↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第十一章 竜皇砲と、集められる力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
134/158

第136話 最後に手放すもの


ゴォォォォォ……!!


世界樹の深部へ続く道が、ゆっくりと開いていく。


その先から、膨大な魔力が流れ込んできた。


緑色の光。


金色の光。


そして、それらを飲み込もうとする黒い光。


三つの光が混ざり合い、空間全体を激しく揺らしていた。


「……あそこが、世界樹の中心?」


レイナが盾を構えたまま尋ねた。


シードは、ゆっくりと頷いた。


「……うん」


小さな葉が、淡く光る。


「……ほんとうの、ながれ」


ソアは開いた道を見つめた。


「……じゃあ、あそこまで行けば、全部終わるの?」


『否定』


管理者の声が響いた。


胸部の装甲は砕け、七つの光が露わになっている。


それでも、その身体は倒れていなかった。


『世界樹経路ノ完全接続ハ、既ニ開始サレタ』


『接続ヲ停止スレバ、蓄積サレタ魔力ガ逆流スル』


『世界樹ノ循環ハ崩壊スル』


「……つまり、止め方を間違えたら世界が危ないってこと?」


ソアが顔をしかめた。


『肯定』


「うわぁ……」


ソアは頭を抱えた。


「倒せば終わり、ってわけじゃないんだね……」


「最初から、そんなに簡単な相手ではないと思っていたわ」


ミレイユがため息をついた。


「でも、方法はあるはずよ」


ヴァルトは管理者を見据えた。


「お前は力を集めることで、循環を安定させようとした。だが、その方法では、力が一か所に留まり続ける」


『……』


「なら、力を無理に止めるのではなく、流れを取り戻せばいい」


管理者は答えなかった。


ソアはシードを見た。


シードも、ソアを見上げていた。


「……かえす」


小さな声。


「……うけとって、かえす」


ソアは頷いた。


「うん。今度は、それをやろう」


     ◇


管理者が、ゆっくりと腕を上げた。


『最終防衛機構――起動』


空間の壁が、音を立てて崩れた。


その奥から現れたのは、無数の黒い結晶だった。


結晶は、巨大な竜の姿を形作っていく。


長い首。


鋭い牙。


六枚の翼。


そして、胸部には竜皇砲と同じ紋章が刻まれていた。


「……竜?」


ソアが目を丸くした。


「ちょっと待って。ここで竜が出てくるの!?」


レイナが剣を構えた。


「驚いている場合ではない!」


「分かってるけど!」


黒い竜が咆哮した。


グオオオオオオオッ!!


衝撃波が空間を駆け抜ける。


ソアは翼を広げて飛び上がった。


「みんな、散って!」


竜の口元に、黒い光が集まる。


「来るぞ!」


ヴァルトが叫んだ。


ドォォォォォン!!


砲撃が放たれた。


ソアは空中で身体をひねり、間一髪でかわす。


だが、砲撃は背後の壁に激突し、巨大な結晶を粉砕した。


「……あれ、まともに受けたら終わるよね!?」


「間違いなく終わるな!」


ヴァルトが即答した。


「そんな冷静に言わないでよ!」


竜が翼を広げた。


黒い羽根が、無数の刃となって降り注ぐ。


「《絶対鏡盾》!」


レイナが盾を掲げる。


ガガガガガガッ!!


刃が盾に弾かれ、周囲へ飛び散った。


しかし、すべてを防ぎきることはできない。


一本の刃が、ミレイユへ迫った。


「ミレイユさん!」


ソアが翼を打つ。


一気に加速し、刃を剣で弾き飛ばした。


キィン!


「助かったわ、ソア!」


「うん! でも、数が多すぎる!」


ヴァルトが竜の足元へ踏み込んだ。


「なら、数を減らす!」


巨神の籠手が唸る。


ドゴォォン!!


拳が竜の脚へ叩き込まれた。


結晶の表面に亀裂が走る。


だが、竜は倒れない。


逆に巨大な尾を振り回した。


「ぐっ……!」


ヴァルトが吹き飛ばされる。


「ヴァルト!」


ソアは翼で急降下し、彼の身体を受け止めた。


「……助かった」


「まだまだ!」


ソアはヴァルトを地面へ降ろした。


「一緒に帰るんだから、勝手に倒れないでよ!」


ヴァルトは一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。


「……ああ」


     ◇


竜の動きは、さらに激しくなった。


首を振り回し、爪を振り下ろし、翼から黒い刃を放つ。


ソアは翼とスキンブーストを使い、攻撃の隙間を縫うように飛び回った。


「右から!」


レイナが叫ぶ。


ソアは身体をひねった。


竜の爪が、目の前を通り過ぎる。


「ありがとう!」


「上よ!」


今度はミレイユの声。


ソアは翼を打ち、急上昇した。


直後、黒い尾が床を砕いた。


「……っ、危なかった!」


速さだけでは足りない。


仲間たちの声があるから、攻撃を避けられる。


そして、ソアが動くことで、仲間たちにも攻撃の隙が生まれる。


「レイナ、今!」


「任せて!」


レイナが盾を構え、竜の爪を受け止めた。


ガァン!!


