↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第十一章 竜皇砲と、集められる力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
112/158

第113話 服を買ってから、次の冒険へ


「……服を買いに行くわよ」


 レイナは、額に手を当てながら言った。


「うん……」


 マントにくるまったソアが、小さく頷く。


「その前に、鎧を――」


「買い物が先!!」


「は、はいっ!」


 エルディアの街に、レイナの声が響いた。


     *


 結局、ソアは街の衣料品店で服を買うことになった。


 白いブラウス。


 動きやすいスカート。


 丈夫なブーツ。


 そして、予備の服も一着。


「……これでいいでしょう」


 レイナが確認する。


「うん!」


 ソアは笑顔で答えた。


 ただし、その視線は店の奥に向いていた。


 そこには、金属製の防具が飾られている。


「……あの胸当て、いいなぁ」


「ソア?」


「……な、何?」


「今は服を選んでいるのよ」


「分かってるよ……」


 ソアは名残惜しそうに防具から目を離した。


 その様子を見ていたミレイユが、くすりと笑う。


「本当に、あなたは変わらないわね」


「え? そうかな?」


「ええ。世界が滅びかけても、鎧のことを考えていそうだわ」


「さすがに世界が滅びそうなら、ちゃんと戦うよ!」


「その戦いのあとで、鎧の心配をするのでしょう?」


「……する!」


「即答なのね……」


 レイナが深いため息をついた。


 シードは、そんなソアの手を引いた。


「……ソア」


「ん? どうしたの?」


「……かえる?」


「あ、そうだね!」


 ソアはぱっと顔を上げた。


「みんなで一緒に帰ろう!」


 その言葉に、ミレイユは少しだけ目を細めた。


 かつては、誰も自分の手の届かない場所へ行かないようにと願っていた。


 けれど今は違う。


 一緒にいたいなら、手を伸ばせばいい。


 相手にも、歩く道を選ぶ自由がある。


「……そうね」


 ミレイユは笑った。


「みんなで帰りましょう」


     *


 買い物を終えた四人は、街の宿へ戻った。


 そして、ようやくソアの待ち望んでいた時間が訪れる。


「……よし!」


 ソアは《世界巡鎧》の前に立った。


 胸当て。


 肩当て。


 腕当て。


 脚甲。


 すべての装甲が、きちんとそろっている。


「……ふふふ」


 ソアの口元が緩む。


「やっぱり、いつ見ても最高……」


「……ソア」


 レイナが嫌な予感を覚えながら呼びかけた。


「今度はちゃんと服を着てから装備するのよ」


「分かってるって!」


 ソアは元気よく答えた。


 そして、買ったばかりの服を身につけると、さっそく鎧を装着し始めた。


 ガシャン。


 胸当て。


 ガシャン。


 肩当て。


 ガシャン。


 腕当て。


 ガシャン。


 脚甲。


 最後に兜。


「…………」


 ソアは両腕を広げた。


「最高ぉぉぉ……!」


「……よかったわね」


 レイナは、もう何も言わなかった。


 しかし。


 ソアが一歩踏み出した瞬間。


 ガシャンッ。


「……あれ?」


 ソアの動きが止まった。


 もう一歩。


 ガシャンッ。


「…………」


 さらに一歩。


 ガシャンッ。


「……重い」


「そりゃ、鎧を着たんだからね」


 レイナが答えた。


「いや、そうじゃなくて……」


 ソアは腕を動かした。


 身体をひねる。


 軽く跳んでみる。


 以前と同じ。


 いや。


 それ以上に、身体が重く感じられた。


「……やっぱり、戻っちゃった」


 ソアはステータスを確認した。


【体力:普通】

【筋力:普通】

【敏捷:低い】

【魔力:普通】

【精神:普通】


「…………」


 ソアはしばらく画面を見つめていた。


 《全解除》を使う前に蓄積していた強化は、装備を身につけ直したことでリセットされていた。


 あれほど軽かった身体も。


 あれほど速く動けた感覚も。


 今は、元に戻っている。


「……うーん」


 ソアは腕を組んだ。


「やっぱり、不思議だなぁ」


「何が?」


 ミレイユが尋ねた。


「《スキンブースト》のこと。鎧が壊れたり外れたりすると強くなるのに、着直すと元に戻るんだよ」


「……なるほど」


 ミレイユは興味深そうに頷いた。


「装備そのものが強さを生んでいるのではなく、装備が外れた状態に反応している……ということかしら」


「そうなのかな?」


「まだ断定はできないわ。でも、調べる価値はありそうね」


 ミレイユは考え込んだ。


 魔法の研究者として、興味を引かれる現象だった。


 だが、ソアはしばらく考えたあと、にっこり笑った。


「……まあ、いっか!」


「……いいの?」


「うん! だって、鎧を着られたし!」


「…………」


