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東方心操録  作者: ハヤテ
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第十一話 弘法も筆の誤まり



 人間の短い人生の全てを賭しての願い。

 妖怪にとってみれば取るに足らないほどの短い生。たった数十年ほどの生など一瞬で終わるであろう時間。

 しかし、一つの生命がその生涯を賭して妖怪である私に願っている。その儚い命を私達に捧げてまで叶えて欲しい願いがあるという。


 私は、妖怪である以前に一つの生物としてその願いを叶えてあげたいと思った。


 何故女王といえどただの人間の頼みなど聞き入れる気になったかは分からない。というか、普通なら心底どうでもいいと斬って捨てるでしょう。

 それをしなかったのは卑弥呼の……いや、生を賭けた願いに興味を持ったのか。それとも、単純に情が湧いたのか……。私自身の事であるのに分からない。自分の能力が自分自身には使えない事に少し憤りを感じました。

 まあ、そんな事はどうでもいい。如何なる理由があろうとも、私が卑弥呼の願いを聞き入れたいと思ったという事実があればどうにでもなります。


 そんな訳で、実際に卑弥呼の願いとやらを聞いてみたのですが――――






「馬鹿ですね」

「……大馬鹿」

「ぐっ、そ、そんなに馬鹿馬鹿と連呼せんでもよいではないか!」

「ド阿呆ですね」

「……うつけ者」

「馬鹿と連呼しないだけで意味合いはかわっとらんじゃろうがー!」


 うがー! と頭を掻き毟ってゴロゴロ床をのた打ち回っている卑弥呼。出会った当初とは打って変わって随分と反応が変わったものです。まあ、どちらかというとこっちの方が素の様ですね。やはりクニを治める立場としてそれにあった応対をする必要があるので、その様な二面性ができたようです。


「いや、だって……ねぇ?」

「……人間が興味本位で出しゃばるからそういうことになる」

「うっ、いや、実際その通りなのじゃが、せめてもう少し柔らかく言えんのか?」

「五月蠅いですよ無計画」

「……考えなし」

「……グス」


 泣こうが喚こうが知った事ではない。

 私と白亜がこの様な辛辣な言葉を投げ掛けまくるのか。その理由は勿論卑弥呼が語った願い……というより、過去に起こった出来事に起因する。



 事の始まりは二年前。

 その日、卑弥呼は術の開発を行っていた。内容は病気を治す為の物。利用方法は無論、民の為そして序でに自分にも使えるようにとの事だったらしい。お手本の様な指導者ですね。

 彼女は鬼道の使い手ですが、普通にそれ以外の術も使えるようです。そして、鬼道はそういった治療には向かない。よって、鬼道を利用した新しい術を開発しようとした。

 そこまでは良いのです。発想も実に素晴らしいと思います。現にその術も『ある一点』を除いて完成しているのですから。尤もそのある一点に問題があり過ぎて卑弥呼は困ってしまったようですが。

 曰く、


「術自体は完成したのじゃが、術に使った神霊が馴染み過ぎて現人神になってしまった。何か寿命も無くなってるし実質不老不死と言っても良いかもしれん」


ということらしい。

 要するに、神のみたまである神霊を体に取り込み、その力を利用して病気を治そうとした。実際に成功もした。自身に施したその術は驚くほどの効果をもたらした。女王になってから悩まされていた肩こりも治り、胃の痛みも治まったのだ。だが、問題が発生した。取り込んだ神霊が体に馴染み過ぎて取り出せないのだ。無理して取り出そうものならウッカリ自分の魂ごとスポンと抜けそうになるのだ。流石にそれは洒落にならない。しかも何の因果か、不老不死になってしまった為寿命も無くなり、成長も止まった。


そんなこんなで二年経過。成長が止まっているので、いい加減民の目を誤魔化す事も難しくなってきた。しかも、こんな【人外】がクニを治められる筈も無い。人間に戻るか何か代案を立てる他無くなってきた。

そんな焦っていた時に、私達が現れた。



「まぁ、人民の事を考えて術の開発をするのは良いです。素晴らしい。ですがね、やっぱり後先考えてないですよね」

「むぅ……」

「……人智を超えた存在の力を舐めない方が良い」

「ぐっ、ご尤もじゃ。自分の能力を過信し過ぎた」


 特に私達の様な存在に常識は通用しない。鬼は山を持ち上げるほどの怪力を有し、天狗は一瞬でクニを破壊できるほどの暴風を巻き起こす。そんな人間の常識を遥かに超えた存在が私達(妖怪)です。何が起こるか分からない、だからあらゆる可能性を想定しなければならないのです。


