第132話 七つの器を、ひとつにさせない
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
巨大な空間が震えていた。
中央に立つ《始源の管理者》。
その周囲では、七つの光が渦を巻いている。
巨神の籠手。
天翔の翼。
絶対鏡盾。
深淵の呪鎖から変化した願結び。
竜皇砲。
終焉の剣。
そして、第七の器。
それぞれの力が、中央の光の柱へ吸い寄せられていた。
『七器統合――第一段階』
『接続率、上昇中』
「……っ!」
シードの身体がふらついた。
「シード!?」
ソアはすぐに駆け寄った。
シードの頭にある小さな葉が、黒い光に覆われかけている。
「……ひっぱられる」
「大丈夫。私がいるから!」
ソアはシードの手を握った。
しかし、引き寄せる力は強まるばかりだった。
『第七の器。記憶経路ヲ開放セヨ』
「……いや」
シードは小さく首を振った。
「……わたしが、きめる」
葉が緑色に輝いた。
その瞬間、黒い光が弾けた。
『抵抗ヲ確認』
管理者の仮面が、ゆっくりとソアたちへ向く。
『排除ヲ開始スル』
「来るよ!」
レイナが叫んだ。
◇
床が爆発した。
黒い結晶が地面を突き破り、巨大な腕の形へと変化する。
一本。
二本。
三本。
それぞれの腕が、ソアたちへ襲いかかった。
「うわっ、いきなり多い!」
ソアは翼を広げた。
バサッ!
地面を蹴り、空中へ飛び上がる。
巨大な腕が迫る。
「遅い!」
身体をひねり、翼の力で軌道を変える。
ギュンッ!
黒い腕が空を切った。
そのまま壁を蹴り、反対側へ跳ぶ。
「そこっ!」
剣を振り下ろす。
ザシュッ!
結晶の腕に亀裂が走った。
しかし。
『再構成』
バキバキバキッ!
砕けた結晶が、瞬く間に元へ戻る。
「……うそでしょ!?」
再び腕が振り下ろされた。
「ちょっ、壊しても戻るの!?」
「ソア、驚いている場合ではない!」
レイナが盾を構えた。
ドォォン!!
巨大な腕の一撃を受け止める。
床に亀裂が走った。
「くっ……! このままでは押し切られる!」
「なら、動きを止めるわ!」
ミレイユが両手を広げた。
「《願結び》!」
紫色の鎖が走り、三本の腕をまとめて拘束する。
「今よ!」
ヴァルトが踏み込んだ。
「おおおおおっ!」
巨神の籠手が唸る。
ドゴォォン!!
拳が結晶の腕を砕き、その衝撃が根元まで伝わった。
三本の腕がまとめて崩れ落ちる。
「よし!」
ソアが拳を握った。
しかし、ヴァルトはすぐに顔を上げた。
「まだだ!」
砕けた結晶の奥から、黒い光が噴き出す。
破片が空中で集まり、今度は巨大な剣へと姿を変えた。
『防御機構――第二形態』
「……まだ変身するの!?」
ソアが叫んだ。
「普通はもっと順番に出てくるものじゃない!?」
「敵に順番を守る義務などない!」
レイナが即座に返した。
「それはそうだけどぉぉぉ!」
巨大な剣が振り下ろされた。
◇
ソアは翼を広げ、横へ飛んだ。
だが、剣の軌道が途中で変わった。
「えっ!?」
黒い刃が、空中のソアを追いかけてくる。
「追尾してくるの!?」
ソアは翼を大きく打ち、急上昇した。
刃が背後を通り過ぎる。
その瞬間、別の結晶が足元から突き出した。
「うわっ!」
ソアは身体をひねる。
ギリギリで回避したものの、体勢が崩れた。
「しまっ……!」
ドンッ!!
黒い衝撃波がソアを吹き飛ばした。
「ソア!」
レイナが叫ぶ。
ソアは空中で翼を広げ、壁に激突する直前に姿勢を立て直した。
「いったぁ……!」
肩で息をする。
「……速さだけじゃ、どうにもならないか」
スキンブーストで反応速度は上がっている。
天翔の翼で、空中の動きも変えられる。
それでも、攻撃の数が多すぎた。
一人で全部を避け続けることはできない。
「ソア、こちらへ!」
レイナが盾を構えた。
「私が受け止める!」
「分かった!」
ソアはレイナの後ろへ飛び込んだ。
ドォォン!!