 レイナは天井を見上げた。


「この子、ある意味では最強ね……」


     *


 その日の夕方。


 宿の食堂に、四人が集まっていた。


 ミレイユが街の復旧状況を説明する。


「魔力の流れは、少しずつ安定してきているわ。完全に戻るまでには数日かかるでしょうけれど、もう暴走の心配はないはずよ」


「よかった……」


 ソアは胸を撫で下ろした。


「街の人たちも、少しずつ普段の生活に戻っているそうよ」


 レイナが補足する。


「ただ、今回の事件には気になる点があるわ」


「気になる点?」


 ソアが顔を上げた。


「ええ。ミレイユの鎖に、外部から魔力が流れ込んでいたのでしょう?」


「……そうね」


 ミレイユの表情が引き締まる。


「私の願いが暴走したのは事実。でも、途中から何かに魔力経路を侵食されていた。あれがなければ、ここまで広がらなかった可能性があるわ」


「つまり、誰かが裏から手を出していたってこと?」


「その可能性は高いわね」


 食堂の空気が、少しだけ重くなった。


 黒衣の男。


 七つの器を集めている人物。


 そして、その背後にいるかもしれない、正体不明の存在。


 今回の事件も、偶然ではなかったのかもしれない。


「……次は、何を狙ってるんだろう」


 ソアが呟いた。


 その時だった。


 テーブルの上に置いていた《巡りの雫》が、淡く光り始めた。


「……え?」


 ソアは首を傾げた。


 青白い光が、雫の内部をゆっくりと巡る。


 そして、その表面に新しい紋様が浮かび上がった。


 炎。


 その中心に、巨大な砲身のような形。


「……これって」


 レイナが目を見開いた。


「竜皇砲……?」


 ミレイユが、息を呑む。


「第五の器ね」


 ソアは身を乗り出した。


「でも、これって前に見た紋様と似てるよね?」


「火山の炉心遺跡で見つけた記録ね」


 レイナが頷いた。


 以前、四人はその遺跡に関わる手がかりを得ていた。


 しかし、竜皇砲そのものを手に入れたわけではない。


 あの場所には、まだ何かが残されている。


 《巡りの雫》の光が、さらに強くなった。


 そして。


 テーブルの上に、淡い文字が浮かび上がった。


【第五の器:《竜皇砲》】


【魔力経路:異常】


【接続先:不明】


【警告――器への強制接続を検知】


「……強制接続?」


 ソアの表情が変わった。


 ミレイユも、真剣な顔で文字を見つめている。


「誰かが、竜皇砲を無理やり接続しようとしている……?」


「そう考えるのが自然ね」


 レイナが剣の柄に手を添えた。


「黒衣の男が動いたのかもしれないわ」


 ソアは、光る《巡りの雫》を握りしめた。


「……行こう」


 静かな声だった。


「竜皇砲を探しに」


 レイナが頷く。


「ええ」


 ミレイユも、立ち上がった。


「今度は、私も一緒に行くわ。もう、あなたたちを止めたりしない」


「うん! 一緒に行こう!」


 ソアは笑顔で答えた。


 シードも、小さな手を挙げた。


「……みんなで」


「そう。みんなで!」


 四人は顔を見合わせた。


 新しい冒険が始まろうとしていた。


 だが、その頃――


     *


 暗い遺跡の最深部。


 巨大な石造りの扉の前に、黒衣の男が立っていた。


 扉には、炎をまとった砲身の紋様が刻まれている。


 その前には、黒い結晶がいくつも浮かんでいた。


 結晶から伸びた黒い線が、扉の紋様へとつながっている。


「……ようやく、ここまで来た」


 男が呟いた。


 その手には、《巨神の籠手》があった。


 籠手が、低く唸る。


 扉の向こうから、巨大な魔力が脈打っていた。


「これさえ手に入れば……」


 男は、扉に手を伸ばした。


 その瞬間。


 黒い結晶が、一斉に輝いた。


 扉の紋様が、赤黒く染まる。


 そして、どこからともなく声が響いた。


『接続を開始します』


 男は顔を上げた。


「……何だ?」


『第五の器への接続を確認』


『第一の器との連動を開始』


『循環経路――確保』


 男の表情が、凍りついた。


「待て……私は、まだ何もしていない」


 しかし、黒い結晶は止まらなかった。


 扉の奥で、巨大な何かが目を覚まそうとしている。


『接続先――更新』


『管理者権限による制御を開始します』


「……管理者?」


 男の声が震えた。


 その時、扉の向こうから、低い振動が響いた。


 ゴォォォォォ……。


 竜皇砲が、目覚めようとしていた。


 だが、それは男の望んだ形ではなかった。


 彼が集めようとしていた力は、すでに別の何者かの手によって、ひとつの流れへと導かれ始めていたのだ。


 黒衣の男は、初めて自分の手の中にある力を恐れた。


「……私は、何を呼び起こしたんだ……?」


 答える者はいなかった。


 ただ、扉の奥で。


 竜皇砲の魔力が、静かに脈動し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。