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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

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第009話 初めての狩り

 薄羽虫を食べ終えても、すぐには動かなかった。


 進化の痛みは引いている。


 体の奥に残っていた熱も、前ほど暴れていない。


 狭い裂け目に爪を立て、俺はゆっくり羽を開いた。


 石に当たる前に止める。


 もう一度、少しだけ広げる。


 羽の付け根が、前より動かしやすい。


 飛べるかは分からない。


 でも、落ちる速さを弱めるだけだった羽が、今は空気の重さを掴んでいる。


 爪にも力が入る。


 薄羽虫の殻を噛んだ時、前より簡単に割れた。


 進化した。


 通知に書かれていたからではなく、体を動かすだけで分かる。


 俺は頭の中で、ステータスと念じた。


 視界の手前に、薄い表示が開く。


――――――――――

名前:なし

種族:古血蝙蝠

種族ランク:E

進化段階:第2段階

Lv:2


HP:8/10

MP:2/4


筋力:3

耐久:4

敏捷:7

感知:9

魔力:3

器用:3

精神:8


状態:

軽度因子過負荷


種族特性:

夜目Lv2

微弱音波Lv1

天井把握Lv1

吸血Lv1

古血適応Lv1

嗅覚・最下位Lv2

竜眼・最下位


固有スキル:

因子吸収Lv1


スキル:

竜因子適応Lv1

因子吸収補助Lv1


称号:

異界より転じた魂

最弱幼体

古き帝の血を啜ったもの


保有因子:

