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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第1章 最弱幼体と太古の血

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第008話 特殊進化

 進化条件。


 意味は分かる。


 ゲームで何度も見たような言葉だ。


 でも、今の俺には、それを喜ぶ余裕がなかった。


 薄羽虫の残りを噛み砕く。


 潰れた体液も湿った羽も硬い脚も、食べ物と呼ぶには遠かった。


 それでも、吐きそうになるのをこらえて飲み込んだ。


 頭の奥に、また通知が走る。


――――――――――

進化条件を照合中。


通常進化条件:未達。

特殊進化条件:古血接触/因子過負荷/吸血適応/暗所生存


現在の肉体では因子負荷に耐えられません。

特殊進化先が開示されます。

――――――――――


――――――――――

特殊進化可能種


古血蝙蝠(こけつこうもり)

種族ランク:E

古い血を宿した異常個体。

詳細不明。

――――――――――


 古血蝙蝠。


 それだけだった。


 進化先に、人間はなかった。


 分かっていたはずなのに、そこで少し息が止まった。


 石に引っかけた爪を見る。


 スマホを持ったり、ゲームをしたり、当たり前に使っていた手は、今はない。


 あるのは、石に引っかかる小さな爪と、薄い羽だけだ。


 戻る選択肢なんて、最初からなかった。


 普通の進化もない。


 たぶん、俺はまだ進化できる段階じゃない。


 俺はまだ、弱っている虫を食うのにも必死だ。


 暗闇には、俺より大きく、速く、強い魔物がいる。


 生き延びるだけなら、食われる側から抜け出せない。


 欲しいのは、そこから外れる力だった。


 強くなりたい。


 食われる側で終わりたくない。


 詳細不明。


 読める情報は少ない。


 なのにその名前だけで、体の底の古い血が脈を打った。


 黒い骨、乾いた血、赤黒い月。


 あの時の熱が、腹の奥で起き上がる。


 詳細不明なんて、普通なら選ばない。


 何も分からない。


 怖い。


 でも、ほかに道はなかった。


――――――――――

進化先【古血蝙蝠】を選択しました。


進化を開始します。

――――――――――


 その瞬間、体の内側から何かが裂けた。


 声が出た。


 鳴き声なのか、悲鳴なのかも分からない。


 裂け目の中で、羽が石にぶつかる。


 爪が削れる。


 薄羽虫の残りが口から落ちそうになって、俺は反射的に噛みしめた。


 熱い。


 痛い。


 骨が軋み、組み替わっていく。


 その奥へ、熱い血が無理やり流し込まれる。


 小さな体の内側で、骨も肉も別の形に作り替えられていく。


 羽の付け根が引っ張られ、背中の肉がぶつぶつと震えた。


 牙の根が深く沈む。


 爪の先が硬くなって、石を掴む感覚まで変わっていく。


 小さな胸の奥で、心臓が一度止まった気がした。


 すぐに、強く打った。


 どくん。


 どくん。


 洞窟の水音より大きく聞こえる。


 羽の膜が熱を持つ。


 牙の根元が痺れる。


 喉が焼ける。


 血が欲しい。


 体液でも、腐った水でも、薄羽虫の潰れた汁でもない。


 もっと赤いもの。


 もっと熱いもの。


 そう思った自分が、少しだけ怖かった。


 でも、怖いと思うより先に、体が変わっていく。


 止められない。


 戻れない。


 俺の体が、俺の許可を待たずに別の形へ進んでいく。


 頭の奥で、通知が途切れ途切れに走った。


――――――――――

種族【コウモリ幼体】が【古血蝙蝠】へ進化しました。


進化段階が第1段階から第2段階へ上昇しました。

種族ランクがFからEへ上昇しました。


HPが上昇しました。

MPが上昇しました。

筋力が上昇しました。

敏捷が上昇しました。

耐久が上昇しました。

感知が上昇しました。

精神が上昇しました。


状態異常【因子過負荷】が軽減されました。

――――――――――


 通知が終わっても、痛みはすぐには引かなかった。


 ただ、熱の向きが変わった。


 体の中で暴れていたものが、どこかに薄く広がっていく。


 飲み込んだ血が、肉に染みていくような感覚。


 気持ち悪い。


 でも、さっきよりはましだった。


 続けて、別の通知が来る。


――――――――――

因子【血吸い蛭因子】の一部が種族特性【吸血未熟Lv1】へ統合されました。

種族特性【吸血未熟Lv1】が【吸血Lv1】へ変化しました。

種族特性【夜目Lv1】が【夜目Lv2】へ上昇しました。

種族特性【古血適応Lv1】を獲得しました。


スキル【竜因子適応Lv1】の熟練度が上昇しました。

スキル【因子吸収補助Lv1】の熟練度が上昇しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【吸血Lv1】

血を吸うことに適応した特性。

傷口や弱った相手からであれば、以前よりうまく血を吸える。

吸血した相手の生命力をわずかに取り込み、低確率で肉体能力の一部を成長に反映する。

ごく稀に、血に強く刻まれたスキルや種族特性を取得することがある。


種族特性【古血適応Lv1】

古い血や強い因子による拒絶反応をわずかに抑える。

現在の肉体では、効果は大きく制限される。

――――――――――


 全部は理解できない。


 でも、分かることもあった。


 俺は変わった。


 少しだけ、さっきより魔物として強くなった。


 裂け目の中で、俺はゆっくり息をした。


 胸と羽が動き、爪が石の細かな傷を前よりはっきり掴んでいる。


 暗闇の中で、下の水面がうっすら分かった。


 蛭がいる。


 水の縁に何匹も張りついている。


 見えたというより、そこにいると分かる。


 俺は薄羽虫の残りに顔を寄せた。


 血はほとんどなく、体液ももう少ない。


 それでも、どこに牙を立てれば吸いやすいのか、前より分かった。


 考えるより先に、口が動く。


 吸った。


 さっきより、少しだけ楽だった。


 嫌な味はする。


 気持ち悪い。


 でも、喉が拒まない。


 俺は食べながら、ぼんやりと教室を思い出した。


 白い天井。


 机の列。


 誰かの声。


 思い出せても、戻れる場所じゃない。


 俺は、人間に戻る道じゃなく、食らって生き残る道を選んだ。

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