第046話 血牙魔蝙蝠
赤角猪の解体が終わる前に、俺は森を離れた。
進化できると分かっていても、地上では眠れない。
レグとフィナにも見せたくなかった。
風穴から黒骨洞へ戻り、何度も後ろを確かめる。
追ってくる足音はない。
赤角猪の血で腹は重く、左の翼も狩りの前より動いた。
黒巣まで戻ると、入口の金属線は張った時のままだった。
中へ入り、もう一度線を戻す。
進化中は動けない。
黒巣の奥にある糸と死骸を寄せ、外から体が見えない窪みを作った。
血は足りている。
食べられる肉もある。
周囲に動く魔物はいない。
それでもすぐには始めず、三度鳴いて黒巣の外まで確かめた。
何も返ってこなかった。
俺は窪みへ伏せる。
頭の奥へ意識を向けると、三つの名前が並んだ。
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進化可能種
【血牙魔蝙蝠】
血と生命力を取り込む牙を発達させた魔蝙蝠。
吸血、血液処理、肉体回復が強化される。
この世界では、血吸いコウモリ系統と魔蝙蝠系統の双方に近い希少な上位種とされる。
【響翼魔蝙蝠】
翼と声に魔力を通すことへ適応した魔蝙蝠。
音の範囲と精度が上がり、空中から複数の相手を乱しやすくなる。
洞窟の群れに現れた場合、下級冒険者では近づくことも難しいとされる。
【影翼魔蝙蝠】
暗闇へ気配を溶かすことへ適応した魔蝙蝠。
夜間の隠密、奇襲、静かな飛行に優れる。
目撃記録はあるが、捕獲例は少ない。
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響翼魔蝙蝠なら、音撃は強くなる。
森で散った音も、もっと遠くまで届くかもしれない。
影翼魔蝙蝠なら、ガレオの矢に見つかる前に逃げられた。
どちらも、生き残るためには使える。
けれど、人間の血を条件にしているのは一つだけだった。
血牙魔蝙蝠。
ガレオを殺したことも、赤角猪との取引も、そこへつながっている。
俺は血を飲むたびに強くなってきた。
なら、今さら別の道へ逃げるつもりはない。
血牙魔蝙蝠を選ぶ。
名前へ意識を触れさせた瞬間、腹の中に溜まっていた熱が動いた。
心臓が一度、大きく鳴る。
次の鼓動は来なかった。
息も止まる。
暗闇の中で、赤角猪とガレオの血だけが体内を巡っていた。
止まった心臓へ血が集まる。
押し込まれ、膨らみ、内側から形を変えていく。
鼓動が戻った。
前より重い音だった。
一度鳴るたび、血が翼の端まで押し出される。
骨が軋む。
背中の骨が伸び、翼膜を左右へ引っ張った。
治りきっていなかった左の裂け目が開く。
痛みが走った直後、古い翼膜が端から崩れ、新しい膜がその下で広がった。
肩の穴も熱くなる。
薄く塞がっていた肉が一度ほどけ、血と一緒に組み直される。
爪が糸を掻いた。
口の中では、牙が根元から押し出されている。
前より長い。
太くなった根が顎を広げ、歯茎を裂く。
流れた自分の血を、舌が舐め取った。
飲み込んだ途端、痛んでいた場所へ熱が戻る。
血が肉になる。
その感覚だけが、はっきり分かった。
体が膨らみ、窪みの端へ翼が当たる。
入った時には余っていた場所が、今は狭い。
骨と肉が変わる音は、しばらく止まらなかった。
やがて、最後の痛みと一緒に心臓が強く鳴った。
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進化が完了しました。
種族【魔蝙蝠】から【血牙魔蝙蝠】へ進化しました。
種族ランクがDからCへ上昇しました。
進化段階が第3段階から第4段階へ上昇しました。
Lv25を維持します。
最大HP:103から196に上昇しました。
最大MP:38から80に上昇しました。
筋力:43から88に上昇しました。
耐久:50から100に上昇しました。
敏捷:73から132に上昇しました。
感知:80から144に上昇しました。
魔力:35から72に上昇しました。
器用:43から80に上昇しました。
精神:40から76に上昇しました。
左翼の裂傷が修復されました。
肩の刺傷が修復されました。
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種族特性【吸血Lv4】が【血液吸収Lv1】へ変化しました。
種族特性【血牙Lv1】を獲得しました。
種族特性【再生・最下位Lv1】を獲得しました。
スキル【血液操作・最下位Lv1】を獲得しました。
スキル【念話・最下位Lv1】が【念話・最下位Lv2】へ上昇しました。
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種族特性【血液吸収Lv1】
牙を立てた相手から、血、生命力、微量の魔力を吸収できる。
吸収した一部を体内へ蓄え、回復、成長、血液操作の燃料として使える。
相手の力や血の質が現在の肉体を大きく上回る場合、拒絶反応や因子過負荷が起こる。
種族特性【血牙Lv1】
厚い皮へ食い込みやすく、吸血中に外れにくい牙。
硬い外殻や金属を貫くことはできない。
種族特性【再生・最下位Lv1】
蓄えた血と生命力を消費し、浅い傷の止血と修復を早める。
深い裂傷、骨折、欠損はすぐに治せず、十分な血と休息が必要になる。
スキル【血液操作・最下位Lv1】
自分の血か、直接触れている血を数滴だけ動かせる。
今は刃や弾に変えることも、離れた相手の体内にある血を操ることもできない。
スキル【念話・最下位Lv2】
近くにいる一体へ、短い一文を送れる。
自分と結びついた名前は送れるが、相手の思考や返答を読むことはできない。
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目を開く。
黒巣が前より低い。
翼を広げると、左右の端が糸へ触れた。
痛みはない。
肩も動く。
立ち上がり、入口へ向かう。
黒巣の広い道は通れた。
その横にある、以前何度も逃げ込んだ細い亀裂へ頭を入れる。
耳の後ろで石がつかえた。
少し押しても、肩まで入らない。
俺は亀裂から頭を抜いた。
進化する前なら、あそこから別の水路へ逃げられた。
今はもう通れなかった。




