第二十一話 呂布と小さい軍師
遅くなりました。この小説は作者の気まぐれで更新されますのでこういうこともあります。ストックはあるのですが、本当に気まぐれなので。
「そうでしたか! それはありがとうございました!」
「いえいえ。呂布の食べる量はかなり予想外でしたが、まあ、別段獲るのには困りませんでしたよ」
「美味しかった」
突如現れた小さい人間は、呂布の軍師(自称)を名乗っていました。名を陳宮というそうです。突然の事でしたが、私達は食事中。席を立つ事も、食事を中断する事もありません。によって、呂布主導の下、陳宮も交えて食事をする事になりました。
陳宮と名乗った呂布の相方はそれはそれは小さい子供でした。12・3歳ぐらいでしょうかね? まあ、無夢みたいに幼いながら卑弥呼に(正確には諏訪子様に)見染められて社会の荒波に揉まれている人も居ますし、別におかしな事ではないのでしょう。
「それよりも、あなた達は二人で旅をしているんですか?」
「そうですぞ」
「へえ。……おいノッポ」
「へい!」
「そういえば、私は今の御時勢を全く把握してませんが、そこんとこどうなんです?」
「え、いや、俺らの様な賊が蔓延るようですから、そりゃあ悪いんじゃ……」
「!? 鬼無殿達は賊なのですか?」
私達の会話を聞いた陳宮は、目尻を上げてこちらを睨んできます。呂布は……あ、私の作った果実の飲み物を飲んでいました。こちらの話を聞いているのでしょうが、特に興味を示しませんね。おそらく、陳宮を信頼しているのでしょう。陳宮の号令一つで、その武をこちらに向けてきそうです。まあ、その時は私も抵抗しますがね。
とりあえず、私は横に立てておいた瓢箪を持ち上げ、口に運ぶ。程良い刺激が喉を通り、とてもスッキリします。そして、瓢箪を『普通』に地面に置きます。
――ドゴンッ
……少し地面にめり込みましたが、まあ問題ないでしょう。
「あー、私が賊かという話でしたっけ?」
「そ、そうなのです」
おや、若干顔が引きつっていますね。どうしたのでしょう?
「違いますよ。私に選ばれたこの三人は……まあ、運が無かったのでしょうね」
「へへ……俺たちは旦那に追剥しようとしたんですが、まあ、本能的に旦那には勝てねぇどころか、殺されると思いやして……」
「それで、今は従順に私の道案内に準じて居るんですよね?」
「とんでもない! 俺たちゃ一生旦那に付いていきやすぜ! な!!」
「はいっス!」
「だな!!」
「なら一生下僕な」
「「「それだけは勘弁して下さい」」」
まあ、私は妖怪ですし、いずれこいつらとはオサラバしますけどね。人間が死ぬまで付き合うとか、私の精神が死にそうです。
「えっと……つまり?」
「鬼無は悪い人じゃない」
「恋殿?」
「ご飯、いっぱいくれた」
あなたの判断基準おかしいのでは? この娘純粋すぎて簡単に人に騙されるんじゃありませんかね? あ、その時の陳宮ですか。
「旦那、俺たちゃ明日も早いんでもう寝やすね」
「お先にっス」
「お、おやすみなんだな!」
「明日も早起きですよ」
「「「はい!」」」
そういって、いそいそと三人組は床に着きました。人間の眠るのが早い事早い事。ま、人間には食欲、睡眠欲、性欲という三大欲求というのがあるらしく、それには抗い難いのでしょう。妖怪には無縁ですがね。私の欲は強いて言うなれば酒欲ですね。酒があれば万時うまくいくでしょう。うん、酒というか酒虫ちゃんですね。ね、酒虫ちゃん?
