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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第5章 名前のない冒険者

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第077話 最初の所在確認

 審査の日、ネラは受付の外で待っていた。


「こちらへ」


 前に測定を受けた部屋へ入る。


 金属の台と、透明な石は同じ場所にあった。


 違うのは、椅子が四つあることだった。


 ネラ。


 エッダ。


 剣と秤の章をつけた、白髪の男。


「座ってください」


 空いている椅子へ座る。


 リオナは部屋の外で待たされた。


 白髪の男が紙を一枚めくる。


「支部の登録審査を担当している」

「名前は」

「今は必要ない」

「俺の名前は聞く?」

「書類にある」


 俺が昨日書いた、大きなセインの文字が見えた。


 その横にはリオナの小さな字もある。


「所在確認から始めます」


 ネラが言った。


「現在の滞在先は」

「片靴亭」

「今後五日間も同じですか」

「金がある間は」

「明日の朝までは払ってます」

「その後は?」

「また払う」


 ネラが紙へ書く。


「町を離れる予定は」

「依頼で森へ行く」

「それ以外です」


 黒巣。


 古い水路。


 コボルトの取引小屋。


 戻る場所はいくつかある。


「今はない」

「荷物は、すべて片靴亭に?」

「外套はここ」

「預けた外套以外の荷物です」

「服と壺と文字表」


 黒巣に残した死骸や骨は、町で使う荷物ではない。


 嘘ではなかった。


「次に、測定値を更新します」


 透明な石へ手を置く。


 前と同じ冷たさがある。


 公開へ同意すると、石の中に文字が浮かんだ。


――――――――――

登録名:セイン

Lv:33

種族:人型亜種・詳細不明

称号:詳細不明

犯罪称号:なし

――――――――――


「登録時は三十二でした」


 白髪の男が言う。


「大岩熊の回収で上がった」

「腐肉ハイエナを何匹」

「群れ長を入れて、五匹」

「回収隊の報告と一致する」


 紙へ新しい数字が書かれた。


「Fランク依頼五件も、すべて達成済みです」


 ネラが五枚の報告書を並べる。


「穀物倉」

「共同井戸」

「逃げた山羊」

「治療院の薪」

「食肉解体店の夜番」


 白髪の男は最後の紙で手を止めた。


「一日で四件?」

「時間があった」

「休まなかったのか」

「夜番で座ってた」

「それは休みとは言わない」


 ベッカと同じようなことを言う。


「依頼の達成内容に問題はない」


 男は五枚を重ねる。


「ただし、Fランクから正式登録へ切り替えるには、経歴が不明すぎる」

「依頼は終わった」

「条件の一部だ」

「いつ終わる」

「町で問題を起こさず、所在確認を続ければ判断する」

「何日」

「日数だけでは決めない」


 決まっていない答えだった。


「それでは、別件です」


 ネラが書類の一番下から、エッダの報告を出す。


 採石場。


 崩落。


 ガレオの外套。


 文字は読めないが、書かれていることは分かる。


「セイン」


 エッダが呼ぶ。


 回収依頼の時より、声が低い。


「外套を拾った場所を、もう一度教えて」

「崩れた道の前」

「折れた支柱の近く?」

「そう」

「下に落ちてた?」

「岩に挟まってた」


 前に言っていないことを足す。


 エッダはすぐ紙へ書いた。


「血はついてた?」

「古い匂いはした」

「どのくらい古い」

「分からない」

「ガレオ本人の匂いは」

「知らない」


 知っている。


 血も、汗も、死んだ後の匂いも覚えている。


「外套の近くに、ガレオの戻った足跡はなかった」

「見てない」

「追跡粉も、崩落の向こうへ続いたまま」

「そう」

「気にならなかった?」

「外套が使えた」


 エッダの炭筆が止まる。


「人が死んでるかもしれないのに?」

「その時は、誰のものか知らなかった」

「今は知ってる」

「知ってる」

「返したくない?」

「俺の服が減る」


 エッダは俺の上着を見る。


 コボルトから借りたままの、袖のない服。


「正直だね」

「返すかはギルドが決めると言われた」

「遺体が見つかれば、遺品になる」

「見つかってない」

「崩落の向こうを掘れば出るかもしれない」


 俺の中で、ガレオの乾いた顔が浮かんだ。


「掘る?」

「すぐには無理。二次崩落の危険がある」

「なら、今は見つからない」


 エッダが俺を見る。


 見ている時間が長い。


「採石場へ入る別の道を知らない?」

「知らない」


 古い排水穴も、中層から回る道も知っている。


 そこから人間を連れていけば、ガレオの遺体まで届く。


 黒巣へ続く痕跡も増える。


「分かった」


 エッダは信じたとは言わなかった。


 白髪の男が報告書を閉じる。


「現時点で、ガレオ・ダンの失踪とセインを直接結ぶ証拠はない」

「なら終わり?」

「記録は残す」

「紙が増える」

「記録はそういうものだ」


 男は、リオナと書いた申請書を上へ置いた。


「南古道の調査依頼については、条件つきで許可する」

「条件は」

「Eランクのリオナ・フェルムを代表者とする」

「俺が下?」

「登録上は」

「戦ったら俺の方が強い」

「なら、その力で代表者の撤退判断を守れ」

「俺が危険じゃないと思ったら」

「依頼を失敗として帰ってこい」

「倒せるのに?」

「調査依頼は、倒すことより情報を持ち帰る方が先だ」


 ベルクにも似たことを言われた。


 死骸を運び、帰るまでが依頼だった。


「リオナが逃げると言ったら、帰る?」


 白髪の男が聞く。


「理由を聞く」

「聞いた後は」

「納得したら帰る」

「納得しなければ?」

「リオナを先に帰す」

「却下だ」

「まだ何もしてない」

「する前に言っている」


 ネラが口元を押さえた。


 笑ったのかもしれない。


「二人で入り、二人で帰ること」


 白髪の男が申請書へ印を押す。


「Dランク以上の危険を確認した時点で撤退すること」

「倒せそうでも?」

「その判断をリオナへ任せる」


 部屋の外へ出る。


 リオナが壁際の椅子から立ち上がった。


「どうでした?」

「お前が上になった」

「何の話ですか」


 許可印のついた申請書を渡す。


 リオナは読んでから、少しだけ肩の力を抜いた。


「明日の朝、南門です」

「今から行ける」

「今日は道具を揃えます」

「何がいる」

「それを、これから決めるんです」


 夕方、壺を持って食肉解体店へ寄った。


 店主は約束どおり、その日に余った豚の血を分けてくれた。


 片靴亭へ戻り、壺を貯蔵穴へ置く。


 宿代は翌朝まで払ってある。


 布袋の銅貨十二枚には手をつけなかった。


 机へ申請書を広げる。


 下には、撤退条件が大きな字で書き足されていた。


 大きな字でも、まだ読めなかった。

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