↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第十一章 竜皇砲と、集められる力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
119/158

第121話 返すための道


 緑色の光は、石壁の奥へと細く伸びていた。


 まるで、暗闇の中に一本の道が生まれたようだった。


「……これが、シードの見つけた道?」


 ソアは《巡りの雫》をかざした。


 ペンダントは、緑色の光に呼応するように輝いている。


「うん……」


 シードは小さく頷いた。


「……こっち。ながれが、ある」


 レイナが石壁を調べた。


「しかし、通路らしいものは見当たらないぞ」


「普通の通路ではないのかもしれないわね」


 ミレイユが壁に指先を触れさせる。


 紫色の魔力が、表面をゆっくりと走った。


「この壁そのものが、魔力経路を隠している。壊せば通れるかもしれないけれど……」


「けれど?」


「下手に壊すと、竜皇砲に集められた魔力が一気に流れ込んでくる可能性があるわ」


「うわぁ……」


 ソアは壁から一歩離れた。


「それは嫌だなぁ。鎧が壊れるのも嫌だけど、みんなが吹き飛ばされるのはもっと嫌だよ」


「鎧が壊れるのも十分に嫌なのだな……」


 レイナが呆れたように呟く。


「もちろん!」


 ソアは即答した。


 黒衣の男は、そんなやり取りを黙って聞いていた。


 やがて、右腕の巨神の籠手を見下ろす。


「……俺がやろう」


「何をするつもり?」


 レイナが警戒する。


「この籠手には、まだ管理者の接続経路が残っている。逆に言えば、向こうへ繋がる道をたどれるということだ」


 男は左手を籠手に添えた。


「俺が接続を開けば、隠された回路を見つけられるかもしれない」


「危険じゃないの?」


 ソアが尋ねた。


「ああ。再び制御を奪われる可能性もある」


「だったら――」


「それでも、やらなければならない」


 黒衣の男は、ソアを見た。


「今まで俺は、力を集めることばかり考えてきた。だが、君たちは違った。誰か一人にすべてを背負わせるのではなく、互いに繋ぎ、支え合っていた」


 男は一度、言葉を切った。


「俺も、今度はその一人になりたい」


 ソアは、少しだけ笑った。


「……うん。一緒にやろう!」


     *


 五人は、壁の前に集まった。


 レイナが《絶対鏡盾》を構える。


 ミレイユの《願結び》が、全員の魔力を緩やかに繋いだ。


 シードは緑色の光を見つめ、流れの向きを確かめる。


 そしてソアは、世界巡鎧の肩当てを浮かせた。


「準備できたよ!」


「いつでもいい」


 黒衣の男が、巨神の籠手を壁へ近づけた。


 黒い結晶が、かすかに震える。


 次の瞬間。


『第一の器――接続経路を検知』


『管理者権限――再接続を開始』


「……っ!」


 男の顔が歪んだ。


 籠手から黒い光が伸び、石壁に吸い込まれていく。


 壁一面に、無数の文字が浮かび上がった。


 古代文字。


 そして、その中央に現れたのは――。


『集約経路』


『保存経路』


『管理者への送還経路』


「送還……?」


 ミレイユが目を細めた。


「集めた魔力を、管理者へ送るための経路ね」


「やっぱり、全部集めるつもりなんだ……」


 ソアは唇を噛んだ。


 しかし、文字はそこで終わらなかった。


『記憶情報――抽出』


『器の適合情報――保存』


『不要情報――破棄』


 シードの葉が、ぴくりと揺れた。


「……きおく」


 その声に、黒衣の男が反応する。


「まさか、器に蓄積された記憶まで……」


「取り込むつもりなのね」


 ミレイユの声が冷たくなる。


「魔力だけじゃない。器に刻まれた経験や記憶まで、管理者自身に集めようとしている」


 シードは、小さな手を胸元に当てた。


「……わたしの、きおくも?」


「渡さなくていいよ」


 ソアはすぐに答えた。


「シードが大切にしてるものなんだから、シードが決めていいんだよ」


「……うん」


 シードは、ソアの手を握った。


 そのときだった。


『記憶情報――接続対象を検知』


 文字が変わる。


『第一の器――過去記憶を照合』


 黒衣の男が息を呑んだ。


「……何だ?」


 壁の向こうから、淡い光が浮かび上がる。


 それは映像のように、空中へと広がっていった。


 燃える街。


 崩れた建物。


 瓦礫の中に座り込む、一人の男。


 まだ黒衣をまとっていない、若い頃の彼だった。


 その腕には、誰かを抱えていた。


 顔は光に隠れて見えない。


 けれど、男の表情だけで分かった。


 それが、彼にとって大切な人だったことを。


「……やめろ」


 男が低く呟いた。