「呂布たちは寝ないんですか?」
「ん……寝る」
「鬼無殿は眠らないのですか?」
「私は、もう少し起きてます。あ、襲ったりしないので安心して下さい」
「なっ! 当たり前です!」
「…すぅ」
って、呂布寝るの早っ。驚きの早さというか、ほぼ初対面の私に対して無防備過ぎやしませんかね? あの三人組はまあ、呂布なら寝てても対処できるでしょう。こいつら、雑魚ですからね。
「……しっかし、どうしたもんですかねぇ」
こうして全員が寝たからこそ考えられること。つまり、これからの事―――ではなく、今の事。
「ヤバいですよね……これ」
この世界は私のいた世界とは違う。世界の成り立ちも、構成も、何もかもが違う。そして、その環境の変化に、私は耐えられない。
私達妖怪は、人間に認識されなかったら存在できない。妖怪の存在は、とことん人間に依存している。おそれてくれる人間無くしては、妖怪は存在できない。
私が今辛うじてこの世界に留まれているのは、私がそれなりに力を持ち、さらにその力を抑制しているからです。
この世界に、妖怪が存在しない訳ではないでしょう。いえ、存在はしています。ただ、私がその枠組みに入っていないのは、私がこの世界にとってよそ者だからでしょうね。そもそもここの妖怪とは成り立ちが違うのかもしれない。
まあ、何にせよ、私はこの世界に長居はできないでしょう。
「卑弥呼は……大丈夫なんでしょうね」
卑弥呼は人外と化しているが、基盤は人間です。人間は別に他者に己の生死を依存している訳ではない。少なくとも、食料と水があれば生きていられるのですから。
つまり、卑弥呼の場合は、例えこの世界にとってよそ者で、何一つ自分に対しての恩恵が無くても、生きていけるのです。私の様に認識されなければ生きていけない訳ではないのですから。
「……どうしたものですかねぇ」
コクッと、お酒を舐めるように飲む。今まではお酒を飲めばある程度の事は解決していましたが、今回はそういう訳にはいかない。お酒飲んで帰れるのなら、私はいくらでも飲みますよ。
「……死にたくは、ありませんね」
その夜、私は三人組が起きるまでずっと月を眺めていた。
「さて、じゃあ今日も洛陽に向かって元気に歩いていきましょうかね」
「いや、顔が真っ青ですぜ、旦那」
「どうしたの?」
「昨日は飲み過ぎました」
酒虫ちゃんのお酒が美味し過ぎるのがいけないんです。まさか一晩自棄酒したら二日酔いになるとは夢にも思いませんでしたよ。え? 申し訳ございません? いやだな酒虫ちゃん。私と君の仲ではありませんか。そんなの気にする事ありませんよ。
「で、洛陽まであとどのくらいですか?」
「後七日程ですぞ」
「どうも。七日ですか……あと少しですね」
私にあとどれくらい時間が残されているか分かりませんが、逆に考えるとまだ余裕があるということでしょう。まだ大丈夫でしょう、まだ。
「そういえば、呂布たちは洛陽に行って何をするんですか?」
「ん、美味しいものを食べに……」
「恋殿!? 違いますぞ! ねねたちは相応しき主君を見つける為に旅をしているのですぞ!!」
「主君……誰かに仕えるのですか?」
「そうですぞ!」
こんな子供が、この国の未来を憂いて国に仕えるというのですか……。私はこの国の事情は知りませんが、相当末期だという事は分かりましたよ。陳宮が特別聡明なだけかもしれませんが……ん?
