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『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第十章 深淵の呪鎖

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第112話 願いを結ぶ鎖


「……助けて……」


 ミレイユの声が、暗闇の中に響いた。


 ほんの小さな声だった。


 いつもの自信に満ちた声でもない。


 百呪の魔女として、数え切れないほどの呪いを操ってきた魔女の声でもない。


 ただ、どうすればいいのか分からなくなってしまった、一人の女性の声だった。


「……もう、どうしたらいいのか……分からないの……」


 黒紫色の鎖が、彼女の身体を覆っている。


 腕に。


 脚に。


 胸元に。


 そして、心にまで。


 ミレイユは、自分の身体を抱きしめた。


「私が、もっと強ければ……」


 呟く。


「私が、もっと早く気づいていれば……」


 鎖が、かすかに震えた。


「リナを……救えたのに……」


 その名前を口にした瞬間。


 暗闇が、揺らいだ。


     *


 燃え盛る街。


 崩れ落ちる建物。


 逃げ惑う人々。


 幼い少女が、瓦礫の向こうで手を伸ばしていた。


『ミレイユお姉ちゃん!』


 少女の声が響く。


 ミレイユは走った。


 手を伸ばした。


 あと少し。


 あと、ほんの少しで届く。


 けれど、崩れ落ちた瓦礫が、二人の間を隔てた。


『待って!』


 ミレイユは必死に魔法を放った。


 何度も。


 何度も。


 それでも、瓦礫は動かなかった。


『リナ!』


 少女の姿が、煙の向こうに消えていく。


 そして――。


 静寂。


 伸ばした手だけが、空を掴んでいた。


     *


「……っ!」


 ミレイユは、はっと顔を上げた。


 目の前には、再び黒紫色の鎖が広がっている。


 もう、何度見たか分からない光景。


 忘れようとしても、忘れられない記憶。


「……私は」


 震える手を見つめる。


「……私は、あのとき……」


 強くなりたかった。


 誰にも負けない力が欲しかった。


 もう二度と、目の前で誰かを失わないために。


 その願いを胸に、魔法を磨き続けてきた。


 けれど。


 どれだけ強くなっても、過去は変えられなかった。


 だからこそ、怖かった。


 ソアが危険な魔物へ向かうたび。


 レイナが傷つきながらも盾を構えるたび。


 シードが小さな身体で仲間を守ろうとするたび。


 ミレイユは、あの日の光景を思い出していた。


 また、間に合わなかったら。


 また、大切な人を失ったら。


 今度こそ、自分は耐えられないかもしれない。


「……だから、縛ったのね」


 ミレイユは、自分の周囲を見渡した。


 街の人々。


 ソア。


 レイナ。


 シード。


 誰もが鎖につながれている。


 動けない。


 進めない。


 自分の手の届かない場所へ行くこともできない。


「……これなら、失わずに済むと思った」


 声が震える。


「私の手の中にいれば……誰も、いなくならないと思ったの……」


 そのとき。


「……ミレイユさん」


 暗闇の向こうから、声が聞こえた。


 ソアだった。


