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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

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第090話 三本爪の荷置き場

 その夜は片靴亭の個室で眠った。


 残り一泊。


 翌朝、北側の岩場を通って魔境へ戻る。


 黒巣へ直接入らず、周囲の心音を確かめた。


 人間はついてきていない。


 外側では、血吸いコウモリが虫を追って飛んでいる。


 集落側へ向かったものはいなかった。


 取引小屋で、黒牙大イタチの売却分を出す。


「銀貨一枚と銅貨六枚」


 フィナへ銅貨八枚を渡した。


「半分?」

「一緒に倒した」

「コウモリも噛みついた」

「金は使わない」

「なら、血を持っていけばいい?」

「もう飲んだ」

「取り分が難しいね」


 フィナは銅貨を二度数え、腰の小袋へ入れた。


 ゴルナへ、オルドとの条件を話す。


「十日だけなら、三枚持っていきな」

「誰の分」

「穴掘り二人とフィナの残りだよ」

「値段を聞いてから決める」

「それでいい」


 小さい背殻も売れるものを選ぶ。


 けれど、取引小屋へ積んだままでは、外から来た者にも見える。


「置く場所を作る」


 古い水路へ戻る。


 三本爪の背殻から少し集落側に、低い横穴があった。


 穴掘りの二人が土を出す。


 人一人が屈んで入れる深さまで広げ、奥へ平たい石を敷いた。


 湿った床へ灰灯苔を直接置かずに済む。


 入口には、外した大灰殻ムカデの薄い背殻を重ねた。


 正面から見れば、水路へ捨てた殻にしか見えない。


 内側から鉄釘と革紐でつなぐ。


 動かせば、殻同士が触れて音を立てる。


「町の人が来たら分かる?」


 フィナが殻を押す。


 乾いた音が水路へ響いた。


「魔物でも鳴る」

「なら、何か来たのは分かる」


 売る予定の殻三枚と、小さい殻を奥へ置く。


 灰灯苔は、次に採る分からここへ運ぶ。


 集落から町へ持ち出す荷物を、一度この場所で確認する。


 町から戻った品も、追われていないと確かめてから集落へ入れる。


「名前は?」


 フィナが聞く。


「何の」

「場所を作ったら、名前をつけるんでしょ」

「誰が決めた」

「三本爪の水路も、黒巣も名前がある」


 黒巣は、母蜘蛛がいた頃からそう呼んでいる。


 三本爪は、フィナが残した印からついた。


 目の前には灰色の殻が重なっている。


「三本爪の荷置き場」

「そのまま」

「分かればいい」

「じゃあ、それでいい」


 フィナが入口の内側へ、爪で三本の線を引いた。


 外からは見えない。


 俺たちが殻を動かした時だけ、その印が現れた。


 三本爪の荷置き場へ、翌朝もう一度入った。


 入口の背殻は動いていない。


 鉄釘と革紐も、昨日結んだ位置のままだった。


 中へ入ると、湿った土の匂いが濃い。


 奥へ置いた灰灯苔の葉が、何枚か黒くなっている。


「昨日は光ってた」


 フィナが一束を持ち上げる。


 下になった葉が潰れ、泥のように柔らかくなっていた。


「湿ってる方がいいんじゃないの?」

「重ねすぎた」


 採取した苔を湿らせた布で包み、そのまま床へ置いた。


 水分が逃げず、下だけが傷んだらしい。


 黒くなった葉を外す。


 売れそうな部分は残るが、一束分には足りない。


「このままだと、町へ運ぶ前に減る」

「棚を作る?」


 フィナが平たい石を見る。


「石の上も濡れてる」

「穴を開ける」

「外から見つからない?」


 入口ではなく、水路の奥へ細い空気穴を通す。


 穴掘りの二人を呼び、指一本が入るほどの穴を斜めに掘ってもらった。


 灰殻ムカデの細い脚を組み、布を載せる台も作る。


 苔は一段に重ねず、間を空けて並べた。


「ムカデの脚まで売れる?」


 フィナが聞く。


「聞いてない」

「売れたら棚がなくなるね」