「と言っても、ぶっちゃけそれは不可能な事なので卑弥呼が失敗したのは仕方がない事なんですよね」

「んなっ、では妾があそこまでボロクソ言われた意味は……」

「ああ、面白かったですよ?」

「遊び半分!?」

「むしろ全部」

「……で、あなたの願いだけど」


 卑弥呼を弄っている間にも着々と話の本題を進めていく白亜は素直にすごいと思う。主に空気とかその辺を顧みない辺りが。


「そうじゃ、それが聞きたかったのじゃ。なんとかなるか?」

「あなたに質問しますけど、例えばあなたが過ごした二年間、無かった事にできますか?」

「……それは時間の逆行。事象の消去とも言う」

「……できないのか?」

「無理です。神霊を取り込んだ直後ならなんとかなったかもしれませんが、その神霊はあなたの魂と完璧に融合を果たしています。しかも、都合のいいことに力だけをあなたに与えたようですね。不老になった事以外は悪い事はないでしょう」


 そもそも人間からしてみれば不老になった事もそんなに悪い事では無い気がしますが。なにせ、寿命が延びるのですから。

 もっとも、卑弥呼の場合はそう簡単な話ではないんですけどね。


「そうなると、妾は女王ではいられぬな」

「まあ、そうですね」


 そう、卑弥呼の説明にあった様に、人外では人間のクニを治めていけない。そこら辺の理屈は私には分からないのですが、人間が妖怪を治めるのが絶対に無理なように、その逆も然りという事なのでしょう。


「……で、どうするの?」

「自分で言うのもなんですが、私は術なんて使えませんよ?」

「……というか、私達鬼は脳筋。……複雑な術なんて無理」

「む、そういえばお主らは何ができるのじゃ?」


 ……何ができる、ねぇ。


「……【岩石を操る程度の能力】」

「まぁ、今回に限っては全く役立ちそうにないんですけどね。私達の脱出以外では」

「……うるさい」

「岩石……普通じゃ。普通じゃが、だからこそ敵に回したら怖いな」


 怖いなんてもんじゃない。


「で、お主は?」

「私ですか? 【心を操る程度の能力】ですよ。まぁ、まだ自分自身扱いきれていない感がありますけどね」

「ほほぅ」

「……」

「ん? 白亜、どうかしました?」

「……別に」


 何か言いたげな表情だったんですけどね。


「ま、いいです。さて、此処から如何にしてこの問題を解決するか説明していきますよ」

「お主ら、それはできないと言っておらんかったか?」

「あれは根本から全てを無くす事が無理だと言ったのです。誤魔化し程度なら造作もありません。というか、私の本領は誤魔化す事ですよ」

「誤魔化す? どのようにじゃ?」

「最終確認ですが、あなたは自分が人外になった事を誰にも知られる訳にはいかないのですね?」

「うむ。それだけでクニが崩壊するかもしれぬからな」

「分かりました。では、事を始める前の前提条件として……」

「前提条件として?」

「あなたが最も信頼している部下にこの事を全てぶっちゃけてくださいな」

「……は?」






 私の策はそう難しいものではありません。単純に大衆に幻覚と洗脳を二重に掛けて誤魔化そうというものなのですから。私の能力の範囲内に卑弥呼が人を集めてくれたらその時点で策は成るのです。ですが、この策には現時点では欠けているものがあり、それを欠いては策は成らないのです。


 つまり、卑弥呼の変わりに鬼道を使える者がいない。


 流石に私も人を作りだす事は不可能です。卑弥呼にしたって短期間なら術により式神なり人形なり用意できるかもしれませんが、それが長期間持つかと聞かれれば不安が残る筈です。よって、必ずあと一人は絶対に人が必要なのです。


