↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第七章 鉄壁の答え

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/158

第76話 護衛依頼と、鎧少女の大失敗


「護衛依頼?」


ソア・ミュスカは、街道沿いの小さな町で依頼書を眺めていた。


【荷馬車の護衛】


目的地:火山地帯手前の交易村


報酬:銀貨十枚


備考:街道に魔物が出没するため、護衛を募集。


「……いいね!」


ソアは依頼書を掲げた。


「これなら、旅費も稼げるし、鎧を着たまま戦える!」


「護衛対象を忘れるなよ」


隣でレイナが釘を刺す。


「分かってるよ!」


「本当か?」


「もちろん! 荷馬車も守るし、御者さんも守るし、鎧も守る!」


「最後のはお前の個人的な目標だろう!」


その横で、シードが依頼書を覗き込んだ。


「……にもつ、まもる?」


「うん! 荷物を守る仕事だよ」


「……たいせつなもの?」


「そうだね。荷物も、運んでいる人にとっては大切なものだから」


シードはしばらく考えた。


「……じゃあ、まもる」


小さな手を握る。


「……わたしも、てつだう」


ソアは嬉しそうに笑った。


「うん。一緒に頑張ろうね!」


レイナは二人を見て、満足そうにうなずいた。


「よし。では、受けに行こう」


「……あっ」


ソアが突然、真剣な顔になった。


「どうした?」


「報酬が銀貨十枚ってことは……」


「うん?」


「鎧の修理代を払ったら、どれくらい残るかな?」


「依頼を受ける前から修理代を計算するな!」


     *


荷馬車の御者は、気のよさそうな中年の男性だった。


「おお、護衛を引き受けてくれるのか! 助かるよ」


「お任せください!」


ソアは胸を張った。


ガシャッ。


胸当てが鳴る。


ガシャッ。


肩当てが鳴る。


ガシャッ。


脚甲が鳴る。


御者は少し驚いた顔をした。


「……ずいぶん立派な鎧だねえ」


「ありがとうございます!」


「重くないのかい?」


「重いです!」


「即答!?」


ソアは笑顔で続けた。


「でも、そこがいいんです!」


「そ、そうか……」


御者は困ったように笑った。


「まあ、頼りにしているよ」


「はい!」


こうして、三人は荷馬車とともに町を出発した。


     *


街道は穏やかだった。


風が吹き、草原が揺れる。


荷馬車の車輪が、ゆっくりと土の道を進んでいく。


ソアは馬車の横を歩きながら、何度も自分の足元を確認していた。


「……よし」


一歩。


タッ。


二歩。


タッ。


三歩。


タッ。


「……いい感じ」


「何をしているんだ?」


レイナが尋ねた。


「歩き方の練習!」


「歩き方?」


「うん。鎧の重さを考えながら歩く練習!」


ソアは真剣だった。


「今までは、鎧が重いから動きにくいって思ってたけど……鎧の重さを利用できれば、もっと上手に動けるはずなんだよ!」


「なるほどな」


レイナは感心した。


「自分の弱点を理解して、工夫する。それは大事なことだ」


「でしょ?」


ソアは嬉しそうに笑った。


そして、少しだけ歩幅を広げる。


タッ。


タッ。


タッ。


「……あれ?」


「どうした?」


「……ちょっと速くなった!」


「本当か?」


「うん!」


ソアはその場で軽く走ってみた。


ダッ!


以前より、わずかに動きが滑らかだった。


鎧の重さに振り回されるのではなく、重さを受け止めて、次の動きにつなげる。


まだぎこちない。


それでも、確かな進歩だった。


「……やった!」


ソアは小さく拳を握った。


シードが肩の上で拍手する。


「……ソア、じょうず!」


「ありがとう!」


ソアは満面の笑みを浮かべた。


その瞬間。


ガクンッ!


脚甲が地面の小石に引っかかった。


「えっ?」


ズルッ!


