと確信した少女、セレナははぁと安堵の息を吐く。


「大丈夫だよ。メアリ、ちょっと嫌な夢を見ただけだから」


「……よかった。着替えと……一応、タオル用意する?」


「お願い。汗が凄いの」


メアリに着替えとタオルを持ってくるようにお願いしたセレナはベッドを降りた。


*     *     *


「終わった……」


「うん。ありがとうメアリ」


「……どういたしまして」


掻いた汗を拭き着替え終わったセレナはメアリにお礼を言う。


「今日も……書庫室」


「うん。今日も書庫室を使わせてもらおうと思って。カイトにこの世界の言語の勉強を手伝いをしたいけど……メアリは問題ない?」


「……問題ない」


セレナの頼みにメアリは親指をサムズアップして了承を得た。


「あと、それと午後らへんに裏庭の手入れ手伝ってほしいし……でもカイトの世界の話も聞きたいけど……」


セレナはそう考えると顔を押し当てる。


(そういえば最近、自然に笑顔になれるようになったな)


最近、カイトと会ってから笑顔が増えたことにセレナはハッとする。

いつもはみんなに心配されないように元気に振舞ってきていた。

自分は誰にも迷惑を掛けないように、いざというときに頼りになれる存在になれるように頑張っていた。

実の兄であるゼラスも領主として忙しいから尚更だ。


(……そういえば、今まで頼ることなんて、お母様以外いなかったな)


セレナはカイトと初めて出会ったときのことを思い出す。

あの時、自分のせいでカイトを山賊の襲撃に巻き込ませてしまった。

せめて自分だけでどうにかしようとした。カイトを逃がすようにしようとした。

しかし、カイトは自分の手を引っ張って逃げてくれた。

それ以来だ、自分はカイトのことを頼りになる人だと思うようになったのは。

そんな人に何か自分でも役に立てることが、セレナには嬉しかった。


「ジー」


「うわっ」


すると、自分の真横まで接近していたメアリにセレナは驚いた。


「……とりあえず、朝食が先……」


「そうだね。まず朝食からだね。それじゃメアリ……」


朝食を持ってきてと頼もうとした瞬間、扉をトントンと叩く音が聞こえた。


「セレナお嬢様。ムドです。朝食を持ってきました」


「あぁ、ムド、ありがとう。入って」


セレナが入るように促すと扉を開き、ムドがパンのバケットとスープを持ってきて入ってきた。


「おはようございます。セレナお嬢様」


「おはよう。ムド」


頬に傷がある男、ムドはセレナの前で優しい笑顔を浮かべる。


「……ガルルルル」


「……メアリ、何故、私に威嚇するのですか?」


「……それ、私が持ってきたかった」


「いつまで経っても取りにこないから私が代わりに持ってきただけですよ」


ムドはメアリに半ば呆れながら持ってきたパンとスープを近くの机と椅子に置く。


「それではどうぞ」


「ありがとう」


セレナはムドにお礼を言い、席に着く。

パンに豆と野菜の入ったスープを浸しながら食事を取る。

これがセレナ(ついでにカイトも)の普段の食事だった。

するといつも通り食事を取っているセレナにムドは話しかけた。


「それでは、セレナ様、本日はどのような予定で?」


「うん。今日もカイトに会うつもりなんだ」


「……あの”不純物”ですか」


カイトと会うと聞いたムドは苦々しい顔をした。


「セレナお嬢様、はっきり申し上げます。あの”不純物”と話をするのはこれっきりにするべきかと。あなたは一応、アルカード家の令嬢。もしものことがあったら家自体に影響がでます」


