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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

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第084話 道を取り返す

 その日の夕方、町へ戻った。


 ゴルナは灰色の背殻を布で包み、俺へ渡した。


「値段を聞くだけだよ。勝手に売るんじゃない」

「売れた方が分かりやすい」

「戻ってこなかったら、売ったのと同じだからね」


 片靴亭へ寄る前に、ギルドへ灰灯苔を持ち込む。


 七束のうち、一束は取引小屋へ置いてきた。


 残る六束を台へ並べる。


 ネラではない受付職員が、葉先の光と根についた土を確かめた。


「五束分が銅貨九枚、追加の一束が銅貨二枚です」


 銅貨十一枚を受け取る。


 持っていた八枚と合わせて、銀貨一枚と銅貨九枚になった。


「これも見てほしい」


 包みから灰色の背殻を出す。


「灰殻ムカデですね」

「売れる?」

「割れが少なければ一枚で銅貨二枚ほどで、大きさと洗浄状態で値段が変わります」

「大きいのは」

「大灰殻ムカデなら、中央の厚い背殻で銅貨五枚から八枚です」

「一匹分は?」

「全部を傷つけず外せるなら銀貨数枚になりますが、解体料と運搬費がかかります」


 殻を裏返される。


「どこで?」

「黒骨洞の近く」

「中へ入ったんですか」

「古い水路」

「地図にない場所?」

「人が使う道じゃない」


 職員はそれ以上聞かなかった。


 背殻を布へ戻す。


「売却は」

「今日はしない」


 片靴亭の個室で一晩眠り、夜明け前に町を出た。


 水路の外で、フィナと穴掘りの二人が待っていた。


 二人ともレグより体が大きく、長い鉄棒と先の曲がった棒を持っている。


「殻は?」


 ゴルナがいないのに、フィナが最初に聞いた。


「小さい一枚で銅貨二枚。大きいのは五枚以上」

「苔より高い」

「外すのが難しい」

「昨日の一枚は?」


 包みを渡す。


 フィナは中を確かめ、穴掘りの一人へ持たせた。


「売らなかったんだ」

「戻した」

「うん」


 それだけ言い、石へ手をかける。


 四人で集落側の入口を開いた。


 詰めた土が内側へ崩れる。


 すぐに灰殻ムカデの脚音が返ってきた。


「近い」


 穴掘りの二人が、曲がった棒を前へ出す。


「何する」

「引っかけて返す」


 フィナが答えた。


「背中が硬くても、腹は硬くない」


 昨日見た。


 問題は、引っかけるところまで近づけるかだ。


 水路へ入る。


 昨日倒した三匹は、一部を食われていた。


 残る三匹が、死骸の上にいる。


 奥に大灰殻ムカデの形もあった。


「小さいのを先に」


 フィナが矢をつがえる。


「大きい方は音を見てる」


 俺たちが進むたび、大灰殻ムカデの前脚だけが動いている。


 振動を感じ取っている。


「なら、別の音を出す」


 穴掘りの一人が、持っていた小石を奥の壁へ投げた。


 石が跳ねる。


 大灰殻ムカデの頭が、そちらへ向く。


 同時に走った。


 小さい一匹が死骸から離れる。


 音撃を正面へ放つ。


 頭が上がったところへ、フィナの矢が入った。


 腹側から背中近くまで抜ける。


 一匹が壁へ逃げた。


 曲がった棒が節へかかる。


 二人が引くと、灰殻ムカデの長い体が壁から剥がれた。


 白い腹がこちらへ向く。


 狩猟刀で節の間を切る。


 二匹目が止まった。


 残る一匹は、大灰殻ムカデの下へ戻る。


 大きな体が前へ出た。


 頭の殻へ、古い傷がある。


 昨日、レグの槍が滑った跡だ。


 黒い顎が開く。


「散って!」


 フィナと穴掘りの二人が左右へ分かれる。


 俺だけが正面に残る。


 顎が胸の高さへ来た。


 横へ避けても、長い体が水路を塞いでいる。


 狩猟刀を傷のある頭へ当てる。


 刃が弾かれた。


 顎が右腕を挟む。


 靴が床から浮いた。


 骨まで届く前に、両手で顎を押し開く。


 力は向こうの方が強い。


 歯の先が上着を破り、腕へ食い込んだ。


「動かさないで!」


 フィナの矢が眼の横へ刺さる。


 大灰殻ムカデが頭を振った。


 右腕ごと壁へ叩きつけられる。


 息が止まった。


 曲がった棒が、胴の前後へ一本ずつかかる。


 穴掘りの二人が反対側へ引いた。


 体が少し傾く。


 それでも、腹は見えない。


