第143話 世界へ返す
黒い刃が、ソアへと迫る。
その一撃を、ソアは真正面から受け止めなかった。
「右から来るよ!」
「分かっている!」
ヴァルトが地面を蹴り、巨大な拳を黒い刃の側面へ叩き込む。
ゴォンッ!!
軌道がわずかに逸れた。
その隙に、レイナが《絶対鏡盾》を構える。
「ミレイユ!」
「はいはい、分かってるわよ!」
ミレイユの《願結び》が盾と繋がり、ヴァルトの拳が生んだ衝撃を受け取る。
レイナはそれを真正面から押し返した。
ドォォォン!!
黒い巨体が、初めて大きく揺らいだ。
「今だ、ソア!」
「うん!」
ソアは地面を蹴った。
ダッ!!
身体が弾丸のように飛び出す。
《SKIN BOOST:ORIGIN》。
目覚めたばかりの力が、全身を駆け巡っていた。
けれど――
「っ……!」
力が強すぎる。
速く走ろうとすれば、身体が前へ飛びすぎる。
剣を振ろうとすれば、狙いがわずかにずれる。
力を制御しようとするほど、身体の奥で何かが暴れた。
「ソア! 無理に抑え込まないで!」
シードの声が響いた。
「……え?」
「……ながれ、きいて」
シードの葉が、淡い緑色に輝く。
「……ソアの、ちから。ひとりで、もたなくていい」
「……そっか」
ソアは剣を握り直した。
今までの自分なら、きっと力を制御しようとしていた。
自分の身体だから。
自分のスキルだから。
自分で何とかしなければいけないと思っていた。
けれど。
「みんな! もう一回、力を貸して!」
「何度でも!」
レイナが盾を構える。
「今度は私が、受け取るわ!」
ミレイユの呪鎖が緑色の光を帯びる。
「暴走したら、私が繋ぎ止めてあげる!」
ヴァルトも拳を握った。
「俺は道を開く!」
シードの葉が、さらに強く輝いた。
「……みんなで、かえる」
四人の力が、ソアのもとへ流れ込む。
しかし、それは一つに混ざり合う力ではなかった。
盾は盾として。
呪いは繋ぐ力として。
拳は道を開く力として。
記憶は、次へ渡す力として。
それぞれが自分の役割を保ったまま、互いを支えていた。
ソアは笑った。
「うん! これなら――!」
踏み込む。
今度は、力に振り回されなかった。
速さも。
強さも。
仲間から受け取った力も。
すべてを自分だけのものにしようとせず、流れの中で使う。
ソアの剣が、黒い巨体の胸へと迫った。
ガキィィン!!
だが、刃は弾かれた。
「うそっ!?」
黒い装甲が再生する。
ひび割れた胸部が、見る間に元へ戻っていった。
管理者の声が響く。
『無意味です』
『接続された七つの器は、すでに一つの循環へ統合されつつあります』
『外部からの攻撃は、すべて再生に利用されます』
「攻撃すればするほど、回復するってこと!?」
『その通りです』
「それ、反則じゃない!?」
「敵に反則という概念はない!」
ヴァルトが即座に言い返した。
「分かってるけどさぁ!」
ソアは頬を膨らませた。
だが、すぐに真剣な表情へ戻る。
「……壊すだけじゃ、駄目なんだ」
シードが胸元を指差した。
「……あそこ。ちから、あつまってる」
黒い巨体の胸部。
そこには、七つの紋章が浮かんでいた。
それぞれの器から吸い上げられた力が、中央の黒い結晶へ集められている。
その結晶が、世界樹の循環を無理やり押さえつけていた。
ソアは目を細める。
「力を集めている場所を壊しても、また繋がっちゃうんだよね」
「ならば、繋がりそのものを断つ必要がある」
レイナが言った。
ミレイユも頷く。
「でも、無理やり切れば、溜め込まれた魔力が一気に逆流する。世界樹が耐えられるか分からないわ」
その時だった。
ヴァルトの右腕が、黒い光を放った。
「……っ!」
《巨神の籠手》が、勝手に動き始めていた。
黒い結晶が腕を覆い、胸部の紋章へと伸びていく。
『巨神の器を確認』
『接続を再開します』
「くそっ……!」
ヴァルトが左手で右腕を押さえ込む。
しかし、籠手は彼の意思に反して、黒い巨体へ引き寄せられていた。
ゴゴゴゴゴ……!
