扉
マリと話しているタダシをチラリと見た後、ワタルはシオヒキたちに言う。
「中の見取り図を出す。ゾンビが来ないか周囲を見張ってくれ」
路地裏から少しずつホテルの裏口へ歩を進めて行く。
通話しながら、タダシは全員に聞こえるように報告する。
「中にもゾンビが多数おり、追い込まれるような形で今は中央ホール内に立て込もっているとの事です」
「見取り図を見る限り、裏口から中央ホールに行けるルートは2つ…ゾンビに追い込まれたのが西側か南側か聞いてくれ」
「…南側から」
「生き残りの人数と、同窓会に参加してた総人数を聞いてくれ」
「…生き残りは8人、参加者は26人」
「18+αのゾンビが中にいるか…従業員もゾンビになっているとすれば、結構な数だな」
ゾンビの巣窟…そんな言葉を飲み込んだキムラの顔は、見る見る青ざめていく。
「ゼミの同窓会は2Fの宴会ルームだったハズ…そこから、南側から中央ホールに逃げ込んだなら…」
喋りながら、ワタルはスマホに映った見取り図を拡大して指でなぞる。
「ここから、ここまでのルートにゾンビが群がっていると考えられる。南側のドアを破ろうとする音は?」
「…激しさを増してるって。机や椅子は多めに南側に集中させてる…と」
ワタルは腕組みし、考えていた。
「…できるだけ南側のドアに近づいて泣き叫ぶように伝えろ」
「なんだって!?そんなことしたら、ゾンビが余計に活発になったりしない!?」
ワタルの発言に対してタダシは不安を露に聞き返す。
「話は最後まで聞け。注意を引き付け、西側のバリケードを少な目にさせろ。西側から入り、そのまま奴らに気付かれないように脱出する。それから、誰かにスマホで泣き叫ぶ声を録音させておけ。それを置いておけば、ホール内から出た後も多少は時間稼ぎできるかも知れないからな」
上手くいくか分からない作戦だが、シオヒキたちはワタルに従う事にした。
「なんだよ、中のゾンビ皆殺しにしねぇのかよ?戦わないで終わるとか、チキンくせぇのは勘弁だぜ?」
コンドウが不満そうに悪態をつくが、無視して進んで行く。
曲がり角から、裏口に続く道でウロウロしているゾンビを覗き見る。
「さっきと同じなら、このエリアには6体のゾンビがいて、そこにいるのは2体です」
キムラはいつの間にか、ワタルに対して敬語で話していた。
「2体なら、俺1人で充分だ」
行こうとするワタルをコンドウが引き止める。
「また、自分だけ楽しむ気かよ?」
ワタルは面倒くさそうに溜め息を吐く。
「アンタ、腕に自信あるんだな。なら、この後の4体を頼んで良いか?俺は3体までしか、まとめて相手はできない」
コンドウは嬉しそうに声をあげた。
「ハー!3体?大したことねぇのな、黒男。おう、なら4体は俺に任せておけ」
ワタルはあまり派手に音が響かないように2体のゾンビの頭を速やかに潰した。
「じゃ、後は宜しく。先に行ってるから」
「おう、すぐに追いつくがな」
ゾンビが4体いる箇所でコンドウを残し、ワタルたちは先に進む。
「ワ、ワタル君…コンドウ君だけ残していくのはあまりにも…」
心配そうに後ろをチラチラ見るシオヒキを尻目にワタルは裏口のドアノブに手をかける。
「やはり、鍵がかかっている…破壊するしかないか」
ハンマーを振り上げるワタルにキムラが声を掛けた。
「わ、私…ピッキングできるんで、開けられますよ!」
「それは助かる。すぐに開けると、ゾンビが出てきた際に対処しづらい。鍵が開いたら1回頷いてくれ」
「ハ、ハイ!」
君主に従うかのように返事をし、キムラはピッキングを開始。
カチャッという軽い音と共に、キムラは小さく頷いた。
ワタルがドアを少し動かすと、あまり使われていなかったのかギギギギギと嫌な音が響く。
「?」
ふと、タダシが後ろを振り向いた。
「どうした、タダシ君?」
「シオヒキさん、今…何か聞こえませんでした?」
「いや、私には何も聞こえなかったが…」
ドアが開く音は、思いの外うるさかった。
なので、少し離れた場所から「た、たすけ…ぐぎゃぁ!!」と叫んだコンドウの声は運悪く、かき消されてしまった。
「二人とも、グズグズしてると黒男さんに置いていかれますよ?」
キムラに促され、タダシとシオヒキはワタルの後に続いた。




