畜生
「あぁ、畜生…なんだってこんなことに…」
ガンガンと打撃音が鳴り響く扉を前に、○△大学OBの原口 政明はバリケードを作る為にホール内の椅子を運んでいた。
○△ホテルの中央ホールは結婚式の会場に使われたりもする広いホールで、モノは沢山ある。
それが不幸中の幸いで、何とか時間稼ぎできていた。
花津 真理は半べそかいてるハラグチを慰めながら、奥にあった鉄琴を扉の前に運ぶ。
「大丈夫だよ、ハラグチ君。もうすぐ、知り合いの警官が助けに来てくれるから」
しかし、ハラグチはマリの言葉には耳を貸さずロングスカートを短く捲り落ちてこないように結んでいる為に露になったマリの脚を凝視していた。
「どうせ死ぬなら…どうせ死ぬなら…」
ブツブツと小声で繰り返すハラグチを前にマリは後退りした。
小太りの原口は額に汗を浮かべてマリに手を伸ばす。
その手も汗でびっしょり濡れている。
ハラグチの異様な行動に気づいたマリの友人、南田 加奈が二人の間に割って入る。
「ちょっと、ハラグチ!キモいんだけど?マリから離れなさいよ!」
カナはマリとは高校生の時からの親友で、マリと同じ陸上部。
スレンダーでショートカットのよく似合う、男勝りな性格の女性。
だが、性格が男勝りでも実際に男に本気でこられても勝てるという訳では無い。
「うるさいんだよ!どけ、貧乳が!」
ハラグチは運んでいた椅子でカナを殴りつける。
カナは頭から血を流し、床に倒れた。
「か、カナ!」
マリはカナに駆け寄るが、気を失ってしまっている。
こんな状況で、この人は何を考えているの?
いや…こんな状況だから、おかしくなってしまったのかも知れない。
生き残った8人は3人が女性、5人は男性。
ちなみに、彼らを逃がそうとして正義感の強いナイスガイたちは既にゾンビの仲間入りを果たしていた。
マリとカナは人望で生き残ったが、他の連中は自分さえ生き残ればそれで良いと思っている自己中心的な人間がほとんどだった。
「は、ハラグチ!まさか、マリさんをレイプする気ッスか!?」
背が低い、ウェリントンの黒縁眼鏡を掛けた出っ歯の明石 将也 がハラグチに声を掛ける。
「なんだ、チビ…まさか、止めようってか?」
「いや、動画撮って良い?本当は2次元が1番だけど…この際、贅沢は言わないッス」
一瞬、アカシが制止してくれる事を期待したマリは心の中で「私って、本当にバカ」と自分を蔑む。
「お、俺も混ぜてくれよ!」
その他、数名の男も止めようとはしなかった。
もう1人の女は、ただただ西側の扉の前で震えている。
「い、いや!やめて!!」
タダシに悲鳴をあげる演技でゾンビの注意を引き付けるよう言われていたが、まさか…本当に悲鳴をあげる事になるとは思ってもいなかった。
数人に体を押さえつけられ、必死に抵抗するが敵う訳も無く、ただただ叫ぶしかない。
「誰か、助けて!ワタル、助けて!」
咄嗟に出た言葉にマリは自分自身が驚いた。
私、まだ…ワタルの事が好きなんだ。
「こんなことなら、別れなきゃ良かった」
涙を浮かべ、そう呟いた瞬間の出来事だった。
西側の扉が豪快に開き、少な目に積まれていたバリケードが大きな音と共に崩れ出す。
急な出来事に、ホール内にいる全員が扉から現れた人物に釘付けとなった。
片手にスレッジハンマー、黒いフルフェイスヘルメットに黒いレザーのライダースーツ…どれも血塗れで、スプラッター映画の世界から飛び出してきたような様相。
西側の扉に1番近かった女は、恐怖心から少しだけチビっていた。




