↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第八章 灼熱の炉心と、生まれ変わる鎧

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/158

第79話 熱すぎる遺跡と、動き出す鎧


「……暑い」


ソア・ミュスカは、遺跡の通路で立ち止まった。


「暑いよぉ……!」


「まだ言ってるの?」


レイナが振り返る。


「だって! 外より暑いんだもん!」


遺跡の内部には、赤黒い岩壁がどこまでも続いていた。


壁の隙間からは青白い光が漏れ、床には細い溝が刻まれている。


その溝を流れているのは、溶岩ではない。


淡く輝く魔力だった。


「……これ、全部魔力なの?」


ソアがしゃがみ込む。


「触らないで。何が起きるか分からないわ」


「分かってるよ」


そう言いながら、ソアは手を伸ばしかけていた。


「ソア」


「はい」


素直に手を引っ込める。


レイナは小さくため息をついた。


「あなた、冒険者としての経験は積んでいるのに、どうしてそういうところは変わらないの?」


「気になるものは気になるんだもん」


「気持ちは分かるけれど……」


「レイナも気になるでしょ?」


「それは……」


レイナは床の魔力を見つめた。


「……否定はしないわ」


「ほら!」


「でも、触らない!」


「はい……」


ソアはしょんぼりと肩を落とした。


その頭の上で、シードの葉がぴょこんと揺れる。


「……ソア」


「なに?」


「……えらい」


「えっ?」


「……さわらなかった」


「シードぉ……!」


ソアは感動したように両手を握った。


「ありがとう! 分かってくれるのはシードだけだよ!」


「いえ、私も分かっているつもりだけど?」


レイナの声は、二人には届かなかった。


     *


しばらく進むと、通路が大きな広間へとつながった。


天井は高く、中央には円形の台座がある。


その周囲には、いくつもの金属製の柱が立っていた。


「……何かしら、これ」


レイナが慎重に近づく。


柱には、古代文字と竜の紋章が刻まれていた。


そして、台座の中央には小さなくぼみがある。


ソアは目を輝かせた。


「宝箱かな!?」


「台座よ」


「宝箱を置く台座かもしれない!」


「どうして宝箱が前提なのよ……」


「だって、遺跡だよ?」


「遺跡には罠もあるの!」


「……罠付きの宝箱?」


「そういう話じゃないわ!」


レイナの声が広間に響いた。


シードは二人のやり取りを眺めていたが、やがて台座に目を向けた。


「……ここ」


「どうしたの?」


「……ながれてる」


シードが指さしたのは、台座から床へ伸びる細い溝だった。


そこを通る魔力は、他の場所よりも強く輝いている。


「この台座が、魔力を集めているのかしら?」


レイナが考え込む。


その瞬間だった。


ピィィィン!


広間に甲高い音が響いた。


「えっ!?」


台座が青白く光る。


同時に、周囲の柱が次々と点灯した。


ゴゴゴゴゴ……!


床が揺れ始める。


「ちょ、ちょっと! 何もしてないよ!?」


ソアが慌てて両手を上げる。


「あなた、何か触ったんじゃないでしょうね!?」


「触ってないってば!」


「本当に!?」


「本当!」


シードがソアの胸当てを見つめた。


「……ちがう」


「え?」


「……ソアじゃない」


シードは台座を見上げる。


「……むこうから、きた」


その言葉と同時に、広間の奥にある壁が動いた。


ガガガガガ……!


岩壁の一部が左右に開き、暗い通路が姿を現す。


その奥から、熱風が吹きつけた。


そして――。


ズシン。


重い足音が響いた。


「……魔物?」


レイナが剣を抜く。


ズシン。


もう一度、足音。


暗闇の向こうに、二つの赤い光が浮かび上がった。


「来るわ!」


レイナが叫ぶ。


次の瞬間、巨大な岩の塊が通路から飛び出してきた。


全身を赤黒い岩で覆われた魔物。


その胸部には、青白い結晶が埋め込まれている。


「ゴォォォォ……!」


「うわっ、大きい!」


ソアは盾を構えた。


「でも、これくらいなら!」


魔物が腕を振り下ろす。


ドォン!!


ソアは盾で受け止めた。


「ぐっ……!」


衝撃が腕に走る。


足元の石畳が砕け、ソアの身体が少し後ろへ押された。


しかし、倒れない。


「……よし!」


以前なら、衝撃に耐えるだけで精いっぱいだった。


けれど、今は違う。


ソアは足を踏ん張り、衝撃を全身に分散させた。


重い鎧に振り回されるのではなく、鎧の重さを利用して踏みとどまる。


「レイナ! 右からお願い!」


「分かったわ!」


レイナが魔物の側面へ回り込む。


魔物の視線がそちらへ向いた瞬間、ソアは横へ踏み出した。


ガシャッ!


鎧の関節が鳴る。


「……っ!」


一瞬、足が遅れた。


魔物の腕が迫る。


「ソア!」


「大丈夫!」


ソアは盾を引き、身体をひねった。


ゴォンッ!


巨大な腕が盾の縁をかすめ、床に叩きつけられる。


その隙にソアは魔物の懐へ飛び込んだ。


「今だ!」


剣を振る。


ガキィン!


