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東方心操録  作者: ハヤテ
14/22

第十四話 骨折り損の草臥れ儲け

久しぶりの投稿につき、後一話続けて投稿します。




【旧世代の物の怪】

卑弥呼が心と白亜に対して称したその言葉は、二人にとっては大した意味合いを持たなかったが、それ以外のその他大多数には大きな意味となる。

 つい先ほど出会ったばかりで卑弥呼ほど言葉を交えてない―――悪く言えば、相手を下に見ている―――洩矢神には知る由はないが、卑弥呼は心達との何気ない会話の中でその事実を見出していた。その事実を知った時の卑弥呼は表面上の態度こそ全く変わりなかったが、内面ではかなり慌てていた。それと同時に「こんな『大物』、逃がすものか」とも思った。この二人なら、確実に自分の抱えている問題を解決できると思ったからだ。


 それほど【旧世代の物の怪】の力は絶大なのだ。


 とはいえ、この時代を生きる殆どの者は【旧世代】というものがあったということ自体知らない。だが、卑弥呼の様に過去の出来事を『視れる』能力を持った者は過去、どれほど人類は栄え、強く在ったのかを知っている。それと敵対していた妖怪が、どれほど強大で現代の地上に存在する生物など歯牙にもかけない事を知っている。故に、卑弥呼は下手には出なかったものの、事を荒立てないようにした。

 しかし、洩矢神はそうしなかった。圧倒的なまでの“格”の違い、生物としての“次元”の差があったからだ。「物の怪ごときに負ける筈がない」。神だからこそ許される慢心。大凡、地球上の生物では触れることすら叶わぬからこその慢心と言えよう。


 だから、気付けなかった。


 神としての自信が、今まで自分と同格以上の存在にしか負けた事の無い実績が、それを気付かせる事を遅らせたのだ。

 例え生物としての格や次元が違ったとしても、それが決して、力で劣っている理由にならないということに。






◆◇◆◇◆






「この……瓢箪を、ですか?」

「そ。その瓢箪」


 その言葉が神様から吐かれた瞬間、白亜は今まで動かなかった体を急に私の方へ振り向かせた。そんな白亜を横目に、私は今言われた事を整理していた。


 何、つまりこの瓢箪を中身含めてこっちに渡せってことですか? 中身……つまり、酒虫ちゃん込みでってことですよね? いやね? 瓢箪だけなら私も普通に渡しますよ? また作れば良いだけですし。……まあ、長年にわたり愛用した瓢箪を手放すのは惜しいですけど。ですが、酒虫ちゃんも渡せ、この糞神は今そう言ったのですか?


「……ココロ、駄目」


 白亜が慌てて制止の声を掛けてきますが、何が駄目なのか分からない。

 ハハハ、何を慌てているのですか? あなたが慌てる要素が私には分からないのですが?


「……落ち着いて」


 落ち着け? ええ、落ち着いてますとも。頭の中はさながら真冬を迎えた北の大地の如き冷静さをほこり、冴えわたっています。今この時ほど、目の前が鮮明に映し出される状況は何百年と生きた中で今日が初めてかもしれません。フフフ、今日は記念日ですね。白亜の記念日と被りましたが、まあ、良いでしょう。人の誕生日が被る日だってあるのですから。


「ねえ、それ、くれないの? くれる「おい糞神」へ?」

「確認ですけど、神って死ぬんですよね?」


 瞬間、地面を蹴り、糞神の腹に振りかぶった拳を全力で突き刺した。糞神はくの字に折れ、木を何本も圧し折りながら吹き飛んでいった。水月を殴ったので簡単には起きあがって来ないでしょう。


「……やっちゃった」

「あの糞神は馬鹿なんですか? 大人しく『普通』の条件だして通してくれれば良かったものを、酒虫ちゃんを寄こせ? 何ふざけたことヌかしてるんですか。あれか? 生物としての格が違うからって何しても良いと糞みたいな考えでもしていたのか? 糞神には御似合いの糞みたいな思考回路ですが、少々調子に乗り過ぎましたね。格が違うからといって、力が通用しないという訳ではないというのに」


