出口
ホール内の状況を見たワタルは、声を荒げて叫ぶ寸前だったが…堪えた。
しかし…怒りは収まる訳が無く、マリを押さえつけているハラグチたちの元へと歩き出す。
本能的に危険を感じたアカシとその他の男たちは、ハラグチを残してマリから離れた。
「…あ」
逃げ遅れたと察した時には、既に遅く…フルフェイスヘルメットとシルバーのシールドで表情が分からない男を前に、さっきまでギンギンだった股間が一気に萎む。
「こ、この女が誘ってきて…」
言い終えるより早く、ワタルの蹴りがハラグチの股間を潰した。
「☆△□○◇!?」
言葉にならない悲鳴をあげ、ハラグチは股間を抑えたまま前のめりに倒れた。
このままでは、殺しかねない。
見かねたタダシがワタルを制止する。
「にぃ…黒男さん、今はまず脱出を最優先に…」
ワタルはハンマーを強く握るも、どうにか怒りを収めて頷いた。
そんなワタルにキムラは恍惚とした表情で見とれている。
「ヤバい…黒男さん、カッコ良すぎ」
キムラは特撮ヒーローに憧れていた類いで、もはやワタルこと黒男のファンと化していた。
気絶していたカナも目を開け、慌てて飛び起きる。
「マリ!?」
マリの安否を確認しようと見渡した瞬間、視界に入ったのは黒男。
「!?」
ショッキングな様相に再び気を失いかけたカナをマリが支える。
「だ、大丈夫よ…彼はタダシ君と一緒に私達を助けにきてくれた…警官さん…ですか?」
乱れた服を直しながら、マリは黒男に問いかけた。
声を出せば気づかれると思い、ワタルは頑なに無言を貫く。
小さく頷いた後、ついてこいと言うように腕を振り上げる。
マリをレイプしようとしていた男たちは、おずおずと黒男の後に続く。
誰もいまだに立ち上がれないハラグチに手は貸さない。
「ちょっっ…待って…」
痛む股間を抑えながら、ハラグチも置いていかれまいと動き出す。
だが…不幸にも南側の扉が破壊され、大量のゾンビが雪崩れ込んできた。
「チッ…先に行け」
舌打ちし、黒男は小さな声でタダシに言う。
戸惑うタダシの背中を黒男は「行け!」と言うように強く押す。
キムラもタダシについて行こうとするが、黒男がバールを掴む。
「く、黒男さん、バール使うんですね?」
コクリと頷いた黒男にキムラは喜んでバールを渡す。
そして、タダシたちはマリたちを囲むような陣形で先に出口へと向かう。
「って!た、たすけてくれぇ!」
泣きながら助けを乞うハラグチを黒男はじっと見つめ…扉を閉めた。
「う、嘘だろ!?あんた、警官なんだろ!?市民を守るのが仕事じゃ…うぅ…うわぁぁぁぁぁ!」
扉の向こうから、悲鳴と共にぐちゃぐちゃと肉を噛む音がした。
「これで、少しは時間稼ぎできるか」
そう呟いた後、扉の取っ手にバールを入れて開かないように仕込み、黒男も出口へと走り出す。
一方その頃、タダシたちは出口のすぐ近くまで来ていた。
「出口は目の前です!焦らず、私達に続いて下さい」
皆にシオヒキが呼び掛ける…が、我先にと二人がシオヒキを追い越し出口へ向かう。
「外に出られる!私、助かったわ!」
「やっと家に帰れる!」
喜びを露に光が射し込む出口から外へ飛び出した男女二人。
しかし、それを懸命に止めようとキムラが叫ぶ。
「ま、待って!俺は…裏口の扉は閉めてきたんだ!それが、開いてるって…」
懸念した通り、打撃音と共に男が外から中へと吹っ飛ばされて戻ってきた。
「げぶぅ!?」
腹には穴が開いたような打撃痕が残っており、男は血を吐いて絶命した。
「ひ、ひ、ひぃぃぃぃぃ!?」
脱出することには成功したが…女は腰が抜けてしまっていた。
悲鳴をあげながら、その場にへたりこむ。
「い、嫌よ…せっかくここまできたのに!!」
結果…何者かの踵落としを食らい、女は即死。
頭部は陥没し、顔が首までめり込んだ。
人間技とは思えない圧倒的パワーと残虐な諸行に、出口という希望が目の前にあるにも関わらず、その場にいる全員を戦慄が襲った。
二人を殺した者の顔は逆光で良く見えない。
しかし、そのシルエットからシオヒキは誰かを察する。
「…コンドウ君…君だったか」
ゾンビにやられたテコンドーのコンドウは、ゾンビになって復活していた。




