↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第十一章 竜皇砲と、集められる力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
115/158

第116話 世界を巡る鎧


 ゴゴゴゴゴゴ……!!


 竜皇砲が、再び唸りを上げた。


 砲身の中心に、赤い光が集まっていく。


【第二射――準備中】


【魔力充填率:上昇】


「……急がないと!」


 ソアは《巡りの雫》を握りしめた。


 胸元のペンダントが、熱を帯びたように輝いている。


 その光は、ソアの鎧へと広がっていた。


 胸当て。


 肩当て。


 腕当て。


 脚甲。


 《世界巡鎧》の表面に、細い光の筋が走る。


「ソア、その鎧……!」


 レイナが目を見開いた。


「うん。何かが反応してる」


 ソアは自分の胸当てを見下ろした。


 今までにも、鎧が魔力に反応することはあった。


 けれど、今回は違う。


 鎧の光が、竜皇砲の魔法陣と同じリズムで明滅していた。


 まるで、互いの存在を確かめているように。


「……この鎧も、七つの器と関係があるのか?」


 黒衣の男が呟いた。


「どういうこと?」


 ソアが振り返る。


 男は、彼女の鎧と竜皇砲を交互に見た。


「その鎧から感じる魔力……普通の装備とは違う。竜皇砲の魔力回路と、どこかで繋がっているように見える」


「この鎧は、世界巡鋼でできてるんだよ」


「世界巡鋼……?」


「火山炉心遺跡で作ってもらったの。前の鎧が壊れちゃって、その欠片を使ってね」


 ソアは胸当てを撫でた。


「すっごく大切な鎧なんだ」


 こんな状況でも、そこだけは譲れなかった。


 黒衣の男は、しばらく黙っていた。


 そして、石門に刻まれた古い文字を見上げる。


「……そうか。だから反応するのかもしれない」


「何か知ってるの?」


「いや。確かなことは分からない。ただ、古い記録に似た言葉があった」


 男はゆっくりと言った。


「世界樹の力を受け止め、次へ渡すもの。失われた循環を、再び繋ぐもの……」


 その言葉に、シードの葉がぴくりと動いた。


「……ながれ」


 シードは竜皇砲を見つめた。


「……とまってる」


「うん。私にも、そう見えるよ」


 ソアは頷いた。


「だったら、もう一度流れるようにすればいいんだよね」


 しかし、竜皇砲の魔力は止まらない。


 むしろ、さらに膨れ上がっていた。


【魔力充填率:八十パーセント】


「ちょっと待って! もう八十!?」


 ソアの声が裏返った。


「さっきから、数字が上がるの早すぎない!?」


「文句を言っている場合じゃないわ!」


 レイナが叫ぶ。


「分かってるよ!」


 ソアは剣を握り直した。


「でも、焦ると失敗するから!」


 それは、自分自身に言い聞かせる言葉でもあった。


     *


「ソア、ひとつ試してみたいことがあるわ」


 ミレイユが前に出た。


「私の《願結び》で、竜皇砲の魔力回路に繋がれた力を、みんなで少しずつ受け止めるの」


「受け止めるって……あの量を?」


 レイナが砲身を見上げる。


「全部は無理よ。でも、流れの向きを変えるきっかけくらいなら作れるかもしれない」


 ミレイユは杖を握った。


「ただし、ひとつ問題があるわ」


「問題?」


「竜皇砲そのものに直接繋がろうとすれば、黒い結晶にこちらの魔力まで吸い込まれる可能性がある」


 黒衣の男が頷いた。


「その通りだ。黒い結晶は、接続した魔力を一方向へ集めている。正面から繋げば、お前たちも制御に取り込まれるかもしれない」


「じゃあ、どうするの?」


 ソアが尋ねる。


 ミレイユは、彼女の鎧を見た。


「ソアの鎧を中継点にするのよ」


「……私の鎧?」


「ええ。世界巡鋼が竜皇砲に反応しているなら、鎧を通して流れを繋げられるかもしれない」


 ソアは目を輝かせた。


「私の鎧が、みんなを繋ぐの!?」


「まだ可能性の話よ。うまくいく保証はないわ」


「でも、やってみる価値はあるよね!」


 ソアは即答した。


 レイナがため息をつく。


「あなたは本当に迷わないわね……」


「だって、私の大事な鎧が役に立つかもしれないんだよ?」


 ソアは胸当てをぽん、と叩いた。


「試さない理由がないよ!」


「……その鎧が壊れたら?」


「…………」


 ソアの笑顔が止まった。


「……壊さないように頑張る!」


「最初からそう言いなさい!」


 レイナの声が、遺跡に響いた。


 ミレイユは小さく笑ってから、真剣な表情に戻った。


「それじゃあ、始めるわ。無理だと思ったら、すぐに手を離して。誰も無理をする必要はないから」


「うん!」


「分かったわ」


 レイナが盾を構える。


 シードも、ソアの手を握った。


「……いっしょに」


「うん。一緒にやろう!」


     *


 ミレイユが杖を掲げた。


「――《願結び》!」


 紫色の光が広がる。


 その光が、レイナの《絶対鏡盾》へ。


 シードの葉へ。


 そして、ソアの《世界巡鎧》へと繋がっていく。


 四人の間に、柔らかな光の道が生まれた。


 それは、かつてミレイユが使っていた鎖とは違う。


 誰かを縛るものではない。


 繋がっていたくない者は、いつでも離れられる。


 だからこそ、力は無理なく流れていく。


「……よし」


 ソアは目を閉じた。


 鎧の内側で、魔力が巡り始める。


 自分の力。


 レイナの守る力。


 ミレイユの繋ぐ力。


 シードの受け取る力。


