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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第5章 名前のない冒険者

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第059話 二つの姿

 人型のままでは、黒巣と取引小屋を往復するだけで夜の半分を使った。


 古い水路は歩ける。


 だが、黒骨洞の段差を上り下りし、入口の石を動かし、森を抜ける時間は飛んでいた時より長い。


 裸足へ巻いた革も、二度目には底が破れた。


 フィナが新しいものを作る間、俺は取引小屋の梁を見上げていた。


 人型では、あそこへ止まれない。


「戻ってみないの?」


 フィナが革へ穴を開けながら聞いた。


「血を使う」

「昨日の角兎なら残ってる」

「進化にも使った」

「足りない?」

「分からない」


 吸血鬼の説明には、十分な血とMPとしか書かれていなかった。


 足りる量も、戻る時に必要な分も分からない。


 形態変化の途中で止まれば、どちらでもない体が残るかもしれない。


「試すなら、集落から離れてやりな」


 ゴルナが血の入った器を持ってくる。


「途中で何になっても、柵の前では困る」

「見ないのか」

「見たいから離れてやれって言ってるんだよ」


 矛盾していた。


 ゴルナは器を机へ置く。


「フィナ、ついていきな」

「私?」

「戻れなかったら、引きずってきな」

「何になるか分からないのに?」

「嫌ならレグを呼ぶよ」


 フィナは革を置いて立ち上がった。


「私が行く」


 角兎の血を飲み、森の北側へ向かう。


 夜狩り梟の岩場までは行かない。


 取引小屋の灯りが見えなくなる場所で止まった。


 外套と上着を脱ぐ。


 フィナが後ろを向いた。


「ズボンも脱ぐの?」

「服は体の一部じゃない」

「一緒に小さくなるかもしれない」

「破れたら困る」

「私の服じゃないけど」


 ズボンも外套の上へ置く。


 夜の森に裸で立っても、コウモリの時とは違って落ち着かない。


 人間だった頃の感覚が戻ったというより、この体が人型に合った振る舞いを知っている。


「まだ?」

「後ろを向いていろ」

「向いてる」


 吸血鬼の特性へ意識を向ける。


 血牙魔蝙蝠の形を思い出した。


 翼。


 爪。


 牙。


 木の上から見る森。


 体内に蓄えた血が、心臓へ集まる。


 進化の時ほどではないが、鼓動が重くなった。


 腕の骨が縮む。


 指の間に熱が走り、皮膚が薄く広がる。


 膝をつく前に、体が小さくなった。


 地面が遠ざかるのではなく、周囲の草が一気に高くなる。


 黒い毛が皮膚を覆い、背中から翼の感覚が戻った。


 四本の脚で土を掴む。


 完全に同じではない。


 血牙魔蝙蝠だった時より、体が少し細い。


 胸の中には、人型の心臓の重さが残っている。


「ミナト?」


『聞こえる』


 念話は使えた。


 翼を広げる。


 飛行Lv3の感覚も戻っている。


 一度羽ばたくと、枝の高さまで上がった。


 急に曲がり、木の間を抜ける。


 人型で歩いた距離が、すぐに後ろへ流れていく。


 飛べる。


 音波感知も、こちらの喉の方が正確だった。


 岩場を一周し、フィナの近くへ戻る。


「そのままでも喋れるんだ」


『前から喋っていた』


「今は声で喋れるから」


 地面へ降り、人型を思い浮かべる。


 すぐには変わらなかった。


 もう一度、血を心臓へ集める。


 腹の奥が空く。


 MPも大きく減った。


 骨が伸び、人の腕と脚が戻る。


 二度目の変化は、最初より遅い。


 最後まで人型へ戻った時、膝をついたまま立てなかった。


 息が乱れている。


「大丈夫?」

「血が、足りない」


 フィナが外套を投げてよこす。


 受け取ろうとした手が外れ、布が頭から被さった。


「今日もう一回は?」

「無理だ」


 MPは半分近く減り、蓄えた血も空に近い。


 戦闘中に姿を往復する使い方はできない。


 服も地面へ残る。


 町の中で蝙蝠になれば、戻った時に着るものまで探すことになる。


 外套を体へ巻き、しばらく座った。


 取引小屋へ戻る途中、フィナが急に足を止めた。


 地面へしゃがみ、泥へついた跡を指でなぞる。


「人間の靴」


 四人分ある。


 森の北へ向かい、魔境の中へ続いていた。


 跡の一つだけが浅く、時々ほかの足跡から離れている。


 周囲を見ながら進む斥候の歩き方だった。


 まだ新しい。


 フィナは顔を上げた。


「ガレオを探してた人たち?」

「違う」


 靴底の形も、歩幅も、あの四人とは違う。


 俺は足跡の先から流れてくる匂いを探した。


 人間だけではない。


 古い血と、薬草と、傷んだ革の匂いが混じっていた。

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