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Iの冒険記  作者: 一発KO
第一章 異世界漂流変
12/15

10話 森と異世界 下


(待って……ちょっと待って。少し頭の中を整理させてくれ)


カイトは突然の出来事に頭が混乱していた。


自分は茶髪の子供が一人で森に入ろうとしたのを見て、慌てて追いかけていた。

ところが追いかけたら先で逆にその茶髪の子供に捕まってしまい、尋問された。

そこへ、村で行方不明になっている子供達と山賊が現れた。


(ここまではいい……いや、よくないけど)


カイトはその子供達を逃がしたものの山賊がカイトに目標を変えてピンチになった。

しかし、戻ってきた茶髪の子供が山賊を……殺した。

そして彼の正体は異世界人(だと思う)。


(……どうしてこうなった)


そんなカイトの混乱をよそに茶髪の子供はカイトに質問していた。


「なぁ、お前、名前は?この世界じゃなくて前世の名前」


「えっ?前世?」


前世という単語にカイトは困惑していた。


「いやいや、前の世界くらいの名前は流石にあるだろ?」


茶髪の子供はそうカイトに質問を続ける。


「えっと、待ってよ。その前に君って一体なんなの?」

「えっ?」


茶髪の子供は呆気に取られたように止まった。すぐに子供は「あぁ」と納得したように頷いた。


「そういえば、紹介まだだったよな。俺の名前は……」


茶髪の子供は自分の名前を言いかけ……突然、何かを感じたのか周りを見始める。


「ん?……どうしたの……」


茶髪の子供の行動が気になり辺りを確認した瞬間……


カイトは見てしまった。

月明りと、茶髪の子供が殺した山賊が持っていた松明の火のおかげで気づいた。


いつの間にかもう一人の男が茶髪の子供の……その山賊の死体の後ろの木の影に隠れていたのだ。


(えっ!?銃?)


突然のことでカイトは茫然としていた。

拳銃のような武器でカイト達を狙っていたのだ。


「……危ない!伏せろ!!」


茶髪の子供の叫びと同時に、カイトの体は地面に押し倒された。


ーーヒュン、ヒュン


耳元を、何かが掠める音。

次の瞬間、背中に重みを感じた。


(……え?)


倒れたまま顔を上げると、カイトを庇うように覆いかぶさっている子供の肩口から、血が流れ出ているのが見えた。


(……撃たれた?)


突然のことで、カイトの頭は追いつかなかった。


「……。……。」


カイト達が倒れたのを確認したのか、男は何か喋っているのか口を動かしながら足を進める。

その足音も聞こえない。まるでその男から出す音だけ消されているかのようだった。


「……。……たく、真名の能力を消すことを忘れていたぜ」


男はやや低めな声でそう言い放つと同時にさっきまで無音だった男の足音や布擦れの音が聞こえた。

しかしそんな光景はカイトにとってどうでもよかった。

今、来たこの男はさっきまでの状況を再び最悪に戻したのだから。


(もしかして、さっきの山賊の仲間なのか!?)


よくよく考えれば当然だった。

アレン達を攫った人間が一人だけの筈がない。

仲間がいたのだ。

男は、既に死体となってピクリともしない、もう一方の山賊を一瞥した。


「クソ、ガロンの野郎、ガキ共の見張りも出来ねぇ上に、返り討ちに遭いやがるとは無能にもほどがあるだろうが」


男はそう舌打ちし動けないガロンであろう山賊の死体の首を蹴りいれた。


「くそ……」


すると、茶髪の子供がヨロヨロと立ち上がった。その様子にカイトはおかしいと思い、よく見ると茶髪の子供の肩口から血が流れていることに気づいた。


(……もしかして、撃たれたのかあの時!?)


