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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

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第096話 八件目と二十日の契約

 倒木を抜けてから、荷車が止まったのは馬へ水を飲ませる時だけだった。


 馬へ水を飲ませる間も、ベルクとユアンが左右に立つ。


 俺は後ろの心音を探した。


 林の中から追ってくる人間はいない。


 捕らえた三人の足取りだけが、荷車の後ろへ続いている。


 少年は何度か倒木の方を振り返った。


「戻りたい?」

「戻ったら殺される」

「町へ行っても捕まる」

「分かってるよ」

「なら、どこへ行きたい」

「知らない」


 少年はそれ以上話さなかった。


 日が傾く前に、麦畑が見えた。


 ルーヴェン砦町の壁が、その先にある。


 東門の前で、門兵が荷車を止めた。


「荷の検査をする」


 捕らえた三人を見る。


「そっちも荷か?」

「古い料金所で捕らえた襲撃者です」


 ベルクが村長の紙を渡す。


 門兵は紙を読み、別の兵を呼んだ。


 三人の縄が、荷車から兵の手へ移る。


 少年が一度だけ俺を見る。


 何も言わない。


 そのまま門の横にある詰所へ連れていかれた。


「名前、最後まで言わなかったな」


 ユアンが言う。


「町で聞く」

「俺たちが聞く仕事じゃない」


 門を通る。


 町の中へ入っても、依頼はまだ終わらない。


 東市場の倉庫へ豆袋と羊毛を運ぶ。


 倉庫番が一つずつ数え、羊毛へ指を入れた。


「油臭いぞ」


 ハルムが俺を見る。


「俺?」

「お前じゃない。荷だ」


 倒木で割れた油壺の匂いが、外側の羊毛へ移っている。


「一包みだけだ」


 倉庫番が言う。


「値を下げる」

「中までは染みてない」

「匂いがついた」

「道で燃やされかけたんだぞ」

「燃えなかったなら、売り物だ」


 ハルムと倉庫番の声が大きくなる。


 ベルクは間へ入らず、荷受けの印が押されるのを待った。


 最後は、羊毛一包みだけ銅貨二枚下げることで決まった。


「護衛代から引くなよ」


 ユアンが先に言う。


「引かん」

「今、こっちを見た」

「誰が払うか考えただけだ」

「それを引くって言うんだ」


 ハルムは帳面へ何かを書き、倉庫番から受け取りの木札をもらった。


 全員で冒険者ギルドへ戻る。


 ネラは、往路の依頼票、デルム村長の紙、帰りの荷受け札を順番に並べた。


「料金所で二度、襲撃を受けたんですね」

「往路は五人です」


 ベルクが報告する。


「三人を捕縛、二人が逃走。帰路は倒木、油壺、鉄片、弓手三人」

「同じ者かは」

「二人は含まれている可能性があります」

「確認は」

「していません」

「追わなかった?」

「荷車を優先しました」


 ネラの筆が止まらずに動く。


「負傷者は」

「ユアンの左前腕」

「浅いです」


 ユアンが言う。


「セインは」

「油がついた」

「怪我を聞いています」

「増えてない」


 ネラは一度だけこちらを見て、紙へ戻った。


「荷の損失は、羊毛一包みの減額だけですね」

「物は全部あります」


 ハルムが答える。


「幌と車輪の修理代は別だ」

「依頼人側の損害として記録します」

「捕らえた三人は」

「門の詰所から衛兵隊へ移されます」


 少年の名前も、そこで聞かれる。


 料金所と閉鎖石切り場については、別の記録が作られた。


「帰路まで確認しましたので、護衛依頼は完了です」


 ネラが依頼票へ印を押す。


 ハルムから、銀貨一枚と銅貨四枚を受け取る。


 所持金は銀貨四枚と銅貨五枚になった。


「これで八件目です」

「あと二件」

「十件だけでEランクにはなりません」

「前も聞いた」

「なら、先に言わないでください」


 ネラは登録証へ護衛補助の記録を足す。


「二日間、荷の損失を抑え、捕縛者を連れて帰還しています」

「上がる?」

「次の審査で有利になります」

「次は料金所」

「まだ依頼になっていません」

「村長は困ってた」

「村からの要請と今回の記録を合わせて、領主側へ回します」

「いつ」

「早くても明日です」

「遅い」

「五人より多い相手を、人数も場所も分からないまま追う方が遅くなります」