黒い刃が盾へ激突する。
レイナの足元が沈み込んだ。
「ぐっ……!」
「レイナ!」
「大丈夫! でも、長くは持たない!」
ミレイユが鎖を伸ばした。
「なら、私が軌道をずらすわ!」
《願結び》の鎖が盾と繋がる。
レイナが受け止めた衝撃を、ミレイユが横へ逃がした。
黒い刃が軌道を外れ、床へ突き刺さる。
「今だ、ソア!」
ヴァルトの声が響いた。
ソアは地面を蹴った。
ダッ!
翼で加速する。
剣を構え、刃の側面へ飛び込む。
「壊れないなら――!」
剣を振り下ろした。
ガキィィン!!
刃の表面に亀裂が走った。
「一度に全部壊さなくてもいい!」
ソアは空中で方向を変え、もう一度斬りつけた。
ガキンッ!
さらに亀裂が広がる。
ヴァルトが地面を蹴り、巨神の籠手を叩き込んだ。
「これで――!」
ドゴォォン!!
巨大な剣が、ついに砕け散った。
◇
『防御機構――再構成不能』
一瞬、空間が静かになった。
「……倒した?」
ソアが呟く。
「そのようだな」
ヴァルトが拳を下ろした。
「やったぁ……!」
ソアは両手を上げかけた。
しかし、すぐに止まった。
中央の光の柱が、さらに強く輝き始めたからだ。
『戦闘データ、取得完了』
『各器ノ能力ヲ解析』
『統合方式ヲ最適化』
「……今の戦い、分析されてたの?」
ミレイユが顔をしかめた。
『肯定』
管理者は淡々と答えた。
『個別能力ノ連携ハ、予測可能』
『次段階ヘ移行スル』
「ちょっと待って!」
ソアが叫んだ。
「せっかくみんなで頑張ったのに、次があるの!?」
「あるに決まっているでしょう!」
レイナが盾を構え直す。
「……ですよねぇ!」
ソアは大きく息を吐いた。
だが、目は真剣だった。
「でも、今ので分かったことがある」
「何かしら?」
ミレイユが尋ねる。
「管理者は、私たちの力を分析してる。でも――」
ソアは仲間たちを見た。
「私たちが、どうして一緒に戦ってるのかまでは分かってない」
ヴァルトが小さく頷いた。
「力の使い方だけを見ているからだな」
「うん!」
ソアは笑った。
「だったら、次はもっとびっくりさせてやろうよ!」
「……まったく」
ミレイユが苦笑した。
「あなたは本当に、どんな状況でも前向きね」
「だって、まだ負けてないもん!」
◇
そのとき。
シードが、ふいに中央の光の柱を見上げた。
「……ちがう」
「シード?」
「……あのひと、こわい」
全員が動きを止めた。
管理者の仮面が、シードへ向く。
『恐怖反応ヲ確認』
『第七の器。記憶ノ完全開放ニヨリ、不安定性ヲ解消可能』
「……ちがう」
シードは一歩、ソアの前へ出た。
小さな身体が震えている。
それでも、逃げなかった。
「……こわいのは」
葉が光る。
「……なくなること、じゃない」
シードは、言葉を探すようにゆっくり話した。
「……だれかが……きめられなく、なること」
ソアは目を見開いた。
シードは、自分の記憶を守ろうとしているだけではなかった。
これから生まれる命が、自分で何かを選べるように。
受け取ったものを、次へ渡せるように。
そのために、ここに立っているのだ。
『不合理』
管理者の声が響いた。
『選択ハ、損失ヲ生ム』
シードは首を横に振った。
「……でも」
小さな手が、ソアの手を握る。
「……いっしょに、えらべる」
ソアは微笑んだ。
「うん。そうだね」
そして、管理者を見据えた。
「あなたには、まだ分からないんだよ」
『何ガ』
ソアは剣を構えた。
「私たちが、自分で選んでここにいるってこと!」
その瞬間。
シードの葉が、強い緑色の光を放った。
中央の光の柱に、細い亀裂が走る。
ピシッ。
管理者が初めて、一歩後退した。
『……第七の器』
仮面の奥で、何かが揺らいだ。
『記憶経路ノ、予測外反応ヲ確認』
ソアは翼を広げた。
「さあ、次はこっちの番だよ!」
七つの光が、再び激しく渦巻いた。
そして、中央の柱の奥から――
巨大な影が、ゆっくりと姿を現し始めた。
それは、管理者が用意した最後の防御機構なのか。
それとも。
管理者自身の、本当の姿なのか。
まだ、誰にも分からなかった。