床が震える。
黒い結晶の鎖が、ヴァルトの腕から胸へと伸びた。
『巨神の器は、統合のために必要です』
『抵抗を停止してください』
「……黙れ」
ヴァルトは歯を食いしばった。
「もう、俺の力を勝手に使わせはしない」
拳を握り締める。
だが、籠手はさらに強く輝いた。
ヴァルトの顔が苦痛に歪む。
「ヴァルト!」
ソアが駆け寄ろうとした。
「来るな!」
ヴァルトの怒声が響いた。
ソアの足が止まる。
「……俺が、何とかする」
「でも!」
「俺が持っていた力だ。俺が責任を取る」
ヴァルトは黒い結晶に覆われた腕を見つめた。
かつての自分は、力を集めれば誰も失わずに済むと信じていた。
守るために。
失わないために。
そのためなら、他人の力を奪ってもいいと思っていた。
そして今。
同じことを、再び繰り返そうとしている。
「……違う」
ヴァルトは小さく呟いた。
「俺が責任を取るというのは……全部を俺一人で抱えることじゃない」
彼は、右腕を押さえていた左手を離した。
「ヴァルト!?」
ソアが叫ぶ。
ヴァルトは静かに目を閉じた。
「巨神の器よ」
右腕の籠手が、強く輝いた。
「俺は、お前を使って誰も失わない世界を作ろうとした」
黒い結晶が、彼の肩まで這い上がる。
「だが、そのために、俺は多くのものを奪った」
ヴァルトはゆっくりと右手を開いた。
「……もう、俺のために力を留めておく必要はない」
その瞬間。
籠手の輝きが変わった。
黒い光の奥に、金色の光が生まれる。
それは、かつてヴァルトが初めてこの器を手にした時に見た光だった。
巨神の器は、彼の腕からゆっくりと離れた。
ガシャン。
籠手が地面へ落ちる。
いや。
落ちる寸前、ふわりと浮かび上がった。
まるで、自分自身の意思で動いているかのように。
ヴァルトは、その姿を見つめた。
「……そうか」
彼は小さく笑った。
「お前も、誰かのものとして留まる必要はなかったんだな」
籠手は一度だけ、金色の光を放った。
そして、中央の黒い結晶へと向かって飛んでいく。
「ヴァルト!」
ソアが手を伸ばした。
しかし、籠手は止まらなかった。
巨神の器は、黒い結晶へ触れる直前で向きを変えた。
そして――
自らの内部に蓄えられた力を、世界樹へ向けて解き放った。
ドォォォォォン!!
金色の光が、黒い巨体の胸部を貫いた。
『――異常』
『巨神の器、出力の放棄を確認』
『統合率、低下』
管理者の声に、初めて乱れが生じた。
黒い結晶の鎖が、次々と砕けていく。
ヴァルトは右腕を押さえた。
そこには、もう籠手はなかった。
彼の身体がぐらりと傾く。
「ヴァルト!」
ソアが駆け寄り、肩を支えた。
「大丈夫!?」
「……ああ」
ヴァルトは苦笑した。
「少し、腕が軽くなった」
「そっか」
ソアはほっと息をついた。
「……でも」
ヴァルトは、空になった右手を見つめる。
「俺は、これから自分の力だけで、やったことの責任を取らなければならない」
「うん」
ソアは頷いた。
「それは、これからだよ」
「……ああ」
「でも、今は一緒に戦おう」
ソアは手を差し出した。
「まだ終わってないからね!」
ヴァルトはその手を見つめた。
そして、ゆっくりと握り返した。
「……ああ」
立ち上がる。
籠手を失っても、彼は戦うことをやめなかった。
*
中央の黒い結晶に、巨大な亀裂が走った。
その奥から、細い光が漏れ出している。
緑色の光。
世界樹の光だった。
「……みえた」
シードが呟いた。
葉が震える。
「……ほんとうの、みち」
結晶の根元。
七つの紋章の下に、今まで隠されていた小さな台座が現れていた。
