双眼鏡を覗きこんで
遠くから、聞き慣れたエンジン音が響く。
兄さんのバイクが近づいてきている。
警察署から少し離れた小さなビルの屋上から、双眼鏡片手に到着を待つ。
待ち合わせのポイントでバイクが停まり、兄さんはエンジンを切りスマホを取り出す。
間もなく着信音が鳴った。
『もしもし、エンジン音を聞きつけたゾンビがこちらに向かっていないか確認してくれ』
双眼鏡を覗きこみ、周囲を確認。
「西から2体、そっちに向かってる。20代の男、体格は細身だよ」
『察しが良くて、本当に助かる。聞きたい内容は充分だ』
兄さんは身を隠し、ゾンビを待ち伏せする。
「あと、2~3m」
『了解』
曲がり角から並んで現れたゾンビにフルスイングでハンマーを叩き込み、一撃で2体の頭を粉砕した。
…なんだか人間離れしているように見えるが、これも鍛練の賜物なのだろう。
『あとは?』
「大丈夫、そちらに向かうルートにもゾンビはいない。向かうね」
数分後、僕は無事に兄さんと合流した。
兄さんは僕にお揃いのフルフェイスヘルメットを手渡した。
「移動はバイクだ」
「兄さん、署には寄らないの?」
「時間が惜しいからな、用事も無いし」
「キムラやマリさんたちも会いたがっていたよ」
兄さんはバイクに股がり、エンジンをかける。
「キムラ…誰だ?」
「ほら、こないだ一緒に戦った僕の同期の警察官」
マリさんには触れず、兄さんは話を続ける。
「あぁ…俺に何か用事が?」
「いや、なんか凄いリスペクトしちゃってて…ファンみたいな感じかな」
「俺なんかより、タダシの方が凄いのにな。また、ゾンビがエンジンに気づいて向かってくると厄介だ。行こう」
兄さんの買いかぶりが気になったが、四の五の言わず後ろに乗って移動を開始。
僕らはまず、近くのショッピングセンターに向かった。
ここの監視カメラやビデオ録画でゾンビの調査をしたいということだった。
「このショッピングセンター内もゾンビがいるんじゃ?」
「心配するな。下調べは済んでる。居るとしても、せいぜい5~6体だ」
兄さんは前もって館内の調査とゾンビの出入りを見ていたらしい。
「まず、管理事務所に向かう。マップはこんな感じだ」
スマホで館内のマップを見ると、2階の隅に管理事務所がある。
館内は電気もついており、容易に見渡せる。
「こっちに気づいてないようだけど…食品コーナーに人影がちらほらあるね」
「間違いなく、ゾンビだろうが…無視して管理事務所へ向かう。仲間を呼ぶ事ができるか、わからんしな」
周囲を警戒しつつ、2階へは階段で移動…ゾンビに遭遇する事なく、管理事務所前に到着した。
ドアは閉まっているので、耳を当てて物音がしないか探る。
「…静かだ」
「ゆっくり、ドアを開けてみよう」
ドアを開けると、いかにも事務作業を行うと言った具合の机に椅子、そして沢山のモニターに映像が映し出されている。
「…ゾンビも隠れるからな、油断するなよ」
僕は兄さんの言葉に頷き、前回同様、斧を構える。
兄さんは僕の方を見て、小さく頷いた。
「銃は音が響く、それで良い」
ドアを閉め、鍵をかける。
どうやら、ゾンビは居ないようだ。
少し安心し、事務机が並んでいる方へ進む。
ガタッ
小さな物音がした。
うっかり、斧を机にぶつけたかな?
ふと近くの机に目を向けると、机の下から手が伸びて僕の足を掴もうとしていた。
「!?」
映画や漫画では怖いと思った瞬間、すぐに叫び声をあげるモノだが…実際は喉に何か詰まったみたいに、声が出せない。
間一髪、掴もうとしている手から逃れ、机の下から顔を出した警備服姿の老人ゾンビに斧を振り下ろす!
ザックリと頭が割れ、血が噴き出す。
「ゾンビか!?」
気づいた兄さんが、焦った様子でこちらを向いた。
「1体、机の下に隠れてた!兄さんも気をつけて!」
その後、二人で部屋の中を隈無く探ってみたが…他にはいなかった。
「1体だけ、ずっとここに隠れていたのかな?」
「…机の下に、食べ物が散乱している。下から食べ物を持ってきて、ここで食べていたのか生前に買ってきていたモノなのか…しかし、これは…」
散乱しているモノは…お菓子の袋に、食べかけのハンバーガー、空のペットボトル、薬か、お菓子が入っていたと思われるアルミのシート…確か、PTPシートとかいったかな?
ゾンビの食べ物と言えば、人間だと思っていたが…何でも食べるのだろうか。