「……でも、それじゃあ」


 少し息を切らしながら、ソアは続けた。


「みんなと一緒にいることには、ならないよ」


 ミレイユは目を見開いた。


「……っ」


「だって、みんな動けないんだもん」


 ソアの声は、優しかった。


「一緒に歩けないし、一緒に笑えないし……一緒に冒険することもできない」


 少しだけ間を置く。


「それって、ミレイユさんが本当に望んでいたことなの?」


「……私は……」


 ミレイユは答えようとした。


 けれど、言葉が出てこなかった。


 望んでいたこと。


 本当に、望んでいたこと。


 それは、誰も失わないことだった。


 けれど。


 それだけだっただろうか。


     *


 ふと、別の記憶がよみがえった。


 冒険者になったばかりの頃。


 仲間たちと焚き火を囲んだ夜。


 失敗した依頼を笑い合った日。


 魔法の実験に失敗して、全員が泥だらけになったこと。


 そして、リナが笑っていた顔。


『ミレイユお姉ちゃん、また魔法を見せて!』


 小さな少女が、目を輝かせていた。


『今度は、どんな魔法?』


『そうね……』


 若いミレイユは、少し考えてから笑った。


『今度は、花を咲かせる魔法にしましょうか』


『本当!?』


『ええ。楽しみにしていて』


 あの日。


 リナが望んでいたのは、決して特別なことではなかった。


 ただ、次の日も一緒に過ごすこと。


 新しい魔法を見ること。


 笑って、話して、また明日を迎えること。


 ミレイユは、ゆっくりと目を閉じた。


「……そう、だったわね」


 涙が頬を伝う。


「私は……リナと、一緒にいたかったのね」


 誰も失いたくない。


 それは、嘘ではない。


 けれど、その奥には。


 もう一度、一緒に笑いたい。


 また会いたい。


 明日も、明後日も、同じ時間を過ごしたい。


 そんな、当たり前の願いがあった。


 それなのに。


「……私、間違えてしまったのね」


 ミレイユは、鎖を見つめた。


「守りたいと思うあまり……みんなの未来まで、奪おうとしていた」


 鎖が、激しく揺れた。


 まるで、その言葉を否定するかのように。


 黒紫色の魔力が、ミレイユの身体を締めつける。


「……っ!」


 痛みが走る。


 けれど、ミレイユは目を逸らさなかった。


「……もう、いいわ」


 ゆっくりと、鎖へ手を伸ばす。


「私は……もう、あなたに縛られない」


 鎖が、彼女の腕に絡みついた。


 その瞬間、ミレイユの脳裏に、再びあの日の光景がよみがえる。


 リナの手。


 崩れ落ちる瓦礫。


 届かなかった指先。


 足が震えた。


 怖かった。


 今でも、怖い。


 大切な人を失うことが。


 伸ばした手が届かないことが。


 それでも。


「……それでも、私は」


 ミレイユは、鎖を握りしめた。


「もう一度、手を伸ばすわ」


 黒紫色の鎖が、軋んだ。


「たとえ、届かないことがあっても……」


 涙を拭う。


「それでも、私は……大切な人たちと、一緒に歩きたい」


 その言葉と同時に。


 鎖の中心に、淡い紫色の光が灯った。


     *


「……ミレイユさん?」


 ソアは、目を見開いた。


 黒紫色に染まっていた鎖が、少しずつ色を変えている。


 暗い紫色。


 そして、淡い紫色へ。


