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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第一章 鎧の少女

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第4話 強くなった。でも、お金がない


「……ただいま」


街に戻ってきたソアは、冒険者ギルドの前で立ち止まった。


正確には――立ち止まることしかできなかった。


なぜなら。


「…………」


ソアの鎧は、見るも無残な姿になっていた。


胸当ては大きくひび割れ。


肩当ては片方が完全に消失。


左腕の籠手もない。


右足のすね当てもない。


そして、あちこちに傷とへこみ。


購入したときの輝かしい姿は、もうどこにも残っていない。


「…………」


ソアは無言で鎧を見下ろした。


「……壊しすぎじゃない?」


誰に言うでもなく呟く。


もちろん、答えはない。


「いや……」


ソアは少し考える。


「壊したのは私か」


自分で自分にツッコミを入れてしまった。


「…………」


そして財布を見る。


チャリン。


中には、数枚の銀貨と銅貨。


「……修理、いくらするんだろう」


嫌な予感しかしない。


ソアは重い足取りでギルドへ向かった。


「おかえりなさいませ」


受付嬢が笑顔で迎えてくれた。


「お疲れさまでした。魔物の討伐報告でしょうか?」


「はい」


ソアは討伐した魔物の素材をカウンターへ置いた。


受付嬢が確認する。


「こちらでしたら……」


いくつかの素材を確認し、計算する。


「合計で、銀貨三枚になります」


「三枚!」


ソアの顔が明るくなった。


「けっこうありますね!」


「はい。少し強めの魔物でしたので」


ソアは嬉しそうに銀貨を受け取った。


これなら――。


「鎧の修理もできるかな」


受付嬢がソアの鎧を見る。


そして。


少しだけ困ったような顔をした。


「……鎧の修理ですか?」


「はい!」


「その……」


受付嬢の視線が、胸当てへ。


肩へ。


足へ。


「かなり損傷していますね」


「ですよね」


「魔法鋼製の鎧ですから、修理費もそれなりになると思います」


「それなり……」


ソアは嫌な予感を覚えた。


「ちなみに、どれくらいですか?」


「この状態ですと……」


受付嬢が少し考える。


「最低でも銀貨五枚ほどは必要かと」


「…………」


ソアの笑顔が消えた。


「五枚?」


「はい」


「銀貨五枚?」


「はい」


「私、今三枚しか持ってないんですけど」


「そうですね」


「…………」


ソアは自分の財布を見る。


チャリン。


銀貨三枚。


もう一度、鎧を見る。


「…………」


そして受付嬢を見る。


「二枚……足りない」


「はい」


「…………」


ソアはカウンターに突っ伏した。


「強くなったのに、お金がない……」


受付嬢はどう返事をしていいのか分からなかった。


その日の夕方。


ソアはギルドの食堂の隅に座っていた。


目の前には、簡素なスープとパン。


「……おいしい」


もぐもぐ。


「でも……」


もぐもぐ。


「鎧……」


もぐもぐ。


「お金……」


もぐもぐ。


「…………」


パンをかじる。


「強くなる」


もう一口。


「↓」


「鎧が壊れる」


もう一口。


「↓」


「修理する」


もう一口。


「↓」


「お金がなくなる」


ソアはパンを置いた。


「……ダメじゃん」


冷静に考えると、とんでもない問題だった。


ソアは昨日まで、


「重い鎧を着れば強い!」


と信じていた。


だが現実は違う。


鎧が壊れる。


すると、なぜか自分が強くなる。


これは嬉しい。


ものすごく嬉しい。


しかし――。


「鎧が壊れるたびに修理費がかかる」


ソアは頭を抱えた。


「しかも私、この鎧好きなんだけど……」


魔法鋼の全身鎧。


重い。


硬い。


格好いい。


着ているだけで強そうに見える。


ソアにとっては最高の装備だった。


「新しい鎧を買うなんて、もっと無理だし……」


そもそも今の鎧を買っただけで、手持ちのほとんどを使い果たしている。


「じゃあ、どうする?」


ソアは考える。


「働く?」


冒険者なのだから、魔物を倒せばいい。


魔物を倒せば素材が手に入る。


素材を売ればお金になる。


お金があれば鎧を修理できる。


「……なるほど」


ソアの目が輝いた。


「魔物を倒せばいいんだ!」


単純だった。


だが、ソアはまだ知らない。


自分が強くなればなるほど、戦う相手も強くなる。


そして――。


強い相手と戦えば戦うほど。


鎧もまた、壊れやすくなる。


翌朝。


「決めた!」


宿の部屋で、ソアは拳を握った。


「もっと強い魔物を倒す!」


目的は決まった。


鎧の修理費を稼ぐ。


ついでに自分がどこまで強くなれるのかも試す。


一石二鳥だ。


「普通の魔物じゃ、あまりお金にならないみたいだし……」


ソアは冒険者ギルドでもらった地図を広げた。


街の近く。


森。


草原。


そして――。


地図の端に描かれた、巨大な円形の印。


「……ダンジョン」


ソアは呟いた。


昨日、受付嬢から聞いた話を思い出す。


ダンジョンには魔物が多い。


そして、宝箱や貴重な素材が見つかることもある。


もちろん危険も多い。


だからこそ――。


報酬も大きい。


「…………」


ソアは地図を見つめる。


「ここなら……」


鎧を直せる。


いや。


もしかしたら――。


もっといい鎧だって買えるかもしれない。


「…………」


ソアの目が輝いた。


「……行こう」


決断は早かった。


「ダンジョンへ!」


街を出る。


ソアは歩きながら、残った鎧を確認した。


胸当て。


右肩。


右腕の籠手。


左足のすね当て。


腰当て。


背中の装甲。


完全な状態から比べれば、かなり減っている。


「…………」


ソアは少しだけ不安になった。


「これ……ダンジョンに着くまでに壊れないよね?」


答える者はいない。


「大丈夫、大丈夫」


ソアは自分に言い聞かせる。


「今度はちゃんと壊さないように戦えばいいんだから」


そう言って歩き出す。


しかし数歩進んだところで、ふと足を止めた。


「……でも」


昨日のことを思い出す。


胸当てが壊れた。


身体が軽くなった。


肩当てが壊れた。


さらに速くなった。


そして、すね当てが壊れた。


さらに――。


「…………」


ソアは自分の足を見る。


「やっぱり、壊れるたびに強くなってる気がする」


まだ確信はない。


けれど。


少なくとも、偶然とは思えなくなってきていた。


「もし本当にそうなら……」


ソアは考える。


「鎧が壊れることって、悪いことじゃないのかも」


その言葉に、自分で少し驚く。


大切な鎧が壊れる。


普通なら嫌なことだ。


なのに。


なぜか――。


「……ちょっとだけ、楽しみ」


ソアは笑った。


そして。


重たい鎧を鳴らしながら、ダンジョンへ向かって歩き始めた。


まだ彼女は知らない。


その先に待っているのが、


宝だけではなく――


自分の能力の秘密に近づく、最初の大きな一歩になることを。


そして。


彼女の「大好きな鎧」が、


これから何度も何度も――


彼女を強くするために、壊れていくことを。

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