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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第三章 世界樹と小さな種

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第21話 世界樹の根


ドクン。


巨大な扉の向こうから、また鼓動が聞こえた。


ソアは扉に手を当てたまま、じっと耳を澄ませる。


「……やっぱり、何かいる」


怖い。


でも、不思議と逃げたいとは思わなかった。


むしろ――。


早く会いたい。


そんな気持ちが、胸の奥から湧いてくる。


「……開いて」


ソアが小さく呟いた。


すると。


ギィィィ……。


重たい音を立てながら、巨大な扉がゆっくりと開いていく。


その先に広がっていたのは――。


「……なに、これ……」


巨大な空間だった。


天井は見えない。


壁も見えない。


ただ、無数の巨大な根が空間全体を覆っている。


まるで一本の巨大な樹木の内部に入り込んでしまったようだった。


そして、その中央。


ひときわ太い根の上に、巨大な台座が置かれていた。


台座には、七つのくぼみがある。


ソアはゆっくり近づいた。


「これ……さっきの扉と同じだ」


七つの紋章。


剣。


翼。


盾。


鎖。


砲。


籠手。


そして、見たことのない紋章。


「七つの宝具……?」


ソアが呟いた。


その瞬間だった。


台座が淡く緑色に光った。


「えっ?」


ソアが手を伸ばす。


指先が台座に触れた。


ドクン――。


強い光がソアを包み込んだ。


「うわっ!」


視界が真っ白になる。


そして。


――森。


鳥の声。


風に揺れる木々。


大きな川。


その向こうに広がる街。


さらに遠く。


空を貫くほど巨大な一本の樹。


世界樹。


「……これ、記憶?」


ソアは呟いた。


しかし、誰の記憶なのか分からない。


映像が次々と流れていく。


人々が笑っている。


畑を耕している。


子どもたちが走っている。


魔法を使う者。


剣を振るう者。


そして――。


七つの光が、世界樹から飛び出した。


一つ。


また一つ。


七つの光は、それぞれ別の方向へ飛んでいく。


砂漠。


海。


空。


火山。


氷の大地。


古代遺跡。


そして――。


どこか深い森。


「……七つの宝具?」


ソアが手を伸ばす。


けれど、触れることはできなかった。


映像が途切れる。


代わりに、別の光景が浮かび上がった。


世界樹が弱っている。


枝が枯れている。


根がひび割れている。


人々の間には争いが起きていた。


そして。


黒い影が、世界樹へ近づいていく。


ソアは息を呑んだ。


「……誰?」


影の顔は見えない。


ただ、その手だけが世界樹へ伸びている。


そして――。


映像が消えた。


「……っ」


ソアはその場に膝をついた。


荒い息を吐く。


「今の……何だったの?」


答えはない。


ただ、台座だけが静かに光っている。


そのとき。


ソアの胸元が、ほんのり温かくなった。


「……?」


胸に手を当てる。


すると、身体の奥から小さな鼓動が伝わってきた。


ドクン。


ドクン。


さっき扉の向こうから聞こえていた音と同じだった。


「……こっち?」


ソアは台座の奥を見る。


そこには、細い根が何重にも絡み合っていた。


その隙間から、淡い緑色の光が漏れている。


ソアは根をそっとどかした。


すると――。


小さな光が、ふわりと浮かび上がった。


まるで小さな種のようだった。


「……種?」


手のひらほどの大きさ。


表面は淡い緑色で、わずかに脈打っている。


ソアが近づくと、その種はさらに強く光った。


「私を呼んでたの……?」


種が答えるように、もう一度鼓動する。


ドクン。


ソアはそっと手を伸ばした。


「……触ってもいい?」


返事の代わりに、種から細い光が伸びてきた。


そして、ソアの指先に触れる。


温かい。


不思議なくらい、懐かしい。


「……なんだろう」


知らない場所。


知らない種。


なのに。


ずっと昔から知っていたような感覚がする。


その瞬間。


種に小さな亀裂が入った。


ピシッ。


「え?」


ソアが目を見開く。


ピシッ。


もう一度。


亀裂が広がる。


「ちょ、ちょっと待って!」


ソアは慌てて種を両手で包んだ。


「大丈夫!? 割れちゃうの!?」


すると――。


種の亀裂から、小さな緑色の芽が顔を出した。


ほんの数ミリ。


けれど確かに。


生きている。


ソアは目を丸くした。


「……芽?」


小さな芽が、ソアの指に触れる。


そして。


ほんの少しだけ揺れた。


まるで――。


笑ったように。


「……ふふ」


ソアは思わず笑った。


「かわいい」


その頃。


世界樹の根の外では――。


「っ!」


レイナが魔物の攻撃を受け止めていた。


巨大な爪が《鉄壁》へ叩きつけられる。


ドォォォン!


「くっ……!」


以前なら耐えきれなかったほどの一撃。


それでも、今の《鉄壁》は揺らがない。


レイナの盾には、緑色の模様がさらに濃く浮かび上がっていた。


「……私の力が、世界樹と繋がってる」


レイナは剣を握り直す。


「だったら――」


ミレイユの《呪鎖》も、同時に動いた。


ジャララララッ!


無数の鎖が魔物を絡め取る。


だが、今までとは違う。


鎖が魔物だけではなく、地面の根とも繋がっていた。


「逃がさないわよ」


ミレイユが呟く。


「あなたを、ここから一歩も動かさない」


鎖が強く締まる。


魔物が苦しそうに咆哮した。


レイナがその隙を見逃さない。


「今!」


巨大な盾が前へ突き出される。


ズドォォン!


魔物の巨体が吹き飛んだ。


二人は一度、顔を見合わせた。


「……強くなってる」


レイナが言う。


「ええ」


ミレイユも頷く。


「でも、ソアほどじゃないわね」


「……そこは張り合わなくていいと思う」


「そう?」


ミレイユは少し笑った。


けれど。


二人の頭上。


世界樹の根のさらに奥で。


緑色の光が一つ、また一つと灯り始めていた。


その光は、まだ二人には見えない。


そして。


さらに遠く。


黒い水晶の前に立つ男が、その光を見つめていた。


「……芽吹いたか」


男は静かに呟く。


「ならば、時間はもうない」


黒い水晶の中で。


小さな緑の光が揺れていた。


男はその光を見つめながら、低く笑う。


「世界樹の子が目覚める前に――」


そこで言葉を止めた。


その瞳には、かつてないほど強い光が宿っていた。


「七つの器を、すべて手に入れる」


その頃。


世界樹の根の奥では。


ソアの手の中で、小さな芽がもう一度揺れた。


そして。


小さな葉が――。


ほんの少しだけ、開いた。

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