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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第一章 鎧の少女

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第3話 鎧が壊れるほど強くなる?


「…………」


ソアは、岩の上に腰を下ろしていた。


目の前には、さっきまで自分が戦っていた魔物の死骸。


そして――。


「……やっぱり、おかしい」


ソアは自分の腕を見た。


肩当てはない。


胸当てもない。


左腕の籠手も、戦闘中に壊れてしまっている。


重かったはずの全身鎧は、今ではずいぶんと形を失っていた。


「最初は、鎧が軽くなったから動きやすくなっただけだと思ったんだけど……」


ソアは立ち上がる。


一歩。


二歩。


そして、軽く走ってみる。


「……速い」


明らかに違う。


異世界に来たばかりの頃は、三十キロ近い鎧を着ているせいで、歩くことすら大変だった。


剣を振れば身体が鎧に引っ張られ、避けようとしても足が思うように動かなかった。


ところが今は――。


「……なんか、身体が軽い」


ソアはその場で軽く跳んだ。


次の瞬間。


「わっ!」


想像していたよりも高く跳び上がってしまう。


着地。


「…………」


もう一度。


今度は少しだけ力を入れて跳ぶ。


「たっか……」


自分でも引くほど高く跳んだ。


「いやいやいや」


ソアは首を振る。


「でも、これは鎧が軽くなったからだよね」


そう。


きっとそうだ。


三十キロ近くあった鎧が、いくつか壊れた。


なら、身体が軽くなるのは当然だ。


「うん。そういうことだ」


ソアは自分自身に言い聞かせるように頷いた。


「ステータスが上がったわけじゃない」


……たぶん。


「だって、そんな都合のいい能力があるわけ――」


そのとき。


ガサッ。


背後の茂みが揺れた。


ソアが振り返る。


「……魔物?」


低い唸り声。


茂みの向こうから、二本の角を持った狼型の魔物が姿を現した。


ソアは剣を抜いた。


「ちょうどいい」


魔物が地面を蹴る。


速い。


しかし――。


「見える」


ソアは身体を横にずらした。


魔物の爪が、目の前を通り過ぎる。


「おっと」


反撃。


剣を振る。


ザンッ!


魔物の肩を斬り裂いた。


「……当たった」


第1話では、ゴブリン相手にすら剣がまともに当たらなかった。


それが今は違う。


魔物の動きが、はっきり見える。


身体が思った通りに動く。


ソアは少しだけ嬉しくなった。


「もしかして……私、ちゃんと戦えるようになってる?」


魔物が再び襲いかかってくる。


ソアは盾を構えた。


ガンッ!


衝撃。


だが、今度は後ろに吹き飛ばされない。


「……あれ?」


ソアは盾を見た。


鉄の盾。


特別なものではない。


「前は、こんなに耐えられなかったような……」


魔物が距離を取る。


ソアは追う。


速い。


「速い……」


さらに踏み込む。


速い。


「いや、やっぱり速い!」


ソアは思わず笑った。


「これ、絶対に鎧が軽くなっただけじゃないよね!」


その瞬間だった。


――ピシッ。


小さな音がした。


「え?」


見ると、右足のすね当てに亀裂が入っていた。


さっきの攻撃を受けた場所だ。


「……また壊れる?」


ピシッ。


亀裂が広がる。


そして――


ガシャッ!


すね当てが地面に落ちた。


「…………」


ソアは固まった。


「…………また?」


嫌な予感がする。


ソアはゆっくりと足を動かした。


一歩。


「……」


二歩。


「…………」


三歩。


「………………」


「速い」


まただ。


さっきよりも、明らかに足が軽い。


「えっ」


ソアはその場で走り出した。


速い。


さらに速度を上げる。


「えっ、えっ、えっ!?」


森の中を駆け抜ける。


木々が後ろへ流れていく。


「速っ!」


ソアは急停止した。


ズザザザッ!


土煙を上げながら止まる。


「…………」


しばらく沈黙。


「……やっぱりおかしい」


ソアは足元に落ちたすね当てを見る。


「鎧が一個壊れただけで、こんなに変わる?」


拾い上げてみる。


重い。


「これがなくなった分だけ速くなった?」


確かに、それなら説明はつく。


だが――。


ソアはすね当てを持ったまま、首を傾げた。


「……いや、ちょっと違う気がする」


鎧が軽くなった。


それだけでは説明できない。


身体そのものが変わっているような感覚。


まるで――。


何かが、自分の中から解放されているような。


「……気のせいかな」


ソアは頭を振った。


「まあ、強くなってるならいいか!」


結論は早かった。


ソアは落ちたすね当てを見つめる。


「問題は……」


ちらり。


残った鎧を見る。


「これ以上壊れたら、修理代が――」


ソアの顔が青ざめた。


「…………」


魔物の素材。


今日の報酬。


そして財布の中身。


ソアは遠い目をした。


「……強くなるの、お金かかるんだ」


異世界に来て、まだそれほど経っていない。


なのに、もう人生の厳しい現実を知ってしまった。


「鎧……高かったのに……」


ソアはしゃがみ込み、壊れたすね当てを拾った。


「お願いだから、もう壊れないでね?」


もちろん、すね当てが答えることはない。


そしてソアはまだ知らなかった。


この先、自分が強くなればなるほど――


大好きな鎧が、どんどん壊れていくことを。


そして。


その「壊れる」という現象こそが、ソア自身を強くしていることを。


彼女の固有スキル。


《スキンブースト》は、静かにその力を発揮していた。

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