「もう一度!」


 二人が足場を変える。


 残っていた小さい一匹が、片方の脚へ向かった。


『フィナ、右』


 念話を送る。


 フィナは振り返り、短弓をそのまま近い距離で放った。


 矢が小さい灰殻ムカデの口へ入る。


 穴掘りの足へ届く前に止まった。


 大灰殻ムカデの顎へ力が戻る。


 右腕の傷が深くなる。


 血が流れ、灰色の口元へ落ちた。


 自分の血へ触れる。


 血液操作で数滴を浮かせ、残った眼へ飛ばす。


 大灰殻ムカデは匂いではなく、振動を見ている。


 それでも、眼へ入った血に頭を振った。


 顎が緩む。


 腕を引き抜いた。


「今!」


 俺も曲がった棒を掴む。


 三人で引く。


 大灰殻ムカデの体が壁から剥がれ、横倒しになった。


 腹の白い節が並ぶ。


 フィナの矢が一つへ刺さる。


 狩猟刀をその隣へ入れた。


 一度では届かない。


 刃を抜き、もう一度突き入れる。


 黄色い体液が腕へかかる。


 大灰殻ムカデの体が水路の中で暴れた。


 曲がった棒が一本外れる。


 尾側の節が、穴掘りの一人を壁へ押しつけた。


「離れろ!」


 フィナが叫ぶ。


「棒が!」

「捨てて!」


 男が手を離す。


 俺は腹へ刺した狩猟刀を捻った。


 硬いものへ当たる。


 刃では切れない。


 柄を両手で押し込み、体重をかける。


 大灰殻ムカデの脚が、頭側から順に止まっていった。


 最後に尾が一度だけ石を叩く。


 水路が静かになった。


――――――――――

大灰殻ムカデを討伐しました。

灰殻ムカデ三匹を討伐しました。

経験値を取得しました。


Lvが34から35に上昇しました。


筋力:144から148に上昇しました。

耐久:156から160に上昇しました。

感知:196から200に上昇しました。

――――――――――


 右腕から血が流れている。


 レベルが上がっても、顎の傷は閉じなかった。


 布を巻く前に、大灰殻ムカデの体液を舐める。


 小さい個体より苦く、舌の奥が痺れた。


――――――――――

固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

因子【大灰殻ムカデ因子】を取得しました。


因子【灰殻ムカデ因子】と因子【大灰殻ムカデ因子】の一部が統合されました。

因子適応範囲が拡大しました。


スキル【部分硬化・最下位Lv1】を獲得しました。

――――――――――


――――――――――

スキル【部分硬化・最下位Lv1】

魔力を消費し、手のひらほどの範囲の皮膚を短時間だけ硬くできる。

硬化した部分は動かしにくくなり、全身を覆うことはできない。

――――――――――


 右手へ意識を向ける。


 魔力が皮膚の下へ集まり、手の甲だけが灰色に変わった。


 指を曲げる。


 動くが、厚い革を何枚も巻いたように重い。


 すぐに戻す。


「今、手の色が変わった」


 フィナが見ていた。


「殻の力」

「背中も硬くできる?」

「手の大きさだけ」

「小さい」

「増えるかもしれない」


 穴掘りの二人は、すでに大灰殻ムカデの背殻を鉄棒で外し始めていた。


 一枚剥がすたび、石の上へ灰色の板が増えていく。


「先に傷」


 フィナが布を出す。


 右腕へ巻かれた布は、すぐ赤くなった。


「町へ戻ったら洗って」

「分かってる」

「血を飲めば治る、じゃなくて」

「それも分かってる」

「セルカって人に言われた?」

「何で分かる」

「前は分かってなかったから」


 言い返す前に、穴掘りの一人が声を上げた。


「これを見ろ」


 大灰殻ムカデが塞いでいた場所の奥に、卵はなかった。


 食い散らかされた骨と、古い殻だけがある。


 巣ではなく、餌を待つ場所にしていたらしい。


 崩れた脇道の石の下から、錆びた鉄鎖の端が出ていた。


 穴掘りの一人が曲がった棒をかけたが、石の下で短く鳴っただけだった。


 掴める長さもないので鉄鎖はそのままにして、俺は奥へ声を出した。


 黒巣まで続く道に、大きな魔物の形は返ってこない。


「通れる」


 フィナが新しい札を作ろうと、木片を探す。


 俺は外した背殻を一枚取った。


 狩猟刀の先で、灰色の表面へ三本の傷を刻む。


「木より長く残る」


 フィナが殻を受け取る。


「人間に売ったら銅貨五枚以上」

「道がなくなるより安い」


 灰色の三本爪を、水路の脇へ立てた。

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