↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『鎧を脱いだら、世界が変わった』  作者: ムファッサー
第二章 A級冒険者との出会い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/158

第10話 鉄壁のレイナ


 巨大な魔物が咆哮した。


 森の木々が揺れる。


 その巨体は、ソアがこれまで戦ってきた魔物とは比べものにならなかった。


「ソア!」


 レイナが叫ぶ。


「私が前に出る!」


「わかりました!」


「あなたは後ろから――」


 言い終わる前に、ソアが走り出した。


「行きます!」


「待ちなさい!」


 レイナは思わず頭を抱えた。


「聞いてないわね、あの子……!」


 巨大な魔物が腕を振り下ろす。


 ソアは盾を構えた。


「《盾術》!」


 ドゴォンッ!


 凄まじい衝撃。


 地面が大きくへこむ。


「ぐっ……!」


 ソアの身体が後ろへ吹き飛ばされた。


 しかし、倒れない。


 足を踏ん張り、なんとか立ち止まる。


「……重い!」


 盾越しでも腕が痺れていた。


「ソア!」


 レイナが駆け寄る。


「大丈夫!?」


「大丈夫です!」


 ソアは盾を見た。


 大きなひびが入っている。


「……あ」


 嫌な予感。


 ――パキッ。


 盾の縁が砕けた。


「……!」


 その瞬間。


 ソアの身体が、ふっと軽くなった。


「……まただ」


 身体の奥から力が湧いてくる。


 さっきまで痺れていた腕が、嘘のように動く。


 ソアは握った剣を見た。


「やっぱり……」


 レイナが眉をひそめる。


「何?」


「鎧や装備が壊れると、私……強くなるみたいです」


「…………」


 レイナはソアの言葉を理解しようとした。


「装備が壊れると?」


「はい」


「強くなる?」


「たぶん!」


「……たぶん?」


「まだよくわかってないので!」


 レイナは一瞬黙った。


「それ、普通は『よくわかってない』状態で戦うものじゃないわよ」


「でも強くなるので!」


「そういう問題じゃない!」


 巨大な魔物が再び腕を振り上げた。


「来ます!」


「わかってる!」


 レイナが前に出た。


 大剣を両手で握る。


「――《鉄壁》!」


 ドンッ!


 レイナの身体を覆うように、魔力の壁が展開された。


 巨大な腕が叩きつけられる。


 轟音。


 しかし――。


 レイナは一歩も動かなかった。


「……すごい」


 ソアが目を輝かせる。


「これがA級……!」


「感心してないで攻撃して!」


「はい!」


 ソアは走った。


     ◆


 巨大な魔物の背後へ回る。


「そこ!」


 剣を振る。


 浅い。


「硬い……!」


 魔物が振り返る。


 ソアはかわす。


 しかし、完全には避けきれない。


 ――ガキン!


