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東方心操録  作者: ハヤテ
20/22

第二十話 どこですかここ




「……あれ?」


 突如目の前が真っ白になったと思ったらいきなり荒野にいました。

 うん、これだけ言ったら一体どこの精神異常者だ馬鹿野郎と白亜に罵られそうな感じですね。まあ、事実なのでどうしようもないんですけど。

 あ、白亜と言えば、辺りを見渡したのですが、何処にもいないんですよね。まあ、あの光に巻き込まれたのは私と卑弥呼の為、白亜が私の様な状態になっている確率は極めて低いんですがね。


「……ん?」


 あれ、ちょっと待って下さい。白亜が居ない? え、マジで? ちょ、こんな状況千年(白亜曰く)一緒に過ごしてきましたが一回もありませんよ。ヤバい、ちょっと混乱してきた。


「おい、兄ちゃん」

「いやまじでどうしよう白亜いないとかえちょ有りえないんですけどそもそもなにこの状況なにが原因あ卑弥呼じゃん全ての原因あいつじゃん全くあの肝心なところで大ポカやらかすうっかり女王は今度会ったらどうしてやりましょうかとりあえず殴って蹴って千切って投げて晒してあげましょうかうんそれがいいそうしようそうすべきですよフフフフフフフフフフ」

「……(ヤベェ、なにがヤバいかわからんが、こいつヤベェ)」

「……(あ、兄貴、どうします? こいつ、なんかヤバそうッスよ?)」

「……(や、止めた方が良いと思うんだな)」


 まずどうしましょうね。ぶっちゃけ、ここが何なのかある程度予想ぐらいはついて居るんですよ。なんというか、私達って千年もあの大陸を旅していた訳で、それだけの年月があれば結構地理に強くなるんですよ。

 まあ、端的になにが言いたいかというと、私にはこんな土地、見覚えが無いんですよね。しかも、ちょっと空気中に感じる妖気が違うときた。これ、確定的に私が元いた場所とは違う場所ですよ。


「となると……ふむ。やはり卑弥呼か……」

「……(な、なんだ? 急に黙ったぞ?)」

「……(意味不明ッス)」

「……(や、やっぱり逃げるべきなんだな)」


 この意味不明な現状。打開できるのは卑弥呼しかいません。私はこの現状を理解できるぐらいの頭はあるのですが、卑弥呼みたいに術の行使とかは全く出来ないんですよ。そして、この現状は私の様な鬼が、力ずくでどうこうできる問題ではない。と、なると……、


「行くべきはここの中央か。おい、そこの人間三人組」

「ヒィッ!? な、なんでごぜーましょうか!?」


 うん? なんだこの言葉遣い。言ってはなんですが、私の今の見た目は白亜に角をぽっきりやられてしまっているため、ただの人間にしか見えない筈。によって、私の事を妖怪と見てビビる事はないんですよね。


「なんですか? 私の顔に何か?」

「いやいや! そんなとんでもない!! なあ!?」

「は、はいッス! あなた様の麗しい顔にそんな物付いてないっす!」

「あ、当たり前なんだな!!」

「?? 訳が分かりませんね、あなた達。まあ、いいです。それよりも、ちょっと私をこの国の中央まで案内してくれませんか?」

「ちゅ、中央ッスか……」

「中央……洛陽なら、ここから北に一カ月歩いたところにありやすが……」

「ま、真っ直ぐなんだな」

「うん? あなた達、何か勘違いしてません?」

「「「へ?」」」

「私は“案内しろ”と言ったんですよ? ……この意味、分かる?」

「「「も、勿論です!(ッス!)(だな!)誠心誠意、案内させていただきます!!」


 一回で理解しなかったのはアレですが、まあ、素直な人間は好きですよ?






「ノッポ、ちょっと虎捕まえてきて下さい」

「だ、旦那! そりゃ無理ってモンですよ!? 俺は旦那みたいに化物じゃな―――」

「気合ですよ。世の中、気合で空飛ぶ人もいるんですから」

「それ気合でどうにかなる事じゃありやせんよね!?」


 さて、このノッポ、チビ、デク(名前は知らん)に洛陽までの道案内を強制させて一週間が経過しました。一週間もあれば、私の角はお酒の力で普通に復活するので、既にこの人間三人組には私が人間ではない事を知られました。まあ、だからどうしたという感じですが。それに、元々この人達は私に底の知れない恐怖的なものを感じていたそうで、私が今更人間じゃないと知ったところで、



