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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第三章 世界樹と小さな種

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第23話 小さな盾


「……しってる」


 シードがそう言ってから。


 ソアは、しばらく固まっていた。


「…………」


「…………」


 シードもソアを見つめている。


「……もう一回言える?」


「……」


「シード?」


「…………」


 シードは首を傾げた。


「しゃべれない?」


 こくん。


「さっきだけ?」


 こくん。


「なんだったの?」


 シードは七つの空洞を指差した。


「……」


 そして、小さな手を自分の胸に当てる。


「……しってる」


 それだけだった。


「そっか……」


 ソアは頭をかいた。


 分からない。


 でも。


 シード自身も、何かを思い出せているわけではなさそうだった。


「まあ……」


 ソアは笑った。


「そのうち分かるよね!」


 シードが、こくんと頷く。


「よし!」


 ソアは立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ戻ろうか」


「……?」


「レイナたちも待ってるだろうし」


 シードを肩に乗せる。


「それに、街に戻ったらご飯も食べなきゃ」


 シードの葉が、ぴくっと動いた。


「……お腹空いた?」


 こくん。


「やっぱり!」


 ソアは嬉しそうに歩き始めた。


 ――その直後だった。


 ズズズズズ……。


「……?」


 地面が揺れた。


 ソアが足を止める。


「地震?」


 違う。


 揺れは、どんどん大きくなる。


 巨大な根の向こうから。


 何かが近づいていた。


 ドン。


 ドン。


 ドン。


「……シード」


 ソアがシードを肩から降ろす。


「ちょっと下がってて」


「……!」


 シードが不安そうにソアを見る。


「大丈夫」


 ソアは剣を抜いた。


「私が守るから」


 根の向こうから現れたのは――


 巨大な獣だった。


 四本の脚。


 岩のような身体。


 頭には二本の角。


 全身に、世界樹の根が絡みついている。


「……また大きいのが出てきたなぁ」


 ソアは剣を構える。


 すると。


 獣が咆哮した。


「グオオオオオオッ!」


 ――ドンッ!


 一瞬で距離を詰めてくる。


「速っ!」


 ソアは横へ飛ぶ。


 爪が目の前を通り過ぎる。


 ――ガキンッ!


 壁が大きく削れた。


「危なっ……!」


 ソアは距離を取る。


 鎧を着ている今の自分では、以前ほど速く動けない。


「やっぱり……」


 ソアは苦笑した。


「鎧があると、動きにくい!」


 獣が再び突っ込んでくる。


「だったら――」


 ソアは左肩の装甲へ手を伸ばす。


「《全解除・パージ》!」


 カチャッ。


 左肩の装甲が外れる。


 その瞬間。


 身体が軽くなった。


「よし!」


 ソアは獣の攻撃をかわす。


 しかし。


 獣の尾が横から薙ぎ払われた。


「しまっ――」


 避けきれない。


 ――ドンッ!


「うわっ!」


 ソアの身体が吹き飛ぶ。


 背中から地面に叩きつけられる。


「いったぁ……!」


 起き上がろうとした、そのとき。


 獣がソアへ向かって跳んだ。


「……!」


 避ける時間がない。


 巨大な爪が振り下ろされる。


 その前に。


 小さな影が飛び出した。


「シード!?」


 シードが両手で木の盾を構えている。


 大きさは。


 せいぜいソアの手のひら二枚分。


 どう考えても。


 巨大な獣の爪を受け止められる大きさではない。


「危ない!」


 ソアが叫ぶ。


 ――ガァンッ!


 爪と盾がぶつかった。


 しかし。


 シードは吹き飛ばされなかった。


 小さな身体も。


 木の盾も。


 びくともしていない。


「……え?」


 ソアが目を丸くする。


 盾の表面に。


 緑色の光が集まっていた。


 そして。


 獣の爪が、ゆっくりと押し返される。


「……なに、それ」


 シードが盾を前に突き出した。


 ――バシュンッ!