 探す名前が増える。


 前にも似たことを言われた。


 登録証を受け取る。


 ユアンは治療院へ向かい、ベルクは衛兵隊へ追加の説明に行った。


 ハルムは減らされた銅貨二枚のことを、まだ倉庫番へ言いに戻るらしい。


 片靴亭へ帰る。


 扉を開けたベッカが、先に鼻を押さえた。


「何をこぼした」

「油」

「部屋へ上がる前に脱ぎな」

「外で?」

「裏口だよ」


 井戸の側で上着を洗う。


 油の匂いは、一度では落ちなかった。


 個室の鍵は、まだ使えた。


 契約は残り三泊。


 洗った上着は、朝になっても油の匂いが残っていた。


 ベッカが厨房の裏へ吊るしている。


「まだ着るな」

「町へ行く」

「下の服だけで行きな」

「寒くない」

「そういう問題じゃないよ」


 古い布を肩へかけられる。


 前に借りたコボルトの上着より大きく、端が膝まで垂れた。


「返す」

「洗ってからね」

「また借りた」

「油臭いまま食堂を歩かれるよりましだよ」


 残る宿泊は二泊。


 古い文字表と商会の契約書を小袋へ入れる。


 東市場の革屋へ行くと、オルドは買った背殻を二枚並べていた。


 一枚は丸く切られ、木の板へ留められている。


「何に使う」

「荷車の車輪覆いだ」

「盾じゃない?」

「盾にするには重い」


 オルドは背殻の端を木槌で叩く。


「昨日の荷車なら、ここが割れずに済んだかもしれん」

「知ってる?」

「東門から捕縛者を連れて戻れば、市場中が知る」

「早い」

「商人は荷の話だけ早い」


 背殻には、緑の秤の印が薄くついている。


「残りはいつ持ってくる」

「まだある」

「なら、試験契約が切れる前に持ってこい」

「切れた後は探す?」


 オルドの木槌が止まる。


「前にも聞いたな」

「次は書くと言った」

「まだ次の契約はしていない」

「今する?」


 オルドは作業台の下から、注文札を三枚出した。


「車輪覆いが四組、肩当てが六つ、倉庫の鼠除け板が十枚」

「鼠除け?」

「かじれない板を壁の下へ張る」

「洞窟鼠なら登る」

「町の鼠だ」

「弱い?」

「お前が知ってる鼠よりはな」


 注文に必要な殻の枚数を、オルドが指で数える。


「二十日、契約を延ばす」

「値段は」

「今と同じで、ギルド査定に銅貨一枚を足す」

「量は約束しない」

「全部うちへ先に持ってこい」

「独占?」

「先に値を出すだけだ」

「安かったら」

「持って帰れ」

「苔は」

「いらん」


 背殻だけを、二十日の間は最初にヴァルカ商会へ見せる。


 査定に納得できなければ売らない。


 持ち込む量は約束しない。


「終わった後」

「何だ」

「二十日、俺の道を探さない」

「長い」

「なら売らない」

「十日」

「二十日」

「契約が終われば、仕入れも止まるかもしれん」

「探したら、契約中でも止める」


 オルドが背殻へ木槌を置いた。


「商会の者だけだ」

「雇ったやつも」

「勝手に探す採取人までは止められん」

「ヴァルカ商会が金を払った相手」

「それなら書ける」


 二十日の契約中と、終了後二十日。


 ヴァルカ商会と、商会が雇った者は、俺が登録した非公開経路を追わない。


 俺は二十日の間、売れる背殻を最初にオルドへ見せる。


 量は約束しない。


「ギルドで書く」

「また手数料を払わせる気か」

「前も払った」

「前は試しだった」

「今も試し」

「二十日は試しとは言わん」


 結局、オルドが手数料を払った。


 ギルドでネラが条件を読み上げる。


 用紙の中に、同じ数字が二つあった。


「二十」

「契約期間と、終了後の非探索期間です」

「同じ」

「読めるようになったんですか」

「数字だけ」

「名前以外も増えましたね」


 オルドが先に署名する。


 その下へ、自分の名前を書く。


 最後の線は、昨日より曲がらなかった。


 契約書を受け取る。


「背殻は明日?」


 オルドが聞く。


「料金所の依頼が先に出るかもしれない」

「殻と関係ないだろ」

「道が使えなければ運べない」

「お前の採取道とは別だろ」

「護衛でまた通るかもしれない」

「両方守るのか」

「使うなら」


 オルドは何も言わず、注文札をまとめた。


 革屋の奥で、背殻を切る鋸の音がまた始まった。

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