「いや、むしろそっちの方が納得できやす」



とか言ってきました。確かに、私がやってきた事を顧みると納得出来る部分もあるのですが、なんかムカついたので一発殴っておきました。

 まあ、そんなこんなで私と人間三人組の洛陽までの旅は続いている訳です。


「ま、冗談は止めて私は今日の食糧を獲ってきますので、あなた方は薪でも集めてきて下さい」

「うす!!」


 なんやかんやでこの人間三人組は聞き訳が良いので私としても非常に助かります。しかも、今の所私の寝首を掻こうとかそういう危険な思考は持ち合わせていない御様子。いやー、正直白亜の件で人間には良い感情を抱いていなかったのですが、あの三人組は良いですね。まあ、人間からしてみれば悪人の様ですけど。


「しかし、ここが異世界ということは分かっているのですが、それにしては妖怪が見当たりませんね。妖力は感じるので居ない事はないのでしょうが……」


 懐かしきかな鬼熊のお肉。クセは強いですが結構美味しいんですよね、アレ。鬼熊に似た動物……暫定的に【熊】と命名しますが、アレは鬼熊には劣りますが結構美味しいので、発見次第即絞殺しますが、中々見当たらないんですよね。まあ、妖怪の周りに野生動物が近寄らないのはとっくに分かっていた事なんですけどね。


「うん? あっちから何か大きい気配が」


 人間くさい気配なんですが、それにしては強すぎる。これ、卑弥呼以上と言っても過言ではありませんよ? ちょっと興味が湧いてきましたね。行ってみましょう。

 気配を感じた方に向かうごとに、その気配は徐々に大きくなっていった。もはや人一人には到底収まりきるとは思わないのですが……まあ、異世界なのですから、何でもありなんでしょうかね? これだけ大きいと、平和主義で鬼にしては血気盛んではない私としても、ちょっと戦いたくなってきちゃうじゃありませんか。


「とか言っている間に着きました」


 気配のする場所は、清らかな水の音を奏でる小さな川でした。水中では魚が泳ぎ、川の端では動物がその水を啜っています。そして、そんな川の周りに生えている木にもたれているこの巨大な気配を発する人間は……


「っ!?」

「ん……」


 想像を絶するとはこの事か。思わず後ずさりをして、その音で木にもたれかかって眠っていた人間は目を覚ましてしまいました。目を擦り、こちらをジッと見つめてくる目と目が合い、私は自らの能力により更にその深淵にハマっていく。


「……誰?」

「鬼無……心です」


 あまりの衝撃で自己紹介もままなりませんでした。それほどまでに、この人間との出会いは私の千年を覆した。


「あなたの名前は?」

「恋は……呂布。……呂布奉先」

「呂布ですか」

「うん」


 成程、私の常識を覆したこの『女性』は呂布というのですか。


「呂布、あなた……」

「なに?」

「とても、綺麗ですね」






「だ、旦那……その女は一体誰でしょうか?」

「呂布だそうですよ。さっきそこの川で出会っちゃいました」

「……よろしく」

「あ、ああ……」


 川での邂逅を経て、とりあえず魚を五匹捕まえて人間三人組との集合場所へと向かったのですが、何故か呂布も付いてきました。お腹が空いたんでしょうか? まあ、全生物は空腹には勝てません。お腹が空いたのなら食糧を持つ人に付いていく。うん、自然な流れです。


「まあ、ノッポ達も私と居る以上こういった異常事態は常日頃起こるものと思って構えていて下さい。さて、魚も焼けましたし食べましょうか」

「いただきやす」

「いただきますッス」

「い、いただくんだな」

「……? いただきます?」


 この号令、私が人間三人組に強制させて言わせているものです。命を頂く訳ですから、やはり頂く側としてはそれ相応の対応というものがあると思うんですよ。それにより、やはりこの号令はやるべきだと思う訳です。今回は、呂布も流れでやってくれましたね。良かった、もしやらずに私の魚に口を付けようものなら、魚の前に土を口に含ませていたことでしょう。


「あれ、旦那は食べねぇんですか?」

「私は良いです。見たところ、彼女は大食漢の様ですし」


 一匹目の魚は既に消え、最後の魚に手を伸ばしていた。まあ、私は酒虫ちゃんから滲み出る神々しいお酒があればなんでも乗り越える事ができる。


「あ……ごめん」

「いえ、構いません。私にはこれがありますから」


 ごきゅっ、と鬼無瓢を傾けて一口。

 うん、相変わらず最高のお酒ですよ、酒虫ちゃん。


「まだお腹は減っていますか?」

「……うん」

「なら、これも食べると良いです」


 そう言って取り出したのは保存用として作った干し肉です。人間三人組の健康にも気を使い、衛生面にも拘りました。


「ありがとう」


 取り出した瞬間シュバッと私の手から干し肉が消え、呂布が口をもきゅもきゅと動かしていました。恐るべし早業。この人、身体能力だけなら人類の頂点に立てるのではないでしょうか? まあ、鬼には勝てませんけどね。


