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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第三章 世界樹と小さな種

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第18話 不思議な魔力


北西の迷宮森林。


街を出てから、三日目。


ソアたちは森の入口に立っていた。


「……大きい」


ソアが上を見上げる。


木々が高い。


あまりにも高い。


空がほとんど見えないほど、巨大な木々が密集している。


「迷宮森林っていうだけあるわね」


ミレイユが周囲を見回す。


「普通の森とは魔力の濃さが違う」


レイナも頷く。


「気を抜くなよ」


「うん!」


ソアは元気よく返事をした。


そして。


一歩、森の中へ入った。


「……」


ソアが足を止める。


「どうした?」


レイナが振り返る。


「今……」


ソアは胸元に手を当てた。


「何か聞こえた気がした」


「声?」


「ううん」


ソアは首を振る。


「音じゃない」


「じゃあ、何?」


「分からない」


ソアは森の奥を見る。


「でも……」


不思議だった。


森に入った瞬間から。


身体の奥が、ほんの少しだけ温かい。


まるで。


誰かに呼ばれているような感覚。


「……こっち」


ソアが歩き出す。


「待ちなさい」


ミレイユが止める。


「どこへ行くの?」


「分からない」


「分からないのに?」


「うん」


「……」


ミレイユはレイナを見る。


レイナも困った顔をしている。


「ソア」


レイナが呼びかける。


「この森は迷宮だ。勝手に進むのは危険だぞ」


「でも」


ソアは振り返る。


「こっちに行けば、何か分かる気がする」


その顔を見て。


二人は黙った。


ソア自身も、なぜそう思うのか分かっていない。


それなのに。


なぜか確信だけはあった。


「……仕方ないわね」


ミレイユがため息をつく。


「ただし、私たちから離れないこと」


「分かった!」


「本当に分かってる?」


「うん!」


「ならいいわ」


三人は森の奥へ進んだ。


一時間後。


「……おかしい」


レイナが地図を広げた。


「どうしたの?」


ソアが覗き込む。


「さっきから、地図と地形が合わない」


「迷った?」


「そういうことだ」


「えっ」


ソアが周囲を見る。


「でも、ちゃんと真っ直ぐ進んでるよ?」


「それが問題なのよ」


ミレイユが言った。


「この森は、普通の迷宮とは違う」


「どういうこと?」


「空間そのものが歪んでいる可能性がある」


「空間が?」


「ええ」


ミレイユが木の幹に触れる。


「魔力が一定方向に流れている」


「どっち?」


ミレイユが指を差す。


「……あっち」


ソアが言った。


「え?」


二人がソアを見る。


「魔力の流れなら、あっちだよ」


「分かるの?」


「なんとなく」


ソアは指を差した。


「こっちから来て……」


「……」


「ここで曲がって……」


「……」


「こっち」


ミレイユが目を細めた。


「……合ってる」


レイナも驚く。


「本当に?」


「ええ」


ミレイユが地図を見る。


「ソアの言った方向と一致している」


「やった!」


ソアが喜ぶ。


「私、森に詳しいのかも!」


「いや」


レイナが即座に否定した。


「街の外に出たのは、まだそんなに長くないだろう」


「そうだった」


「じゃあ、どうして分かった?」


「……分からない」


ソアは首を傾げる。


ただ。


胸の奥にある感覚だけは、さっきより強くなっていた。


温かい。


懐かしい。


知らないはずなのに。


なぜか、知っているような。


そんな感覚。


さらに奥へ進む。


魔物が何体か現れた。


しかし。


以前とは違った。


ソアは装備を一部だけ外した状態で戦っていた。


「《全解除・パージ》!」


カシャン。


肩当てが外れる。


「よし!」


ソアの身体が軽くなる。


一気に距離を詰める。


「せいっ!」


魔物が吹き飛ぶ。


レイナが大剣を振る。


「そこだ!」


ズガンッ!


ミレイユが杖を振る。


「《呪鎖》」


紫色の鎖が魔物の脚を縛る。


三人の連携は、以前より明らかに良くなっていた。


戦闘が終わる。


ソアが壊れた装備を拾う。


「……また壊れた」


「嬉しそうね」


ミレイユが言う。


「だって強くなった!」


「修理費は?」


「……」


ソアの笑顔が消えた。


「……考えたくない」


レイナが笑う。


「そこだけは普通なんだな」


「普通だよ!」


ソアは壊れた肩当てを大事そうに袋へ入れる。


「これも直してもらわないと」


「本当に鎧が好きなのね」


「うん!」


ソアは迷いなく答えた。


「大好き!」


その瞬間。


森の奥から。


――ドクン。


何かが脈打った。


「……!」


ソアが振り返る。


「今の!」


「何?」


レイナが聞く。


「また……」


ソアは森の奥を見る。


「何かいる」


ミレイユも魔力を探る。


「……妙ね」


「分かる?」


「魔力反応はある」


「敵?」


「分からない」


ミレイユは目を閉じる。


しばらくして。


「でも、攻撃的な魔力じゃない」


「じゃあ……」


ソアが一歩前へ出る。


「行ってみよう」


三人は森の奥へ進んだ。


やがて。


木々の間に、巨大な石壁が現れた。


「遺跡?」


レイナが近づく。


壁には古い文字が刻まれている。


ミレイユが読む。


「……古代語ね」


「何て書いてある?」


「一部だけなら……」


ミレイユが文字をなぞる。


「『ここより先――』」


そこで止まった。


「どうした?」


レイナが聞く。


ミレイユの表情が変わっていた。


「……続きがない」


「え?」


「文字が途中で消えている」


壁の先には。


巨大な石の扉があった。


しかし。


扉には取っ手も、鍵穴もない。


「どうやって開けるんだ?」


レイナが触れる。


反応はない。


ミレイユも魔力を流す。


何も起こらない。


ソアが近づく。


「ちょっと触ってみていい?」


「危険かもしれないぞ」


「大丈夫」


ソアは石の扉に手を触れた。


その瞬間。


――ドクン。


緑色の光が走った。


「!」


三人が息を呑む。


石の扉に刻まれた文字が、次々と光り始める。


そして。


巨大な扉が――


ゆっくりと開いた。


ゴゴゴゴゴ……。


「……」


「……」


「……」


三人とも言葉が出なかった。


ソアだけが。


なぜか笑っていた。


「やっぱり」


「何が?」


「こっちだと思った」


扉の向こう。


そこには、地下へ続く長い階段があった。


階段の先から。


暖かい風が吹いてくる。


そして。


その風に混じって――


ほんのかすかに。


草木の香りがした。


ソアは一歩、階段へ足をかける。


「行こう」


レイナが大剣を構える。


ミレイユも杖を握る。


三人は地下へ降りていく。


その頃。


誰もいない地下深く。


巨大な根の隙間で――


小さな種が、また一度だけ脈打った。


――ドクン。


その表面に。


ほんの小さな亀裂が入った。


そして。


そこから。


緑色の光が、静かに漏れ始めた。

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