「うわあああああ!」


ドシィン!


ソアは見事に転んだ。


「…………」


「…………」


レイナは目を閉じた。


「……まだまだだな」


「うう……」


ソアは地面に手をついたまま、悔しそうに呟いた。


「今のは、小石が悪い……」


「小石のせいにするな!」


     *


昼過ぎ。


街道の先から、低いうなり声が聞こえた。


グルルルル……


御者の顔色が変わる。


「ま、魔物か!?」


レイナが剣を抜いた。


「全員、警戒しろ!」


草むらから現れたのは、狼型の魔物が三匹。


鋭い牙。


赤く光る目。


そして、普通の狼よりも一回り大きな身体。


「グルルッ!」


三匹は荷馬車を囲むように広がった。


「……三匹か」


レイナが前に出ようとする。


その時、ソアが一歩進んだ。


「待って!」


「ソア?」


「私にやらせて!」


ソアは剣を構えた。


「鎧を着たまま、ちゃんと戦えるところを見せたいんだ!」


レイナは少しだけ迷った。


しかし、ソアの目は真剣だった。


「……分かった。ただし、荷馬車から離れるな。危なくなったらすぐに援護する」


「うん!」


ソアは狼型の魔物を見据えた。


一匹目が飛びかかる。


「そこ!」


ソアは盾を持ち上げる。


ガァン!


牙が盾にぶつかった。


衝撃で腕が痺れる。


だが、ソアは踏みとどまった。


「……よし!」


以前なら、衝撃に押されて転んでいたかもしれない。


しかし今は、足を広げて重心を落とし、鎧の重さも利用して身体を支えている。


魔物が着地する。


ソアは剣を振った。


ザシュッ!


一匹目が倒れた。


「やった!」


しかし、喜んでいる暇はなかった。


残る二匹が左右から迫る。


「左右か……!」


ソアは焦らず、片方の魔物に向き直った。


右からの攻撃を盾で受ける。


ガァン!


そして、その衝撃を利用して身体を回転させる。


「今!」


回転の勢いに乗せて剣を振る。


二匹目が倒れた。


「……できた!」


ソアの顔が輝いた。


最後の一匹が、少し離れた場所で唸っている。


「グルルル……」


ソアは剣を構え直した。


「……さあ、来て!」


魔物が飛びかかる。


ソアは一歩だけ横へ動いた。


以前なら、身体全体が遅れていた。


しかし今は、足を先に動かし、鎧の重さがついてくるタイミングを意識できる。


牙が空を切る。


「そこだよ!」


剣の柄で魔物の頭を打つ。


ドンッ!