「ムド、カイトはそんな、悪い人じゃないよ。カイトもカイトなりに色々と悩んでいるし」


「そういう問題ではないのです。異世界人は存在するだけでも”害悪”。世界の共通認識なのです。そんな人間をセレナお嬢様の側に置いておくわけにはありません」


ムドの言葉にセレナの表情は曇った。

セレナにとって尊敬できる人物をここまでひどく言われて気分がいいものではなかった。


「……なんで、そんなひどいこと言うの」


気づけばセレナの口からそう漏れ出していた。

カイトと出会う前なら決して漏らすことがなかった言葉だった。


「……!!」


セレナの言葉にムドは戸惑う。

メアリも言葉に出していないがジッとムドを睨みつけた。

ムドはしばらく押し黙ると、覚悟を決めたのかセレナに優しく話しかける。


「……セレナお嬢様。私は昔、アルカード家に仕える前は中央貴族でした」


「えっ!?」


ムドの言葉にセレナは驚きの声を上げる。

今までムドとはセレナにとって長い付き合いだった。だが、彼の出自については知らなかったのだ。


「すいません。セレナお嬢様のことを考えると言えなかったのです。私のことを知っているのはティグさんとゼラス様、そして先代だったクリス・アルカード様、あなたのお父上のみでしたので」


ムドは自分の過去のことをセレナに話さなかったのを申し訳なさそうに話を続けた。


「中央貴族は本来、地方の貴族で領主として継げない次男や三男などから優秀な人間の受け皿として王都で官僚として働く制度でした」


貴族の息子に生まれれば誰でもいい生活ができるわけではない。基本、貴族を引き継ぐのは長男が先で次男や三男など良くて”備え”。悪く言えば”邪魔者”でしかなかった。ましてやその人間が優秀だったら余計な争いになりかねない。

実際、そう言ったことが原因で争いが起き、衰退、没落した貴族がこの国で存在するほどだった。

場合によっては別の役職に充てるか、独立させて商人や軍学校に入学させて士官にするものもいるのだが、そこまでうまくやれる貴族は少ない。

そこで、できたのが中央貴族という優秀な貴族の人間を中央の官僚として働かせる制度であった。

王家が積極的に行っているだけにほとんどの貴族は長男以外の子をそこに送る者が多かった。


「私も、かつてある伯爵の三男坊でした。当然、誰も相手にされません。ですから中央貴族、王都で成り上がろうと思っていました」


ムドは昔の自分を懐かしみながら話す。


「しかし、中央貴族に入ればそこは権力、派閥争いの世界。私はそれに巻き込まれた挙句、言いがかりに近い濡れ衣を着せられ地位を失い、家族にも絶縁に等しい形で追放されました」


その言葉を思い出したくないかのように辛そうに話す。


「私は絶望のまま浮浪者同然で彷徨っていました。そんな私を拾ってくれたのがあなたのお父上、クリス・アルカード様なのです」


ムドはセレナを見つめる。


「あの人は私にとって恩があります。だからもしセレナお嬢様にもしものことがあったら私は今は亡き先代に合わせる顔がないのです」


感極まりながらムドはセレナに語った。


(ムドにもこんな過去があったなんて)


ムドはいつも彼女のことを優しくしてくれた。だがその背景にこんなことがあったとは思いもしなかった。

きっとこのことを言うのは辛かったはずだ。


「……ごめんね。ムド。私のことを心配してたんだね」


「分かってくれてよかったです。……とはいえ、私もあの異世界人には辛く当たりすぎたようです。セレナお嬢様の心情まで考えていませんでした」


「大丈夫だよ。ムド、ありがとう」


「はい。……ですが、できればあの異世界人には警戒してほしいのが私の本音ですけどね」


まだ、カイトに付いて警戒は解いていないがムドがカイトのことを理解してくれたことにセレナは心の中でホッとする。


「それでは、私もそろそろ仕事に向かわないといけないので失礼します」


「うん。いってらっしゃいムド」


ムドが姿勢を正しセレナに一礼した。


「後は頼む」



「……言われなくても」


メアリの返事を確認したムドはそのまま部屋を出ていった。


「……」


「……セレナお嬢様」


「あっ、そうだね。早く食べ終えてカイトのところに行こう」


セレナは残りの朝食を食べ始めた。


(ムドも……みんな私のために頑張っている)


セレナは表情を引き締める。


(私もできることを頑張らないと……もう、みんなに迷惑を掛けないように)


セレナは残りのパンを口に含み、立ち上がった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回の投稿は5月20日(水)18時の予定です。

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