衝撃が盾を揺らす。


しかし、レイナは一人で抱え込まなかった。


「ミレイユ!」


「ええ!」


《願結び》の鎖が伸び、盾と繋がる。


衝撃が分散され、ヴァルトの籠手へと流れていく。


「受け取った!」


ヴァルトが拳を振る。


ドゴォォン!!


竜の爪が砕けた。


「ソア!」


「分かってる!」


ソアは空中で方向を変え、竜の首元へ飛び込んだ。


「これで――!」


剣を振り下ろす。


ザシュッ!


黒い結晶が裂け、竜が大きく吠えた。


グオオオオオッ!!


竜の身体が揺らぐ。


だが、すぐに黒い光が傷口を覆い始めた。


砕けた結晶が再び集まり、形を取り戻していく。


「……また再生するの!?」


ソアが叫んだ。


『最終防衛機構ハ、統合魔力ニヨリ再構成サレル』


管理者の声が響く。


『破壊ノミデハ、停止シナイ』


「……なるほどね」


ソアは剣を構え直した。


「だったら、壊すだけじゃ駄目なんだ」


     ◇


シードが、竜を見つめていた。


小さな葉が、淡く明滅している。


「……ソア」


「どうしたの?」


「……あのなかに、きおくがある」


「記憶?」


「……うん」


シードは胸元に手を当てた。


「……ほんとうの、ながれを……とめた、きおく」


ソアは目を見開いた。


「じゃあ、あの竜は……」


「……せかいじゅの、ちからを……とじこめてる」


シードの言葉に、ミレイユが顔を上げた。


「つまり、竜を倒すのではなく、閉じ込められた力を解放する必要があるのね」


「でも、どうやって?」


レイナが尋ねた。


シードは、しばらく考え込んだ。


「……つなぐ」


「つなぐ?」


「……みんなの、ちからを……つないで」


シードは管理者を見た。


「……ながれを、つくる」


ヴァルトが拳を握り直した。


「なら、やることは決まったな」


ソアは頷いた。


「うん!」


彼女は竜を見据えた。


「竜を倒すんじゃない。竜の中に閉じ込められた力を、外へ返すんだ!」


「……ただし、簡単ではないわよ」


ミレイユが冷静に言った。


「竜の攻撃を受けながら、魔力の流れを繋ぐ必要がある。しかも、管理者が妨害してくるでしょうね」


「うん」


ソアは笑った。


「だから、みんなでやるんだよ!」


     ◇


竜が、再び口を開いた。


黒い光が集まる。


先ほどよりも大きい。


「……まずい!」


レイナが盾を構えた。


しかし、砲撃の標的は彼女たちではなかった。


竜の胸部にある紋章。


そこへ、すべての魔力が集まっていく。


「……自分自身を撃つつもり!?」


ミレイユが叫んだ。


『統合魔力ノ安定化ヲ開始』


管理者の声が響く。


『最終防衛機構ヲ維持スル』


竜の胸部が、まばゆい黒光りに包まれた。


このままでは、閉じ込められた魔力が完全に固定されてしまう。


「ソア!」


シードが叫んだ。


「……いま!」


ソアは床を蹴った。


翼を広げる。


スキンブーストが全身を駆け巡る。


竜の爪が迫る。


ソアは壁を蹴り、身体をひねり、爪の隙間をすり抜けた。


「行かせない!」


黒い刃が降り注ぐ。


レイナが盾を掲げ、刃を受け止める。


ミレイユの鎖が竜の翼を縛り、ヴァルトが巨神の籠手で首元の結晶を砕いた。


一瞬だけ、胸部への道が開いた。


「今だぁぁぁ!」


ソアは剣を構えた。


しかし、胸部へ刃が届く直前。


管理者の声が響いた。


『警告』


『第七の器ガ、循環経路ノ中心ヘ接続サレタ場合』


『世界樹ノ記憶ハ、全テ解放サレル』


ソアの動きが止まった。


「……全部?」


『肯定』


『記憶ニハ、悲劇モ含マレル』


『喪失モ、後悔モ、失敗モ』


『世界ハ、再ビ不安定化スル可能性ガアル』


ソアはシードを振り返った。


シードは、不安そうに葉を揺らしていた。


それでも。


小さな手は、しっかりと握られていた。


「……ソア」


ソアは、シードの目を見た。


「大丈夫?」


シードは、ゆっくりと頷いた。


「……こわい」


小さな声。


「……でも、わたしが……きめる」


ソアは微笑んだ。


「うん」


そして、剣を握り直した。


「だったら、私はシードを信じるよ」


翼が輝いた。


「みんなも、お願い!」


レイナが頷く。


「もちろん!」


ミレイユの鎖が光る。


「ええ。最後まで一緒よ!」


ヴァルトが拳を構える。


「今度こそ、力を返す!」


ソアは、竜の胸部へ向かって飛び込んだ。


剣が、黒い紋章へと迫る。


そして――


シードの葉が、強い緑色の光を放った。


竜の胸部に、一本の亀裂が走った。


ピシッ。


その奥から、閉じ込められていた無数の光が溢れ始めた。


それは、世界樹が失った記憶だった。


悲しみも。


後悔も。


そして、誰かを守ろうとした願いも。


すべてが、長い時を越えて、再び流れ出そうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。