フードを被った山賊が撃ったであろう弾丸はカイトが倒れる直前に耳元を掠めていた。

カイトを庇うように倒れこんだ茶髪の子供は銃弾に当たってても不思議ではない。

それでも肩を掠める程度で済んだのが奇跡だ。

しかしその奇跡が状況を好転するわけでもない。茶髪の子供のヨロヨロとした様子を見れば、明らかだった。


茶髪の子供はヨロヨロとフードを被った山賊と相対するが山賊もその隙を許さなかった。


「おら!」


フードを被った山賊の蹴りが、茶髪の子供の腹に食い込んだ。


「がっ」


茶髪の子供の小さな体が、まるで毬のように宙を舞う。

そのまま背後の木に激しく叩きつけられ……ずるりと地面に崩れ落ちた。

茶髪の子供はそのまま気絶したのか動けなかった。


「てめぇの真名は”特定型”だろ?しばらく発動できねぇガキに恐れる意味あるかよ」


そう言いながら男は銃口をカイトの方に向ける。


(えっ?)


パン


乾いた銃声の音が森に響いた。

それと同時にカイトの足に何か熱い衝撃が走る。


「……!!」


一拍遅れて、激痛が襲ってきた。


「うわあぁ!?」


カイトは足を撃たれていた。

傷口から血があふれ出した。


(痛い痛い痛い痛い)


頭が真っ白になる。呼吸が乱れる。

足が、まるで自分のものじゃないみたいに感覚が狂っていた。


「そこで、大人しくしてろ、今度は頭を狙う……さて」


男はカイトにそう警告すると倒れて動けない茶髪の子供に視線を向ける。


「一応、こいつは殺しておくか」


そう言い銃口を茶髪の子供に向けた。


(まずい。このままじゃ、あの子が……)


カイトは茶髪の子供を助けようとするが、足の激痛で動けない。


(くそ、何とかしないと……彼は俺を助けてくれたんだ。今度は俺がどうにか……しないと)


焦燥感がカイトの頭を支配していた。


『〇〇〇……〇〇〇〇〇〇〇〇』


その時、何かの声がカイトの頭の中で響いた。


(……!!)


この声にカイトは聞き覚えがあった。


(あの声……俺がこの世界で転移する前にも……)


そうあの時だ。

元の世界で、意識が途切れる寸前に聞こえた、あの謎の声。


『〇〇〇……〇〇〇』


「誰?君は誰なんだ!?」


次第に大きくなる声にカイトは問いかける。

「おい、てめぇ!さっきから何一人で話している!?」


男は、カイトの方に振り向く。

だが、カイトの耳には、もうその声は届いていなかった。


『〇〇〇…君に力を戻す』


(……えっ?がっ!?)


さっきまで何を言ったのか分からなかった声にカイトは戸惑ったが、それより先にカイトの頭の中に膨大な何かが流れ込んできた。

カイトは思わず頭を塞ぐ。


(何何、なに何だなにこれ何が何だ!?!)


思考が、意識がはっきりしない。


(俺?僕?私?わたしわたくしぼくおれだれだれがだれーー)


頭が砂嵐のノイズのように激しく揺れ動く。

まるで、自分の中に別の何かが入り込んでくるようなそんな感覚が続く。


そしてーー


ーーブツ


何かが途切れるような音がした。

カイトの意識が、遠くなった。


*    *    *


山賊の男、サイレンは自分自身のことを最も慎重な山賊と評していた。

彼自身の真名、自身を含む触れた対象の音を消す能力は戦闘向きではないと自覚していた。

だからこそ普段より、慎重に行動するのがサイレンの癖でもあった。

現に自分と同じ山賊で同僚のガロンが近くの村で攫った子供達を逃がすへまをしても一緒に追わず遠くから様子見に徹していた。

ガロンは殺されたものの彼を殺した茶髪の子供の真名も理解でき、カイトという異世界人と遭遇できた。

サイレンは異世界人自体に詳しい知識はないが、カイトが”ある人物”からアルカード家に保護されている異世界人だと聞かされていたし、異世界人をある”機関”に引き渡せば自分達が逃がした子供達より多額な金が流れることを知っていた。

そんな有利な状況に持ってくることができたのは自身の慎重さのおかげだとサイレンは思っていた。


(なんだ!?何が起こったんだ)


そんな慎重な男と自称するサイレンは今、目の前のカイトという異世界人にただ困惑していた。


銃で撃ち、脅しを掛けたことにより動けなくなった人間が、突然一人言を話し出した。

次の瞬間、急に立ち上がり、激しく痙攣し始めたのだ。

銃で足を撃ったにも関わらずに。

そして今ーー痙攣が止まり腕をだらりと垂らしたまま、動かなくなっている。


死んだのか?

