表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/44

23ページ目

 そこから2日間はこの闘技場で過ごした。師匠が兵士たちに引っ張りだこだったからだ。一通り戦士らの治療を終えると、師匠は泥のように眠った。


 傷の痛みも和らぎ、何とか動けるようになったところで、玉座に向かってみることにした。戦士たちに聞いたところ、このすぐ東にある角ばった建物の最上階に玉座があるとのことだった。


 傷モノの体に、長い階段は堪えた。それでも何とか最上階に登り切ると、1フロアが丸々、黄金の財宝で埋め尽くされた部屋へとたどり着いた。


 その中央に、ひときわ大きな椅子に座っているバフォルグ。青いマントがよく目立つ。隊長だ。


「……来たか。お前たちには話しておこうと思ってな」


 隊長は僕たちを見るなり、立ち上がってそう言った。


「そこのお前。この国に来た時、なぜ俺が許可証を渡してまで入国させるのか、と問うたな」


 彼は僕を指差した。


「それはお前たちに賭けたからだ。この反乱は数年前から計画されていてな。だが俺たちは戦力で圧倒的に負けていた。そりゃ当然、闘技場で金儲けしている連中の方が金回りが良いからな。困窮した元戦士でも、他種族の傭兵でもなんでも引き込める」


 城門や郊外に比べ、闘技場やその近辺があれほど発達していたのは、王が仲間のいる中央地域だけを発展させていたからだろう。そこにいたバフォルグたちの服装も戦士とは全くと言っていいほど異なっていた。


「そのうえ、金を持った上層部たちを誰か一人でもうち漏らすと、いずれ再生されちまう。一網打尽にする必要があった」


「だから上層部が集まったあの瞬間が絶好の機会だったわけか。でも、全員が集まるとは限らなくないか……? 僕が注目を浴びたのは一度魔獣に勝っているからで、そうならない可能性の方が大きいはず」


 僕の問いに、彼は再び答える。


「だからこその賭けだ。別に初めからお前らありきの作戦を練っていた訳じゃない。偶然そうなっただけだ。だが、上層部をどう集めるか、その答えが見つからなかったのも事実。時間をかけていては俺たちの戦力はどんどん削がれていく。俺らしくないが、煮詰まった状況を打破するための不穏分子だったんだ、お前らは」


 なるほど、不穏分子か。それが何の因果か、彼の求めていた結果に帰着したわけだ。


「さて、俺たちはお前らの頑張りに便乗したわけだが、何か褒美をやらねば俺の立つ瀬がない。さあ何が欲しいか言ってみろ。この部屋にある黄金ならばくれてやるぞ」


 彼はそう言って机の上にあった金のカップを持ち上げた。細かな装飾がされたそれは、日の光を反射してキラリと光る。


「本……。僕たちはとある本を探している。かつて人間と大魔族が交流していた際に遺されたと言われるものだ。これについて何か知っていることはないか」


「ふむ……。確かにこの国に来た時、そんなことを言っていたな。だが結論から言うと、そんな本の話など聞いたことが無い。」


 隊長はあごに手を置いて低くうなった。知らないか……。しかしペンダントはまだこの国に反応を示している。


「だが、情報のありそうな場所なら知っている。少し遠いが、ここから北にずっと進むと山羊頭族マギアンという種族が住む都市がある。あそこは魔法都市と言われるほど、様々な知恵が集積している場所だ。そこの奴らなら何か知ってるかもしれん」


「魔法都市……!」


 師匠はうずうずしながら、その名を呟いた。しまった、名前を聞かせたのは間違いだった。


「すまんが、これぐらいしか俺には分からん」


「いえ、十分です。ありがとうございました」


 そう言って立ち去ろうとする僕たちを、隊長が引き留めた。


「なに、こんなことでいいのか……?言っただろう、褒美をやらねば俺の立つ瀬がないと」


 律儀な人だ。そこまで言うなら、黄金の1つでも貰っていこうか。そんなことを考えていると、隊長は部屋の隅にあった本棚から、一冊の古びた本を取り出した。黄金で埋まったこと部屋にはふさわしくないほど汚れている。


 すると突然ペンダントが大きく光りだした。


「……実はあの時、闘技場で小僧の戦いを上から見ながら、突入の機会をうかがっていた。その時に思ったんだが、お前、なかなかいい胆力をしている。……これはこの国に代々伝わる魔導書だ。お前なら使いこなせるやもしれん」


 そう言って彼は僕に本を手渡した。


「そんな大切な物、もらってもいいのか……?」


「よい。魔法を使いこなすには、意志の強さと魔法の適正が必要と言われているが、俺たちバフォルグには前者はあっても、後者は乏しい。それに俺はこれから外交と国内政治と、やることが山ほどあるんだ。そんな本持っていても宝の持ち腐れだ」


「これ、すごく古い魔力を感じるわ。」


 エルヴィアは本を見つめて言った。


「……ありがとう。ありがたく頂戴する」


 僕は頭を下げた。本を懐にしまうと、ペンダントは落ち着きを取り戻し、また別の方向、今度は北の方角を示し始めた。やはりこのペンダント、アテにならない……。本類には反応しているようだが、果たして、ちゃんと目的の本にも反応してくれるのだろうか。


「今のお前じゃあ弱すぎるからな。それが何かの足しになれば、本探しとやらも捗るだろう」


 隊長はマントを翻すと、豪華な椅子に座りなおした。確かに反論はできないな……。


 そうして、未だにうずきを隠せない師匠と共に玉座を去った。その後、例の店を訪れると、モウジャックと店主が泣きながら酒を酌み交わしている所に遭遇した。


 店主がぜひ宴に加わってほしいと言うので、僕たちも同じ席に着いた。この国の酒はかなり度数が強かったらしく、師匠はいつもより早く酔いつぶれた。それから彼らの昔話を肴に味の濃い肉をほおばっていると、すぐに間に夜が明けてしまった。


 翌日、彼らはお礼に差し出せるもの何でも渡すと言ったので、いくつかの布や食料、旅の用品を分けてもらった。そうして僕たちは次の街へと歩みを進めた。


 城門の関所には警備が1人しかいなかった。他の戦士は国内の情勢安定に努めるのに手いっぱいなようだ。入国と違って、出国はやけに容易で、軽い身体検査が行われただけだった。


 僕は振り返って、段々と小さくなっていく城壁を見つめていると、師匠が口を開いた。


「何か気になることでもあるのかい?」


「国の中央は、外見からは想像できないほど発展していました。他種族も大勢いて、外交も盛んだったでしょう。だけど、その体制ももう崩れてしまった。少数派だった隊長派閥が無事に統治できるのかどうか……」


「そうだね……。どちらの道があの国にとって正しいかは分からない。ただ少なくとも私は、搾取される人の上に成り立っている国はあまり好きではないね。人類史から見ても、そういう国は滅んでいく運命だし」


「私も嫌いよ! あんな残虐なショーなんて、無くなって当然だわ!」


 僕もあんな命を粗末にした見世物はどうかと思う。どちらにせよ、僕たちが出来る事はもう何もないんだ。考えたって仕方ない。


 まだ無事で旅を続けられていることに感謝しつつ、前を向きなおした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