「そういえば、あなた方自分の事を違う呼び方で呼んでますが、それは一体どういう事ですか? 名前が二つあるのですか?」
「鬼無殿は真名を知らないのですか?」
「真名? 何ですかそれ」
「本当に知らないのですか……」
「珍しい」
「んん? そこの三人組は鬼無殿に教えなかったのですか?」
「い、いや。聞かれなかったもので……」
「それに俺ら、チビデクノッポと呼ばれてるっすから」
「ほ、本名で呼ばれないんだな」
え、こいつらそれが名前じゃないの? まあ、いいや。
「で、真名ってなんですか?」
「真名とは、本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前で、本人の許可無く真名で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たるのですぞ! 絶対に許可なく呼んではダメですぞ!」
「おー、何ともおっかない名前ですね。これは自己紹介を徹底しないとポンポン首が飛んじゃいますよ」
「……鬼無には真名はないの?」
「真名はありませんよ。まあ、今のところ私の事を『心』と呼ぶ人は一人しかいないのでそれが真名に値すると言えば値するものでしょうか」
「心……?」
「あなた達風に言うと、私の姓は鬼無、名は心なんですよ。ま、貰いものですけど」
「貰いもの?」
「私、元々は山育ちの名無しでしたからね」
今では既にあの時の記憶は風化して、朧気にしか覚えてませんけどね。初めて手にした本。そこから学んだ知識。今料理が出来る事は間違いなくあの本があったからでしょう。うん? そういえば、あの本は一体どこから入手したものでしたっけ? 確か、私が初めて山を出た時―――
「お、鬼無殿は何故洛陽に向かうのですか!?」
「え、あ、私ですか? 初めの目的はこの国の情報収集でした」
「でした? 今は変わったのですか?」
「ええ、まあ。ちょっと早急に解決せねば非常に不味い事になる自体に直面しまして。それを解決できるであろう人を探そうかと思いましてね。一応、知り合いです」
「不味い事になるの?」
「ええ、私としては、ですけど。何、見立てでは後数年はなにもしない限りは大丈夫なので特に心配はありませんよ」
なにもしなければ、ですけどね。
「そう……?」
「ええ、その通り……ん?」
ふと、背後に視線を感じました。特に殺意もなければ害意もないので反応は若干遅れましたが、それでも今まで感じた人間の気配とは違う気配でした。呂布も気が付いた様で、ほぼ私と同時に反応していました。因みに、遅れたのは私の方ですよ。まあ、この辺りは人間も妖怪も関係ないので普通に千年以上は生きているはずの私よりも気配に敏感なのでしょう。私が言うのもなんですが、化物かこの娘。
「鬼無……あれ、何?」
「……」
「恋殿ー? どうかしたのですか?」
「旦那も何かあったので?」
「ん、何でもありませんよ」
殺意も害意もありませんが、あの視線は好奇心ですかね。珍しいもの見たさに来たというか、まあ、私が良く相手に向ける視線なのでよく分かるんですけどね。少なくとも、人間ではない事は確かなので、目的は―――
「鬼無」
「うぇ?」
「あれ、何?」
考え事に夢中になってたらいつの間にか呂布が顔を近づけて私にさっきの視線について聞いてきました。とはいっても、私が分かっている事は人間ではないという事だけなので、呂布と分かっている事はそう大差ないと思うのですが。
「人でも、動物でもない。鬼無と似ている気配だった」
「―――」
そこまで。そこまで、分かったというのかこの娘は。
「もう一度聞く。あれ、何?」
「……うーん。いや、言っても良いんですけどね? ぶっちゃけ説明がめんどくさいというか、なんというか……」
「言え」
「はい」
一瞬ですが、呂布が白亜に見えたんですけど。いや、強さや雰囲気ではなくて、私に強要する時の物言いが、ね?
「と言っても、そこまで難しい話でもありませんよ。あ、この話は一応陳宮にも言っておきたいので、こっち来てもらえます?」
「え、あ、ねねもですか?」
急に話を振られて驚いたのか、どもりながら答えた陳宮。まあ、雰囲気的に二人だけの世界に入っていましたしね。そんなあなたが私の事を蹴ろうとしていたのは知っているんですからね?
「まず、呂布の疑問に答えると、あれは人間じゃなくて妖怪という生物ですよ」
「妖怪?」
「ええ。まあ、人間から見ると、化物という事になるでしょうか」
「それだと、鬼無殿もその妖怪という事になるのですが……」
「うん? だからそう言っているじゃありませんか」
「化物と言いましたが、姿形は人間と変わらないのですか?」
「いや、私の場合は角が生えているでしょう?」
「……作り物かと思った」
つ、作り物って……。これ、鬼の証である大切なものなんですけど。私の能力の発動媒体でもありますし。
「違います。これは本物です。折れば血が出ますし穴が空きます。試してみます?」
「うん」
聞いてみたら即座に折られました。あまりに即答即行すぎて反応できませんでした。あまりにも早過ぎて未だに痛みを感じませんよ。
「えー……そこはもっと戸惑いというものをですね」
「……本物」
こつんこつんと私の角同士を打ち合わせる呂布。それ、楽器じゃありませんけど?
