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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第一章 鎧の少女

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第8話 《全解除・パージ》


 修理された鎧を身につけたソアは、街の外へ向かっていた。


 全身を覆う重厚な鎧。


 胸当て。


 肩当て。


 腕当て。


 脚甲。


 兜。


 剣。


 盾。


「……うん」


 ソアは満足そうに頷いた。


「やっぱり鎧は最高!」


 歩くたびに、ガシャ、ガシャと金属音が響く。


 身体は重い。


 動きも遅い。


 それでもソアは嬉しそうだった。


「強くなるために鎧を脱ぐなんて、私にはできないもんね」


 昨日、何度も考えた。


 《スキンブースト》の効果。


 装備が壊れる。


 身体能力が上がる。


 修理した装備を身につける。


 能力が元に戻る。


 おそらく間違いない。


「でも……」


 ソアは自分の鎧を見下ろした。


「戦ってる途中で、ちょっとだけ外せたらいいのにな」


 その瞬間だった。


 森の奥から、魔物が飛び出してきた。


「――来た!」


 ソアは盾を構えた。


 狼型の魔物が三体。


「三体なら大丈夫!」


 ソアは剣を振った。


 ガキィン!


 爪を盾で受け止める。


 反撃。


 だが、身体が重い。


「くっ……!」


 剣が遅い。


 狼が横から回り込む。


「しまった!」


 ガキンッ!!


 爪が左肩の装甲に食い込んだ。


「痛っ!」


 ソアがよろめく。


 狼がさらに飛びかかってくる。


「――っ!」


 ソアは盾を構えた。


 だが、その瞬間。


 左肩の装甲に、亀裂が走った。


 ピシッ。


「……あ」


 次の一撃。


 ――ガシャァン!!


 左肩の装甲が砕けた。


「!」


 ソアの身体が軽くなる。


「やっぱり……!」


 速度が上がった。


 狼の攻撃をかわす。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


「これなら!」


 剣を振る。


 今度は当たった。


 一体目が吹き飛ぶ。


「よし!」


 二体目。


 かわす。


 斬る。


 三体目。


 盾で弾く。


 斬る。


 あっという間に、三体の魔物を倒した。


「……やっぱり」


 ソアは左肩を見る。


 壊れた装甲。


 そして、明らかに軽くなった身体。


「壊れると強くなる」


 これはもう間違いない。


 だが。


「…………」


 ソアは壊れた肩当てを拾った。


「でも、これをまた直して着たら……元に戻る」


 少しだけため息をつく。


「うーん……」


 そのときだった。


 ソアの頭に、ふと昨日のことが浮かんだ。


 《全解除》。


 全部を解除してしまうスキル。


 呪いも。


 装備も。


 服も。


「……」


 ソアの顔が引きつった。


「それは絶対に嫌」


 即答だった。


 あんな思いは二度としたくない。


「でも……」


 ソアは考える。


「全部じゃなくて、一個だけなら?」


 その瞬間。


 頭の中に、聞き覚えのない言葉が浮かんだ。


 ――《全解除・パージ》


「……え?」


 ソアは目を瞬いた。


 スキル欄を確認する。


【スキル】


【剣術】

【盾術】

【スキンブースト】

【全解除・パージ】


「……変わってる」


 以前は《全解除》だった。


 それが今は――。


「《全解除・パージ》?」


 ソアは恐る恐るスキルを使ってみた。


「……《全解除・パージ》」


 すると。


 左肩に残っていた装甲が、ふわりと浮いた。


「え?」


 ガシャッ。


 装甲がソアの身体から離れ、そのまま地面に落ちた。


「……外れた」


 ソアは目を丸くした。


 壊れていない。


 ただ外れただけだ。


「もしかして……!」


 ソアは急いで右肩の装甲を見た。


「これも……」


 意識を集中する。


「《全解除・パージ》!」


 ガシャッ。


 右肩の装甲も外れた。


「できた!」


 ソアは両肩を回した。


 身体が軽い。


 だが、鎧を全部脱いだわけではない。


 胸当てもある。


 腕当てもある。


 脚甲もある。


 服もある。


「……これなら!」


 ソアの顔が明るくなった。


「鎧を着たまま、強くなれる!」


 それはソアにとって革命だった。


 鎧を捨てる必要はない。


 必要な部分だけ外せばいい。


 しかも――。


 外した装備は壊れていない。


 ソアは地面に落ちた肩当てを拾い上げた。


「……直す必要もない」


 嬉しそうに笑う。


「最高じゃん!」


 ソアはさっそく試してみることにした。


 胸当てをつけたまま。


 腕当てもつけたまま。


 脚甲もつけたまま。


 そして肩当てだけを外す。


 少しずつ身体が軽くなる。


 だが。


「……あれ?」


 ソアは気づいた。


「これって……」


 壊れたわけではない。


 なのに。


 肩当てを外しただけで、《スキンブースト》の効果が上がっている。


「やっぱり」


 ソアは確信した。


「装備が外れること自体が、強くなる条件なんだ」


 ただし。


 ソアはまだ、少しだけ勘違いしていた。


 《スキンブースト》が何を意味しているのか。


 なぜ装備を外すと力が増えるのか。


 その本当の理由までは分かっていない。


 ソアが分かったのは、たった一つ。


「壊さなくてもいい!」


 それだけだった。


「これなら修理代も減る!」


 ソアは拳を握った。


「お金にも優しい!」


 強くなる。


 鎧も壊れにくくなる。


 そして、大好きな鎧も着ていられる。


「完璧!」


 ソアは満面の笑みを浮かべた。


 そして。


 地面に落ちていた肩当てを、大切そうに袋へしまった。


「これは持って帰ろう」


 壊れていなくても、ソアにとっては大切な装備だ。


 そのとき。


 森の奥から、低い唸り声が聞こえた。


「……ん?」


 ソアが振り返る。


 木々の向こう。


 先ほどの狼たちとは比べものにならないほど大きな影が動いていた。


「……次の相手?」


 ソアは剣を抜いた。


 そして、少しだけ笑う。


「ちょうどいい」


 左肩は空いている。


 右肩も空いている。


 それでも胸当ては残っている。


 腕も。


 脚も。


 兜も。


 全部は捨てない。


「これが、私の戦い方!」


 ソアは駆け出した。


 その姿は、まだ重厚な鎧に包まれていた。


 けれど。


 少しずつ鎧を手放しながら戦う少女の物語は、ここから大きく変わり始める。

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