そこには、一本の剣が浮かんでいた。
黒くも、金色でもない。
透き通るような銀色の刃。
刀身には、細い亀裂のような模様が走っている。
けれど、その刃からは不思議な静けさが感じられた。
ソアは目を瞬かせる。
「……剣?」
シードが頷いた。
「……おわりの、つるぎ」
レイナが息を呑む。
「《終焉の剣》……!」
かつて、世界樹の記録に残されていた第六の器。
蓄積された余剰の力を断ち、停滞した流れを解き放つもの。
それは、何かを滅ぼすためだけの剣ではなかった。
終わらせるべきものを終わらせ、次へ進むための道を作る剣だった。
だが、その剣は誰の手にも握られていない。
ただ台座の上に浮かび、黒い結晶と世界樹の光を繋いでいた。
「……あれを使えば、無理やり繋がれた流れを切れるの?」
ソアが尋ねる。
シードは剣を見つめた。
「……きれる」
そして、小さく首を振る。
「……でも、ちからだけ、きったら……だめ」
「……うん」
ソアは頷いた。
「力を切るだけじゃなくて、ちゃんと返さなきゃいけないんだね」
シードは微笑んだ。
「……そう」
その時。
管理者の声が、再び響いた。
『終焉の器を確認』
『管理経路への干渉を許可しません』
黒い巨体が、胸部から無数の刃を生み出した。
先ほどまでとは違う。
そのすべてが、中央の剣へ向けられていた。
「シードを守れ!」
レイナが盾を構える。
ミレイユの呪鎖が広がり、刃の進路を縛る。
ヴァルトは籠手のない右拳を握り締めた。
「今度は、俺自身の力で道を開く!」
黒い刃が、一斉に襲いかかる。
ドドドドドドッ!!
レイナが受け止める。
ミレイユが繋ぐ。
ヴァルトが弾く。
そしてソアは、シードの前に立った。
「シード!」
「……うん」
「剣に繋いで! みんなの力を、あの結晶まで!」
シードの葉が、強く輝いた。
「……わかった!」
緑色の光が床を走る。
レイナの盾。
ミレイユの呪鎖。
ヴァルトが開いた道。
そして、ソアの身体を巡る《SKIN BOOST:ORIGIN》。
それぞれの力が、銀色の剣へと流れ込んだ。
剣が震える。
キィィィン……!
銀色の刃に、緑色の光が浮かび上がった。
その光は、黒い結晶の表面を伝い、七つの紋章へと広がっていく。
『警告』
『管理経路への侵入を確認』
『接続を維持してください』
管理者の声が、焦りを帯びた。
しかし、剣は黒い結晶を破壊しなかった。
代わりに、そこへ押し込められていた力の流れを照らし出した。
どこから奪われたのか。
どこへ戻るべきなのか。
誰の記憶が、どこに閉じ込められているのか。
そのすべてが、光の筋となって現れた。
そして。
一本の細い光が、管理者の胸部へと繋がっていた。
ソアは息を呑んだ。
「……あれは?」
シードの表情が変わった。
いつもの柔らかな顔ではない。
大切なものを見つけた時の、真剣な顔だった。
「……あのひとの、きおく」
「管理者の?」
「……うん」
光の中に、ひとりの少女が浮かび上がった。
幼い頃の管理者と、一緒に笑っていた少女。
瓦礫の中で、彼の手を握っていた少女。
そして、彼がずっと失いたくなかった人。
管理者の巨体が、ぴたりと動きを止めた。
『……その記憶は』
声が震えた。
『……返しては、ならない』
ソアは剣を構えたまま、静かに答えた。
「……でも、あなたのものだけでもないんだよ」
『何を……』
「その子が生きた時間も、あなたと過ごした時間も。あなたが全部抱えて、閉じ込めておくものじゃない」
ソアはシードを振り返った。
「シード。受け取れる?」
シードは、少女の記憶を見つめた。
小さな葉が揺れる。
