知っていたのに行動しない
ショッピングセンターから離れ、僕らは警察署に戻ることにした。
録画のCDを持ち出せなかったのが残念だが、命あっての物種だ。
「○△ホテル近くの防犯カメラの映像の件は、僕から署の皆に話しておくよ」
「…そうしてもらえると助かるな。」
予定では、兄さんと隠れ家にいる両親の元に向かうハズだったが…今さっき起きた事を冷静に整理したい。
警備にあたっている署の仲間たちに挨拶し、署内に入る。
すると、署に避難していた民間人たち数人が僕らの元へ歩み寄ってきた。
「あの…ヘルメットの方、あの時、私たちを助けて下さった方ですよね?」
4歳くらいの子供を連れた女の人が、恐る恐る兄さんに声を掛ける。
「あぁ…あの時の…無事に避難できたんだな」
兄さんはヘルメットのシールドを上げ、母親と子供を交互に見た。
子供はキラキラした目で兄さんを見つめている。
「あ、あの時はありがとう!僕、お兄さんみたいに強くなりたい!」
「俺は…」
兄さんは何かを言いかけ、口をつぐむ。
そして、男の子の頭にポンっと手をのせた。
「お母さんを守ってやれ」
そんな兄さんの後ろ姿を見て、僕は色々と抱いていた気持ちを反省した。
兄さんは変わったかも知れない。
でも、それはこんな状況なのだから当然と言えば当然。
生き残る為には時に非情になることだって必要じゃないか?
親子に手を振って、兄さんは歩を進める。
「シオヒキさんと話せるか?」
「どうだろう…ちょっと探してくるから、この辺りで待ってて」
多分、外の調査に出てなければ食堂でコーヒーでも飲んでいると思うけど…ビンゴ!
「シオヒキさん」
「おぉ、タダシ君。戻っていたのか。ワタル君は?」
「一緒です。兄さんが話したいと…お時間大丈夫ですか?」
「私もワタル君に聞きたい事があったから、ちょうど良い」
シオヒキさんと兄さんの元に戻ると、兄さんは数人の男に囲まれていた。
兄さんの前にいるのは…確か、アカシとかいうヤツ。
「ワタル、お前…ハラグチを見殺しにしたッスね?」
「…だったら、なんだ?」
僕が目をそらそうとしていた事にアカシが突っ掛かっている。
「ワタル、お前は人殺しッス。どんな理由があっても、助けられた人間を助けないなんて、非人道的な行為ッス!」
騒ぎ立てるアカシに周囲の人たちもざわめき出す。
「アカシ、何のつもりか知らんが…お前らがしようとした事は、どう足掻いても正当化できんぞ」
「…俺らは結局、何もしてないッス」
コイツ、クソだな…この期に及んで未遂に終わった事を強調する気か?
それにしても、兄さんが本当の事を言えば自分も追い込まれ兼ねないのにどうしてこんなに強気なんだ?
「…お前と話をするだけ、時間の無駄だ。俺は暇人じゃない」
「人殺しが、偉そうにするなッス!」
兄さんはざわめきの中、アカシを無視して僕らの方へと向かって歩く。
「シオヒキさん…静かな場所で、話せますか?」
「あぁ、ワタル君…向こうで話そう」
シオヒキさんは、僕らを2階のミーティングルームへと案内した。
「災難だったね、ワタル君。飲み物でも、持ってくれば良かったかな?」
「お構い無く…タダシにも言いましたが、○△ホテル周辺の防犯カメラの映像が見たいのですが、署の協力を得られませんか?」
「その前に、1つ聞きたい事がある…君は知っていたのか?こうなる事を…あのゾンビのような連中の存在を」
それは、ある意味…核心に迫る質問だった。
誰かが、言っていた言葉が不意に頭を過る。
知っていたのに行動しない事は、罪だ…と。