刃が岩の表面に弾かれた。


「……硬っ!」


魔物が振り向く。


ソアは慌てて後ろへ跳んだ。


ドォン!


さっきまで立っていた場所に、拳が突き刺さる。


「うわぁ……! 全然効いてない!」


「胸の結晶を狙って!」


レイナが叫んだ。


彼女の大剣が魔物の脚を打ち、体勢を崩させる。


「分かった!」


ソアは剣を握り直した。


胸の結晶。


そこから流れる魔力が、魔物の身体を動かしている。


ならば――。


「シード! あの結晶、何か分かる?」


「……まほう、ながれてる」


「止められる?」


「……やってみる」


シードの足元から、細い蔓が伸びた。


しかし、魔物が身体を大きく揺らす。


ゴォン!


蔓は弾き飛ばされた。


「……むずかしい」


「大丈夫! もう一回!」


ソアは魔物の正面に立った。


盾を構え、わざと大きく踏み込む。


「こっちだよ!」


「ゴォォォォ!」


魔物がソアへ向かって腕を振り上げた。


ソアはその動きを見極める。


右肩が動いた。


腕が上がる。


そして――。


「今!」


ソアは横へ踏み出した。


ダッ!


鎧の重さを利用して、足を滑らせるように方向を変える。


腕が頭上を通り過ぎた。


「避けられた!」


ソアは魔物の懐へ入り込む。


剣を逆手に持ち替え、結晶へ向かって突き出した。


ガキィン!


刃が結晶に当たる。


亀裂が走った。


「入った!」


魔物が大きく吠える。


「ゴォォォォォッ!」


胸の結晶から、青白い光が漏れ始めた。


その瞬間、シードの蔓が再び伸びた。


今度は結晶の周囲へ巻きつき、魔力の流れを押さえ込む。


「……とまって」


ピシッ。


結晶に亀裂が広がる。


そして――。


パキィン!


結晶が砕けた。


魔物の動きが止まる。


赤い目の光が消え、巨大な身体がゆっくりと崩れ落ちた。


ドォォン……。


静寂が広間に戻った。


「…………」


ソアは剣を下ろした。


「……倒した?」


「ええ。今度こそね」


レイナが剣を鞘に収めた。


シードは砕けた結晶のそばにしゃがみ込む。


「……これ」


「何か分かった?」


シードは小さく頷いた。


「……まもの、じゃない」


「え?」


「……まほうで、うごかされてた」


レイナの表情が険しくなる。


「誰かが魔力を流し込んで、操っていたということ?」


「……たぶん」


ソアは砕けた結晶を見つめた。


黒い筋が、青白い光の中に混じっている。


見覚えのある色だった。


「……黒い結晶」


黒衣の男が使っていたものと、よく似ている。


ソアは拳を握った。


「やっぱり、あの人がここにいるんだ」


     *


戦闘のあと、ソアたちは広間を調べた。


台座の光は弱まっていたが、完全には消えていない。


レイナが壁の古代文字を確認する。


「ここには、魔力を集める装置があったみたいね」


「集める?」


「ええ。でも、集めるだけではないようだわ」


レイナは床の溝を指さした。


「魔力が、台座から別の場所へ流れている」


シードが頷く。


「……いれて、ながす」


「そう。どこかへ送っているのね」


ソアは腕を組んだ。


「じゃあ、この先に竜皇砲があるのかな?」


「可能性は高いわ」


「よし! 行こう!」


元気よく歩き出そうとしたソアの足が、ぴたりと止まった。


「…………」


レイナが振り返る。


「どうしたの?」


ソアは、胸当ての端をそっと押さえた。


ギギッ。


小さな音。


「……今、鳴った」


「ええ」


「……また鳴った」


「聞こえたわ」


ソアの顔が青ざめる。


「……帰ったら、鍛冶師さんに相談しよう」


「だから、そう言っているでしょう?」


「うう……」


ソアは胸当てを撫でた。


「お願いだから、最後まで頑張ってね……」


その声は、戦闘中よりもずっと切実だった。


レイナは思わず苦笑する。


「鎧にお願いしても、直るわけじゃないわよ」


「分かってるけど!」


ソアは胸当てをぎゅっと抱えた。


「……大切なんだもん」


その言葉に、レイナは何も言わなかった。


シードもまた、ソアの鎧を見つめていた。


その小さな葉が、微かに揺れる。


「……ソア」


「なに?」


「……だいじょうぶ」


「……うん」


ソアは笑顔を作った。


「大丈夫。まだまだ一緒に冒険するんだから!」


三人は、広間の奥へと続く通路を見つめた。


その先からは、さらに強い熱と魔力が流れてきている。


そして、遠く離れた最深部では――。


黒衣の男が、ゆっくりと顔を上げていた。


「……起動したか」


彼の前にある巨大な装置。


その中央で、青白い光が強く脈打った。


ドクン。


「もうすぐだ」


男は呟く。


「竜皇砲……」


光が再び脈打つ。


ドクン。


「今度こそ、すべてを間に合わせる」


その声は、静かな遺跡の奥へと消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。