魔物が地面に倒れた。


静寂。


ソアは剣を下ろした。


「…………」


そして。


「やったあああああ!」


両手を上げた。


「鎧を着たまま、三匹とも倒せた!」


シードが嬉しそうに手を叩く。


「……すごい!」


レイナも満足そうにうなずいた。


「よくやったな、ソア。動き方が変わってきている」


「本当!?」


「ああ。鎧の重さを考えて動けるようになってきた。まだ無駄は多いが、確実に進歩しているぞ」


「えへへ……!」


ソアは嬉しそうに胸当てを撫でた。


「ありがとう、私の鎧!」


「いや、礼を言うなら自分の努力にも言ってやれ!」


     *


戦闘を終えた一行は、再び街道を進んだ。


御者は何度もソアに礼を言った。


「いやあ、本当に助かったよ! あんなに強いとは思わなかった!」


「いえいえ!」


ソアは照れくさそうに頭をかいた。


「まだまだ修行中です!」


「これなら、もっと高難度の依頼も受けられるんじゃないか?」


「……高難度?」


ソアの目が輝いた。


「報酬も高いですか!?」


「ソア、そこに食いつくな!」


レイナがすかさず突っ込む。


その横で、シードは荷馬車を見つめていた。


「……ソア」


「なに?」


「……まもったね」


ソアはうなずいた。


「うん。荷物も、御者さんも、みんな無事だよ」


「……よかった」


シードは胸に手を当てた。


「……たいせつなもの、まもれた」


「……うん」


ソアは優しく笑った。


「シードも、ちゃんと一緒に守ってくれたよ」


シードは少し驚いたように目を瞬かせた。


そして、小さく笑った。


「……わたしも、できた」


「もちろん!」


ソアは元気よく答えた。


     *


夕方。


一行は交易村に到着した。


御者は約束どおり、報酬の銀貨十枚を渡してくれた。


「本当にありがとう。おかげで助かったよ」


「こちらこそ、ありがとうございました!」


ソアは報酬を受け取り、丁寧に頭を下げた。


そして、銀貨を数える。


一枚。


二枚。


三枚。


四枚。


五枚。


六枚。


七枚。


八枚。


九枚。


十枚。


「……十枚!」


ソアの顔が輝く。


「やった……!」


レイナが苦笑した。


「また修理代の計算か?」


「うん!」


ソアは即答した。


「今日の戦いで、鎧は無事だったけど……」


胸当てを確認する。


肩当てを確認する。


脚甲を確認する。


「……よし! 新しい傷はない!」


「それはよかったな」


「うん!」


ソアは銀貨を大切にしまった。


「これで、少しずつ修理代を貯められる!」


「……強くなるための努力より、そっちの方が嬉しそうだな」


「どっちも嬉しいよ!」


ソアは満面の笑みを浮かべた。


その時。


シードが、そっとソアの手を握った。


「……ソア」


「ん?」


「……きょう、かっこよかった」


「…………!」


ソアは固まった。


「シ、シード……!」


「……?」


「もう一回言って!」


「……かっこよかった」


「もう一回!」


「……かっこよかった」


「もう一回!」


「ソア、しつこいぞ」


レイナが呆れた声を出した。


しかし、ソアは聞いていなかった。


「……シードに褒められた……!」


両手で顔を覆う。


「今日は最高の日だ……!」


シードは不思議そうに首を傾げた。


そして、少し考えてから、もう一度言った。


「……ソア、すき」


「うわあああああ!」


ソアはその場でしゃがみ込んだ。


「かわいい! シードがかわいい!」


「……ソア、だいじょうぶ?」


「大丈夫! 全然大丈夫!」


レイナは深いため息をついた。


「……魔物と戦っている時より、よほど動揺しているな」


     *


その夜。


宿の部屋で、ソアは鎧を磨いていた。


胸当てを磨く。


肩当てを磨く。


脚甲を磨く。


「……今日はありがとう」


小さく呟く。


「あなたのおかげで、少しだけ上手に戦えたよ」


鎧は答えない。


けれど、ソアは満足そうに笑った。


「これからも、一緒に強くなろうね」


その様子を、ベッドの上からシードが眺めていた。


「……ソア」


「なに?」


「……よろい、うれしい?」


ソアは手を止めた。


そして、少し考えてから答えた。


「……どうかな」


鎧を見つめる。


「でも、私は嬉しいよ」


シードはゆっくりとうなずいた。


「……そっか」


それから、いつもより少しだけはっきりした声で言った。


「……ソアが、うれしいなら」


小さな葉が、ふわりと揺れた。


「……わたしも、うれしい」


ソアは微笑んだ。


「……ありがとう、シード」


窓の外では、夜風が静かに吹いていた。


明日もまた、旅は続く。


鎧を着たまま強くなるために。


大切なものを守れるようになるために。


そして、シードもまた、少しずつ言葉を覚えながら成長していく。


「……よし!」


ソアは立ち上がった。


「明日も頑張ろう!」


「……うん」


「鎧の修理代を稼ぐために!」


「そこは変わらないんだな……」


レイナの呆れた声が、部屋に響いた。


こうして三人の夜は、更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。