その手を優しく握った
家族団らんから数日後…ワタルはシオヒキからの電話で目を覚ました。
「ワタル君、会って話したい事がある。早急に署までこれるか?」
シオヒキの声から、急を要する事を察したワタルはすぐに準備を開始する。
ふと、ソファーに座っている母を見ると顔色が悪い。
「母さん?」
心配そうな顔をしているワタルに彼女は黙って首を振る。
そして、小さな声で言った。
「大丈夫、大丈夫だから…」
明らかに大丈夫では無い…寝ていた父も何事かと目を覚ます。
「母さん、顔色が悪いな…どうしたんだ?教えてくれ」
「…お薬が切れてしまって…家に行けば、少しはあるのだけれど…」
「それなら、俺が取りに行く。もっと早く言ってくれれば…」
「どこの親が子供をわざわざ危ない目に合わせるのよ?」
力なく微笑む母…父は、その手を優しく握った。
「すまん、ワタル…頼めるか?」
「当たり前だろ?いますぐ、行ってくる」
ワタルは隠れ家から飛び出し、バイクを走らせる。
ふと、シオヒキとの約束が頭を過る…が、最優先すべきは自分の家族。
迷いなく実家へと向かうワタルの前に、数体のゾンビが立ち塞がる。
「チッ…3体か。いちいち相手をするのも時間の無駄だ。迂回した方が早い!」
道を変え、バイクを走らせるワタルだったが前方に狼煙のように煙が上がっているのを発見した。
「なんだ、あれは?方向は…警察署の方だが…」
嫌な予感がする…ワタルはバイクを停車させ、スマホを取り出しタダシに電話をかける…が、出ない。
同じく、シオヒキにも繋がらない。
そんな最中、足音が聞こえた。
舌打ちと共にバイクから飛び降り、すぐ近くまで迫っていたゾンビにハンマーを振り下ろす。
「邪魔しやがって、バイクも汚れたじゃねぇか…クソが!」
苛立ちから口調が荒くなる…辺りを見渡し、他にゾンビがいない事を確認した後、再び電話をかける。
「この手は、使いたくなかったが…仕方ない」
ワタルが電話した相手はマリだった。
「もしもし、ワタル?」
「マリ、警察署に何か異変が?」
「ゾンビの大群に襲われてるの!ワタル…」
マリの話を最後まで聞くこと無く、ワタルは通話を切った。
母に早く薬を渡さなければ…しかし、タダシの身に何かあれば…ワタルは一瞬迷ったが、すぐに行動を開始した。
「速やかにタダシを助け、薬を手に入れれば済む話だ…今、行くからな」
ワタルは煙の上がる警察署へ向かって、バイクを走らせた。