「理解していただけましたか?」

「うむ。理解して上で言う。それは駄目じゃ」


 ……言うと思った。どーしてこう、人間は面倒くさいんでしょうかね。


「反論してくるのは分かってたので予め代案用意しておきましたよ。ですが、やはり人一人巻き込むのは変わりませんよ?」

「聞こう」

「これはあなたの能力だよりになってくるのですが、まず半永久的に人の型を取れる式神を作れます?」

「性能によるがな」

「人の言葉喋る以外の性能はいりません」

「まあ……霊力的には可能じゃな」


 可能……なら私の考えている事も出来そうですね。


「なら、あなたはこれから人前には姿を現してはいけません」

「は?」

「あなたが会話するのは一人だけです」

「待てい」

「そして、あなたは今から30年後にお陀仏します」

「どういうことじゃ!」


 我慢の限界がきたのか目尻を釣り上げて怒鳴ってきました。おお、怖い怖い。体中から霊力が溢れ出ておりますよ。ハハハ、ヤベェ。体が霊圧で重くなってきやがった。


「……落ち着くべきそうすべき」

「落ち着けるか! 急に妾の生き様を決められたと思ったら最終的には死ぬ時期まで決められたのじゃぞ!」

「誤解ですよ。それはあなたの式神のお話です」


 大体、寿命が尻尾巻いて逃げだしたあなたに死ねとか言っても意味ないでしょう。あれか、短気か。短気なのかこの人。


「……ああ、なんじゃ。そういう話か」

「そうそう。で、後はその式神にあなたの操れる範囲の神霊を取り憑かせて」

「このクニを統治。お告げはその信用している一人が民に伝えるという事じゃな?」

「正解」


 で、どうなのでしょう? この事を伝えた卑弥呼の心境は悪くはないんですけどね。後はもう少し詰み込みする感じでしょうかね。


「……なにか問題が?」

「む、いや。その案自体は良いのじゃ。だがな……」

「? 問題でもあるのですか?」

「万が一を考えるとの……」


 事の重大性故か、卑弥呼は妙に慎重になっています。人間って総じてそういうところありますよね。もっとこう、『ガバッ』と行けないものなのでしょうか。私は即断即行ですよ。


「妖怪と人間を一緒にするでないわ!」

「……私も即断即行」

「だからそれは妖怪だけじゃ! 人間は寿命が短い故に慎重になって行動するのじゃ!」

「あなたもう人間と違いますけど」


 人外ですね。『人の道を外れた者』と書いて人外。


「体は人外なれど、人の心を忘れた覚えはない!」

「まあ、それは追々考えていくとして」

「お主が事の発祥じゃろうがー!」


「うがーッ」と頭を掻き毟って床をのた打ち回る卑弥呼。からかいがいのある人ですねぇ。……イイわぁ。


「……ココロの恍惚とした表情……イイ」

「ん? 白亜、何か言いました?」

「……なにも」


 気の所為だったようです。

 私の気の所為もどうでもいいとして、そろそろ本当に卑弥呼の不安を取り除くとしましょうか。具体案なんて何も無いんですけど。


「……式神は霊力さえあれば誰でも使える物?」

「うがぁー……あーあー、うむ、そうじゃな。霊力があり、それなりの修行を積めばできるじゃろ」


 式神? ……あ、成程。


「白亜、鋭いですね。そこに着目しますか」

「……土台がしっかりしていれば問題など起こり得ない」


 確かにその通りです。私達の旅も土台が(料理)がしっかりしていたから成り立っていたようなもの。計画性なんてありませんでしたし。私達の旅が成立したのは1に酒虫ちゃん、2に料理、3・4はなくて5に私のお蔭です。白亜? 知らん。何もしてないような気がします。あ、私の会話相手になってくれてます。実は地味に助かっているので6に白亜ですね。


「では、ちょっとそこら辺から才能ありそうな人を攫ってきますね」

「ちょっと待てぇ!!」

「……うるさい戯けが」

「戯けはこっちの台詞じゃ! 攫ってくるぅ? そんなの妾が認める訳ないじゃろ!」

「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ卑弥呼さん。攫ってくるとは言葉のあやでしてね」

「む、それもそうか。いや、すまぬ。妾が早とちり―――」

「実際には身寄りのない子供を誘拐してくるだけです」

「実際何も変わっとらん……ん? 身寄りのない?」

「ええ。放っておいたら飢え死しそうで才能がありそうという何とも都合が良過ぎて本当にいるかどうか分からない人間を攫ってくるんですよ。あ、期限はどれくらいが良いですか?」


 てか、本当にそんな都合の大変よろしい人間いるのでしょうか? 身寄りのない才能に溢れた子供なんて。まあ、世界は広いですから探せばいくらでもいるのかもしれませんが……探すのが大変そうですねぇ。


「できれば早めが良いんじゃが……のう」

「はい?」

「頼んだ妾がこんな事聞くのはおかしいのじゃろうが……何故そこまでしてくれるのじゃ? お主ら妖怪からしてみれば人間の事情なぞどうでもいい事じゃろ?」

「ん? ああ、まあそうですね。どうでもいいどころか無関心の領域に達しますね」

「なら何故……」

「……鬼は、酒豪で勝負好きでいい加減。そして強いから手に負えない。人間にとって最も危険な妖怪といえる。……でも」

「真っ直ぐな『生き物』は大好きですよ。つい助けてしまいたくなるぐらい」

「……それは」

「私達は人間という種族の卑弥呼に協力している訳ではありません」



「私達は、鬼が認めた『生き物』としての卑弥呼に協力しているんです」





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