 巨大な獣の身体が吹き飛んだ。


「えええええええ!?」


 獣が地面を何度も転がる。


 ソアは呆然とする。


「……シード?」


 シードは振り返った。


 小さな葉が、ぴこっと揺れる。


「……」


「今の、シードがやったの?」


 こくん。


「その盾で?」


 こくん。


「……」


 ソアは自分の剣を見る。


 そして。


 シードの盾を見る。


「…………」


「…………」


「私より強くない?」


 シードが首を傾げた。


「いや、まだ分からない!」


 ソアは慌てて首を振る。


「たまたま!」


 そのとき。


「グオオオオオッ!」


 獣が立ち上がった。


「まだ元気なの!?」


 獣が再び突進してくる。


 ソアは剣を構えた。


「今度こそ――」


 しかし。


 シードがソアの前に出る。


「え?」


 シードは盾を構えた。


「シード?」


 獣の爪が迫る。


 ――ガァンッ!


 また盾が受け止めた。


 そして。


 緑色の光が盾に集まる。


 ――バシュンッ!


 獣が吹き飛ぶ。


「…………」


 ソアは目をぱちぱちさせる。


「……すご」


 シードが振り返る。


「私、何もしてない」


 シードが胸を張る。


「……」


 小さな葉っぱが、少しだけ上を向いた。


「もしかして……褒めてほしいの?」


 こくん。


「ふふっ」


 ソアは笑った。


「すごいよ、シード」


 その瞬間。


 シードの葉が――


 ぴんっ。


 まっすぐ立った。


「……分かりやすいなぁ」


 ソアは笑いながら剣を構える。


「じゃあ、今度は一緒に戦おう」


 シードが頷く。


 獣が三度目の突進を仕掛けてくる。


「シード!」


 シードが盾を構える。


 獣の爪がぶつかる。


 ――ガァンッ!


 衝撃。


 獣の動きが止まる。


「今!」


 ソアが踏み込む。


 左肩の装甲が外れている。


 身体は軽い。


 踏み込み。


 加速。


 一気に距離を詰める。


「はあああっ!」


 剣が獣の身体を捉えた。


 ――ズガンッ!


 獣が倒れる。


「……やった!」


 ソアが剣を下ろす。


 シードも小さな盾を下ろした。


「シード!」


 ソアが駆け寄る。


「すごいよ!」


 シードを両手で持ち上げる。


「私を守ってくれた!」


「……!」


 シードが嬉しそうに葉を揺らす。


 ソアはふと、シードの持っている盾を見る。


「そういえば……」


 盾は。


 傷一つついていない。


「この盾って、どうやって作ったの?」


 シードが盾を見る。


 すると。


 木の盾が、ゆっくりと光に変わった。


 光の中に。


 何かの文字が浮かぶ。


【《リフレクト》】


「……スキル?」


 ソアが目を細める。


「《リフレクト》……」


 シードが頷く。


「攻撃を跳ね返すってことかな?」


 こくん。


「すごいじゃん!」


 ソアはまたシードを抱き上げる。


「でも……」


 少し考える。


「なんでシードは、こんな力を知ってるんだろう?」


 シードは答えない。


 ただ。


 七つの空洞を見つめている。


 そして。


 そのうちの一つ。


 盾の形をした空洞が。


 ほんの一瞬だけ、緑色に輝いた。


 シードの葉が揺れる。


「……しってる」


 小さな声。


 ソアはシードを見る。


「何を?」


 シードは七つの空洞を指差す。


「……ここ」


「ここ?」


「……ぼく」


「……?」


 ソアには、まだ意味が分からなかった。


 ただ。


 この小さな存在が。


 七つの武器と、何か深い繋がりを持っている。


 それだけは。


 少しずつ分かり始めていた。


 そして遠く離れた場所。


 黒い水晶を覗き込んでいた男が、眉をひそめる。


「……盾まで目覚めたか」


 水晶の中に映っているのは。


 緑色の光。


 そして。


 小さな葉を頭に乗せた存在。


「世界樹の子……」


 男は静かに呟いた。


「ならば――」


 黒い水晶の中で。


 七つの光が浮かび上がる。


「こちらも急がねばならない」


 男は立ち上がった。


「七つの器を、先に集める」


 その目に。


 初めて、強い焦りが浮かんでいた。

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