 あーイライラする。こんなにイラついたのは初めてですよ。これはもう記念日……忌念日にするべきでしょう。


「まあいいです。あの糞神はフッ飛んだことですし、行きましょ「待ってよ」しぶといな」


 声のした方を見ると、そこには傷一つない姿で宙に浮いている例の糞神の姿。全力で殴ったというのに無傷とは腐っても神ということですか。まあ、私の拳の威力などたかが知れてますよね。


「そりゃあ、物の怪の一撃で沈んでたら神なんてやってられないでしょ? で、交渉決裂ってことで良い?」

「交渉? 脅しの間違いでは? まあ、どっちにしろ決裂ですが、どうするので?」

「ん? そりゃー……潰しておくしかないでしょ」


 瞬間、糞神の両手から鉄の輪が飛んできました。

 飛んできた鉄の輪を手の甲で弾きました。が、高速回転する鉄の輪は私の手の甲を切り裂き、弾いたのにも関わらず曲がって再度私達の方へ向かってきます。


「しつこいですね」


 向かってきた鉄の輪を、瓢箪を背中から抜くと同時に地面に叩き付けた。流石に失速したら鉄の輪の動きは止まりました。白亜の方は、足で踏みつけて強引に止めていました。


「ほらほら、安心してる暇はないよ?」


 その言葉を聞いた瞬間、足元から白い物体が浮上。空を飛ぶことで回避しますが、その白い物体―――ミジャクジは真っ赤な口を大きく開き、私を噛み砕かんと迫ってきます。私はその口を瓢箪で殴り、地面に叩き付けます。

 やられてばかりというのも癪なので、私はお酒を口に含み、それを糞神に向けて吹き出した。吹き出したお酒は私の妖力により発火し、瞬く間に業火となり糞神に迫る。

 が、糞神は大量の水を口から吹き出す事でそれを消火し、序でと言わんばかりに地面から岩を削り出し、私に向かって放ってきました。


(岩か……)


 チラリと白亜の方を見る。さっきまでは何故か能力が使えなかったようですが、今はどうなのでしょう?


(……できる。……ココロは安心してあいつをヤって)

(分かりました。信じますよ)


 白亜を信じるとしたら、私が進む道は唯一つ。


一点突破。


 妖力を瓢箪の中に収束させる。お酒の量は……7割か。これならできるか?

 妖力をお酒に練り込ませるように収束させ、更に瓢箪の中も妖力で満たす。瓢箪の中が妖力で満ちても、それが暴発寸前になるまで限界に達するまで収束させる。


 この技は―――技と言えるかどうか知りませんが―――昔、私に遠距離での攻撃手段が無い事から考案されたものです。拳で殴る、瓢箪で殴るなどといった近接攻撃ではいつか限界が来ます。白亜みたいのが敵に回った場合、私は手も足も出ずに潰されます。なので、私と白亜が考えたのは「妖力をぶっ放してみてはどうだ?」というものです。ただブッパするのも風情が無いのでこの瓢箪とお酒を利用する事なったのです。

 で、技の概要ですが、ザックラバンに言ってしまうと、瓢箪の中のお酒を爆発させます。ただ爆発させるだけでは瓢箪が壊れるだけなので、お酒に妖力を練り込み、ある程度の爆発の方向性を指定できるようにする。これで爆風を相手に向けて放ちます。威力はお酒の残量に左右されます。多ければ多いほど威力は高いです。

 因みに、こちらでも操作はしますが、お酒の細かい操作は酒虫ちゃんに依存しています。ってか、この酒虫ちゃんこの爆発の中でもそのつぶらな瞳を曇らせることなく無傷で静観するんですけど……細かい事は気にしてはいけませんね。


