恐怖は悲鳴に転換
署の屋上から望遠鏡で辺りを見渡す。
ノコノコ歩くゾンビを覗き見ながら、木村はあくびをした。
「激戦区じゃ、ゾンビとの陣取り合戦って聞いてるけど…こっちは平和なもんだな。っても、既に平和じゃないんだが」
独り言を言いながら、こっそりくすねてきたポテトチップスの袋に手を伸ばす。
しかし、いくら手探りしても手に触れない。
望遠鏡から顔を離し、隣を見ると見たことがある女性がいた。
「見張り、頑張ってるのかなって見に来たらお菓子タイムとはねぇ」
そこにはマリの親友、カナが呆れ顔で座っていた。
「えっと…マリさんの友達ですよね?」
木村の言葉を聞いたカナは急に真顔になる。
「そう、マリの友達」
カナは立ち上がり、木村に背を向け歩き出す。
「あ、の、俺、木村って言います!」
急に木村が大きな声で名乗った為、カナは驚いて思わず振り向いた。
「…知ってるよ、木村君」
「オネーサンの名前、教えてよ」
なんとなく軽薄な口振りに眉をしかめながらも、カナは木村の問いに答える。
「南田 加奈…キミの名前は?」
「…俺の名前なんて、どーでも良いじゃん。木村で良いよ」
カナは常識人である。
故にこちらが名乗ったのに、名乗らないという木村の態度に腹を立てた。
「私が名乗ったのに、名乗らないとかありえないんだけど」
困り顔で木村は頭をポリポリ掻く。
「名前、好きじゃないんだ。自分の」
人には触れられたく無い事の1つや2つはある。
カナは誰からも「マリの友達」とインプットされる事にコンプレックスを抱いていた。
カナにとって、マリは大切な親友であると同時に憧れのような存在。
比較にもならない、オマケ扱いでも仕方がない。
そんなカナにとって、タダシやワタルと比べてしまうと「二番煎じ感」が強い木村が何となく気になっていた。
「じゃあ、良いよ。木村君って呼ぶから」
再びカナは木村の隣に座り、隠し持っていたポテトチップスを頬張った。
「てか、そのポテチ俺んだし!」
「サボって食べてたんでしょ、ペナルティみたいなもんよ」
「ペナルティって、カナさん俺の上司とかじゃねーし」
ポテトチップスを奪い返そうと手を伸ばす木村。
しかし、勢い余って前のめりに倒れてしまいカナを下敷きに…もとい、押し倒したような姿勢になってしまった。
「す、すんません!」
「は、早くどいて…よ」
カナは木村から目を反らし、軽く木村の体を腕で押す。
慌て起き上がろうとした為、木村は望遠鏡にぶつかってしまい倒してしまった。
「っやっべ!?」
慌てる木村を尻目にカナは冷静に望遠鏡を拾い上げる。
カナは興味本位で望遠鏡を覗きこんだ。
「そんなんで、見張り勤まるの?私、代わろっか」
からかい半分で言った後、カナの動きが急に止まった。
それもそのはず…覗きこんだ先には無数のゾンビたちが集合していたのだ。
そのウチの1体と望遠鏡ごしに目が合った。
その無機質な赤い瞳から、血の涙が流れ落ちる。
「!?」
言葉を発した意識も無く、その恐怖心は悲鳴に変換されて署内に響いた。