洞窟鼠因子

血吸い蛭因子

古代竜帝因子

――――――――――


 レベルは二のままなのに、進化する前より数字は上がっていた。


 傷も塞がり、飢餓の文字も消えている。


 腹が満ちたわけじゃない。


 進化で体を作り直したせいか、死にそうな飢えが少し遠のいただけだ。


 空腹はまだある。


 薄羽虫の残りでは、足りなかった。


 俺は裂け目の外へ顔を出した。


 下には水場があり、黒い蛭が石の縁に張りついている。


 少し離れた壁には、あのトカゲが洞窟鼠の死骸を食った跡が残っていた。


 骨と、濡れた毛と、黒ずんだ血だけが散らばっている。


 あれには、まだ勝てない。


 蛭なら噛み潰せるかもしれないが、腐った血を吸うために水場へ降りる気にはなれなかった。


 ほかを探す。


 鳴けば周りの形は分かる。


 けれど、獲物にも俺の場所を知らせることになる。


 俺は鳴かずに、鼻を動かした。


 濡れた石と腐った水の奥に、かすかに獣の匂いがある。


 前にも嗅いだ匂いだった。


 乾いた骨を舐める、痩せた鼠。


 あの時は、追いかけて逃げられた。


 今度は追わない。


 匂いが来る方を見て、俺は裂け目の外側を調べた。


 黒い骨のある場所から水場へ向かうには、壁に沿った細い出っ張りを通るしかない。


 下は浅い水たまりで、反対側は石の壁になっている。


 鼠なら走れる幅がある。


 俺の体なら、その上にあるひびへ隠れられる。


 逃げ道は、前と後ろの二つしかない。


 上から飛びつけば、横には逃げられない。


 たぶん。


 失敗すれば噛まれる。


 鼠の前歯は、今の俺でも十分に大きい。


 それでも、死骸が落ちてくるのを待つよりは早い。


 俺は裂け目を出た。


 爪を壁にかけ、体を持ち上げる。


 前なら何度も滑った石でも、今の爪ならしっかり掴めた。


 羽を畳み、出っ張りの上にあるひびへ体を押し込む。


 狭い。


 でも、待つにはちょうどよかった。


 ひびの奥へ体を伏せると、下からは影にしか見えなくなった。


 俺は動かずに待った。


 水が落ちる。


 蛭が這う。


 遠くで、何かが骨を噛み砕いた。


 空腹だけが、少しずつ強くなる。


 何度も、もう降りようと思った。


 蛭でもいい。


 残った死骸でもいい。


 そう考えるたび、かすかにする獣の匂いを探した。


 まだ近くにいる。


 やがて、かり、と石を引っかく音がした。


 俺は息を殺した。


 音はゆっくり近づいてくる。


 暗闇の中に、尖った鼻が現れた。


 次に、痩せた胴と細い尾が続く。


 前に見た鼠より、毛並みが揃っていた。


 後ろ足も引きずっていない。


 弱っていないし、俺より大きい。


 鼠は出っ張りの途中で止まり、鼻を動かした。


 気づかれたのかと思った。


 鼓動が速くなる。


 鼠の顔が上がる。


 俺は目の奥へ意識を向けた。


 頭が少し痛んだ。


――――――――――

名称:骨舐め鼠

――――――――――


 やっぱり、あの鼠と同じ魔物だ。


 骨舐め鼠は、黒い骨のある裂け目へ顔を向けた。


 けれど、それ以上は近づかない。


 前足を一歩出し、すぐに引く。


 黒い骨を怖がっている。


 俺はあの中で進化した。


 今の俺からも、同じ匂いがしているのかもしれない。


 骨舐め鼠が後ろへ下がる。


 ここで逃がしたら、次はない。


 俺は壁を蹴った。


 体が落ちる。


 羽を開くと、冷たい空気が膜を押し返した。


 前とは違う。


 ただ落ちるのではなく、少しだけ前へ進める。


 骨舐め鼠がこちらを向く。


 遅い。


 俺はその首へ爪を立てた。


 毛の下へ爪が沈み、骨舐め鼠は暴れた。


 石に叩きつけられる。


 息が詰まった。


 骨舐め鼠が体をひねり、俺の羽へ噛みつこうとする。


 大きな前歯が、羽の端をかすめた。


 薄い膜が裂ける。


 痛い。


 爪を離しかけた。


 離せば逃げられて、次は俺が噛まれる。


 俺は首の毛に顔を埋めた。


 血の流れる場所が分かる。


 皮膚の下で、脈が速く打っている。


 そこへ牙を立てた。


 温かい血が口に入る。


 洞窟鼠の死骸から吸った、冷えた血とは違う。


 血吸い蛭の中に溜まっていた、腐った血とも違う。


 熱い。


 濃い。


 口の中に入った瞬間、喉が勝手に動いた。


 骨舐め鼠が鳴き、出っ張りの上を走り出す。


 俺の体が壁にぶつかる。


 一度。


 二度。


 爪が毛から抜けそうになる。


 それでも牙は離さなかった。


 吸うたび、焼けていた喉が冷えていく。


 反対に、骨舐め鼠の動きが少しずつ鈍くなる。


 吸血。


 血を飲むだけじゃない。


 俺が吸った分だけ、こいつから力が抜けている。


 骨舐め鼠が急に向きを変え、壁へ体をぶつけた。


 今度は俺を潰すためだ。


 石が迫る。


 俺は片方の爪を離し、羽を体と壁の間へ畳んだ。


 体の横から石に当たる。


 痛みが走った。


 牙が浅くなる。


 血が口の端からこぼれた。


 骨舐め鼠がもう一度、体を振る。


 落ちる。


 下には水場がある。


 俺は牙を抜き、鼠の背中を蹴った。


 羽を開く。


 ほんの少しだけ体が浮き、すぐ横の壁へ爪が届いた。


 骨舐め鼠は出っ張りの上でよろめいている。


 逃げるなら、今だった。


 でも、戻った。


 壁を蹴り、もう一度その背中へ飛びつく。


 骨舐め鼠が前歯を向けた。


 俺は顔を避け、さっき噛んだ傷へ牙を押し込んだ。


 また血が出る。


 さっきより簡単に吸えた。


――――――――――

種族特性【吸血Lv1】が【吸血Lv2】へ上昇しました。

――――――――――


 骨舐め鼠の足が石を掻く。


 細い尾が何度も俺の体を打った。


 それでも、最初ほど強くない。


 吸う。


 温かい血が入ってくる。


 傷の痛みが遠くなる。


 空腹が薄れていく。


 骨舐め鼠の体から、少しずつ力が抜けていく。


 やがて、石を掻いていた前足が止まった。


 尾が一度だけ動く。


 それきり、動かなくなった。


 俺はすぐには牙を抜かなかった。


 また動くかもしれない。


 噛まれるかもしれない。


 しばらく吸い続けて、脈が消えたことを確かめた。


 骨舐め鼠を倒した。


 死骸を見つけたんじゃない。


 弱ったところを拾ったんでもない。


 自分で待って、飛びついて、殺した。


 そのことに、吐き気は来なかった。


 遅れて、別の怖さが来た。


 殺したことを、すぐに受け入れている自分が怖かった。


 それでも、牙を抜く気にはなれない。


 血が、まだ残っている。


 前ほど嫌じゃなかった。


 むしろ、もっと欲しいと思った。


 俺は骨舐め鼠を出っ張りの奥へ引きずった。


 進化して筋力が上がっても、俺より大きい死骸は重い。


 何度も咥え直し、壁際の浅いくぼみまで運ぶ。


 そこで飲めるだけ血を吸い、腹の柔らかいところへ牙を立てた。


 毛は邪魔で、肉は生臭い。


 それでも、薄羽虫より食べやすかった。


 血の残った肉を噛むたび、体の中の熱が静かになっていく。


 食べられるところを探し、何度も噛み、飲み込んだ。


 途中で、腹が苦しくなった。


 空腹とは違う痛みだった。


 もう入らない。


 そう分かっているのに、残った肉を離したくなかった。


 俺はしばらく死骸に牙を立てたまま、動かなかった。


 腹の奥が重い。


 喉も焼けていない。


 何かを探していた体が、初めて静かになっている。


 腹が満ちた。


 小さな体が、少し膨らんでいる。


 格好は悪い。


 でも、口元が緩んだ。


 教室から落ちて、この体になってから初めて、腹が満ちていることに安心した。


――――――――――

骨舐め鼠を討伐しました。

経験値を取得しました。

HPが回復しました。


Lvが2から3に上昇しました。

最大HP:10から11に上昇しました。

筋力:3から4に上昇しました。

敏捷:7から8に上昇しました。

感知:9から10に上昇しました。

――――――――――


――――――――――

固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

因子【骨舐め鼠因子】を取得しました。


古代竜帝因子の適応率がわずかに上昇しました。

――――――――――


――――――――――

因子【骨舐め鼠因子】

骨髄感知、死骸感知、飢餓耐性などが含まれる。

現在の肉体では、一部のみ適応できる。

――――――――――


――――――――――

スキル【飢餓耐性・最下位Lv1】を獲得しました。

――――――――――


――――――――――

スキル【飢餓耐性・最下位Lv1】

空腹による体力の消耗と動きの鈍りを、わずかに抑える。


種族特性【吸血Lv2】

傷口に牙を立てた相手から、以前より安定して血と生命力を吸収できる。

吸血している間、相手の力をわずかに奪う。

――――――――――


 食われる側から、ほんの少しだけ外れた。


 そう思った時、遠くから石を踏む音がした。


 一歩ごとに、地面へ重さが伝わってくる。


 血の匂いを嗅ぎつけたのかもしれない。


 俺は残った死骸に牙を立て、引きずろうとした。


 腹は満ちた。


 でも、ここでは眠れない。

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