第一章 1 /*TutoReal(チュートリアル)*/
ゆっくりとしたペースでの更新になるかとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします!
ドアノブを回し、扉を開く。視界を目が痛くなる程の眩しい光が、泪の身体を覆った。
閉じる目蓋に、暗闇が戻り瞼を開く。
目の前に広がるのは、青々とした草原が爽やかな輝きを放ち、空は素晴らしい程の快晴。
少し離れた先には、小さな村が見える。
「───ぇ?」
突然の出来事に、情けない声を洩らし、ただ呆然と立ち尽くす事しか出来ないで居た─。
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──
どれ程っただろうか。
現実離れした状況を目の前に、時間の感覚が曖昧になり、何分、何時間経過したのかが曖昧に感じる。
もしくは数秒の様にも感じるその感覚を、優しく吹く風と、草の香りが現実である事実を泪へと打ち付ける。
「これって異世界転移だよな…」不安はあるものの、ひとまず状況を飲み込む。否、理解する事が出来た事に、自分の事ながら感心する。
普段から異世界物のライトノベルを、読んでいた自分に感謝する。
そう自分に言い聞かせ、胸が空っぽになる様な虚無感、同時に一度は憧れた状況に高揚している自分を誤魔化す。
「とは言っても、この状況、どうするべきか…」
理解が出来た所で、状況が好転する訳も無く、泪は辺りを見渡す。
「草原、草原、後は村……?」
足元を見ると、見覚えのある本が落ちている事に気付いた。
「こいつは……。」
この場に於いては、一際不気味な存在感を放つそれに、少々後込みする。
しかし、自身の持ち物以外では唯一、元の世界から転移した物品であることに、縋る様な気持ちがある事もまた事実ではある。
「確かに部屋に置いて来たよな…何でこんな所に…」
暫くの躊躇の後に、意を決して本を拾い上げると、背筋に冷たい感覚が走り、手が震えた。
次の瞬間、頭の中にゲームのメニュー画面が鮮明に浮かび上がる。
「このウィンドウって…」
泪にとっては馴染みの深い、「アストラル・マジカ」のメニューウィンドウである。
一部の項目は無くなってはいるが、フォントやUIの配置、そしてアストラル・マジカのメニューウィンドウである事を証明する、ゲームのロゴが表示されているのである。
「……………。」
ウィンドウと共に本の表紙を見つめ、手の中の重みへと意識を向ける。じっとりと纏わりつく恐怖の様な感情を押しのけ、無理解を理解へと組み立てる為に、泪は思考の海へと沈み込む。
─青々と茂る草原─
─遠くに見える風車の目立つ村─
─異様な存在感を放つ魔導書─
─アストラル・マジカのメニュー画面─
今の情報を頭の中で整理して、自身の持つ情報とリンクさせる。
「ゲーム世界への転移……」それも自身の作り出した世界へと入り込んだのだ。
薄々は勘付いてはいたが、疑念は確信へと変わる。
それと同時に、泪が抱いていた不安が未知の冒険への期待と高陽へと掌を返すのである。
「とは言え、先ずは何をするかだよな…」
折角ゲームの世界に転移したのだからと、メニュー画面を確認する事にする。頭の中で、見慣れた画面をイメージする。
それに呼応する様に、イメージの中ではあるが、はっきりとした『アストラル・マジカ』のメニュー画面が開いた。
画面内には、アストラル・マジカのロゴがあり、『ステータス』『スキル』『インベントリ』が表示されている。
「流石に都合よく、『終了』とか『ログアウト』とかの項目はないかぁ…」
あまり期待はしていなかったが、現実として突きつけられると、喪失感と胸に刺さるものがある。
しかし、この程度で冒険心とワクワクが萎える事が無いのは事実。
「……ステータス、っと」
頭の中での操作に合わせて、ステータス画面が立ち上がる。
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【ステータス】
Name: rui
Lv: 1
HP: 60
MP: 20
STR: 8
DEX: 9
INT: 6
LUK: 3
ケ繧ヨ溘繝: 1
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「……おぉ、普通のステータス画面だ。……ん?俺のINT低すぎない!?仮にもこのゲームの作者だよ!?創造主だよ!?もっと忖度とかあってもいいんじゃない!? あとLUK3って……確かにこの状況だと説得力しかないよっ!!」
自らの評価にツッコミを入れつつも、悲しい事実に納得出来る節がある事に悔しさを感じる。異世界転移特有のチートステータスでは無く、リアルな自分を評価される居心地の悪さ。
そしてエンジニアとして、見逃せない最後の項目に目が留まる。
『ケ繧ヨ溘繝: 1』
「……なにこれ、文字化け? いやいや、デバッグはそれなりにしたはずだぞ……。もしかして異世界転移お決まりの主人公の隠しステータスとか? 流石にそれは都合が良すぎるか?」
妙な気持ち悪さを、前向きな考えで無理矢理飲み込む事にする。
どうにも出来ないのは事実であり、考えるにも考察の素材になる物が少なすぎる。
「まぁ、解んないものは後でじっくり考えよう。……フラグとか立ってないよな?」
そう呟きながら、ステータス画面を閉じる。
「…………。」
しかしINTの低さには納得が出来ない反面、悲しくなってくる。
そんな時こそ気持ちの切り替えは大事である。
「……さて、お次は気になるメイン! スキル画面、オープン!」
