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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第4章 血牙と地上の夜

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第056話 黒爪猟犬

 黒爪猟犬は、その夜には来なかった。


 朝まで待っても、森の奥から声が返るだけだった。


 俺は三本爪の札を外へ向け、水路を開けてもらう。


 後脚を引きずりながら黒巣へ戻り、残していた洞窟鼠の血を吸った。


 腹と後脚の傷が塞がるまで、二日かかった。


 三日目の夕方、黒巣を出る。


 水路の入口には、石が二つ積まれていた。


 危ない魔物を見た印。


 片方の石へ、黒い毛が挟まっている。


 猟犬はここまで来た。


 俺が入口へ残した匂いを見つけたらしい。


 外へ出ると、フィナが乾いた川底で待っていた。


 弓の弦を外し、両手で短い縄を編んでいる。


「一匹、昨日ここまで来た」


『入ったか』


「石の周りを嗅いで戻った。入口は見つかってる」


 レグは少し離れた斜面で、地面へ木杭を打っていた。


 前に傷めた脚へ布を巻いている。


「集落へ続く道には、見張りを置いた」


『三匹をここで倒す』


「一度に来たら?」


『分ける』


「前もそうしようとして、二ヶ所やられて戻っただろ」


 俺はレグを見る。


『なら、別の方法は』


「ある」


 フィナが編み終えた縄を持ち上げた。


 輪が三つつながっている。


「猟犬は血を追う。ミナトの匂いも覚えてる」


『俺を餌にするのか』


「嫌なら、角兎だけにする」


『どこへ追わせる』


 フィナは乾いた川底の三方を指した。


 中央には、昨日までなかった枝の壁が作られている。


 右の道は狭く、途中へ輪縄が伏せてあった。


 左は開けているが、その先にレグの木杭が並ぶ。


 正面には古い水路の入口がある。


「角兎の血を三つに分ける。古い血は右。新しい血は左。ミナトは真ん中」


『俺へ来る』


「たぶん」

「全部来るかもしれない」


 レグが木杭を蹴り、土へ入った深さを確かめる。


「その時は水路へ逃げろ。中から石を落とす」


『入口を知られる』


「もう知られてる」


 返す言葉はなかった。


 フィナが小さな壺を差し出す。


 中には角兎の血が入っている。


「飲まないで」


『分かっている』


 血液操作で一滴だけ持ち上げる。


 以前より、滴は長く牙の先へ残った。


 右の道へ飛び、古い血を葉へ塗る。


 左には、フィナが新しい血を撒いた。


 中央へ戻り、自分の前脚を牙で浅く傷つける。


 赤い滴が毛の上へ滲んだ。


 すぐには落とさない。


 血の匂いだけを風へ乗せる。


 日が沈む。


 森の音が減り、乾いた川底へ冷たい空気が溜まった。


 最初に聞こえたのは、右の茂みだった。


 一匹が古い血を追っている。


 次に、左。


 もう一匹が新しい血へ近づく。


 三匹目は動かない。


 遠くから、二匹が進む音を聞いている。


 群れの中で、一番大きな個体だった。


 俺を誘った猟犬より、肩が高い。


 額から鼻先まで古い傷が走り、前脚の爪は石のように黒かった。


――――――――――

名称:黒爪猟犬・群れ長

種族:黒爪猟犬

種族ランク:D

――――――――――


 群れ長は血へ向かわない。


 こちらが待っていることを知っている。


 右で縄が鳴った。


 一匹の脚が輪へ入り、地面へ伏せていた枝が跳ね上がる。


 縄に引かれ、猟犬の前脚が浮いた。


 同時に左から、木杭を蹴る音がした。


 レグが槍で猟犬を追い、狭い間へ誘っている。


 群れ長はどちらも助けなかった。


 低く走り、真ん中にいる俺へ来る。


 俺は枝の壁を越えて飛ぶ。


 群れ長も止まらない。


 枝へ前脚をかけ、体ごと崩して通った。


 後ろから黒い爪が迫る。


 上へ逃げず、川底すれすれを飛ぶ。


 血を滲ませた前脚を下げると、群れ長の鼻がそちらへ向いた。


 噛みついてくる。


 翼を立てて横へ曲がる。


 牙は外れたが、黒い爪が左の前脚を裂いた。


 血が飛ぶ。


 群れ長は止まらず、落ちた血の先へ回った。


 逃げる方向を匂いで読んでいる。


 俺は前脚から出る血を一つに集めた。