いや、違う。

まだ立っている。呼吸もしている。



本来なら無防備に立ち尽くしている相手なら、サイレンは迷わず撃っていただろう。

しかしさっきまでの奇怪な行動からサイレンは自身の本能と普段の慎重癖が邪魔して動けずにいた。


やがて音はただ夜風の音と二人の呼吸音だけが森に響いた。

どれくらい時間が経ったか分からない。


(……もう、このまま何も起きないのではないか?)


サイレンは息を整えながら、じっとカイトを見つめる。


(……考えすぎたか?くそ、こんなことをしている暇があったら、さっさととどめを刺しとけばよかったぜ)


サイレンはジリジリとカイトに近寄り銃口を向けて引き金を引こうとした。


「……!!」


すると、突然、カイトに動きがありサイレンは再び警戒し、距離を取る。

しかし、カイトの行動は手をサイレンにかざしただけだった。


「なんだよ?……いやこれは……!」


『くくく……殺してやる』


カイトの口から何か声が漏れた。しかしその声は山賊にとって聞き覚えはあるものの、ノイズが掛かったようだった。


「……!!まずい!!」


『ぎゃはははははははあはは』


その瞬間、”それ”の手のひらから岩が形成され山賊の方に向かってギュオンという音と共に放たれる。


「くぅおお!?」


山賊は身をよじってその岩を回避した。

右耳をギリギリで掠めた岩が、そのまま背後の木に直撃する。


ベキベキべキッーー!!


木が悲鳴を上げ、根元から倒れこんだ。


(手から岩を!?”形成型”か?でも、何だこの違和感は!?)


右耳から血がだらだらと垂れるサイレンはカイト、”それ”の立ち振る舞いに違和感を拭えなかった。

だが、それを気にする余裕はサイレンにはなかった。


『ぎゃはははぁは!?俺なんだ?俺どこだ?俺誰だ?』


”それ”はそのまま狂乱したまま再び岩を形成し山賊に向かって放ち続ける。


「うぉが!?」


『誰どこいつなぜなんで?壊したい!壊されたい?踏みにじりたい!?』



サイレンが必死に岩から避けている中、”それ”は狂気な笑いを浮かべたまま次々と岩の塊を形成し山賊を狙い続けた。


「クソ!このイカれ野郎が!!」


山賊は埒があかないとポーチから取り出したものを”それ”に投げ込む。

その瞬間、ボワと煙が”それ”を包む。


(よし、今だ!)


”それ”が煙で見えなくなったことを確認すると山賊は自身の体に触れる。その瞬間、彼から発する音ーー呼吸音さえーーが遮断された。

そしてサイレンはそのまま”それ”から遠く離れるように逃げ出す。


(畜生!!異世界人ってこんな頭がイカれた奴なのかよ!?知っていたらこんな奴に喧嘩なんか売らなかったのに!!)


山賊は悪態をつきながら森の茂みに向かって走り出す。

今は逃げればいい。事態は好転するかどうか分からないが少なくとも”それ”の能力を仲間に伝えればいいと山賊は考えていた。最悪、全員で囲んで叩けばいいと。

しかしそんな考えはあっさりと打ち砕かれた。


ドゴォ!!


「!!」


その瞬間、後ろからの轟音とともに煙が一瞬で吹き散らされサイレンは一瞬、宙を浮いた。

慌てて後ろを振り向くと”それ”の下にクレーターができていた。



(……!!あいつ、地面に岩を打ち込んで岩を消し飛ばしたのか!?)



宙に浮いたままサイレンは”それ”とそのまま目が合った。


『よぉ、今まで散々、俺のことを無能と言ってくれたな』


”それ”は満面の笑みを浮かべ、宙に浮いた山賊に手をかざす。

その姿勢にサイレンは思い出す。

昔、自分が煙幕を使った後、ガロンが煙が邪魔だという理由で地面に形成した岩を叩きつけるように射出し、自分を巻きこみかけた。その頃からサイレンは「無能」と嘲笑した。

そして”それ”と視線が合ったサイレンの脳裏に、かつて”無能”と嘲笑してきたガロンの姿と重なって見えた。


(こいつ、まさか!?)