「お、おおおお鬼無殿!? 血が、驚きの出血量ですぞ!?」
「うん? ああ、大丈夫です、慣れてます」
「慣れてる!?」
「だ、旦那にそんな事をする人がいるとは……」
「連れがいるんです。一緒に旅をしていたんですが今ははぐれちゃいましたね」
そういえば、今頃白亜は何をしているのでしょう。私の事、探しているのでしょうか? というか、心配しているでしょうか? あっさり自分の旅を再開している……のはありえませんか。元々私が巻きこんだ旅ですし。
「というか、三人組は驚かないのですね?」
「や、知ってましたから」
「そうっすね。むしろ、それで納得しちゃったっす」
「だな!」
「えー……」
「鬼無、これ、貰って良い?」
「ん? あ、良いですよ」
何故か私の角が気に入った御様子の呂布。そんなに良いものではないと思うのですが……。
「……これで弓を作る」
「うぇ? ゆ、弓ですか……」
まあ、私の角は結構長いですから二つ合わせれば作れない事もないでしょうけど……。
でもそれは人間が扱える大きさではないと思うのですが。弓というより長弓になると思います。
「うん、作る」
「まあ、呂布が良いなら良いのですが―――」
「鬼無殿!」
「うわっ、な、なんですか?」
「何故かあやふやになってしまいましたが、要するに鬼無殿は人とは違うという事なのですか!?」
「え、ええ。そうですよ」
「そうですか。……容姿は人そのものでとても見分けがつかないのです」
いや、だから角……って今は折られてましたね。能力を制限してやっていくと決めた以上、これが丁度いいのかもしれません。まあ、使わないのと使えないのでは大きな差がありますけどね。
「鬼無殿の様な存在はまだいるのですか?」
「さあ……私はこの国出身じゃありませんからね。と、いうのもさっきまでの話です。いますよ、この国にも。私の様に人の形をとっているかどうか知りませんけど」
「どういう事です?」
「力を持つ妖怪は人の形をとる者が多いですね。まあ、人の形じゃないからといって弱いという訳でもないんですけどね」
とは言っても、全部白亜の受け売りなんですけどね。人の事は私の方が詳しいかもしれませんが、逆に妖怪に関しては白亜の方が詳しいんです。そもそも、私は人型の妖怪にあったことが白亜以外にないんですよね。諏訪子様は神ですし、卑弥呼は妖怪じゃなくて人外。うん、会ったこと無いですね。
「ここからが肝心なのですが……」
「はい?」
「鬼無殿には人間妖怪問わず、これなら絶対に負けないという何かはありますか?」
「私が、ですか? うーん、私個人の事はよく分からないんですが、鬼という種族からすると、とりあえず力比べで負ける事はないですね」
と、とりあえず証拠を見せる為にそこら辺に生えている木を掴んで、引き抜く。根元からごっそり抜けましたね。振り返ると、呂布は未だに私の角を弄り、三人組は「そろそろ昼だな」と呑気な声。そして陳宮は―――
「ば、馬鹿力なのです……」
腰を抜かして驚いていました。
実は描写されたことがなかった主人公の容姿をここで紹介します。なぜかって? 気まぐれです。
鬼無 心(男)
【心を操る程度の能力】
【???】
白色というよりも黒色に近い灰色の髪。髪は無造作に伸ばしているが、自分で手入れしているため、ザンバラ髪にはなっていない。
背はそこまで高くない170cm。年齢は1000歳以上。
瓢箪は某忍者漫画の砂使いが背負っているアレを黒くした感じです。