 鎖の表面を走っていた黒い紋様が、ひとつ、またひとつと消えていった。


 けれど、鎖そのものは消えていない。


 むしろ、以前よりも滑らかに、柔らかく輝いていた。


「……これは」


 レイナが、息を呑む。


「呪いが……変化している?」


 シードが、顔を上げた。


「……ながれが、かわった」


 小さな根が、鎖へ触れる。


 今度は、黒く染まらなかった。


 淡い緑色の光が、鎖の中を流れていく。


「……かえって、くる」


 シードが呟いた。


「……ながれが、もどってくる……!」


 街へ伸びていた鎖が、一斉に輝いた。


 人々を縛っていた鎖が、ゆっくりとほどけていく。


 建物を覆っていた鎖も、一本ずつ光の粒となって消えていった。


 止まっていた魔法灯が、再び灯る。


 街を流れる魔力が、本来の道へ戻り始めた。


「……やった……?」


 ソアが呟く。


 しかし、その直後。


 ミレイユの身体が、大きく揺れた。


「……っ!」


 鎖が、まだ彼女の胸元に残っていた。


 すべての力が消えたわけではない。


 長い間、呪いに侵食されていた魔力経路は、まだ不安定なままだった。


「ミレイユさん!」


 ソアが駆け寄ろうとする。


 けれど、足元がふらついた。


「……あれ?」


 力が入らない。


 《全解除》の効果が、限界に近づいていた。


 身体の奥から、急激に力が抜けていく。


「ソア!」


 レイナが駆け寄り、彼女の身体を支えた。


「もう無理をしないで!」


「……でも、ミレイユさんが……」


「今度は、私たちが支える番よ!」


 レイナは、力強く言った。


 そして、ミレイユへと視線を向ける。


「ミレイユ! もう一人で抱え込まないで!」


「……レイナ……」


「あなたは私たちの仲間でしょう!」


 レイナは《絶対鏡盾》を掲げた。


「なら、頼りなさい! 守られるだけじゃなく、私たちに守らせなさい!」


 シードも、ミレイユの足元へ歩み寄った。


「……ミレイユ」


 小さな手を差し出す。


「……いっしょに、かえる」


 ミレイユの瞳が揺れた。


 差し出された手。


 真っ直ぐな言葉。


 自分を責めるでもなく、過去を否定するでもなく。


 ただ、一緒に帰ろうと言ってくれる仲間たち。


「……あなたたち……」


 ミレイユは、震える手を伸ばした。


 けれど、その指先が届く前に。


 胸元の鎖が、最後の力を振り絞るように脈動した。


 ドクンッ!!


「……っ!?」


 黒紫色の光が、ミレイユの胸元から噴き出した。


「ミレイユ!」


 ソアが叫ぶ。


 鎖が暴走しようとしている。


 まだ、完全には終わっていない。


 ミレイユは、胸元を押さえた。


「……大丈夫」


 震える声で、呟く。


「……もう、大丈夫よ」


 そして。


 鎖へ向かって、静かに語りかけた。


「あなたは、私の願いだった」


 鎖が揺れる。


「誰も失いたくない。誰も傷つけたくない」


 ミレイユは目を閉じた。


「でも……願いは、命令じゃないわ」


 胸元の鎖が、淡く輝き始める。


「大切な人たちを、私の思い通りに動かすためのものでもない」


 ミレイユは、ゆっくりと手を開いた。


「私は、あなたを手放すわけじゃない」


 その声には、もう迷いがなかった。


「ただ……あなたの使い方を、変えるの」


 次の瞬間。


 カァァァッ!!