「そういえば、何故呂布はあんなところで寝てたんです? この世は物騒、呂布の様な可愛い女の子が無防備な姿を晒していたら男どもになにされるか分かったものじゃありませんよ?」

「……ん、大丈夫。恋は強いから」

「いや、そういう事じゃなくてですね」


 この娘には貞操観念が無いのでしょうか? ま、天然ボケっぽい雰囲気醸し出していますし、この娘ほど『心を読む』という行為が無駄になる人間もいませんね。考えている事がすぐ顔に出る。いや、顔というか雰囲気か。なんとなく、こうしたい、ああしたいというのが雰囲気に結構現れるんですよね、この娘。例えば、


「呂布、はい、水」

「ありがと」


とまあ、こんな感じで。長年生きてるから分かるというのもありますが、この『心』ではなく雰囲気で分かるというのも、私の能力柄そういう事を感じ取るのが素で出来るようになったようです。要するに、空気を読むのが巧くなりました。


「旦那、そういえば薪を集めてた時にこんな果実を見つけたんだ。食後にでも―――」

「私は食べても大丈夫でしょう。ですがそれ、匂い的に腐ってますよ」

「ええっ!?」

「マジッスか!?」

「マジです。あ、呂布。駄目ですよ、腐りかけが美味しいという言葉がありますが、完全に腐ったものはただの毒ですよ」

「果物……食べたい」


 とはいえ、ここにないものを食べれる筈もない。まあ、我慢してもらうしかないのですが……まあ、何事にも妥協案は必要ですね。


「お酒、飲みます?」

「……お酒?」


 首を傾げて聞き返してきます。なんか小動物みたいですね。


「はい、この瓢箪を持ち上げられる人しか飲めませんが……」

「大丈夫、貸して」


 因みに、こんな私の人差し指一本で軽々と持ち上げられる『鬼の様に軽い』瓢箪を持ち上げられない人には酒虫ちゃん印の美味しいお酒はあげません。実際、私の瓢箪を持ち上げられたのは白亜と諏訪子様と黄泉、それと無夢しかいませんでしたけど(卑弥呼は無理でした)。ってか、卑弥呼は完全に術師らしいんですよね。なにが言いたいかというと、物凄く体が貧弱なんです。黄泉は能力で持ち上げていました。なんの能力かは教えてもらえてませんが、これで大凡の予想は付きましたよ。


「んっ……結構重い」

「それを素の力で持つ人間とか初めて見たんですけど」


 それ、鬼にとっては鬼の様に軽くても、人間にとっては鬼の様に重いんですがねぇ……。やはり呂布は人間としては色々規格外なんでしょうか? そう、例えば、無夢のように何らかの能力を持っているとか。とはいえ、呂布からは卑弥呼や無夢の様な……えっと、霊力でしたっけ? それっぽいものが感じられないのでこの腕力は従来のものとなる訳です。……人間なのに物凄く出鱈目ですねぇ。


「……? これ、あなた達は持てないの?」

「いやいやいや!! コレ持てるとか姐さんまじパネェっす!」

「パネェっす!」

「パ、パネェんだな!!」

「パネェ……?」

「おいアホ三人組。呂布に変なこと吹き込まないでください」


 出会ってからの時間は一日もありませんが、それでも呂布が『純粋』という事は一目見た時に分かりました。他人の影響を受けやすい性質ですよね。そんな呂布がこのアホ三人組に影響でもされたら眼も当てられません。なんやかんやでこの三人組は賊ですからね。山賊なのか盗賊なのか知りませんが(あ、意味合いはあまり変わりませんか)。


「あ……美味しい」

「でしょう? 私の自慢のお酒ですよ」

「どうやって作ったの?」

「秘密です。聞いたら……呑めなくなりますよ? こんな美味しいお酒を製造方法聞いただけで呑めなくなるなんて、勿体ないですよ?」

(((どんな製造方法だよ……)))

「……それもそう」

「納得しちゃった!?」

「うん?」

「なんでもねぇですぜ旦那!」


 訳が分かりませんね。まあいいや。


「そういえば、呂布はあそこでなにしていたんですか?」

「……水浴び、した後に眠たくなって、お昼寝」

「あれ、姐さん根なし草なんですかい? てっきりどこかに所属しているのだとばっかり……」

「意外っすね」

「……洛陽に行くところだった」

「私達と同じですね。ここで会ったのも何かの縁ですし、一緒に行きません?」

「……駄目、連れがいる。……探さなきゃ」


 なんと、呂布は迷子だったんですか。いや、呂布の相方が迷子という可能性もあるのですが、なんかこの娘見てるとそれはありえない様な気がするんですよね。というか、絶対この娘迷子でしょう。


「ふぅん。なら、探した方が良いんじゃありません? あと少しで日も沈み―――」

「恋殿ーーーー!!!!」


 ……なんか、今日だけで結構騒がしくなりましたね。







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