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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第三章 世界樹と小さな種

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第20話 誰も進めない道


巨大な根が、ゆっくりと左右へ開いていく。


その先には、暗闇へ続く細い道があった。


ソアは一歩、前へ出る。


「……ここ、通っていいの?」


返事はない。


けれど、根の奥から感じる温かな魔力が、ソアを呼んでいるような気がした。


「ソア」


後ろからレイナの声がする。


振り返ると、レイナとミレイユは道の入り口に立ったままだった。


「どうしたの?」


「……私たちは、ここから先へ進めないみたい」


レイナが根に手を伸ばす。


すると、淡い緑色の光がレイナの手の甲に浮かび上がった。


「わっ……!」


光は一瞬で消えた。


けれど、その瞬間。


レイナの《鉄壁》が、ほんのわずかに反応した。


「……今、私のスキルが勝手に」


ミレイユも自分の手を見る。


「私もよ」


彼女の足元から、細い緑色の蔓が伸びていた。


それはミレイユの《呪鎖》に絡みつき、まるで同じ力だと認めるように淡く光っている。


「……呪いの鎖と、世界樹の根が繋がってる?」


ミレイユが目を細める。


ソアは二人を見ながら首をかしげた。


「じゃあ、二人ともここに残るの?」


「そうなるみたいね」


「でも……」


レイナがソアを見る。


「あなたは、進める」


「私だけ?」


「うん」


レイナは根の壁へ近づき、手を当てた。


その瞬間、根がさらに大きく開く。


ソアの前にだけ、道が生まれた。


「……なんで私だけなんだろう」


ソアは少し不安そうに呟いた。


すると、古代文字の刻まれた根が淡く光った。


そこに浮かび上がった文字を、ミレイユが読み上げる。


「……『手放す者』」


ソアが瞬きをする。


「手放す者?」


続いて、別の文字が浮かび上がった。


「『守る者』……」


レイナが自分を指差す。


「私?」


さらに、その隣に文字が現れる。


「『繋ぐ者』……」


ミレイユが、自分の《呪鎖》を見る。


三人とも黙った。


しばらくして、ソアがぽつりと言った。


「……私、手放してる?」


レイナがソアの全身を見る。


壊れた鎧。


外された肩当て。


傷だらけの盾。


そして、ところどころ補修された装備。


「……かなり」


「そんなに!?」


「むしろ、よく今まで無事だったわね」


ミレイユが呆れたように言う。


「でも、私は鎧が好きだから!」


「そこは関係あるの?」


「あるよ!」


ソアは胸を張った。


「好きだから壊れても直す!」


レイナとミレイユは顔を見合わせる。


「……ソアらしい」


「ええ。本当に」


二人が笑った。


けれど、そのときだった。


ズズズズズ……。


遠くから地響きが聞こえた。


「……何?」


ソアが振り返る。


根の向こう。


さっきまで何もなかった場所から、黒い影が這い出してきた。


巨大な魔物だった。


全身を黒い霧に包み、赤い目だけがこちらを睨んでいる。


「魔物……!」


レイナが剣を抜く。


魔物が咆哮した。


その瞬間、周囲の根が大きく揺れた。


黒い霧が世界樹の根へ流れ込もうとしている。


「こいつ……世界樹の魔力を吸ってる!」


ミレイユが叫ぶ。


レイナが前へ出た。


「ソア。先へ行って」


「でも!」


「ここは私たちが止める」


レイナの《鉄壁》が展開する。


今までとは比べ物にならないほど巨大な光の壁だった。


魔物の爪が振り下ろされる。


ドォォォンッ!


巨大な衝撃音。


それでも《鉄壁》は崩れない。


「……すごい」


ソアが呟く。


レイナ自身も驚いていた。


「私の《鉄壁》が……こんなに強く……」


その盾には、いつの間にか細かな緑色の模様が浮かんでいた。


世界樹の根と同じ模様。


「世界樹が、力を貸してるのかもね」


ミレイユが呟く。


次の瞬間。


ミレイユの《呪鎖》が地面から伸びた。


ジャララララッ!


大量の鎖が魔物の腕と脚へ絡みつく。


しかし、いつもの《呪鎖》とは違った。


鎖が世界樹の根と繋がっている。


魔物を縛るだけではない。


その存在そのものを、この場所へ繋ぎ止めていた。


「……なるほど」


ミレイユが笑う。


「私の力も、変わり始めてる」


レイナが叫ぶ。


「ミレイユ!」


「分かってる!」


二人が同時に動く。


《鉄壁》が魔物の攻撃を防ぎ、


《呪鎖》が魔物の動きを封じる。


ソアは二人を見つめた。


「……二人とも、世界樹に選ばれたのかな」


ミレイユが答える。


「どうでしょうね」


そして、ソアを見る。


「でも、あなたはもっと深い場所に呼ばれているみたいよ」


ソアは少しだけ迷った。


一人で進むのは怖い。


でも。


この先にいる何かが、自分を呼んでいる。


「……分かった」


ソアは剣を握り直した。


「行ってくる」


レイナが笑う。


「うん。行っておいで」


ミレイユも頷く。


「私たちは、ここで自分の役割を確かめるわ」


ソアは二人に背を向けた。


そして、根の奥へ続く道を歩き始める。


一歩。


また一歩。


進むたびに、周囲の緑色の光が強くなっていく。


やがて――


ソアは巨大な扉の前にたどり着いた。


扉には、七つの異なる紋章が刻まれている。


剣。


翼。


盾。


鎖。


砲。


籠手。


そして――


見たことのない紋章。


「七つ……?」


ソアが扉に手を触れる。


その瞬間。


ドクン。


扉の向こうから、何かが鼓動した。


「……いるの?」


返事はない。


もう一度。


ドクン。


今度ははっきり聞こえた。


小さな何かが、扉の向こうで動いている。


そして、その音と同時に――


遠く離れたどこかで、黒い水晶が淡く光った。


その水晶を覗き込む人物がいる。


黒いローブの男だった。


男は七つの光を見つめる。


「……また一つ、目覚めたか」


その声には、わずかな笑みが混じっていた。


「急ぐ必要はない」


男は静かに呟く。


「器は、すべてこちらへ集めればいい」


黒い水晶の中で、七つの光が揺れる。


そのうちの一つだけが――


小さく、緑色に輝いた。


一方。


世界樹の根の奥では。


ソアが、まだ知らない。


自分がこれから出会う小さな存在が――


やがて世界そのものを変えることを。


そして。


この世界には、自分と同じように世界樹に選ばれた者が、もう一人いることを。

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