 紫色の光が、図書館を満たした。


 鎖の黒い紋様が、完全に消えていく。


 そして、ミレイユの胸元に、新しい紋様が浮かび上がった。


【固有装備:《深淵の呪鎖》――変質】


【呪いの同調:解除】


【新規能力:《願結び》――発現】


「……願結び……?」


 ミレイユは、その名を口にした。


 鎖は、もう誰かを無理やり拘束するためのものではなかった。


 互いの魔力をつなぎ。


 互いの力を支え。


 暴走する力を、仲間と一緒に受け止めるためのもの。


 つながれる側にも、意思がある。


 拒むこともできる。


 それでも、互いに手を伸ばすことを選んだとき。


 鎖は、初めて本当の意味で力を発揮する。


 ミレイユは、ゆっくりと顔を上げた。


 目の前には、ソアがいた。


 レイナがいた。


 シードがいた。


 みんな、疲れ切っている。


 傷も負っている。


 それでも、誰一人として、ミレイユから目を逸らしていなかった。


「……ごめんなさい」


 ミレイユの目から、涙がこぼれた。


「私……あなたたちを、縛ろうとしてしまった」


 ソアは、首を横に振った。


「……ううん」


 少しだけ笑う。


「帰ってきてくれて、よかった」


「……ソア……」


「でも!」


 ソアは、突然真剣な顔になった。


「街のみんなを勝手に縛ったことは、ちゃんと反省してね!」


「……っ」


 ミレイユが固まった。


 レイナが深く頷く。


「それは本当にそうね」


「シードも、そう思う?」


「……うん」


「……三対一!?」


 ミレイユが思わず叫んだ。


 その声を聞いて。


 ソアが笑った。


 レイナも笑った。


 シードも、嬉しそうに頷いた。


 ミレイユは、しばらく三人を見つめていた。


 そして。


「……ふふっ」


 小さく笑った。


 久しぶりに。


 心から。


「……本当に、あなたたちは……」


 涙を拭い、顔を上げる。


「……ありがとう」


     *


 数分後。


 街を覆っていた鎖は、すべて消えていた。


 魔法灯は元通りに輝き、人々も少しずつ動き始めている。


 幸い、鎖によって大きな怪我を負った者はいなかった。


 ただし、街の魔力は一時的に乱れている。


 復旧には時間がかかるだろう。


 ミレイユは、街の人々に謝罪し、魔力の復旧に協力することを約束した。


 そして、古代図書館の入口。


 ソアは、床に座り込んでいた。


「…………」


 レイナが、心配そうに顔を覗き込む。


「ソア? 大丈夫?」


「……うん」


「本当に?」


「……うん」


「何か隠していない?」


 ソアは、ゆっくりと顔を上げた。


「……鎧」


「……え?」


「鎧が……」


 ソアの視線の先には、宙に浮かぶ《世界巡鎧》があった。


 全解除の影響で各部が外れているものの、装備そのものに大きな損傷はない。


 ソアは、ほっと胸を撫で下ろした。


「……よかったぁぁぁ……!」


 その場に崩れ落ちる。


「壊れてなかったぁぁぁ……!」


「そこなの!?」


 レイナが叫んだ。


「いや、大事だよ!?」


「分かっているけれど! あなた、さっきまで倒れそうだったでしょう!?」


「だって! 世界巡鎧だよ! せっかくの新しい鎧なんだよ!?」


「はいはい、分かったわよ……!」


 レイナは呆れながらも、笑っていた。


 ミレイユは、そんなソアを見つめていた。


「……ソア」


「ん?」


「……あなた、本当に鎧が好きなのね」


「もちろん!」


 ソアは即答した。


「大好き!」


 その答えに、ミレイユは小さく笑った。


「……そう」


 そして、そっと胸元に手を添える。


 そこには、新しい力が宿っていた。


 誰かを縛るための鎖ではない。


 誰かを失わないために、自由を奪う鎖でもない。


 互いの意思を尊重しながら、支え合うための力。


 ミレイユは、ソアたちを見つめた。


「……ねえ、みんな」


「なに?」


 ソアが顔を上げる。


「これからも……一緒に、冒険してくれる?」


 一瞬、静寂が訪れた。


 そして。


「もちろん!」


 ソアは、満面の笑みで答えた。


「また一緒に冒険しよう!」


 レイナも頷いた。


「ええ。ただし、今度は街全体を拘束するのは禁止よ」


「……分かっているわよ!」


 ミレイユが頬を膨らませる。


 シードが、小さく手を伸ばした。


「……みんなで、かえる」


 ソアは、その手を取った。


 レイナも。


 ミレイユも。


 四人の手が、ひとつにつながる。


 その瞬間。


 ミレイユの胸元で、淡い紫色の光が輝いた。


 鎖は、誰の手も縛らなかった。


 ただ、四人の間を静かに巡り、すぐに消えていった。


 ――願いは、命令ではない。


 ――大切な人を、自分の手の中に閉じ込める必要はない。