「……うん」
そして、ゆっくりと手を伸ばした。
「……わたし、うけとる」
緑色の光が、シードの手のひらに降り注いだ。
「……でも」
シードは顔を上げた。
「……ぜんぶ、わたしのものには、しない」
その言葉とともに、少女の記憶が開かれた。
幼い少年の笑顔。
世界樹の根元で交わした約束。
災害の中で、彼を守ろうとした少女の姿。
そして、最後の瞬間。
少女は、少年の手を握っていた。
『……生きて』
かすかな声が響く。
『あなたは、あなたのままで、生きて』
少年は泣いていた。
何もできない自分を責めて。
少女を失うことを恐れて。
それでも、少女は微笑んでいた。
『世界樹を、守ってね』
『でも……』
『みんなを、あなたの思い通りにしなくていいの』
少女の手が、ゆっくりと離れていく。
『あなたも、自分の人生を生きて』
光が、静かに広がった。
管理者の巨体が震えた。
『……やめろ』
その声には、もう威圧する力がなかった。
『……私は』
黒い結晶に、亀裂が走る。
『私は……お前を、失いたくなかった』
ソアは剣を下ろさなかった。
けれど、その声を遮りもしなかった。
「……うん」
ソアは静かに頷いた。
「大切だったんだね」
『……ああ』
「だから、忘れたくなかった」
『……ああ』
「でも」
ソアは、銀色の剣を見つめた。
「忘れないことと、閉じ込めておくことは、違うんだよ」
管理者は答えなかった。
シードの手の中で、少女の記憶が淡く輝いている。
それは、消えていく光ではなかった。
誰かが受け取り、次へ渡すための光だった。
シードはそっと目を閉じた。
「……あなたが、すきだった」
少女の声が、もう一度響いた。
「……だから、あなたには……あなたのままで、生きてほしい」
管理者の胸部に、深い亀裂が走った。
その奥から、黒い光が溢れ出す。
長い間、押し込められていた力。
失われた記憶。
誰にも渡されなかった願い。
それらが、世界樹へ戻ろうとしていた。
『……私は』
管理者が、ゆっくりと顔を上げた。
『私は……間違えていたのか』
ソアはすぐには答えなかった。
ただ、シードの隣に立った。
「……これから、決めればいいよ」
管理者の目が、ソアを見つめる。
「過去に何をしたかは、なかったことにはできない」
ソアはまっすぐに言った。
「でも、これからどうするかは、まだ選べる」
そして、少しだけ笑った。
「私たちも、一緒に手伝うから」
管理者は、長い沈黙のあと、目を閉じた。
『……そうか』
その声は、初めてひとりの人間のように聞こえた。
『……まだ、選べるのか』
シードが頷く。
「……うん」
小さな葉が、優しく揺れた。
「……まだ、つぎが、ある」
*
銀色の剣が、ひときわ強く輝いた。
シードが顔を上げる。
「……いま」
「うん!」
ソアは剣を構え直した。
黒い結晶は、まだ完全には崩れていない。
管理者の力も、世界樹の循環も、まだ不安定なままだ。
このまま放置すれば、再び力が滞り、世界に異常が起こるかもしれない。
だからこそ、最後に必要なことがある。
無理やり繋がれた流れを断ち。
閉じ込められた力を解き放ち。
それぞれが、本来戻るべき場所へ帰る道を作ること。
ソアは仲間たちを見た。
「みんな、準備はいい?」
「もちろんだ!」
レイナが盾を掲げる。
「いつでもいいわよ!」
ミレイユの呪鎖が、銀色の光を帯びる。
「俺も行ける」
ヴァルトが、空になった右手を握った。
シードは、ソアの隣で頷いた。
「……みんなで、かえる」
ソアは笑った。
「うん。みんなで帰ろう!」
彼女は地面を蹴った。
ダッ!!