 左肩の装甲に攻撃が当たった。


「また……!」


 ひびが走る。


 ソアは思わず笑った。


「いい感じ!」


「何がよ!」


 レイナが叫ぶ。


「もっと壊れてくれれば……!」


「あなた、自分の装備を何だと思ってるの!?」


「大切な鎧です!」


「なら壊すな!」


「でも壊れると強くなるんです!」


「矛盾してるでしょうが!」


 ソアは少し考えた。


「……確かに」


「納得するところじゃない!」


 その会話の間にも、魔物は攻撃を続けてくる。


 レイナが受け止める。


 ソアが避ける。


 そして――。


 ソアの鎧が少しずつ壊れていく。


 肩。


 腕。


 腰。


 脚。


 そのたびに、ソアの動きが速くなる。


「……速い」


 レイナは目を細めた。


 最初に会ったときとは明らかに違う。


 ソアの剣が、魔物の身体を捉え始めていた。


 一撃。


 二撃。


 三撃。


「――そこ!」


 ソアの剣が魔物の脚を斬り裂いた。


「今よ!」


 レイナが叫ぶ。


「はい!」


 レイナの大剣が振り下ろされる。


 巨大な魔物の身体が大きく傾いた。


「まだ!」


 ソアが跳ぶ。


 高い。


 自分でも驚くほど高く跳んだ。


「えっ……」


 空中で一瞬だけ固まる。


「高すぎない!?」


 そのまま落下。


「――せいやぁっ!」


 剣が魔物の頭部を直撃した。


 巨体が地面に倒れる。


 ズゥン……。


 森が静かになった。


     ◆


「……勝った?」


 ソアが恐る恐る魔物を見る。


 動かない。


「倒したわね」


 レイナが答えた。


「やった!」


 ソアが両手を上げる。


「レイナさん、すごかったです!」


「あなたもね」


「え?」


「最初は、まともに攻撃も当てられていなかったでしょう?」


「そうですね」


「それが、途中から別人みたいに動いていた」


 レイナはソアの鎧を見る。


 かなり壊れている。


「……本当に、装備が壊れるほど強くなるの?」


「たぶん」


「たぶんじゃなくて、もう少し自分の能力を理解しなさい」


「頑張ります!」


 ソアは笑った。


 そのとき。


 レイナが突然、大剣を構えた。


「……?」


 ソアが首を傾げる。


「レイナさん?」


「ソア」


「はい」


「一つ、お願いがある」


「なんですか?」


「私と戦って」


「……え?」


 ソアの目が丸くなった。


「今?」


「今」


「魔物を倒したばかりですよ?」


「だからよ」


 レイナの目は真剣だった。


「あなたの強さを、確かめたい」


「……!」


 ソアの胸が高鳴る。


 A級冒険者。


 鉄壁のレイナ。


 そんな人が、自分と戦いたいと言っている。


「……わかりました!」


 ソアは剣を構えた。


「お願いします!」


 レイナも大剣を構える。


「手加減はしない」


「私もです!」


 森の中。


 二人の視線がぶつかった。


 そして――。


「いくわよ!」


「はい!」


 二人が同時に地面を蹴った。


     ◆


 ――数分後。


「…………」


 レイナは地面に座り込んでいた。


「…………」


 ソアも地面に座っていた。


 ただし、こちらは満面の笑みだった。


「楽しかったです!」


「……そう」


「レイナさん、強いですね!」


「あなたもね」


 レイナは遠い目をした。


 結局。


 勝負はつかなかった。


 レイナが攻撃すれば、ソアが装備を外してかわす。


 ソアが攻撃すれば、レイナが防ぐ。


 互いに決定打を与えられない。


 ただ一つ。


 レイナには気になることがあった。


 戦えば戦うほど。


 ソアの動きが速くなっていた。


「……ねえ、ソア」


「はい?」


「あなた、戦うほど強くなるんじゃない?」


「……!」


 ソアは目を見開いた。


「それです!」


「?」


「私も、それを考えてたんです!」


 ソアは自分の壊れた鎧を見る。


「装備が壊れる」


 そして、自分の身体を見る。


「強くなる」


「…………」


「じゃあ――」


 ソアは少しだけ考えて。


「全部壊れたら、どうなるんでしょう?」


 レイナの顔が引きつった。


「……やめなさい」


「え?」


「絶対にやめなさい」


「どうしてですか?」


「なんとなく嫌な予感がするから」


「そうですか?」


 ソアは首を傾げた。


 レイナは深くため息をつく。


「あなた、本当に危なっかしいわね」


「よく言われます!」


「だから褒めてないって……」


 二人の間に、初めて自然な笑いが生まれた。


     ◆


 その日の夕方。


 討伐隊が街へ戻る。


 ソアは壊れた鎧を大事そうに抱えていた。


「……また修理費が」


 笑顔が消える。


「どうしよう……」


 レイナが横から見る。


「そんなに修理代がかかるの?」


「はい」


「……なら、私から一つ提案がある」


「なんですか?」


「明日、ギルドに来て」


「?」


「今回の魔物の件には、まだ続きがある」


 レイナは森の方を見る。


「今日倒した魔物は、異常発生の原因じゃない」


「……え?」


「むしろ、何かに追い出された可能性がある」


 ソアの表情が変わった。


「何かって……?」


「それを調べる」


 レイナはソアを見る。


「今度は、あなたと一緒に」


 ソアは笑った。


「はい!」


 そして、壊れた鎧を見下ろす。


「……報酬、出ます?」


「そこなの?」


 レイナは呆れながら笑った。


 しかし――。


 森の奥。


 二人が去ったあと。


 倒したはずの巨大な魔物の身体から、黒い煙がゆっくりと立ち上っていた。


 そしてその煙は、森のさらに奥へと流れていく。


 まるで――。


 何かに吸い寄せられるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。