 映像の中の彼は、何かを必死に呼びかけていた。


 しかし、腕の中の人物は動かない。


 やがて映像は、別の場面へ移る。


 大勢の人々が争い、魔力が暴走し、誰かが倒れていく。


 そして最後に。


 若い頃の彼が、巨神の籠手を装着する姿が映し出された。


『損失を防ぐためには、すべての力を集約する必要があります』


 管理者の声が響く。


『一つの意思がすべてを管理すれば、争いは停止します』


 映像の中の男は、顔を上げた。


 その目には、深い悲しみと、強い決意があった。


『……それで、本当に誰も失わずに済むのか?』


『可能性を最大化できます』


『……そうか』


 若い男は、籠手を握りしめた。


『ならば、俺がすべてを集めよう』


 映像が消えた。


 遺跡に、静寂が戻る。


     *


「……今のは」


 レイナが、慎重に言葉を選んだ。


「あなたの過去なの?」


「ああ」


 黒衣の男は、俯いていた。


「俺が、巨神の籠手を手にした頃の記憶だ」


「管理者は、あなたの悲しみを利用したのね」


 ミレイユの言葉に、男は首を振った。


「……それだけではない」


 彼は、拳を握った。


「俺自身が、信じたんだ。すべてを集めれば、誰も失わずに済むと」


 男の声が震える。


「管理者に操られていた。それは事実だろう。だが、俺が選んだことも事実だ」


 誰も、すぐには答えなかった。


 ソアは彼の横に立った。


「……そっか」


 男が顔を上げる。


「君は、俺を許すのか?」


「ううん」


 ソアは首を振った。


「私が許すとか、そういうことじゃないと思う」


 黒衣の男の表情が固まる。


 ソアは続けた。


「あなたが傷つけた人たちのことは、私には全部分からないから。私が勝手に許したことにはできないよ」


「……」


「でも、今ここで何をするかは、あなたが決められる」


 ソアは、彼の右腕を見た。


「その籠手を使って、また誰かから力を奪うのか。それとも、みんなと一緒に返すのか」


 少しだけ、笑顔になる。


「私は、一緒に返したいな」


 黒衣の男は、しばらく黙っていた。


 そして。


 ゆっくりと、籠手を壁から離した。


「……俺は、まだ償い方も分からない」


「うん」


「これから何をすればいいのかも、分からない」


「うん」


「それでも……」


 男は、開いた右手を見つめた。


「今度こそ、自分の意思で選ぶ」


 巨神の籠手から、黒い光が一筋だけ剥がれ落ちた。


 小さな変化だった。


 それでも、確かな変化だった。


     *


「……道が開くよ!」


 シードが声を上げた。


 石壁の中央に、緑色の線が浮かび上がっている。


 線はゆっくりと広がり、扉の形を描いていった。


 ゴゴゴゴ……。


 重い音とともに、壁が左右へ開く。


 その向こうには、細長い通路が続いていた。


 床には白い回路。


 その間を縫うように、緑色の光が流れている。


「これが……本来の循環経路?」


 レイナが尋ねる。


 シードは、静かに頷いた。


「……うん。ながれが、つづいてる」


 ソアは嬉しそうに笑った。


「よし! じゃあ、ここから先へ――」


 その瞬間。


 通路の奥で、何かが動いた。


 カチリ。


 カチリ。


 カチリ。


 壁の一部が開き、無数の小さな結晶が姿を現す。


 黒い結晶ではない。


 透明な結晶だった。


 中には、淡い光が閉じ込められている。


「……何だ、あれは?」


 黒衣の男が目を細めた。


 ミレイユが魔力を探る。


「魔力の反応がある。でも……普通の魔力とは違うわ」


 シードが、一歩前に出た。


「……きおく」


「え?」


 ソアがシードを見る。


 シードは、結晶を見つめていた。


「……ここに、いっぱい」


 頭の葉が、ほんのりと光る。


「……むかしの、きおく」


 ソアは息を呑んだ。


 この通路には、魔力だけではなく、かつて世界樹を巡っていた命の記憶が保存されているのかもしれない。


 そして、その奥には――。


 世界樹へと続く、本来の循環経路がある。


「……みんな」


 ソアは仲間たちを振り返った。


「行こう。ここに何が残されているのか、確かめよう」


 レイナが頷く。


 ミレイユも鎖を収めた。


 黒衣の男は、最後にもう一度、自分の籠手を見つめた。


 それから、みんなの後を歩き始めた。


 通路の奥で、無数の記憶が静かに輝いている。


 その中の一つが、シードの頭の葉に呼応するように、淡い緑色へと変わった。


 ――まだ誰も知らない。


 この場所に残された記憶が、シード自身の成長にも深く関わっていることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。