 それぞれが混ざり合うのではなく、互いの形を保ったまま流れていく。


 その感覚は、以前、村の魔力炉を助けたときに似ていた。


 けれど、今回はもっとはっきりしている。


「……見えた!」


 ソアは目を開いた。


 竜皇砲から伸びる黒い魔力回路。


 その奥に、別の流れがある。


 赤い魔力を集める流れとは逆方向へ、細く、かすかに続く道。


「ミレイユさん! 右側の回路!」


「見えているの?」


「うん! 黒い結晶の下に、細い光の道がある!」


 黒衣の男が驚いたように顔を上げた。


「そんなものは、私には見えない……!」


「私にも、はっきりとは見えないわ!」


 ミレイユが答える。


「ソア、あなたが見えている流れを教えて!」


「分かった!」


 ソアは鎧の魔力を慎重に動かした。


 肩当てが浮かび上がり、竜皇砲へ向かって飛ぶ。


 今度は、見えない壁に弾かれなかった。


 肩当ては黒い結晶の表面を滑り、細い光の道へと触れた。


 カチンッ。


 小さな音が響く。


 次の瞬間。


 竜皇砲の光が、一瞬だけ弱まった。


「止まった……?」


 レイナが呟く。


「違うわ!」


 ミレイユが叫んだ。


「魔力の流れが変わったのよ!」


 砲身の内部で、赤い光が逆向きに流れ始めていた。


 集められた魔力の一部が、黒い結晶から離れ、遺跡の床へと流れ出していく。


 しかし――。


 バキッ!!


 肩当ての表面に、細い亀裂が走った。


「……っ!」


 ソアの顔が青ざめる。


「私の肩当てぇぇぇ!!」


「ソア! 今は鎧より流れを見なさい!」


「分かってるよぉぉぉ!!」


 叫びながらも、ソアは肩当てを操作し続けた。


 魔力の流れを、もう少しだけ。


 ほんの少しだけ、横へ。


 ミレイユが《願結び》で支える。


 レイナが《絶対鏡盾》で余剰魔力を受け止める。


 シードが、緑色の光を流れの隙間へと送り込んだ。


「……うけとる」


 シードの葉が輝く。


「……そして、かえす」


 その言葉と同時に、竜皇砲の内部で何かが弾けた。


 パァンッ!


 黒い結晶の一部が砕け散る。


 赤い光が、砲身から外へと流れ出した。


 遺跡全体を揺らしていた振動が、弱まっていく。


【魔力充填率:七十六パーセント】


「下がった……!」


 レイナが声を上げる。


 ソアは目を見開いた。


「やった! 下がったよ!」


 ほんのわずか。


 それでも、確かに数字が下がっていた。


 竜皇砲は、まだ暴走している。


 けれど、止められない力ではなかった。


「このまま続ければ……!」


 ソアが笑顔を浮かべた、その瞬間。


 石門に新たな文字が浮かび上がった。


【異常な循環を検知】


【管理者制御を更新します】


 ミレイユの表情が凍りついた。


「……何?」


 黒い結晶が、一斉に脈打った。


 先ほど砕けた部分から、さらに太い結晶が伸び始める。


 まるで、傷ついた回路を自分で修復するように。


「そんな……! 壊れた回路を、修復しているの!?」


 黒衣の男が叫んだ。


「違う。これは修復ではない……!」


 彼は、石門に刻まれた文字を凝視した。


「外から、新しい回路を接続しているんだ!」


 その言葉に、ソアは息を呑んだ。


「外からって……どこから?」


 男は答えなかった。


 答えられなかったのだ。


 黒い結晶の流れは、竜皇砲からさらに奥へ。


 遺跡の壁を抜け、地中深くへと続いている。


 そして、その先には。


 ソアたちの知らない、巨大な魔力の気配があった。


 石門に、最後の文字が浮かび上がる。


【管理者接続――第二段階】


【世界樹経路への接続を開始します】


「……世界樹?」


 ソアの声が震えた。


 胸元の《巡りの雫》が、激しく明滅する。


 鎧の光も、それに応えるように輝いた。


 しかし、今度の光は温かくなかった。


 まるで、遠くから何かに呼びかけられているような。


 そして。


 遺跡の奥から、低い声が響いた。


『循環の異常を確認』


『管理対象を再評価します』


 黒衣の男が、顔を上げた。


「……まさか。お前は、あの記録にあった……」


 声は続けた。


『七つの器を再収集』


『世界樹の権限を回収』


『制御を再開します』


 ソアは剣を握りしめた。


 まだ姿は見えない。


 けれど、分かった。


 竜皇砲を暴走させている何者かは、ただ力を集めたいだけではない。


 世界そのものの流れを、再び支配しようとしている。


「……だったら」


 ソアは仲間たちを見た。


 肩当てには亀裂が入っている。


 身体も、魔力を流し続けて疲れ始めていた。


 それでも、彼女は笑った。


「そんなの、止めるしかないよね」


 レイナが盾を構える。


「ええ。ここで止めるわ」


 ミレイユも杖を握り直した。


「今度は、誰かを縛るためではなく。みんなで流れを取り戻すために」


 シードが小さな手を伸ばす。


「……みんなで、かえる」


 ソアは、その手を取った。


「うん。一緒に帰ろう」


 竜皇砲は、まだ完全には止まっていない。


 そして、世界樹へと伸びる黒い回路も、消えてはいなかった。


 けれど。


 四人の間には、確かな光の道が生まれていた。


 それは、何かを一つに集めるための道ではない。


 それぞれの力を、それぞれのまま繋ぎ、次へと渡していく道。


 《世界巡鎧》は、その光を静かに受け止めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。