「これは売らない」

「値段を聞く前に?」

「棚に使う」


 ゴルナの言い方が移っている。


 今日売るのは、大きな背殻三枚と、小さい背殻六枚。


 傷と汚れを確かめ、布で一枚ずつ包む。


「運び賃は」


 ゴルナに聞く。


「殻の持ち主から取るのかい?」

「俺の殻じゃない」

「商会が高く払う分は?」

「一枚につき銅貨一枚」

「それを運んだ分にしな」


 ギルドへ売った時と同じ額は持ち主へ返す。


 商会が上乗せする分だけ、俺が受け取る。


 売れなければ、運び賃もない。


「それでいい」

「値段を下げられたら持って帰るんだよ」

「契約に書いた」

「読める?」

「読んでもらった」


 背負い籠へ九枚を入れる。


 北側の岩場を通り、昼前に町へ着いた。


 東市場の革屋で、緑の秤がついた札を見せる。


 店の奥からオルドが出てきた。


「本当に持ってきたか」

「九枚」

「大きいのは」

「三枚」


 作業台へ並べる。


 オルドは最初に裏側を見た。


 泥を落とし、端を指で押す。


「一枚、内側に割れがある」

「昨日はなかった」

「外から見えにくい割れだ」


 光へ透かすと、節の近くに細い線が走っている。


「いくら」

「大きいのは、七、七、六」

「ギルドなら」

「六、六、五だ」


 契約どおり、どれも一枚につき銅貨一枚高い。


 小さい背殻は、六枚とも銅貨三枚。


 合計は銀貨三枚と銅貨八枚になった。


「全部売る」

「次は何枚ある」

「約束しない」

「聞いただけだ」

「三枚より多い」

「大きい殻か?」

「小さいのもある」


 オルドは代金を台へ並べた。


 ギルド査定分の銀貨二枚と銅貨九枚は、持ち主へ返す。


 九枚分の上乗せ、銅貨九枚が俺の運び賃になる。


 自分の所持金は、銀貨五枚と銅貨四枚。


「苔も扱う?」

「灰灯苔か?」

「そう」

「薬問屋へ回すなら買えるが、ギルドと同じ値段だ」

「何で高くない」

「欲しいのは殻だからだ」


 何でも商会へ売れば高くなるわけではない。


 オルドは買った背殻へ、緑の印をつけ始めた。


「場所を聞かないのは、いつまで」

「物が入る間は」

「入らなくなったら?」

「別の仕入れ先を探す」

「俺の道を?」


 オルドが手を止める。


「契約中は探さない」

「終わったら」

「十日後に、次の条件を決める」


 探さないとは言わなかった。


 契約書にも、終わった後のことは書いていない。


「次は、それも書く」

「覚えてたらな」

「覚えてる」

「なら、商会も忘れない」


 空になった籠を背負う。


 高く売れた。


 それでも、十日を過ぎれば同じ条件ではなくなる。


 片靴亭へ戻ると、ベッカが鍵箱を開いていた。


 空いている鍵が三本。


 俺の鍵を入れる場所だけが残っている。


「今朝で七日だよ」

「知ってる」

「本当に?」

「残り一泊」

「それは昨夜の分だ」

「黒巣で寝た」

「使わなくても日数は減る」


 鍵を返す。


 ベッカが鍵箱へ戻そうとする。


「また七日借りる」


 言うと、ベッカの手が止まった。


「半分も寝てなかっただろ」

「鍵がいる」

「黒巣って所にはないのかい」

「入口に線はある」

「鍵じゃないね」

「だから借りる」


 銀貨二枚と銅貨八枚を払う。


 所持金は銀貨二枚と銅貨六枚になった。


 ベッカが新しい日数を帳面へ書き、同じ鍵を戻す。


「空ける日は言いな」

「何で」

「毎朝、生きてるか確かめなくて済む」

「長く出る時はギルドにも言う」

「ギルドより先に、宿へ言うんだよ」


 個室へ上がる。


 机には何も増えていない。


 古い文字表と、契約書。


 使わない足布。


 黒巣に置く物と、町に置く物が少しずつ分かれてきた。


 契約書は町へ残す。


 狩猟刀と登録証は持ち歩く。


 足布は、濡れた時に使う。


 全部を一か所へ集めなくてもよくなった。

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