《SKIN BOOST:ORIGIN》が、仲間たちの力と共鳴する。
その瞬間、銀色の剣から光の刃が伸びた。
ソアの手にある普通の剣が、世界樹の力を帯びて輝く。
それは《終焉の剣》そのものを手に入れたということではない。
世界樹が本来持っていた、停滞した流れを断つ機能。
その力が、仲間たちの意思を通じて、ソアの剣へと届いていた。
ソアは振りかぶる。
狙うのは、管理者の身体ではない。
胸部の黒い結晶でもない。
そこから伸びる、七つの器を無理やり束ねた接続の中心。
「これで――!」
ソアは剣を振り下ろした。
「終わらせるよ!」
ザァァァァン!!
銀色の光が、世界樹の中心を走り抜けた。
黒い鎖が、一本。
二本。
三本。
次々と切れていく。
しかし、切れた鎖から溢れた魔力は、暴走することなく、緑色の光に包まれて流れ始めた。
レイナが盾で流れを受け止め、ミレイユが《願結び》で道を繋ぐ。
ヴァルトは、残った黒い結晶を拳で砕いた。
シードは、溢れ出す記憶を受け取り、次へ渡していく。
そしてソアは、流れを押さえ込むことなく、その勢いを前へと導いた。
世界樹の根が、光を取り戻す。
黒く染まっていた幹に、緑色の筋が走る。
七つの紋章が、ひとつずつ輝きを失っていく。
それは、器が壊れているのではなかった。
器に閉じ込められていた力が、解放されているのだ。
『……接続が』
管理者の声が響いた。
『……解除されていく』
黒い巨体の翼が、崩れ始めた。
腕の装甲が剥がれ、胸部の結晶が砕けていく。
それでも、ソアは剣を振るうのをやめなかった。
最後の鎖が、管理者の胸部から世界樹へ伸びていた。
その鎖だけは、ひときわ太く、強く輝いている。
「……あれが、最後」
ソアは息を整えた。
身体は限界に近かった。
《SKIN BOOST:ORIGIN》の力も、もう長くは保たない。
それでも。
「……大丈夫」
ソアは仲間たちを見た。
「みんながいるから」
レイナが頷く。
ミレイユが微笑む。
ヴァルトが拳を握る。
シードの葉が、優しく輝く。
四人の力が、再びソアへと流れ込んだ。
ソアは最後の一歩を踏み出す。
そして――
最後の鎖へ、剣を振り下ろした。
キィィィィン……!
澄んだ音が、世界樹の中心に響いた。
鎖が、静かに切れた。
その瞬間。
世界樹の中心から、まばゆい緑色の光が溢れ出した。
それは、爆発ではなかった。
誰かを押し潰す力でもなかった。
長い間、閉じ込められていたものが、ようやく外へ出ていく光だった。
魔力が流れる。
記憶が流れる。
誰かの願いが、次の命へと渡されていく。
ソアは、その光の中で目を細めた。
「……きれい」
シードが隣に立った。
「……うん」
二人は、世界樹を見上げた。
その幹に、新しい緑が芽吹いていく。
ひとつ。
また、ひとつ。
世界が、ゆっくりと息を吹き返していた。
そして、光の中心に立つ管理者が、静かに膝をついた。
『……終わったのか』
ソアは、剣を下ろした。
「……ううん」
少しだけ笑う。
「ここからだよ」
管理者は、顔を上げた。
世界樹の光が、その身体を包み込んでいる。
もう、誰かの力を奪うための光ではない。
これから、彼が償いながら生きていくための光だった。
シードが、そっと手を伸ばす。
「……かえろう」
その言葉に、ソアは頷いた。
「うん」
そして、仲間たちを振り返る。
「みんなで帰ろう!」
世界樹の中心に、穏やかな風が吹いた。
その風は、遠い昔に失われたものを運んでいく。
失ったものを、なかったことにはできない。
けれど、失ったものから受け取った願いは、次へと渡していける。
ソアは、その光を見つめながら思った。
大切だからって、全部自分のものにしなくてもいい。
大切だからこそ、手放して、誰かへ渡せるものもある。
そして――
何かを手放したからといって、自分まで失うわけではない。
ソアは笑った。
「……よし!」
世界樹の中心で、最後の光が静かに流れていった。
長い戦いは、ようやく終わりを迎えようとしていた。