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【スキル】
《ルーン・コンストラクタ》
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「ん? コンストラクタ? 何か呼び出したりするの? 普通ファイアとか初級魔法みたいな物があるよね? いきなり使用バグ持ち転移とかは勘弁してくれよ…?」
とは言っても使用しない事には何が起きるのかも解らないのもまた事実。
『ルーン』に関しては解らないが、『コンストラクタ』についてはエンジニアである泪にとって聞き馴染みのある言葉であり、便利そうな響きでもある。
「とりあえず使ってみるか…」
仮にステータス等の初期化であっても、「INT6の泪には失う物など無い」と思いながら、スキルを実行してみる。
すると、イメージの中ではあるが、泪にとっては見慣れた画面が目の前に現れた。
「エディター……?」
よく映画やドラマ等で見かける、黒い背景にプログラムコードを入力するあの画面である。
試しに、思い浮かぶコードをイメージして入力して実行してみる。
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…が、反応が無い。
「おーい、せめてエラーでも良いから反応してくれ…」
現実の開発現場さながらに、机を叩く仕草を脳内でやってみせるも、変化がある訳もなく。
既知の言語が使えない様で、解析すら出来ない。
「せめて仕様書ぐらい用意してくれよ……」
そう呟きながら辺りを見渡していると、手元の本に目が留まった。
「…まさか、この本が仕様書だったり…?」
そう思い、本のページを捲ると、そこには奇怪な文字の羅列がびっしりと並んでいた。
ルーン文字や、キリル文字ともつかない、厨二心を擽る様な禍々しい造形。どう見ても魔導書である。
試しに仮にルーン文字と仮定し、その中の一文を入力して実行してみる。
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Error: ○○○○○
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「───!」
ルーン文字ではあるが、しっかりと赤文字でエラーメッセージが返って来た。
恐らく、文法や必要な要素が足りないと推測し、魔導書の中の文章に法則性が無いか探して見る。
「………。」
しばしの時間、情報が無いか探してみたが、特に何かが解る事も無く時間だけがただ過ぎていくのみ。
「流石に知りもしない文字や言語を解読するのは無謀か……」
半ば諦めながらページを捲る。
「これは…」
なんとなく捲ったページの中に、鈍い光を放つ文字群を見つける。
その文字達は、目を逸らす事が困難な程の存在感を放ち、正に魔導書の名に恥じぬ程である。
「……これって、明らかに答えみたいなもんだよな」
泪は吸い寄せられるように、その一文を入力し、実行する。
今度は赤いエラーではなく、脳内に淡い光を帯びたウィンドウが展開した。
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【スキルを獲得しますか?】
《YES》 / 《NO》
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「……えっ? なんでここだけ普通に日本語!?」
さっきまで意味不明なルーン文字だらけだったのに、急にシステムチックな選択肢が現れる。
泪は思わず目を擦り、何度も見直すが、確かに『スキルを獲得しますか?』の文字と『YES / NO』は明瞭に読めた。
あまりに予想外の出来事に、先に進む事に若干躊躇してしまう。
しかし、選択肢が出ている以上、進めるには選ぶしかない。
しばらく逡巡した後、泪は軽いため息の後に、覚悟を決めた。
「……まぁ、ここでNO選んで物語が進まないとか、一番寒い展開だよな。――YES」
意を決して選択した瞬間、視界にウィンドウが弾けるように広がった。
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【スキル《デコード》を獲得しました】
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「……デコード?」
あまりの期待はずれなスキル名に、泪の時間が一瞬止まる。
「デコードって……解読? 暗号とか解析とか……? いや、もしかしたらバグのエラーログを読み解くとか? ……って、そんなニッチなスキルいる?」
ひとりツッコミを繰り返すが、明確な答えは浮かばない。
効果が何なのかも実感はなく、頭の中のスキル一覧にも《デコード》としか書かれておらず、説明欄も表示されていない。
「まぁ……無いよりマシか。 たぶん、この本の文字を読むのに必要なやつ……だよな?」
そう思い、《デコード》を実行してみる。
【スキル《デコード》を実行】
そして手の中にある魔導書のページに目を落とすが、文字に変化は無く、内容も解らない。
「……結局ハズレスキルかよ!」
しかし、成果は無く、途方に暮れるばかり。
──だが、最後のページには、明らかに違う”メッセージ”が記されていた。──
打ちひしがれたまま、最後のページを捲ると、そこには手書きでこう書かれていた。
『命の形、どう定義する?』
強く問いかける様なその問に
泪の思考が凍りつく。
肌を優しく撫でる、草原を渡る風の音が遠くに消える。
そんな平和な景色とは裏腹に──
そして、問いかけだけが脳裏に残った。