 ――一緒にいたいと願うなら、自分から手を伸ばせばいい。


 ミレイユは、もう一度だけ空を見上げた。


 遠い記憶の中で、リナが笑っている気がした。


「……リナ」


 小さく呟く。


「……私、もう一度、歩いてみるわ」


 返事はなかった。


 それでも。


 ミレイユは、ゆっくりと前を向いた。


 失ったものは、戻らない。


 けれど、失ったからといって、これからのすべてが失われるわけではない。


 大切な人と過ごした時間は、消えない。


 その記憶を抱えたまま、また誰かと歩いていける。


 そして、彼女の新しい力は。


 その一歩を、確かに支えていた。


「……さて!」


 ソアは、ぱんっと両手を叩いた。


「これで一件落着だね!」


「……そうね」


 ミレイユは、涙を拭いながら微笑んだ。


「みんなには、本当に迷惑をかけたわ。これからは、ちゃんと相談するようにする」


「うん! それがいいと思う!」


 ソアは満面の笑みで頷いた。


「私たち、仲間なんだからね!」


「……ありがとう、ソア」


 ミレイユが優しく笑う。


 レイナも、シードも、穏やかな表情を浮かべていた。


 長い戦いが終わった。


 失ったものは戻らない。


 それでも、これから一緒に歩いていくことはできる。


 四人の間には、確かな絆が生まれていた。


 ――そのはずだった。


「…………」


 ふと、ソアの笑顔が止まった。


「……あれ?」


「どうしたの?」


 レイナが尋ねる。


 ソアは自分の身体を見下ろした。


 鎧がない。


 服もない。


 そして、ようやく思い出した。


 《全解除》。


 あの力を使ったとき、自分の装備だけでなく、身につけていたものがすべて解除されたのだった。


「…………」


 ソアの顔が、みるみる赤くなっていく。


「…………あの」


「何?」


「私……今……」


 ソアは両手で身体を隠した。


「何も着てない……?」


「…………」


 一瞬、時が止まった。


「――――ソアァァァァァ!!」


 レイナの絶叫が、古代図書館の入口に響き渡った。


「今まで気づいていなかったの!?」


「だ、だって! ミレイユさんが助かって、みんなで仲直りできて……!」


「感動している場合じゃないでしょう!!」


「そ、そうだったぁぁぁ!!」


 ソアは慌ててしゃがみ込んだ。


 その拍子に、近くに浮かんでいた《世界巡鎧》がガシャンッと音を立てる。


「ひゃあっ!?」


「鎧は後!!」


「でも、鎧が!」


「服が先!!」


「そんなぁぁぁ!!」


 レイナが頭を抱える。


 シードは不思議そうに首を傾げた。


「……ソア?」


「シード、今は見ないでね!」


「……?」


 シードは素直にくるりと後ろを向いた。


 そのやり取りを見ていたミレイユは、しばらく呆然としていたが――


「……ふふっ」


 やがて、口元を押さえた。


「……あははっ!」


「ミレイユさん!? 笑ってないで助けてよぉぉぉ!」


「ご、ごめんなさい……! でも、あなた、本当に……!」


 ミレイユは笑いながら魔法を使い、一枚のマントを作り出した。


 そして、ソアの肩にそっと掛ける。


「はい。とりあえず、これで隠しておきなさい」


「……ありがとう、ミレイユさん!」


 ソアはマントにくるまった。


 ようやく一息つく。


 ……が。


「…………よかった」


 ソアがぽつりと呟いた。


「何が?」


 レイナが警戒しながら尋ねる。


 ソアは、宙に浮かぶ《世界巡鎧》をうっとりと見つめていた。


「鎧が無事でよかったぁ……!」


「…………」


「ほら! 壊れてないよ! 全部そろってる!」


「…………ソア」


「修理代もかからないし!」


「あなた、今の状況を分かっているの!?」


「分かってるよ! だから、早く鎧を着たいんだもん!」


「そういう問題じゃない!!」


 レイナのツッコミが炸裂した。


 ミレイユは、とうとう声を上げて笑い始めた。


 シードは三人を交互に見て、首を傾げている。


 ソアはマントにくるまったまま、真剣な顔で言った。


「……ねえ、レイナ」


「何よ……」


「服を買いに行く前に、鎧を着てもいい?」


「だめ!! 絶対にだめ!!」


「そんなぁぁぁぁ!!」


 エルディアの街に、いつものような騒がしい声が響き渡った。


 こうして、深淵の呪鎖を巡る戦いは終わった。


 ミレイユは過去を乗り越え、新しい力を手に入れた。


 四人の絆も、以前よりずっと強くなった。


 そしてソアには、もう一つだけ大切な使命が残されていた。


 ――服を買うこと。


 もちろん、そのあとには。


 《世界巡鎧》を着るという、何よりも大切な予定が待っていた。

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