 収束が限界に達したのか、瓢箪がガタガタと震え始めた。後は放出するだけだ。

 岩は白亜がどうにかしてくれると信じていたのだが、どうやらうまくやってくれたらしい。私に当たらず、明後日の方向へ飛んでいった。


「なっ!?」


 糞神が驚いているようですが、んなもんしったこっちゃない。そのまま糞神の真正面まで全力で走り抜け、瓢箪の口を糞神に押し付ける。


「酒符【酒天大砲―七割―】」


 瞬間、激しい閃光と爆音が辺りに鳴り響いた。私は地に足を付けていた為なんとか踏ん張る事が出来たが、あの糞神は宙に浮いていて尚且つ直撃した筈。踏ん張る事も出来ずに上空に打ち上げられた。周りの被害状況は……うん、ここら辺だけ綺麗に消し飛んでますね(※大体半径20メートルぐらい)。七割でこれなら、十割とかどうなるのでしょう? そして、この衝撃に無傷で耐えうる酒虫ちゃんは何者なのでしょう?


「……ココロ、それ、五月蠅い」

「と言われましてもね。これが一番威力が高いのですよ? 十割じゃなかったのは残念ですが、まあ、七割でも十分威力はあるでしょう」

「へぇ、アレで七割? また随分な妖力だね?」

「まあ、妖怪の力は生きた年月が……ん?」

「……ココロ、誰と話してるの?」


 ……まさか。


「ん? どうしたの? そんな幽霊に出くわした様な顔しちゃって」

「……神って、死ぬという概念どころか傷つくという概念すらないのですか?」


 声が掛かった方を見れば、そこにはまたもや傷一つなく健在な姿な糞神。くそ、こちらは全てのお酒をつぎ込んだのですよ。それだというのに何故無傷。納得いかねぇ。


「いんや、死ぬ時には死ぬし、普通に怪我もするよ。まあ、種明かしするなら、分霊ってやつかな」


 ……あー、そういえば昔の書物で見た事があります。神って同じ能力を持った分身みたいなものを無限に増殖させられるのですよね。うわ、ていうことは、私が今までやった事って全部無駄骨?


「いや、無駄骨じゃないないよ? 私はあなた達を試す為に挑発とかしたんだから。見事い引っ掛かってくれたけど」

「……試す? どういうこと?」

「最近の物の怪……あなた達に合わせるなら妖怪になるね。その妖怪とは若干、雰囲気というか気配が違ったからさ、これは何かあると思って試しに分霊2体と戦わせてみたの。まあ、2体ともまさか一発でやられるとは思わなかったけど」

「一発? てことは、今あなたに一発デカイのぶつければ消し飛ぶんですか?」

「何言ってるの? そんな訳ないじゃん。あの分霊は耐久力そんなに高くない様にしたの。だから私はあの攻撃で一発では沈まないよ」


 チッ、残念。強行突破ができそうならやろうと思ったのに。


「まあ、話もあるから私の神社に寄ってってよ。たぶん、あなた達にとっても損にはならないよ?」


 ふむ、どうしたものでしょう。常識的に考えればこれは罠。行かずに一か八かの強行突破するところです。最悪、私の奥の手も使わざるを得ません。

 が、ここで彼女の種族が【神】である事に着目しましょう。糞神でもいけ好かない神でも神は神。嘘をつく筈もないし、そもそも罠に嵌めるぐらいなら私達をこの場で潰せばいい。つまりは、私達を態々彼女の領域に呼ぶ理由として、罠という線は薄いということです。


(……ココロ、どうする?)

(まあ、断ったら今度こそヤラれそうですからね。流石に付いていくしかないでしょう)


 実際、拒否権が無いのも事実。仮にヤリ合ったとして、勝てる見込みも零ではありませんが、可能性は低い。私が能力を全力で使っても良いのですが、これは私の制御が追いつかない為、周り(白亜)を巻き込んでしまうかもしれない。それは流石に不味い。最悪廃人にしてしまいます。


「分かりました。付いていきます」

「ん、じゃあ、付いてきて」


 ……まあ、少なくとも損をする様な事にはならないと言っているので、せめて有意義な時間になるようにしましょうか。






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