サイレンは驚愕した。


次の瞬間ーー

無数の岩の礫が豪雨のように山賊に向かって飛んでくる。

一発目、山賊の腹部に当たる。苦痛で山賊の顔は歪む。

二発目、右腕に当たり折れ曲がってはいけない方向に折れ曲がる。

三発目、左足……

四発目、脇腹……

五発目……

六発目………………


「あがっがばっべばぼばこげががががががががが」


無数の岩の塊が山賊を襲う。

顔は数倍に腫れ、腕や足が曲がってはいけない方へと曲がっている。

しかし、岩の礫は無慈悲にも山賊を襲う。


しばらくして岩の礫が少なくなったことで山賊は解放されるかのように地面に仰向けに倒れ、そのまま立ち上がることはなかった。


*    *    *


『げげげげざまぁがががが』


”それ”は男が立ち上がらないことを確認しても止まることはなかった。

そのまま、探るように辺りを見回し、一人の倒れた子供を目にする。


『げがががががいたぁぁ』


”それ”が目にしたのは山賊に…カイトを庇って……蹴り飛ばされて気絶した茶髪の子供だった。

”それ”は、そのまま茶髪の子供に手を向け岩を形成する。


『じねぇぇげががが』


その岩は茶髪の子供にめがけて放たれたようとしていた。


『ぐががが……やめろ!!』


突然、”それ”の動きが鈍くなった。

まるで誰かに内側から抵抗されているかのように。


『ぐががが、もうやめて、がらららら…止まってげがががが』


声が変わった。

低く、ノイズの掛かった声ではない。カイト自身の声だった。

カイトが意識を取り戻したのは山賊が倒れた後だった。


(何が……何が起きた!?)


一瞬、何が起きたのか分からず困惑する。

だが、すぐに気づいた。

今、自分はーー倒れている茶髪の子供を狙おうとしていた。

カイトを助けてくれたあの子を。


(もうやめて……もう十分だから……俺の言うことを聞いて!!)


カイトは必死に抵抗していた。


『げははあはははあはころろろろ!!』


しかし、カイトの意思とは裏腹に自身の体は子供に照準を合わせ手を向ける。

手からは岩の塊を作っていく。

その大きさは子供の頭を吹き飛ばすのには十分すぎる大きさだった。


(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ)


カイトは必死に止めようとしても止められない。


カイトの手から形成された岩は無慈悲にも茶髪の子供に放たれるーー


(嫌だ!!)


ーーように思われた。


(……!!)


一瞬、カイトの視界がブレ、体のバランスが崩れる。

そのおかげで放たれた岩が軌道を逸れ、明後日の方向に飛んでいった。同時に鮮血が散った。


(……え?)


「……やっと……見つけた」


カイトは誰かに抱きかかえられていた。

体の自由が戻り、温もりと、顔に掛かった僅かな血の感触を感じる。


「メアリさん?」


「……大丈夫?」


抱きかかえていたのはメアリだった。


「おい!!あそこだ!!」


「メアリさん!?カイト様はいましたか!?」


後ろから、大人たちの声が聞こえる。

更にティグの声も聞こえた。


「メアリさんなんで?」


「……ごめん……来るの遅れた」


メアリがそう言ってカイトの頭を左手で撫でる。


(俺のために……!!)


カイトはメアリが自分のために駆けつけてくれたのだと理解した。

そして、同時に気づいた。


「……あぁ……ああぁ」


カイトの顔に掛かった血が誰の血なのかを。

カイトの頭を撫でている反対の手……右手から血が流れていた。

メアリはカイトが放とうとした岩の軌道上に飛び込んでカイトを止めたのだ。

そのおかげで岩が茶髪の子供に当たることなく逸れた。

しかし、メアリは無傷ではいられなかった。

放たれた岩が右腕を掠め、深く傷つけていたのだ。


「メアリさん……俺……」


カイトの声は震えていた。

罪悪感、安堵感、疲労感ーー様々な感情が一気に押し寄せてくる。


「大丈夫……無事でよかった」


メアリは優しく頭を撫でる。

その温もりに包まれて、カイトの意識は再び遠くなっていく。


(……ごめんなさい……ごめんなさい……)


その言葉だけを繰り返しながら、カイトの意識は沈んでいった。


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