 傷口へ戻すのではなく、爪の先へ押し出す。


 赤い滴を群れ長の顔へ飛ばした。


 鼻先に当たる。


 群れ長が顔を振った。


 匂いが近すぎて、俺の位置を見失う。


 その頭上から背中へ落ちた。


 両爪を肩へ入れる。


 群れ長が転がり、俺を地面へ押しつけようとする。


 離れない。


 首の毛へ牙を入れようとしても、厚くて皮まで届かない。


 前脚の爪が脇腹へ回る。


 音撃を首の横へ放つ。


 群れ長の体が一瞬だけ硬くなった。


 毛を爪で左右へ開き、同じ場所へ牙を押し込む。


 血牙が皮を抜けた。


 熱い血が口へ入る。


 群れ長が走り出した。


 背中にしがみついたまま、川底を引きずられる。


 石が翼へ当たる。


 左の前脚から血が流れ、爪の力が抜けていく。


 血液吸収を強める。


 吸い込んだ血が体内へ溜まり、失った分を押し戻した。


 群れ長の足取りが乱れる。


 それでも止まらない。


 水路の入口へ向かっている。


 石の陰に、フィナがいた。


 群れ長は俺だけを見ている。


 フィナが横から縄を投げた。


 輪が後脚へかかる。


 引き倒す力はないが、走る幅が少し狭くなった。


 群れ長の前脚が、川底に残る太い根へ当たる。


 体が傾いた。


 俺は牙を離さず、翼を開いて反対側へ引く。


 群れ長が肩から地面へ落ちた。


 その上へ体重をかけ、もう一度吸う。


 暴れるたび、前脚の傷が石へ擦れた。


 痛みより先に血が入ってくる。


 群れ長の心音が速くなり、少しずつ弱くなった。


 最後の一度が鳴るまで、牙を離さなかった。


 右の道から、猟犬の悲鳴が聞こえた。


 罠にかかった一匹を、フィナが短剣で仕留めている。


 左では、レグの槍が木杭の間を抜けた。


 猟犬が避けた先には、二本目の杭がある。


 肩を打ち、動きが止まったところへ槍先が入った。


 三つの心音が、順番に消えていく。


――――――――――

黒爪猟犬三匹を討伐しました。

経験値を取得しました。


Lvが28から30に上昇しました。

最大HP:212から224に上昇しました。

最大MP:88から96に上昇しました。

筋力:100から108に上昇しました。

耐久:112から120に上昇しました。

敏捷:148から160に上昇しました。

感知:156から168に上昇しました。

魔力:80から88に上昇しました。

器用:92から100に上昇しました。

精神:84から92に上昇しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【血液吸収Lv1】の熟練度が一定値に達しました。

種族特性【血液吸収Lv1】が【血液吸収Lv2】へ上昇しました。

――――――――――


――――――――――

種族特性【血液吸収Lv2】

牙を立てた相手から、血、生命力、微量の魔力を以前より速く吸収できる。

吸収中は、失った自分の血をわずかに補える。

深い傷や欠損を戦闘中に治せるわけではなく、回復には血と休息が必要になる。

――――――――――


――――――――――

固有スキル【因子吸収Lv1】が発動しました。

同種因子【黒爪猟犬因子】を追加吸収しました。

因子【黒爪猟犬因子】の蓄積量が上昇しました。

――――――――――


――――――――――

因子【黒爪猟犬因子】から、新たに適応した性質はありません。

――――――――――


――――――――――

進化可能種【下級吸血鬼】への進化条件をすべて満たしました。

――――――――――


 通知を閉じても、群れ長の血はまだ温かかった。


 左の前脚には深い裂け目が残っている。


 レベルが上がっても、傷は消えていない。


 血を吸えば、もう少し閉じられる。


 進化もできる。


 だが、ここで始めれば動けなくなる。


 俺は群れ長の首から牙を抜いた。


『黒巣へ戻る』


 フィナが血のついた短剣を拭いている。


「進化するの?」


『たぶん』


「また大きくなる?」


『今度は、形が変わる』


 レグが槍を止めた。


「何になる」


 答える前に、川底の外へ鳴いた。


 別の猟犬の音は返ってこない。


『まだ選んでいない』


 群れ長の血を腹へ入るだけ吸い、残りはゴルナへ渡すために残した。

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