少し声が震えていたんだ
「腕の具合はどうですか?」
シオヒキさんは骨折した腕を見ながら言った。
「心配かけて済まないね、タダシ君。痛みはかなり治まったよ」
マリさんたちを救出してから数日が経った…僕は忙しく、まだ両親とは電話でしか話をしていない。
二人にはワタル兄さんがついているから、心配はしていないが…いや、やはり心配だな。
僕は、あの時の兄さんとのやり取りを思い出していた。
「…助けられなかったんだ?」
「あぁ…助けられなかった」
確か、ハラグチさん…だったかな。
マリさんに酷い事をしようとしていたとは言え、ゾンビに成り果てた姿は見るに耐えなかった。
兄さんは、嘘をつくと声が少し震える。
助けられなかった…そう言った時も震えていた。
僕は兄さんが好きだ。
いや、好きだった…素朴だけど家族思いの優しい兄さんが…あの日から兄さんは変わり、まるでこうなる事を知っていたかのように準備していた。
「会って、話をしなければ…」
「誰に?黒男さん?」
独り言のつもりで呟いたが、いつの間にかキムラが隣に居た。
「ビックリさせるなよ…何時からそこに?」
「タダシが神妙な顔しながらボーとしてる時からだよ。しかし、俺はまだ生きてるのが信じられないわ。あの時、気を失って絶対死んだなって思った。今、生きていられるのはタダシの兄さん…黒男さんのおかげだよ。マジで」
キムラは兄さんをまるでヒーローみたいにリスペクトしている。
「…そうだな」
以前なら、兄さんを褒められたら自分の事のように喜ぶ事ができた。
「お、お二人さん!お疲れ~おにぎり届けにきたよ」
元気の良い声でカナさんがやってきた。
そして、その後ろには…マリさんもいる。
「お疲れ様。警察署周辺のバリケード作りは順調?」
「えぇ、廃車等を積み上げたり色々と創意工夫してますよ。とは云っても、今のままじゃ焼け石に水って感じですが」
「人工の多い都市や国ほど被害が甚大みたいね…その後、ワタル…さんとは話を?」
わざわざ『さん』付けにするのは、別れたから馴れ馴れしく呼び捨てにはできないという事だろうか?
少し気にはなったが…触れる必要も無いと思い、話を続けた。
「メディアは機能停止、驚くのは携帯会社が協力し合ってスマホは使用できるようにしてる事ですね。こんな時こそ、手を取り合えるって素晴らしいですよね」
「そうね。メディアが全く機能してないのはテレビ局に勤務していた身としてはアレだけれども」
「まぁ、誰だって命は惜しいですからね。台風の実況とは訳が違いますし」
こうして、皆と話をしていても兄さんの事が気になって仕方がない。
そんな心中を察したようにシオヒキさんから声が掛かる。
「上には私から言っておくから、明日はワタル君に会ってきてはどうだ?私も色々と気になっている事があるから、報告も頼みたい」
「分かりました、後日さっそく行ってきます」
今日のウチに聞きたい事を整理しておこう。
兄さんに会う事がこんなにも不安な気分になるなんて、今までなら考えもしなかった。




