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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第八章 灼熱の炉心と、生まれ変わる鎧

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第78話 炉心遺跡への道と、熱すぎる鎧


「……暑い」


ソア・ミュスカは、山道の真ん中で立ち止まった。


「暑いよぉ……!」


全身を覆う魔法鋼の鎧。


その表面は、火山から吹きつける熱風によって、じんわりと熱を帯びていた。


「まだ入口にも着いてないのに……」


「さっきから、そればっかりね」


隣を歩くレイナが、呆れたように言った。


彼女は額の汗を拭いながらも、涼しい顔をしている。


少なくとも、ソアほど大騒ぎはしていなかった。


「だって! 鎧が! 暑い!」


「脱げばいいじゃない」


「それはダメ!」


即答だった。


「暑くても鎧は着る!」


「……そこまでくると、もう信念ね」


「信念だよ!」


ソアは胸を張った。


ガシャッ。


その瞬間、胸当てから小さな金属音が鳴った。


「……あ」


レイナの目が細くなる。


「今の音は?」


「何でもないよ?」


「ソア」


「……関節がちょっと鳴っただけ」


「帰ったら鍛冶師に見てもらう約束だったでしょう?」


「分かってるよぉ……」


ソアは胸当てをそっと撫でた。


火山の町ラーヴァで出会った女性鍛冶師は、帰還後に鎧の関節を補強してくれると言っていた。


それまでは、できるだけ壊さずに使いたい。


「今回は絶対に壊さないから!」


「その台詞、何度目?」


「……三回目?」


「少なくとも十回は聞いたわ」


「そんなに!?」


「ええ」


レイナは即答した。


ソアは小さく肩を落とした。


「……気をつけます」


     *


「……ソア」


その時、シードがソアの袖を引いた。


「ん? どうしたの?」


小さな植物の精霊は、山の斜面を見つめていた。


頭の葉が、微かに揺れている。


「……したから、くる」


「下から?」


ソアは足元を見た。


「地面?」


「……うん」


シードはしゃがみ込み、地面に手を触れた。


淡い緑色の光が、指先から広がる。


しばらくすると、地面の奥から微かな振動が伝わってきた。


ゴゴゴゴ……。


「……魔力が流れてる?」


レイナが剣の柄に手を置いた。


「火山の活動によるものかしら」


「……ちがう」


シードは首を振った。


「……ながれ、へん」


「流れが変?」


「……あつい。すごく、あつい」


シードは手を離した。


その表情は、いつもより少しだけ険しい。


「……よばれてる」


「呼ばれてるって……誰に?」


ソアが尋ねる。


シードは答えなかった。


ただ、山の奥をじっと見つめていた。


その視線の先には、黒い岩肌に隠れるようにして、古代の石造りの建物が姿を現し始めていた。


「……あれが、炉心遺跡?」


レイナが呟いた。


ソアは目を輝かせた。


「おおっ! ついに到着!」


一歩踏み出す。


ガシャッ。


二歩目。


ガシャッ。


三歩目。


ギギッ。


「…………」


ソアが止まった。


「……今のは?」


レイナが無言で見つめる。


「……帰ったら、鍛冶師さんに相談しよう」


「そうね」


「絶対に相談しようね!」


「分かったから、先に進みましょう」


「うん!」


ソアは元気よく歩き出した。


その背中を、シードが心配そうに見つめる。


「……ソア」


「なに?」


「……こわさないで」


「うっ……!」


ソアの足が止まった。


「……が、頑張ります」


     *


炉心遺跡の入口は、巨大な岩壁に埋め込まれていた。


扉の中央には、竜を象った紋章。


その周囲には、七つの円が刻まれている。


ソアは紋章に手を伸ばしかけ、途中で止めた。


「……触ってもいいかな?」


「罠があるかもしれないわ。少し待って」


レイナが扉を調べる。


シードも、扉の表面にそっと手を当てた。


すると――。


ピィィィン。


七つの円のうち、一つが青白く光った。


「……!」


三人は顔を見合わせた。


光は竜の紋章へと移動し、扉の奥へ吸い込まれていく。


ゴゴゴゴゴ……!


重い音とともに、扉の一部が動いた。


しかし、完全には開かない。


扉の隙間から、熱風が吹き出した。


「わっ!?」


ソアの兜が、カタカタと揺れる。


「……暑い! さっきより暑い!」


「そんなことを言っている場合じゃないでしょう!」


「分かってるけど暑いものは暑いよ!」


レイナはため息をついた。


だが、その表情はすぐに真剣なものへと変わった。


「……この扉、誰かが先に起動させているわ」


「え?」


ソアが振り返る。


「どういうこと?」


「見て。ここの刻印よ」


扉の下部には、黒く焦げたような跡が残っていた。


自然にできた傷ではない。


魔力によって、意図的に刻まれたものだった。


シードが小さく呟く。


「……くろい」


ソアは拳を握った。


「……あの人が来てるのかな」


黒衣の男。


七つの器を集め、世界樹の力を一つにまとめようとしている人物。


彼は何を知り、何をしようとしているのか。


そして、この炉心遺跡には何が眠っているのか。


「……急ごう」


ソアは剣を抜いた。


「でも、無理はしない。危なくなったら、三人で協力する!」


レイナが微笑んだ。


「ええ。それでいいわ」


シードも頷く。


「……みんなで」


ソアは扉の向こうを見つめた。


「よし! 行こう!」


三人は、ゆっくりと遺跡の中へ足を踏み入れた。


     *


その頃。


炉心遺跡の最深部。


巨大な空間の中央に、黒衣の男が立っていた。


目の前には、竜の頭を模した巨大な装置。


その奥には、青白い光を放つ何かが眠っている。


男は、装置に手を触れた。


「……ようやく、ここまで来た」


装置の表面に、七つの紋章が浮かび上がる。


そのうち、いくつかは黒く染まっていた。


「竜皇砲……」


男は静かに呟いた。


「今度こそ、間に合わせなければ」


装置の奥で、青白い光が脈打つ。


まるで、心臓のように。


ドクン。


男は拳を握った。


「……残された時間は、少ない」


再び、光が脈打つ。


ドクン。


その光に呼応するように、遺跡全体が微かに震えた。


そして――。


遠く離れた入口で、ソアの鎧が小さく鳴った。


ガシャン。


「……?」


ソアは足を止めた。


「今、何か聞こえなかった?」


レイナは周囲を見回した。


「……何も」


シードだけが、暗い通路の奥を見つめていた。


「……ソア」


「なに?」


「……あのひと、いる」


ソアは剣を握り直した。


「……うん」


彼女たちの冒険は、まだ始まったばかりだった。

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